⑨が⑨じゃなくなった日   作:monochrome vision

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第02話 秘封倶楽部

 

 

 それから二週間、鬼面が離れてくれません。やだ、ヤンデレ。

 

 何を言っているのかわからないと思うが(ry

 鬼面が図書室の一件以来、ふと気づけば俺の近くにあるようになり、俺の頭に斜めにかかっていることが多くなった。幸い、頭の方は人気がないところなので問題にはなっていない。

 

 鬼を中心に図書室や近くの神社、ネットで調べてみた結果、とある時代に京を絶望に陥れた悪鬼のことが僅かに記録として残っていた。大勢の人を喰らい、陰陽師を喰らい、建物を潰した悪鬼。何万という軍勢を殺し尽くした。

 

 自ら行っているため行っていることはあの白面金毛九尾の狐よりも酷いが、歴史に埋もれてしまったようだ。悪鬼主体の情報はあまりにも少なく、他の情報の合間に入っていることが多かった。どれも同じような内容であり、誰が倒したとか、何があったとかは詳しくはわからなかった。

 

 鬼神・大嶽丸とは僅かに違うし、この鬼面とは関係ないだろう。それに、この悪鬼が鬼面の鬼と同じという確証もない。別に只の鬼が封じられていたとかかもしれない。結局、分からなかったということだ。

 

 まぁ、それでも調べた中には面白い話もあったし、無駄ではなかろう。その中でも幻想郷というのには興味がある。どうやら昔から存在する、妖怪と人間が共存できる世界とのことだ。忘れ去られたものが辿り着く地。

 

 八雲紫。博麗神社。

 

 この2つの単語がキーワードだろう。ただ、こちらとあちらを繋ぐ博麗神社がどこにあるとかは分からなかった。

 

 大学内のカフェテリアの一角で、肘をつき珈琲を飲みながら古ぼけた書物を眺める。

 とある神社で貰った書物だ。紐でくくられた今にも破れてしまいそうなほどボロボロの書物。その廃れた神社は神主の爺さんがそろそろ死期がやってきたとか悟ったことを言ってやがったので、話を聞くついでに色々貰えないか駄目元で聞いてみたのだ。

 

 貰えたんだけど。

 

 どうせ廃神社にでもなるとかぶつくさ言っていたが、ならもう行かねぇ。爺さんがいるのに普通に霊が居て憑かれたし。やはり俺は憑かれやすいらしい。その時は爺に祓ってもらった。

 

 とりあえず、大量の書物は貰った。字が読めないほうが多いけど、なんとか解読することに成功した。……数冊だけな。

 

 しかし、それでも無数にある神社のうちの一つなのでそこまで期待できそうにない。何ていうことを思っていたのだが、本当に古い書物に幻想郷のことが書かれていた。ただ、読めないでござる。

 

「博麗神社ねぇ……今でも神社として機能しているのやら」

 

 今年の夏休みは神社巡りや神秘探しなんてことでもしてみるか? 

 

 金あるかななどと考えていると、俺に向かって一直線に走ってくる女性に結構驚いた。椅子やテーブルを華麗に避けながら速度を落とすことなく俺に迫ってくる。

 そして、俺のテーブルまで来るとバンッと手をついて、身を乗り出すようにして俺の顔の前で叫んだ。

 

「ねぇ!? 君、さっき博麗神社とか言わなかった!?」

 

 鼻先が触れ合うほど近く、叫んでいるので息や唾が口にかかっている。こんな綺麗な人からだったら男なら誰しも喜ぶだろう。俺も男だからそうだが、ちょっと勢いがな……帽子の縁が額に突き刺さっているのだが。

 

「あ、ああ……いえ、はい。言いましたけど……」

「それなら幻想郷も知ってる!?」

「名前程度なら知ってますけど……近いです」

「おぉ!! まさか誰にも知られていない幻想郷を知ってる人がこんなにも近くにいたなんて!」

 

 俺も吃驚だよ。取り敢えず感動したのかは知らないが手を話して欲しい。視線が凄い。なんなら殺気まで飛んできている気がする。

 

「君、サークル活動してる!?」

「し、してないです」

「よしよし、なら君は私とメリーが貰うとしようかな。秘封倶楽部にようこそ!」

 

 ……何を言っているのだろうか、全くわからない。なぜ、俺が秘封倶楽部とやらに入ることになっているのだろうか。

 

 絶賛、混乱中のところに、もう一人の女性が呆れた声を出しながら近づいてきた。

 

「ちょっと蓮子、落ち着きなさい。なに勝手に決めてるのよ。迷惑でしょう?」

「あ、メリー! この子を秘封倶楽部に入れることにしたわ! この子、幻想郷や博麗神社のことを知っているのよ!? 凄くないかしら!?」

 

 この子をのあたりで黒い女性…恐らく宇佐見蓮子先輩が後ろから興奮した様子で抱きつき、金髪の綺麗な女性…マエリベリー・ハーン先輩にそう告げる。ちょっと待て、いい匂いだし柔らかいし確実に首元に当たってるんだが? 凄く…大きいです…。

 

 何度も言うが、俺だっていい年した男だ。綺麗な女性がいれば興味を持つし、吉田達とも普通に下ネタなんて会話に使う。勿論、周りに聞かれないようにだが。

 

「あら、本当? でも、それにしたって急過ぎるわよ。本人の意思も聞かないと。ごめんなさいね? 蓮子が勝手に暴走しちゃって」

「いえ、大丈夫です。なので、この人を離れさせてください」

「だそうよ、蓮子。いい加減、男の子に抱きつくのは止めたら?」

「え? ……あ、ご、ごめん!!」

 

 今の状況をようやく理解したのか、瞬時に離れていく。ちらりと見てみると顔が赤い。流石に男に抱きつくのは恥ずかしかったようだ。

 

 落ち着くための意味も込めて座ってもらうことにした。まずは自己紹介をして互いの名前を知ったが、マエリベリー・ハーン先輩、愛称はメリーとのことであり、どこからメが出てきたのだろうか。M? それともよくある外人的な呼び名?

 

 新しく買ってきた珈琲を飲みながら秘封倶楽部とやらの活動を大雑把にだが聞いた。

 

「まぁ、大体のことはわかりました。しかし、自分の知っている幻想郷に関する情報なんて微々たるものですよ」

「あ、敬語じゃなくていいわよ。でも、幻想郷なんてことどこで知ったのよ。幻想郷って単語自体、早々見るものじゃないし」

「んー…妖怪とか鬼とかのことを中心に調べていたら偶々見つけてな。とある神社の爺さんから色んな書物を貰ったんだが、その中にも幻想郷ついて書かれていた。まだあるんだが…」

 

 今、目の前には一冊しかない。他の物は俺の部屋にあるのだ。まだ、全て読み終わったわけではない。

 どうする、他のも読むか? という意味合いを含めて蓮子先輩を見てみるが、その目は輝いていた。

 

「読みたいに決まってるじゃん。そうだ、そろそろ夏休みよね?」

「ええ、そうね。……まさか」

「そのまさかよ。私の部屋はボロアパートだから狭いし、夏休みはメリーの部屋で秘封倶楽部の活動をしましょ」

「はぁ…だと思ったわ。まぁ、蓮子はいつも私の部屋に入り浸ってるし、今更だけど……」

 

 男の俺はどうしようか?とでもいいそうな視線を送ってくる。流石に今日あったばかりの男を自分の部屋に上げるのはためらわれるのだろう。別に襲ったりするわけでもないが、女性の身からしたら不安でしかない。こんなにも美人なんだ、不純なことが目的な輩も多かったに違いない。

 

 そこまで予想したとこでふと気づく。俺は秘封倶楽部とやらに入ることが確定しているのかと。

 

 だが、蓮子先輩の台詞から既に俺の持っている物を見ることは確定事項のように思える。

 

 それに…長いこと他人と一緒にいて、いつ俺が鬼になるかもわからないのでできるだけ一人がいいのだが。やはり、断ろうか。

 

 そう考えて、蓮子先輩に言おうとするが…

 

「あの…」

「じゃあ、メリー、あなたが総司君と一緒に居て見極めればいいじゃない」

「はぁ? なんで初対面の男性と一緒に過ごさないといけないのよ。一般的に言ってもおかしいわよ」

「大丈夫よ。襲われたら遠慮なく通報しちゃいなさい。私が許可するわ!」

「襲われてからじゃ遅いんだけど……」

 

 襲う襲われると話を進めているが、流石に彼女でもないのにそんなことをする気はない。だが、ここで否定の言葉をいくら述べても俺たちは初対面。メリー先輩の言っていることは普通のことだ。蓮子先輩がサバサバしているだけだ。そこまで楽観的な訳でもないだろうが、俺が大丈夫だというなにかがあるのだろうか。

 

 目の前で喧嘩ではないが言い争っている二人を見ながら、珈琲を啜る。最近の缶コーヒーも馬鹿にできない味になってきた。ホットのほうが好みだな。

 

「なら、総司君本人に聞けばいいじゃない。ということで、単刀直入に聞くけど、メリーと二人きりになってあんたにメリーを襲う気はある?」

 

 そんなことを聞いて、眼の前でYESと答えるやつは居るのだろうか。答えはNOだ。

 

 俺には、襲うことが出来ても襲えない理由がある。未だに不確定要素となっている鬼面と鬼化。鬼と言えば怪力だろうが、俺にも備わっているに違いない。何かの拍子で力を開放してみろ、簡単に圧し折り、潰すことが出来てしまうだろう。

 

 だから、NOなのだ。それがなくてもNOなんだが。

 

「今は…俺にはおいそれと人に触れられない理由がある。別にアレルギーとか潔癖症というわけじゃない…それでも、俺が俺の安心を得るまでは、絶対に他人に触れて力を入れられない。入れる訳にはいかない。襲うなんて以ての外だろう。月並みな言葉だが…信じて欲しい」

 

 ことりと缶コーヒーをテーブルに置きながらそう言い切った。

 俺は何を言っているのだろうか。ここで襲わないし、一緒に過ごさないと言えばそれで終わりだっただろうに。

 

「…へぇ、なにか深い理由がありそうね。どう? メリー。一日だけ一緒に過ごしてみない?」

「…………はぁ、蓮子に今更何を言っても仕方ないわね。確かに、私も阿久鬼君の持ってる情報は気になるし…いいわ。でも、一日だけよ?」

「いや、俺が書物をここに持ってくればいいだけじゃ…」

「それじゃあ面白くないし、好き勝手話せないじゃない。誰かの家の方がいいわ」

「相当無茶苦茶言ってるの自覚してるのかしら……というか、蓮子も一緒に居ればいいじゃない」

「あー、ごめんねメリー。私夏休みまでバイト入れてて…大学も単位は大丈夫だし、暫く会えないの」

「言い出しっぺの法則って知ってるかしら?」

「あれよね、相手の腕に指2本で思いっきり叩くやつ」

「それはしっぺよ」

 

 パァンッと言う音と痛いッという叫び声が聞こえる。

 

 というわけで、何故か明日一日メリー先輩を過ごすことになった。こんな美人な先輩と一緒にいられるのであれば、あわよくば更にお近づきにとか思うやつも居るだろう。俺にとっては一日拘束されるだけだと思っている。まぁ、それはこの人も同じだろう。誰が好き好んで知らない人間と一緒に居たいと思うのだろうか。

 

 朝、大学に集合ということになった。それからメリー先輩の家で過ごすらしい。

 

 さて、今日は徹夜で鬼についての研究でもしますかね。

 

 

 

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