⑨が⑨じゃなくなった日 作:monochrome vision
フランの右腕が崩れ落ちた。そのまま俺が死なせるわけないだろうが。
人間に戻り、無理矢理俺の血を口に入れて飲ませる。
「んぅ!?」
「お前は言ったな、私を盗んでと。好きにしていいと。だから好きにさせてもらった」
飲むつもりはなかったのだろう…それでも、吸血鬼の本能の言うものか、血が喉を通って体に入った瞬間に目を輝かせ、一心不乱に俺の手首に吸い付いてる。ぷるんとした唇で吸い付き、熱く滑った舌でぴちゃぴちゃと音を立てながら血を舐めている。
「それに、まだまだ見たいものもあるだろう? お前は俺に盗まれたということだろう? なら少し静かにしてろ」
「…ッ!?」
目を見開いて顔が一瞬で真っ赤になった。プライドが刺激されたか? なにせ俺は鬼だから。鬼畜だから。それでも血を舐めるのは止めておらず、目を伏せて先程よりもゆっくりと吸い、舐めてくる。結構擽ったいな。
それと、フランの身体の崩壊が止まった。手足がないが、それでも吸血鬼の生命力と再生力は尋常ではなく、血を取り入れてから身体の再生が始まっている。弱点にやられたからなのか、一気に治るわけでもなく顔と傷口から修復しているようだ。
そして、いつの間にか俺達の前には二人の女性が立っていた。チルノと…
「お前、ルーミアか?」
「ええ、その通りよ」
「随分と大人になったな…成長したのか?」
「それもあるけど……私って封印されてて弱体化してたのよね。それがいつの間にか封印が解けてて、力も湧いて……総司のおかげね」
チルノに負けず劣らずの抜群のスタイルで、その黒い服の上からでもわかるほどに胸は大きい。金髪が長くなり、頭のリボンがなくなっている。
もしかしてだが、俺の頭についていて捨ててしまったあのリボン……封印の効果があったんじゃ……。
そこまで考えて頭を振る。いや、気のせいだ。チルノと同じように急成長して封印も溶けてしまったんだ。そう無理矢理に納得させる。いや、そういうことにしておこう。
……あとでリボン探して埋めておこう。
妖艶な美女となったルーミアは後ろに回り込むと、抱きついてきて背中に胸を押し付けてくる。甘い香りにクラクラとしてしまうが、フランの血を舐める感触になんとか意識を逸らす。
「る、ルーミアちゃんも大きくなっちゃった……わ、私も……」
「いえ、大ちゃんは私達の中なら一番大人だったわ」
「そうね。すでに大きいんだから別にいいんじゃないの?」
「……確かに立派な大人だ」
「ふぇ? あ!? み、皆して私の胸を見ないで!」
3人揃って大人だと言いながら大ちゃんの立派な胸を見ていると、真っ赤になって両手で隠した。大人になる必要はなかった。
セクハラではないと思いたい…言い出したのはチルノであり、俺は乗っただけである。
大ちゃんがからかわれている…そんな微笑ましい光景を見ながらルーミアが後ろから俺に話しかけてくる。フランはと言えばもう血は出ていないのに舐めるのを止めてくれない。
「それで、そろそろ総司のことを聞きたいのだけれど……」
「俺のこと?」
「ええ。総司って能力持ってるけど外来人よね?」
「ああ、外から来た奴のことか…そうだな。そういう意味であるならそうなのだろう」
「なら、どうやって幻想郷に来たり帰ったりしてるの?」
……そのことか。俺だってそのことはまだよくわかっていない。寝た時に夢を見ると、いつの間にか幻想郷に居るんだからな。
「夢を通して…と言いたいが、俺にもよくわからん。多分、寝るか意識を失えば消えるように帰るんだろう」
「ふぅん……なら、総司が来るまで待つしかないのね」
「残念ね……あ、そうだ。その角が生えた姿はなんなの? 確か、あのゴリラと戦ってたときも見たけど…」
「あぁ…これは俺に憑いている鬼面の鬼だ」
ほら、と鬼面を手元に呼び寄せて見せる。小さなチルノに初めてあった時は鬼面を被っていたっけか。鬼になるごとに変化が生じるが、今回ので完全に髪が白く染まり、少しばかり髪が伸びて肩の少しだけ下にかかる程度まである。イメチェンで通すのは難しくなってくるかもしれない。
目は薄っすらだったのが完全に両目ともフランが狂気に染まったときのように白黒反転し、赤くなっていた。次に変化するなら…いや、もう身体への変化はないかもしれない。内面か、それとも服や道具が具現化するのか……俺にもよくわからん。
俺もよく分からないのでそこまで詳しく説明していないが、それでも納得してもらうしかない。
というか、今更だが切り裂かれた腹が痛い。血は妖怪の優れた治癒力によって止まっているが、それでもじんじんと熱を持ったように痛い。きっと、これは帰ったとしても続くだろう。
今回の一件について一段落ついたので、そろそろ帰りたいのだがまだ眠くない。それに、痛みがある限り寝ることもままならないだろう。また、羽根も四肢もないフランを放っておく訳にもいかない。吸血鬼とは言え、このまま放っておいても良いのだろうか。
医者みたいなやつが居ないのか気になったので聞いてみることにする。
「なぁ、幻想郷には医者みたいな人物は居ないのか?」
「んー…どうだったかしら。ルーミア、知ってる?」
「ちょっと待って……あぁ、思い出したわ。確か、迷いの竹林というところに永遠亭と言う施設っぽいのがあるわ。そこに居たはず」
「………遠いか?」
「結構。安心して、私が闇で送ってあげるわ。本当、便利になっちゃって…」
俺のサブカル知識が火を噴いた結果がルーミアの技のバリエーションが増えた結果に繋がったのだろう。多分、チルノも話についていけるはずだ。
頬に手を当てながら俺の目の前に闇でできた扉を作り出す。これをくぐれば迷いの竹林とやらにつくのだろう。迷わないようにだけ注意されてフランを抱えて中に入る。一応、もう夜になるのでフランも日差しについては大丈夫だろう。
闇を通って薄暗くなった竹林を目の前に立つ。ルーミアとチルノは何やら二人きりで用事があるらしくてついてきてはいない。
月明かりのみの竹林…少ししか時間が経っていないのに薄暗いではすまなくなってしまった。
「なぁ、フラン……吸血鬼なら暗闇でも見えるのか?」
「う、うん……あ、あの、お兄さん…」
「どうした?」
「私、吸血鬼だし、これから夜だから、別にお医者さん?とか言う人のところに行かなくても、捨てておいてくれたら治るから…」
「とは言うが、弱点に焼かれたからなのか、治りが極端に遅いだろうし……何があるか分からんしな」
「うっ…そうだけど……ずっと抱えてもらうのは……」
恥ずかしいし…、と頬を染めて視線を逸らすフラン。まぁ、確かに仕方がないとは言え恥ずかしいものは恥ずかしいだろう。特に脚なんて膝から下がないから太ももを持っても落ちていく。だから仕方なしとは言え、殿部を鷲掴みするように持っている。
……幾ら俺よりも歳上だとは言え、事案ものなので完全に意識しないようにしている。なんなら掌に妖力の膜を作って感触がわからないようにしている。
「あとな、別にもうお兄さんとか言わなくてもいい。好きに呼べ」
「わ、わかった……じゃあ、お…お兄様…」
まるで親の機嫌を伺うときの子供のような表情で、俺のことを覗き込んでくる。好きに呼べと言った手前、ここで拒絶するのも、今の不安定なフランに対しては逆効果だろう。というか、カテゴリ的に何が違うの? 同じじゃね?
おずおずと言ったように上目遣いで見てくるフランに可愛らしさを感じながら、小さく息を吐くように微笑む。
「さて、迷わないように頑張ってみるか、義妹よ」
「ッ! う、うん! えへへ…」
本当に嬉しそうな無邪気な笑みを見せてくるフランちゃんマジ可愛い。
妹がもう一人出来たところで、竹林に足を踏み入れる。竹というのは成長が早いと聞いたことがある。筍が一日で身長を越すほどに成長したとかなんとか…だから道がわからなくなるんだろうと推測してみる。
そういった原因であるなら、初めてきた奴には関係なく迷いの竹林になるのだが…。
歩き始めて数分、既にどこに向かえば良いのかわからなくなった。
どこか見たことあるような風景。
この位置から月が見たことある。
結論。
迷った。
「空飛べば早くない?」
「チルノ達が憑依してないから飛べない。最終手段としては、この竹林を消滅させる」
「危ないよ!? 何が危ないって発想が危ない!」
そういうフランも色々危ないと思っているのは俺だけだろうか。横抱きにするのも疲れてきたので、抱っこするように抱えてみたのだ。ふにゅりと柔らかい感触を胸に感じながら抱きかかえると、次第にフランは俺の首筋に顔を埋めたまま、息を荒げていた。
酔ったように赤い頬で、目をとろんとして息を荒げ、俺の首筋に涎を垂らしている顔は発情したかのような牝の顔であり……夜の吸血鬼の危なさに危機感を感じて直ぐ様横抱きに変えた。手足がなくて動けないくせに、喰われるかと思った。
また一つ、落とし穴のような罠を避けて道無き道を進む。時折張られている落とし穴や吊るす罠だが、これは一体、誰が何のために作ったものだろうか。落とし穴の中に杭を作っておくなどの殺傷性は皆無であったため、悪戯用か足止め用か。
一体、誰のために、何のために作られたのか…………。
「………………………」
「………………………」
落とし穴の中に兎が捉えられていた。どうやら落とし穴の中には蜘蛛の巣のようにロープが張られており、落ちた時に絡まって跳んでも飛んでも逃げられないようにしているのだろう。現にこの兎は逃げられないのか、脱出を試みて失敗し、疲れ果てたようにぐったりとして寝ている。身体に悪そうな寝方だ。翌日は辛いに違いない。
腕にはどうすればそうなったのかと言うほど綺麗にロープが絡まって関節をキメられており、腰にも絡まっている。きっと、脚からズッポリ落ちてしまったからだろう。そのせいなのか、豊満な胸は下からロープに押されて強調されており、随分と楽しそうなプレイをしている。胸の間にも一本、ロープが通っている。
ニーソ的なものに包まれた長い脚は幾重にもロープが絡まり、絞められた脚はむちっと素晴らしい肉感を見せていた。実にエロい。
その先には白い下着が見えており……一本のロープが股の間を通るようにしていたため、大切な場所に確りと食い込んでいる。その場所の肉厚な部分は脳内保存。
落とし穴を掘り、ロープを張って飛び込んで……随分と高度な一人遊びをシていたものだ。正直、人が来ないからと言ってこれはない。来たら来たで襲われても仕方がないほどの格好だ。
「お兄様……アレは、なんなの?」
「アレはな…ああやって自分でロープに絡まって遊ぶことで快感を得ようとした、変態の末路だ」
「そっかぁ……出られなくなったんだね」
「出られなくなったんだろう」
「馬鹿だね」
「馬鹿だな」
「ちょっと待ってください!! そんなんじゃないんです!!」
フランが声を掛けてきた当たりで実は起きていたのだが、俺達を見て呆然としていた。人が来るとは思わなかったのだろう。恐らく、部屋で一人遊んでいた息子が、鍵を忘れたために突然入ってきた母親に見られたときの心境と同じではないだろうか。これは恥ずかしい。
フランの鳥に食われるゴキブリを見る、冷めた猫のような絶対零度の視線に耐えれなかったのかジタバタと暴れている。その度にデカイ胸と下にロープが食い込んでいる。
「んぅ…ッ!」
そして一人感じる。
「な? エロいだろ?」
「うん、すごくエロい兎もいたんだね」
「知ってたか? 兎は年中発情しているらしい」
「納得した」
「納得しないで!」
パシャリとスマホで写真を撮り、動画で一人で感じている姿を撮影する。あとで誂うときにでも見せてやろう。
「ねえ、兎さん、濡れてきてるけど、お漏らし?」
「ッ!? やぁっ、見ないで…!! 違うからぁ…!!」
純粋なフランにはわからなかったんだろうけど、流石にこれ以上はフランの教育的に悪いので助けてやろう。しかし、驚いたものだ…こんな兎がいたなんて。
とはいえ、助けてやるにしてもナイフもなければ棒もない。なので、地面を崩すことにした。
震脚とともに霊力を限定的に放出し、土の結合性を崩す。霊力という異物を入れられた土は雪崩のように崩れていき、ロープの埋まっていた土を崩壊させた。
「え……ふぎゃぁ!!」
夜中の竹林の一部で、局所的な地震と悲鳴が発生した。
◇ ◇ ◇
暫くして、落とし穴をよじ登ってきた泥土だらけの兎が息を荒げて休憩していた。流石にあの深さの落とし穴を登ってくるのは疲れたのだろう。だが、どこか慣れているようでもあった…つまり、登り慣れるほどヤッていたのだろう。なんと豪胆な。
四つ這いで息を整え、ついている土を払い始める兎は、改めて月光に照らされるとその美貌がより分かる。ブレザーエロ兎は実に美人だった。ウサ耳を無くして人通りの多い道に放り込めば、誰もがこいつを見るだろうし、ナンパは絶えないだろう。
紅い瞳は美しいが、何やら心をざわめかせてくる。それも、良くない方向に。だが、俺の中を渦巻く邪気がすぐに上書きしていく。俺が悪鬼であることもあり、負の方面の精神干渉系には滅法強い。
兎は立ち上がり、こちらを見てくるが、目を逸らしている。人見知りなのだろうか。
「先程は助けてくださって有難うございました」
「そうか、感謝しているなら目を見て話せ。コミュ障かお前」
「あ、強ち間違ってないですけど、見れない訳があって……」
「こっちを見ろ」
「ふみゅ!」
フランを抱っこして片手を使えるようにし、頬を掴んでぐいっと顔を戻す。エロいだけじゃなくて常識も知らないクソウサギだったのか? 礼を言う時や謝るときくらいはふざけ抜きにするのくらい、俺だってしている。
少しの間目を合わせていると兎は固まってしまった…ので、柔らかい頬をムニムニとして遊んでいる。
「わ、わらひの目をみひぇ、にゃんともひゃいの…?」
「あ? 猫がなんだって?」
「お兄様、多分違うよ。その兎の眼、狂わせる眼だと思う。私も狂気を持ってたからよく分かるんだ」
「へぇ…? 別にそこまで感じなかったが……普通に綺麗な目をしていると思うんだけどな」
俺なんて紅とは言え周りは黒くなるんだぞ。
そんなことを思いながら兎から手を離すと俺達に背を向けた。くしゃみでも我慢しているのだろうか。あの時の顔はひどくなるからな。
フランを横抱きにしながら吉田の酷い顔を思い浮かべながら少し笑いそうになる。
そういえば、こいつはここに居るということは永遠亭とかいうところに住んでいるのかもしれない。聞いてみるとしよう。
「少し聞きたいことがあるんだが、大丈夫か?」
「え? あ、はい、もう大丈夫です。それで、なんでしょうか」
「ここらへんに永遠亭?とか言う場所があるらしいが、知らないか? 見ての通り、フランがこんな状態でな…一応、診て貰おうと思って来たんだが…」
ご覧の通り、絶賛迷子中だ。肩を竦める俺に言いたいことが伝わったのか、納得したような顔になる。俺のようなやつは珍しくないのだろう。そして、何度か案内もしたことあるのかもしれない。
「永遠亭は私が住んでいるので案内しますね。では、行きましょうか。離れないでくださいね?」
「悪いが、両手が塞がってて手も繋げないから離れっぱなしだぞ?」
「そういう意味じゃないです!」
月明かりの差し込む竹林を三人で静かに進む。兎の足取りに迷いはない。竹を避けながら進む兎について行く。
道中で罠のことについて聞いてみたんだが、どうやら罠を張るのが大好きな悪戯兎がいるらしい。それにいつもこのエロ兎はハマっていると……学習しないのだろうか。
サクサクと落ちて枯れてしまった笹の葉を踏む音と、風によって擦れる笹の葉の心地よい音に耳を澄ませながら付いていくと、竹林を抜けたようだ。とはいうが、竹林を抜けたのではなく竹林の中にある拓けた場所に来たと言うべきか。
竹林に空く穴の中に、ぽつんと、しかし立派な屋敷が佇んでいた。現代のようなフローリングの敷かれた、メリーの部屋のような所も好きだが、こういった日本を感じさせられる風景と建物も好きだ。のんびりと何もせずに居ることができるだろう。ネットもスマホも、コンビニやテレビといった現代では無くてはならないようなものも要らないと感じてくる。
帰ってコンビニ行きたいけど。
台無しだと? ふとした時に無性にコンビニの唐揚げとか食べたくなる時があるだろう? アレと同じだ。今何故かチキンが無性に食べたい。ギャップからくるものだろうか。
「着きましたよ。ここが永遠亭です。中に案内しますね」
玄関で靴を脱いで上がり框を上がる。玄関の時点でデカかったのだが、廊下も広いし綺麗な作りだ。靴下では滑るほどの廊下をすり足で歩いて行く。まるで貴族でも住んでいるんじゃないかと言うほどの屋敷に少しばかりの感動を覚える。
フランはと言うと初めての屋敷の風景に目を輝かせながらあちこちを見ている。自分の部屋しか知らなかったんだから仕方がないと言えば仕方がない。それに、フランは色んな物を見てみたいと言っていた。これもいい経験だ。子供の社会科見学のような言い方がだ、強ち間違ってはいまい。
一つの部屋にたどり着く。今までの部屋は明かり一つなかったが、ここだけ明かりが溢れており、人の気配がする。そこにエロ兎がノックをして、返事が来てから入る。
「失礼します。師匠を訪ねてきた方が居るのですが……」
「あら、こんな時間に? 急患?」
「いえ、急患ではないんですけど……人間じゃないです」
「ちょっと待てエロ兎。俺は人間だが?」
「エロ兎!? なんて名前で呼ぶんですか!」
「いや、お前の名前は知らん……フラン、知ってるか?」
「え? 発情兎じゃなかったんだ…」
「発情兎ィ!?」
俺はまだ部屋にすら入っていないのに、こいつは入り口で叫んでいるのでスマホをちらつかせて強制的に黙らせる。これ以上喋れば誰かに見せられるとわかったのだろう。口を押さえてミッフィーである。
スマホ……というかカメラで撮られたことはわかるのか。
シッシッと手で払うとすごすごと中に入って部屋の隅に行く。小さくため息を吐きながらスマホをポケットにしまって中に入る。そこは消毒や何かの薬品のような匂いがし、薬やビーカーなどもあった。
そして、椅子に座るのは絶世の美女と言っても過言ではないほどの女性が足を組んで座っていた。綺麗な銀髪に落ち着いた大人の雰囲気。誰もが見惚れるだろう女性に俺も見惚れる…前に面白さが勝ってしまった。
一瞬だけその女性らしい身体に意識を集中する。顔は見ているが意識は身体に向いていると言ったところか……言い方が危ないがそうではない。
この女性、随分と面白いセンスの服を着ているのだ。片方が赤くて片方が青い、そんな服である。随分と奇抜なファッションセンスだ。幻想郷の最先端のファッションだろうか…今年はこれが流行している可能性が微レ存?
そんな俺に気づいているのか気づいていないのか、話しかけてきた。
「そんなところで立ってないで、そこに座って下さいな」
「……失礼します」
一言断りを入れてから、女性の前の椅子に座る。フランはどうしようかと思ったが、一応抱えておくことにした。
「まずは自己紹介でもしましょうか。八意永琳です」
「阿久鬼総司です。こっちがフランドール・スカーレット」
「あの、フランドールです…」
「そうですか。見ればわかるけど、この子でいいのよね? この手足、どうしたんですか?」
「簡単に説明しますと、弱点に焼かれて消失しました。近い内に治るんでしょうけど、治りが遅いので一応診てもらおうかと思って連れてきました」
「吸血鬼…ね。吸血鬼を診るのは初めてだわ……そこの診察台に寝かせてくれます?」
「ええ」
先生と患者、その付き添いという形なので敬語で接していく。指さされた診察台にフランをそっと寝かせる。ここからは俺は不要だろうから先程の椅子に座って、横目でフラン達を見ておくことにする。
ただ、フランを置いたことで俺の腹部の怪我が顕になった。血は出ていないが横一文字に赤い線が入っており、意識するとジンジンと鈍い痛みがぶり返してきた。
多分だが、鬼化すれば治るのだろうがここでなるわけにも行かない。待っておくかと椅子の肘置きに肘をついてぼんやりと眺める。ここに来て疲れが出てきたのか、眠くなってきた。
「まずいな……」
小さく呟くように声が出る。目頭を揉みほぐしながら軽く頭を振って眠気を飛ばす。ここで寝てしまえばフランに何も言わずに数日は消えることになるし、フランのこれからを決められない。家出少女なのだ。どこかで預かってもらわないと……。
そんな俺の呟きが聞こえたのか、八意さんが話かけてきた。
「何がまずいんです?」
「いえ、別になんでもないです。それより、フランはどうですか?」
「フランドールさんは再生もゆっくりですが行われていますし、吸血鬼の栄養ともなる人間の血液でも摂取すれば問題ないでしょう」
「そうですか……このビーカー、借りていいですか?」
「ええ、別に構いませんが……一体、何を……」
ビーカーだけではなく、メスもあったので借りることにする。ビーカーの上に手首を持っていってメスで躊躇いなく切る。こういうのは躊躇う分、痛いからな。
腹の痛みよりはマシだが、それでも少しばかり痛い。表情を少しだけ歪めながら血を出し続ける。人間の血液量は体重の1/13、つまり8%ほどの血液が存在している。俺が現在60Kgあるかないかであり、量に表すなら大凡4.5L程度。そのうちの1/3を失えば死ぬ可能性がある。1.5Lに到達しないまで抜けばいいだろうと思うかもしれないが、ギリギリまで抜いたとしても身体には何らかの異常が生じるだろう。
だが、俺は只の人間ではない。死にかけたなら鬼になればそこそこ持つ。その間に再生すればいい。
まぁ、このビーカーは600mlまでしか入らないので、一応これくらいでいいだろう。血が出なくなってきたので更に傷をつける。
「な、何してるの!? 別に傷つけて血を出さなくてもいいのよ!」
「すみませんが、時間がないので……それに600ml程度なら問題ないです。献血となんら変わりはない…貧血になるくらいか?」
「そんなわけないじゃない。腹部にも傷があることから、今日は結構血を流したんじゃないの? これ以上は危険よ、止めてちょうだい」
「そ、そうだよお兄様…私は別にお兄様に傷ついてまで血は欲しくないよ!」
「すまんな、フラン…それでも、俺はこれからしばらく会えなくなる」
「な、なんで…?」
「俺はこの世界の人間ではない…もうすぐ消えるが、まぁ、また来ることは出来るだろう。だから家出少女をずっと構ってやることも出来ないし、治るまで見てやれない。せめて、血を残していくくらいしか出来ないんだよ。無責任で悪いが、義妹を思う兄の気持ちだと思って受け取ってくれ。それに、貧血になると寝やすくなるしな」
最後にそう言って無理やり笑ってみせる。ビーカーに血液が溜まると同時に左腕に傷に霊力を集中させて、身体を操作する気功術のような要領で血を止める。
血が止まったのを見ると直ぐ様、八意さんが俺の左腕を手にとって処置をしてくる。手際の良さにやり慣れているのだと感じながら、少しだけぼんやりとしながらそれを見ている。
「ほら、服を脱いで腹部を見せて。外来人で帰るなら病衣は不味いわよね……私の服で我慢して」
「いや、服とかどうでも……」
「早く脱ぐ」
「ウイッス」
言われたとおりに服を脱いで腹部を晒すと、素早く傷を見てノータイムで処置を始める。縫合するほどでもないのですぐに済むだろう。
なにやら塗り薬を塗ってからガーゼを貼り、包帯を巻いていく。それが終わると俺の服を掻っ払って部屋の外に行き、1枚のワイシャツを持って帰ってきた。そしてそれを俺に着せていく。いや、自分で着れるって。
「はい、終わり。私の服だったけど、サイズ的にも大丈夫だったわね。それはあげるから返さなくていいわ」
「いや、流石にそれは悪いのでは……自分の服は捨ててくれて構いませんので」
「それこそ悪いわ。洗って直しておくから取りに来なさいな」
「どうせ部屋着でしたから……持って帰っても捨てるつもりでしたし」
「そう? ならこっちで好きにしておくわ」
「そうしてください」
気怠い身体を持ち上げて、八意さんとの話を切り上げフランのもとへ。服が汚れており、手足は治りかけているからだろうか、何の処置も施されていない。恐らく、包帯などを巻けば逆に再生の妨げになるからだろう。
近づいた俺を不安そうな感情が見える瞳で見上げてくる。そんなフランを安心させるように撫でてやり、微笑む。
「そう心配するな…またお前に会いに必ず来る」
「……本当に?」
「ああ。必ずだ。もう、お前を独りにはしない……この人達は信用していい。少しの間、頼らせてもらえ」
「…………絶対に戻ってきてね」
「……じゃあな」
最後にひと撫でして診察所を出て暗い廊下を少しだけ進む。そこで眠気に限界が来て、壁に背をつけて滑るように座り込む。そして顔をあげるのもだるいので、失礼だが俯いたまま八意さんに話しかける。
「申し訳ありませんが、治るまででいいので……いえ、私が次来るまででいいのでフランの面倒を見てやってくれませんか? 家出中兼社会見学中なもので」
「それは構わないわ。治ってもないのに追い出すことはしない……フランドールさんは訳有なのよね? それも、目の前で消えるようなことは見せたくないほどの」
「……そうですね。本人が了承すればですが、聞いてみてもいいかもしれません。あぁ…すみません。直ぐに出ていきますので……日本円が使えるかはわかりませんが…」
財布から数枚の野口さんを取り出して床に置く。
「フランと私のこと、有難うございました。必ず、後日お礼に参りますので……」
流石に人の家の廊下で寝るわけにもいかないので、もうひと踏ん張りと全身に霊力を行き渡らせて体を動かす。吸血鬼との戦闘、竹林を歩き、血を抜くことを行った今日の疲労が一気にやってきて身体が軋む。
あー、眠い。このままベッドに倒れ込んで寝てしまいたいほどに眠い。もう、ゴールしてもいいよね? 外に出て竹林に一歩でも踏み入れたら、寝よう。次目を覚ましたらきっと、俺の部屋のベッドの上だ。
しかし、フラフラと歩いているといきなり後ろから腕を掴まれて引っ張られる。前に進めなくなったのと、踏ん張りが効かずに引っ張られるがままに後ろに倒れ込んでしまう。
だが、倒れることはなく、柔らかくて温かくて……どこか理性の飛んでしまうかのような甘い香りに包まれた。まるで俺の着ている服の香りを強めたときのような……。
不思議に思って後ろを見ようとするが、その前に座らされていつの間にか寝転がっていた。暗くてあまり周りが見えないため、何が何やらわからない。しかし、頭部の下にはとても柔らかくて極上の枕がある。頭も撫でられていた。撫でられるなんて、いつぶりだろうか……いや、俺の記憶にはこうして寝ながら撫でられた記憶はない。
「廊下で悪いけど、我慢してちょうだい」
「八意さん……?」
「そんなにフラフラしてる怪我人を外に出すわけないじゃない。最後まで見ててあげるから寝ちゃいなさい。私なんかで申し訳ないけど…」
恐らく八意さんの太ももと撫でられる心地よさに意識が既に薄れてきている。
「いや……八意さんは…俺が見た、女性の中で…一番、綺麗、で……す、よ…」
もはや何を言っているのかわからないが、一瞬止まった手が再び再開され、俺は本当に寝てしまった。
………コンビニは翌日だな。
まだあるけど、遥か昔のことだからゴミ文章…修正やら、投稿するのかすらも未定。