⑨が⑨じゃなくなった日 作:monochrome vision
細かいことは考えずにどうぞ。
※⑨がメインというわけじゃありません。(タイトル詐欺)
ある日、起きたら額から2本の角が生えていた。何を言ってるのかと思うかもしれないが、安心しろ、俺もわからん。少しばかり禍々しい角に刺さってしまった枕を抜き取り、鏡を見ながら何事かと触って確かめてみる。
硬い角は触っている感触もあり、少しひんやりとしていた。
見た感じ、鬼の角と言ったものか。
昨夜、寝る前にはなかったものだ。いつの間にか、寝ている間に生えてきたというのが正しいだろう。
「そう言えば、この角……どこかで見たことあるな」
どこで見たのか…少しばかり悩みながら記憶を辿っていく。あぁ、そうだ……思い出したのは幼き頃の記憶。婆さん家の蔵で見た鬼面だ。
蔵の奥、ひっそりと柱につけられていた鬼面は、蔵を探索していた小さい子供にとってはまさに恐怖だろう。一緒にいた妹と泣いた記憶がある。
呪い殺してしまいそうなほど鬼気迫る表情は本当に怖かったものだ。だが、そんな鬼面の角が何故こうも生々しくなって俺の額に生えているのだろうか。
あの鬼面のことは婆さんに一度だけ聞いたことがある。「何があっても壊すんじゃない。そして、あの柱から外すんじゃないよ。あの柱は御神木で出来ていてね、あの鬼面を封印する役割があるのさ」と。
その婆さんも一ヶ月ほど前にぽっくりと逝っちまった。その時、殆どの物を引き取ることになったのだ。それを行ったのは業者と母さんだ。母さんの母親だったので全てを受け取る事になったらしい。父親に関しては離婚したからもう十年はいない。再婚する気もないらしい。
思い出したことにスッキリしながらもう一度鏡を見てみると、俺の頭の横には斜めに鬼面がかかっていた。ひと睨みで相手を殺してしまうかのような形相。まさに鬼。
さて、どうしたものか。
俺はこれから大学があるのだ。今日は朝から講義を入れているからさっさと行かなければいけないのだが、この角、消えるのか?
どうにか消えねぇかなぁと考えていると、ふとした拍子に消えていた。おいおい、本当に鬼になっちまったのか?
とりあえず、俺はこの鬼面に呪われたか憑かれたか、どちらかわからないが意識に留めておかないとな。
鬼面を片手に1階へ通りていく。リビングに入ればトーストの香ばしい香りと珈琲の香りが漂ってくる。
「あら、そう君、おはよう」
「総司? おはよ」
「おー、おはようさん」
妹の…霊香の弁当を包み終わったのか、エプロンを外しながらキッチンから出てくる母さんと、既にトーストを囓っている霊香に挨拶を返す。
ふんわりと穏やかな性格の母さんと少し冷めている霊香の容姿は非常によく似ているが、性格や表情、雰囲気や目つきが全然違う。それでもまだ姉妹に間違えられるらしい。大学生に見られる母親とかどうなの? 生命の神秘だろこれ。
長い茶髪が母さんでショートが舞香だ。身内の贔屓目無しでどちらもスタイルが抜群で美人だ。しかし、俺は別れた父親の子なので黒髪であり、血は繋がっていない。
元々お互い再婚であり、再び離婚したんだからそうなっても仕方ないだろう。霊香との仲は良くも悪くもないが、思春期故だろう、話は全然しない。その変わりといってはなんだが、母さんが俺を溺愛しすぎている感じがする。少し色んな意味で危ない。
まあいいとして、トースト1枚と珈琲だけが置かれた俺の席に座る。ああ、そうだ。鬼面のことを聞かないとな。
トーストを小さく囓りながらテレビを見ている母さんに話しかける。
「母さん、少しいいか?」
「なぁに? お小遣い? 駄目だよ、遊びに行ったらそう君が帰ってくるのが遅くなっちゃうんだから!」
「何の話をしてるんだ? んなことより、婆さんが死んでから荷物を粗方引き取ったんだったよな?」
「そうね」
「その中に……鬼面を入れた覚えはあるか?」
「……………どうして、鬼面のことを? 私はまだ受け取ったダンボール開けてないのよ?」
「まじかよ⋯⋯」
息を漏らすように小さく呟く。密封されたダンボール。そうなると、鬼面自ら俺のところに来たということか? なにそれホラー?
「それにね? 私は鬼面のことをお母さんによく言われてたから、取ることなんてしてないの。だから、あの家は蛻の殻にしても、売ってないし壊してもない」
「なら…業者が知らずに取っていたということか?」
「そうなるわねぇ…まぁ、大丈夫でしょ。お母さんが私が子供のころからずっと言ってたけど、何もなかったし。只のお面よね。で、そう君はなんでそのことを聞いたのかな? あ、もしかして欲しかった? 男の子ねぇ…でも駄目なんだから。あんな怖い物持っておくなんて………………ぇ?」
母さんが気のせいだと思い込み、普段通りの雰囲気で話しかけている最中に悪いが、鬼面をコトリとテーブルの上に置く。霊香もテレビを見て関係なさそうにしていたが、鬼面を見て少し怯えた表情を見せた。子供の頃に見たのだ、軽いトラウマかもしれない。
母さんは混乱でもしているのか、声すら出ていない。
「今朝、この鬼面が俺の部屋にあった。俺は大学があったし、鬼面に関わることすらない。なんなら忘れていたまである」
見て少ししてから思い出したからな。
「とりあえず、今は見ての通り何もない。もし婆さんの言う通りであるなら何があるかわからないから、絶対に触らないようにしてくれ。俺が持っておくから」
「そ、そんな!? 本当かどうかはわからないけれど、それはとても強くて危ない悪鬼を封じているらしくて、どんな災厄が襲いかかるのかわからないのよ!? ど、どこかに捨ててこよう!? ね!?」
「いや、捨てたら捨てたで何があるかわからないだろう? 祓ってもらうにも本当に祓えるのかわからないし……俺のところに来たということは、何か理由があるのかもしれない。俺が持っておいたほうがまだ安心な気がする」
「でも………」
それでも渋る母さんだが、小さい頃から言われてきたとは言え、未だに超常現象とか幽霊とかは半信半疑なのだろう。それに、今は角も消しているからなんともない。嘘じゃないし。
そう言えば、名字が阿久鬼だがあくきは感じで書けば悪鬼とも書ける。母さんの家系は陰陽師か何かだったのだろうか。血筋的に俺全く関係ないんだけど…。
霊香が気持ち悪いものでも見るかのような目でこちらを見てきて、静かに学校へと向かった。あれ? 俺ってこんなにもあいつと仲悪かったっけ?
ということで、普通に大学に行くことにした。午前の講義を適当にぼんやりと聞き流し、学食で友人と飯を食う。弁当は母さんが作ってくれているので、味噌汁の券だけ買って友人に任せた。俺は席取りだ。
空いていた4人がけの席を見つけてそこに座る。同じ弁当のやつも向かいに座った。
「なぁ、課題どうする? 先輩のやつコピペするか?」
「ん? 先輩のデータがあるのか?」
「そうそう。高校の先輩がここにいてさー。飲みに誘われたときに色々教えてもらったんだよ。んで、この前色んなもの貰った」
「ほう、いいじゃねぇか。とは言え、全員同じやつは怪しまれる。それをベースに改造しないとな」
「それもそっか。んじゃ、データいるってことで」
「ああ」
「お、何の話? 課題のことか?」
トレーを持った友人、森 和哉が向かいに座っていた吉田 将吾の隣に学食を置きながらそう聞いてくる。今日の日替わり定食はチキンカツらしい。よくある冷凍じゃないから凄いものだ。
「もしかして先輩の? 僕も欲しいな」
そして俺の隣に最後の一人、西岡 春賀がうどんを置いて座る。あと、後ろの席が少しばかり騒がしくなった。ちらりと見てみると後ろの席には同じ講義を受けていた同年代の女子たちが座って昼食を取っているようだ。
それと同時に視線が増える。入学して驚くべき速さで人気となった女子がいるからだろう。綺麗と可愛いの間で確かにモデル並には美人なので告白は絶えないだろう。後二人ほど有名な二人組が居るらしいが、先輩だから知らん。
それよりも飯だ。目の前の馬鹿が唐揚げを取ろうとしているので死守する。パセリを摘んで指で弾く。狙い違わず吉田の口に入り、驚いたことで唐揚げを落とす。
「むぐぐ…惜しい」
「惜しいじゃねぇよ。俺の唐揚げ取るな」
「仕方ないだろ? お前の母親の作る唐揚げマジで美味しいんだからよ。何かと交換しないか? ほら、この冷凍食品の磯辺揚げとか」
「いらん」
唐揚げを目の前で食べてやる。サクリと揚げたてのように歯ごたえがよく、肉汁が溢れてくる。どうやって作れば弁当でこんな味が出せるのだろうかと不思議に思うほどだ。
色鮮やかな弁当はいつも内容が違っていてレパートリーの多さには驚かされる。ただ、赤いこの実だけは毎日入っている。俺が嫌いだと知っていて食べさせようと入れてきているのだろう。
俺はトマトとグリンピースとアボカドが嫌いだ。
「トマトならやるぞ?」
「いらね。俺も入ってるし」
「……………」
「こっち見んな。俺もいらないから。定食についてるから」
「…………春賀、あーん」
「え、え!? ぁ、あーん……」
指で摘んだプチトマトを春賀の口に向かって差し出すと、うどんの汁のついた唇を舌でぺろりと舐めてから、少し恥ずかしそうに口を開ける。躊躇いはない。気が変わらない内に容赦なく突っ込んだ。
何やら後ろでキャーと黄色い声が上がっているし、周りでも少し聞こえるがどうしたのだろうか。イケメンでも現れたか。この年頃のイケメンなんてろくなやつがいないぞ。どうせヤリ○ンばかりだから気をつけるといい。(偏見)
プチッとヘタを取ってもう一個すかさず食べさせる。そんな俺達を二人が見ていた。
「なんだ?」
「いや、なんだってお前……天然って怖ぇ」
「春賀が中性的であるのが救いか……これでイケメンだったら腐女子歓喜だろ」
「いやいや、既に歓喜だ。見ろ、あの人気者の天音さんが驚いたのか総司を見つめてるぞ」
「春賀も照れるなよ…」
男同士なら別に問題ないだろ。
よくわからなかったので続きを食べ始める。
買ってきたお茶を飲みながら吉田と森の会話を聞く。どうやらこの大学の生徒のことを話しているようだ。
「そう言えば、昨日あの二人見たぜ。マジで美人だった」
「ああ、秘封倶楽部とかいうやつの二人か……告白したら付き合える可能性がワンチャン…」
「ないっつーの。なんか、不思議な二人だよな。昨日は妖怪?都市伝説?とか調べてたぜ」
秘封倶楽部、なんだったか……こいつらの話を聞く限りではマエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子だったか? 二人の美人な先輩が容姿的な意味と不思議的な意味で有名だ。話しかける人は話しかけるらしいが、宇佐見先輩が性格的によく喋ってくれるらしい。
妖怪……鬼も妖怪だ。しかもかなりメジャーな妖怪ではないだろうか。桃太郎に出てくるので誰でも知っているだろう。それ以外でも神楽なんかでも登場するし、赤鬼青鬼なんて知らないやつがいないと思う。
秘封倶楽部に入れば、俺のこの鬼のこともわかるのだろうか。それとも、婆さんの家の書物を調べればわかるだろうか。だが、そういった書物は古いものが多く、そのまま保管しておくそうだ。婆さんの家も他県にあるから遠いため、行こうにも簡単には行けやしない。
まずはこの大学の図書室に行ってみるか。かなり大きな図書室は数多の蔵書が保管されている。そこに秘封倶楽部の二人も出没するそうだ。出没……。
そこでふと、俺の目の前で手を振っている吉田に気づく。どうやら知らない内に長いこと考え込んでいたようだ。春賀が隣から心配そうに下から覗き込むようにしてこちらを見ていた。上目遣いが似合いすぎている。実は女じゃないだろうな?
「おーい、大丈夫かー?」
「……ああ、悪い。少し考え事をな」
「本当に大丈夫なの…?」
「ああ。問題ない」
さて、さっさと食っちまうか。
◇ ◇ ◇
どういうことだろうか。昼の講義が終わって図書室に早速行こうと思ったが、とある場所を通り過ぎてから体が異様に重い。まるで人を一人背負っているかのような重さだ。
あまりの重さに図書室について直ぐに一番端の本棚に隠れた薄暗い場所で座り込む。
この現象が起こったきっかけの場所は、昔、この大学で自殺した人が見つかった場所だ。どうも深刻なイジメ問題があったらしく、絶えきれずに夜中に大学に忍び込んで屋上から飛び降りたらしい。そのため、この大学は屋上が未だに封鎖されており、落ちている場所にはたまに花束が置かれている。教員の誰かが置いているのだろう。
その場所を通り過ぎてから、身体が重くなったのだ。もしかして、取り憑かれたのではないだろうか。
そう考えていたところで、導かれるように鞄の中の鬼面に手が伸びていく。鬼面を手に取ったところで何か変わるわけでもないとわかっていても、俺の手は鬼面を手に取った。
鬼になれば何か変化があるとでも感じ取ったのだろうか。
持ち上げた鬼面。凄まじい形相の裏はびっしりと何かの呪文のような文字が彫られている。ゆっくりとそれを顔に近づけて、やがてぴたりと俺のために作られたかのように密着する。紐を頭につけてないのにくっついているのだ。
そして、俺自身に変化が生じた。
鬼面の角に嵌まるように俺の額から角が生え、身体に力が溢れてくる。今なら大岩でも持ち上げられそうなほどだ。
更に、スマホで自分の姿を見ようとして更に気がついた。
「おいおい…なんだこれは…」
俺の爪が鋭く尖っているのだ。握り込んでも別に痛みは感じない。だが、抜手でもしようものなら人間の腹なんて簡単に貫けるだろう鋭さだ。
一旦そのことは置いておいて、スマホで自分の姿を見てみる。鬼面をつけた俺の顔……だが、鬼面の眼窩とも言える穴から覗く俺の目は、白黒反転し、瞳孔は赤くなっていた。そして気づく。俺の背後に幽霊がいることを。
瞬時に右腕を肩越しに回して首を掴む。霊的存在に触れられた?
驚きの連発だ。掌から赤黒い靄のようなものが溢れており、男の幽霊?の首を侵食していた。そして、握り潰してみると首は呆気なく消滅し、男の幽霊も散るようにして消滅した。
まるで意味がわからない。それでも今は誰かにバレないように鬼面を外しておかなければ。
鬼面を掴み、外す。しかし、俺が鬼面を外したにも関わらず、角も、爪も、眼も変化したままだった。
「……消えろ」
呟くように念じると消える。一体どうなっているのだろうか……本当にわけがわからない。なんかもう寝たい気分である。ここで寝てもいいかな? 駄目? だろうよ。
「はぁ…」
溜息一つ。鬼のことに関してはいいとしよう。結果的に身体は軽くなり、俺に憑いていた霊も消えたのでいいだろう。
さて、気分転換に妖怪やら伝承のことを調べてみますかね。
これからもこれくらい適当だと思います。(断言)