⑨が⑨じゃなくなった日   作:monochrome vision

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第06話 小さな日常

 

 

「んー…どれも字が掠れてて読みにくいわねぇ…ちゃんと保存してなかったのかしら?」

「らしいな。蔵に適当に入ってたし、そこまで重要なものでもなかったようだ」

「やっぱり? それよりもメリーが寝てるんだけど、読まなくてもいいのかしら?」

「あとで暇になれば読むだろ」

 

 夏休み。テストも問題なくクリアし、本当に秘封倶楽部に入っていた俺は蓮子からの電話を無視していたんだが、書物を持ってくるように鬼電され、妹に怒鳴られて渋々出ることにした。確かに煩かったが、どれだけ俺のこと嫌いなんだよ、あの子。

 

 そして持ってくるように言われた荷物をバッグに詰め込んで、母さんに泊まると言って出てきた。煩かったが、霊香に押し付けてきたぜ。きっと歳上の女友達とか言えば暴れるに違いない。

 

 結局のところ、メリーから、俺といても大丈夫だったという結果を蓮子は教えられたらしく、こうやって夏休みに泊まりでお邪魔することになったのだ。

 

 んで、現在は俺と蓮子だけで爺さんから貰った大量の書物を眺めているのだ。そのうち1つを破ってしまったが、すまん爺さんとだけ言っておく。態とじゃなかったんだ。態と手が滑ってしまって春画を破ってしまったんだ。

 

 俺が神社で寝たときに見た夢……あれ以来、同じような夢は見ていない。それに、アレが本当に夢なのかということもわからない。起きてみたときに感じたのがとんでもない倦怠感と激痛。少女の噛み千切られた時ほどではないが、鋭い痛みが左腕を中心に生じていた。

 

 震えながら起き上がると、左腕と服は血塗れであり、左腕にはタオルがなく、傷だけが残っていた。その傷も何故か治りかけであり、血が流れているというわけではなかった。

 

 まぁ、血が流れてないだけ助かったというところだろう……病院に行かなくてもいいのがマジでありがたかった。爺さんに服をもらって着替えてから、包帯で左腕をぐるぐる巻きにする。母さんや友人に心配されたがなんとかなった。

 

 それより何より、俺に対する変化が進んでいた。なんと頭の半分が白くなっており、もう半分が黒いままだった…こんなキャラ何処かにいたな。鬼化してみれば赤い紋様は胸まで進んでおり、胸には首飾りのように勾玉のような痕がついていた。

 

 他にも左目がまるでどこぞの人間を喰う化物になった金木君みたいになっていた。白が黒へ。黒が赤へ。まるで出来の悪い化物のようだ。

 

 力も比べ物にならないほど得ており、命をかけた殺し合いにより憑依率が急上昇してしまったのだろうと推測する。動体視力なんておかしいレベルだ。動画で見た銃弾がスローで飛んでいるように見え、指で摘むのも余裕だろう。

 

 ……もう少しで英霊同士の戦いみたいに動けるかも。

 

 そう考えるとちょっとだけテンションが上った俺ガイル。

 

 そして最後に……何やら黒い靄のようなものを生み出し、操ることが出来るようになった。直感的にこれが鬼の妖力だというのが理解できた。邪気のように禍々しく、近くにいるだけで空気が重くなり、逃げたくなるような妖力。草に触れると一瞬で黒く染め上げて崩れ散った。

 

 触れても侵食しないように要練習だな。目下の課題は力と妖力のコントロールと言ったところか。既に勝手に鬼化するなんて言うことはなくなっており、そこら辺は俺の意のままに行える。

 

 まあそういうことだ。順調といっていいのかは分からないが、鬼になっていくのは止められず、進んでいくばかり。それと、俺の中にいつの間にか取り憑こうとして逆に鬼に掌握されてしまった悪霊の数も増えている。なんなの? あの氷の少女みたいに能力があるのなら、俺は憑かれる能力なの? そんな体質みたいな能力いらないんだけど。

 

 パサリと古ぼけた本を机に投げ、一つ伸びをする。パキパキと椎間関節が鳴り、緊張していた筋が伸びることで少しばかりの痛みと解されていく気持ちよさに暫く伸びたままになる。

 

 気分転換に珈琲でも飲むか。

 

 そう考えて立ち上がり、勝手知ったるなんとやら。キッチンに向かい、珈琲を入れる準備をすることにした。夏休みに入るまでにメリーと買い物に行き、3つペアになっていたカップを購入したのだが、黒い狼が俺、黒猫が蓮子、黒い狐がメリーだ。

 

 蓮子にも声を掛けてみるか。先程までいた場所に向かって声を掛けてみる。

 

「蓮子、珈琲入れるがいるか?」

「もらうわー」

「はいよ」

 

 インスタントの珈琲は俺が持ち込んだものであり、ちゃちゃっと粉を入れてお湯を注ぐ。お湯が既に湧いていると簡単に作れるから楽でいいよな。

 2つの珈琲の入ったカップを持ち、自分の座っていた場所まで戻る。

 

「ん」

「ありがと」

 

 熱い珈琲を飲めば、それだけでホッとする。夏の日でもクーラーが効いているなら全然飲める。なんなら普通に朝に飲む。

 蓮子も問題ないようで、俺と同じように啜るように小さく飲んでいた。流石に家の中では帽子も取っており、ラフな格好だ。

 

 もう一口飲んで、コトリとテーブルにカップを置いた。

 

「それにしても驚いたわ」

「何にだ? この本のことか?」

「そうじゃなくて、メリーと貴方の関係よ。さっきの珈琲入れるのなんて勝手に色々取り出して、もはや慣れたものじゃない」

「……そうか? 蓮子も勝手にしているだろうに」

「私は付き合いが長いからいいのよ。でも、あんた達はまだ一週間かそこらよ? それなのに既に一緒にカップとか買いに行って、泊まったりもして、メリーの部屋で寛いでる。私が勧めたのもあるけど、メリーもまるで長年付き添った相手のように……夫婦かっての」

 

 珈琲が甘いわーとか言いながら蓮子が珈琲を飲んでいる。……それもそうかもしれない。

 確かに、一緒にいても違和感がないのはあるだろう。何もなければリラックスできる。しかし、それでもまだ付き合いは短く、相手は俺の周りにはいなかったような美人だ。近ければ少し意識するし、いきなり泊まりとか風呂上がりとか、薄い格好とかは流石に緊張する。

 

 強固な理性で邪な考えを捻じ伏せているだけだ。何度も言うが、俺も男であり、鈍感系の主人公や抱きつかれても何も思わない主人公らしいキャラとは違う。少女と相対したときのような、別のことを考える暇がない程の危機的状況なら違うだろうけど。

 

 いざという時は、必殺技として全裸の男の幽霊のことを思い出せば、一気に萎える。自分の母親の裸を思い浮かべて萎えるのと同じ要領だ。母さんは本当の母親じゃないので危ないから、俺は幽霊だ。

 

 ……全裸幽霊な、あれはどうも変態だったようだ。きっと露出狂だった男が死に、全裸のまま浮遊していたのだろう。見た瞬間、鬼になって縊り殺したけど。

 

 俺も人型の生物を殺す覚悟ってものが必要だ。あの少女の件で痛感した。だが、幽霊は殺したって感じがしない。消したって感じか。

 

「そうは言うがな、これはメリーだけじゃないぞ?」

「え? じゃあ他の人でもこんな感じ?」

「いや、そこまでじゃない。メリーもだが、蓮子、お前にも同じくらいの対応だと思うぞ?」

「…………そうなの?」

「おう。思い返してみろ。今日なんてメリーは最初から寝てて、実質二人で過ごしているようなものだろう? それなのに俺はメリーのときと何ら変わらない。蓮子といても落ち着けるし、メリーとは違ったベクトルで一緒にいるのは楽しいさ。きっと、二人きりで過ごしても安心できるほどには…俺がこんなこと言うなんて滅多にないぞ?」

「そ、そう…それなら別にいいわ」

 

 照れているのか、少しばかり赤くなって珈琲をしきりに飲む蓮子。珈琲は利尿作用があるから一気に飲むとトイレに行きたくなるぞ。

 ちなみに、俺は脳がカフェインに慣れてしまっているのか、飲めば眠くならないどころか寧ろ眠くなる。カフェインを取り入れたことによるリラックス効果が……寧ろ飲んだ瞬間に香りと味にリラックスして眠くなるんだけど。

 

「そ、そうだ! メリーにはまだ言ってないんだけどね、せっかく夏だし心霊スポットにでも言ってみようと思うの。他にも総司君が入ったんだから、これをきっかけに色んな所に行ってみたいなって考えてるのよ」

「へぇ、いいじゃないか。だからバイトでもしてたのか?」

「そういうこと。県内なら車でも借りて行こうと思ってるわ。運転できる?」

「出来るぞ」

「流石。遠いなら汽車ね。どこに行こうかしら~」

 

 決めてないのか。

 ネットで心霊スポットでも探し出したのか、カタカタと色々検索している蓮子を横目に本を一冊取り、ソファーに座り込んで読むことにする。どうやらあの神社の出来た経緯とか今までに 何があったのかを綴ってあるようだ。

 

 パラパラと捲ってると、興味深い文を見つけた。要約すると、境内にて無数の空間の歪みが発生。一人の霊能者が入ったところ、五分ほどして出てきたそうだ。だが、再び現れたときには風貌がガラッと変わっていた。歳をとっていたのだ。枯れ枝のような四肢にボサボサの白髪と血塗れの衣装。そして刃こぼれの酷い血の付いた刀。

 

 その霊能者は幽鬼のようにゆらゆらと何も言わずに去っていき……数日後には京の人間を殺しては食らっていたそうだ。その数、30人弱。捉えられた時はまるで鬼のような表情と力だったという。人間から妖怪へとなることもあるらしい。それがここに書いてある。

 

 あの空間の歪みに入らなくてよかった。結局、何があったのかはわからなかったらしいが、たった五分ほどで歳を取るのだから時間経過はこちらと違うのだろう。そして、刀と血。何をして、何を殺してきたのかはわからない。

 

 唯一の救いが、霊感のない一般人には空間の歪み見えなかったらしいし、触れられもしなかったことだろう。

 

 そこまで読んだところでどうやらメリーが起きてきたらしい。いつのまにかベッドからソファーまで移動しており、俺の隣にボスッと倒れ込むように座った。

 

「起きたのか…よく寝てたようだけど、どうしたんだよ」

「ふぁ……えっと……昨日の夜に……なんだったかしら…?」

 

 やだ、もう歳?

 

 そう考えたのがバレたのかは知らないが、メリーが俺の太腿を抓ってきた。

 

「そうよ、珈琲飲んだら寝れなくなっちゃって…寝るのが遅かったの」

 

 そう答えながら何を思ったのか、倒れ込んできて俺の太ももの上に頭を乗せ、目を細くしながらこちらを見上げてくる。止めてくれ、色々やばいから。

 

 まだ寝ぼけているのだろうか。そんな彼女の金色に輝く髪を撫でようとして、ピタリと止める。勝手に女性の頭に触ると怒られるかもしれん……前にもこんなことあったな。

 

 手を引っ込めるとメリーが少しだけ表情を変化させるが、俺にはそれがわからなかった。ただ、逆にメリーが手を伸ばして、白く長い指を俺の白髪に差し込んで擦るように触ってくる。

 

「白髪が多くなったわね…除霊とかしないの?」

「詳しくは言えないが、除霊して消えるものじゃないんだよ」

「そうなの……これ以外に身体に害があるわけじゃないのよね?」

「ああ。特に不調はないから大丈夫だ」

「ならいいんだけど…」

「総司君もアニメキャラっぽくなったわよね。ま、それはそれで格好良いとは思うわよ? チャラ系だと似合わないだろうけど、総司君みたいなクール系だと似合ってるし」

 

 蓮子の言っているクールキャラとかは流石に思ってないが、似合ってなくて厨二とか指さされながら笑われるのよりはマシだ。絶対に外に出る時は帽子を被るけどな。

 

 蓮子がどうやら行く場所を決めたらしく、PCを持ってこちらに振り返る。そして俺の髪を弄っていたメリーを見てニヤニヤすると、メリーが赤くなった。恥ずかしいなら起きればいいだけだと思うのだが。

 

「で、どこに行くんだ?」

「おっと、そうそう、ここよここ! まずは有名所の清滝トンネルに行ってみようと思うのよ。勿論、夜中に行くからね」

 

 ああ、そこなら俺も知っている。一度行ってみたいと嘗ては思っていたが、現在の俺は少々躊躇ってしまう。怖いというのは微塵もないが、俺という存在が居ることで二人に危険が及ばないかと不安になるのだ。

 

 心霊スポットに行くことを知らなかったメリーはと言うと、噛み付くように蓮子に叫んでいた。

 

「ちょっと、どういうこと!? いつの間にそんなこと決まったのよ!!」

「ついさっきよ。総司君も行くって言ってくれたわよ? メリーも行くわよねぇ?」

「…ッ! そ、総司は行きたいの?」

「そうだな…正直、心霊スポットが嫌いな男子なんてあまりいないと思うぞ? もしかしてだが……メリー、怖いのか?」

「そ、そんなわけないじゃない。総司が大丈夫か心配してただけなんだから」

「ほほーう? なら大丈夫よね? レンタカーを借りて行くから、夜中に向けて準備でもしてて」

「今日行くの!?」

「思い立ったが吉日っていうじゃない。それに今日は新月だから色々出てくるかもしれないじゃない」

 

 確かに新月は魑魅魍魎が跋扈するとか言われてたこともあったし、何か出てくるかもしれない。

 

 それに、少しは安心していいと思う。有名であればあるほど、夏には俺達のように心霊スポットにくるリア充が増えるだろうから、午前二時とかに行けば誰かしらが居るかもしれない。

 

 何やら思案顔のメリーだったが、落ち着いたのか別段問題もなく普段通りに戻り、机の上においていたチョコを食べていた。自分で答えを見つけて納得したか、俺のような考えに至ったのかもしれない。

 

 そう言えば、吉田達にも心霊スポット行くんだがと誘われていたな。何やら複数人で行くらしいが、また今度の機会にしてもらうか。

 

 

 

 

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