⑨が⑨じゃなくなった日 作:monochrome vision
静かな走行音に眠気を誘われそうだが、運転手の俺が寝るわけにもいかないので別のことに意識する。時間としては0時は既に過ぎ、1時を少し回ったところだろうか。当たりは既に暗くなっており、月も出ていないのでライトを消せば空には星の光だけしか見えないだろう。民家があれど、この時間は寝ているかもしれない。
窓を開ければ、夜の冷えた風と幾種類もの虫の声が流れ込んでくる。恐らく、この人通りが少ない道を走っているのは現在俺たちだけじゃないだろうか。
ここに来るまでに通ったコンビニで買い込んだ菓子や飲み物を食べながら、静かに車を走らせる。助手席に座ったメリーから、口元に差し出されるポッキーを咥えながらナビを見る。まだかかるようだ。
「それにしても、霊的な何かに取り憑かれた存在が居るってのに、まさか更に取り憑かれに心霊スポットに行くなんてねぇ……あんた、もしかしてマゾ?」
「……なあ、メリー。少し催してきたから、一度そこら辺に止まってもいいか? その時にゴミも捨てて行きたいんだが」
「わぁ、待った待った! 冗談じゃない! ちょっとした蓮子さんジョークってやつよ! 本気にしないで!」
「総司、粗大ごみの不法投棄は駄目よ」
「それもそうか」
「メリー、あんたまでゴミ扱いしてくるなんて…」
行きたいと言ったのはお前だろうが、というツッコミを敢えてせずに逆に追い込んでみたがメリーまで乗ってくれたのはさすがとしか言いようがない。俺達は心で意思疎通が可能なのかもしれない。
蓮子も蓮子である。言うに事欠いてマゾはないだろう…俺はどちらかと言えばSだ。
俺のご機嫌でも取るためなのか、後ろから首に腕を回してきて今度はトッポを食べさせてくる。別に怒っちゃいないさ。それでも、どこか甘え上手な蓮子に仕方ないなとなってしまい、怒ってない旨を伝える。というか運転中にいきなりはやめろ。事故る。俺達が霊的な存在になってしまう。
「で、そろそろ着くの?」
「もうそろそろだな」
「ふーん…そう言えば、そのトンネルはどんな幽霊が出るの?」
「あ、そうだったわ。えっと…どうも女の霊が出るって噂ね。走行中にボンネットの上に落ちてくるらしいわよ」
「そう。じゃあトンネルの中には車で行くのは止めましょうか」
「あらら? もしかして……?」
「借りてる車に傷が付けば面倒になるし」
「……なんという現実的な」
いやまぁ、確かにそうだし、俺も同じこと考えてたから車で入るのはやめて歩いていこうと提案するつもりだった。
「あと、着いた時に青信号だったら幽霊が歓迎してるから、一旦赤になって再び青になってから入ったほうがいいってさ。ぶっちゃけ車で入らないなら意味ないわよね」
「そうだな。歩いて行くとして、気をつけることは上からの女か」
「どうして? ボンネットないんだから大丈夫じゃないの?」
「曲がり角でぶつかって運命の出会いってわけじゃないが、おでことおでこをごっつんこ、なんてことになれば打撲で転げ回るだろう。勿論、女の方も」
「ぶはっ! く、ふふふ……た、確かにそうかもしれないわね。親方ぁ!空から女の子が!なんてことも出来るわよ?」
「空というかトンネルからにゅっと出てくることになるのか……なんというか、ギャグチックだな」
「あはは! やめてよ、想像すると面白いじゃない!」
「総司、あんた最高よ」と笑いながら後ろから手を回し、右手で左肩を前から叩いてくる。ついに君がなくなってしまったか…そっちの方が違和感ないけどな。
メリーも想像してしまったのか、静かに笑っている。
「はーあ、笑ったわ。リアリティを取り入れると心霊スポットも面白くなるのねぇ…面白いのは総司かもしれないけど」
ふぅ…と息を吐く蓮子は顎を運転席の座席の肩部分に乗せて、首の腕を離さない。この方が話しやすいとでも思ったのだろうか。それでも蓮子の腕が常に首に触れているので汗かきそうだ。離してくれない?
そして吐息が耳に当たって擽ったい。っと、着いたな。
「着いたぞ。……どうやら先客がいるようだ。良かったな」
「あら、他にも人がいるのね」
「残念ね…雰囲気が味わえないじゃないの」
1時30分か……いい時間帯だが、この時間帯に来るのとかYou○uberくらいかと思ってたわ。鬼化していないのに強化されている視力で見るも、男女の混合グループのようだ。
脇に車を止め、ライトを切る。普通に街頭があるから明るい…雰囲気も糞もない。信号はどうやら青のようだ。
蓮子もメリーも、人がいることでもはや心霊スポットというよりも観光スポットというべきこの場所に落胆を隠せないようだ。
「なによ…全く怖くないじゃない。もうちょっと雰囲気ある所選べばよかったわ」
「廃れた廃墟とかホテル、神社の方がまだ怖いかもな」
「まぁ、せっかく来たんだから行ってみましょうよ」
「そうだな。ただ、二人は俺からあまり離れないようにしてくれ」
「なぁに? 心配してくれてるの? あ、もしかして他の男の人から言い寄られないように?」
「それもある。俺が瞬時に間合いを詰められる距離にいてくれ」
人が沢山いるし、何人も見に来るほどに有名だ…いないんじゃないかと思ったが、そんなことはない。女の幽霊が一人だけとかではない…様々なところから寄ってきているようだ。有名なだけあるってことか……ここはそれなりに強い土地かもしれん。霊道が通っているのだろうか。専門じゃないからわからん。
……やっぱりトンネルの上からにゅっと逆さ吊りになっている女の霊が居るんだが、あれがそうなのだろうか。目が合ったこともあるが、あまりのシュールさに笑いそうになるが我慢だ。よっと手を挙げると、向こうもよっと手を上げてくる。笑った。
懐中電灯を持ち、蓮子がカメラを持つ。撮影して映らないか確かめようとしているのだろう。
トンネルに近づくに連れて集団の騒がしい声や霊が近くなる。大学生くらいのグループだろうか、カメラを持っている奴らも居るな。それにしても…何やら見覚えのある奴らだ。もしかして……
向こうも俺たちに気づいたのか、目を向けてくると、俺を見て驚いたようになる。
「総司! なんでお前がいんだよ!」
「まさか、お前らと同じところに行くとはな…同じ学科の奴らか?」
「おう。皆で行かないかって話になってな……それより」
ガシッと肩を組まれて集団の中に連れて行かれる。メリー達に背を向けるようになって、小声で叫ばれた。小声なのに叫ぶっていうのもおかしいものだが。
「なんでお前がハーン先輩と宇佐見先輩のお二方と居るんだよ!?」
「そうだぞ、しかも二人と心スポに来るなんて……」
「紹介してくれ!」
自分で突撃してきてくれ。
「総司、知り合いなの?」
「ああ、実は…「はい! 俺達総司の友達なんですが、宇佐見先輩方も肝試しですか!?」……」
俺の返事を遮って話しかけている阿呆共に呆れながら、トンネルを見る。少し人数が多いから何かしらの気に障って何かされるかもしれないが、何もしなければ霊障も起きないだろう。
女子勢も男子の欲望丸出しの姿に呆れている。唯一行っていないのが春賀だけだ。その春賀が俺の袖を引っ張って話しかけてくる。
「ねぇ、総司君。僕達の誘い断ったのってこういうこと?」
「そうなる。サークルの先輩の誘いだ、無碍に出来ないだろう?」
「それもそうだね」
そう言って笑う春賀の後ろを害のない動物霊が通り過ぎていく。狐だろう、ちょっと可愛かった。猿もいるらしく、生身と霊的の二種類いるが生きている方は夜には活動していないらしい。
色々と話しかけてくる春賀に釣られるように、いつの間にか女子達が周りにいて話に入ってくる。ん? あの有名人っぽい女子も居るのか。名前は忘れたが。
「男子って馬鹿よね」
「確かに綺麗だけど、うちの天音も負けてないわよ」
「やめてよ」
「それにしても阿久鬼君があの二人のサークルに入ってるなんて、吃驚よ」
うるせぇ…トンネルがあるから響いて煩いのだ。煩いのが気に障ったのか、それとも驚かせようとしたのか……突如、トンネル内を照らす照明の一つがチカチカ光ったと思うと、消える。
「きゃっ!?」
「な、なに!?」
「何で消えたの!?」
だから煩いと……この騒ぎに気づいたのか、男子連中も静まり返り、こちらを見ている。その隙きにメリーと蓮子が俺の元に小走りでやってくる。なんとまぁ、強かな奴らだろうか。霊障を利用して男子から抜け出すとは。
今までも二人で色んな所に行っていたらしいし、こういった雰囲気にはなれているのかもしれない。
「総司、何かあった?」
「ああ、照明が一つ消えた。古くなってたんじゃないか?」
「総司が問題ないって言うなら大丈夫よ。それよりメリー、トンネルの奥にでも行きましょ!」
「ちょ、待ちなさいな。総司と離れないで…」
「少し先を行くだけよ。総司も着いてきなさいよー」
引っ張られて行くメリーと引っ張る蓮子。二人のいつも通りの雰囲気に苦笑しながら歩いて付いて行く。メリー、やっぱり怖いんじゃないか。トンネルの中央あたりまで進むと、蓮子はそこで写真を撮りだした。
適当に撮っていく蓮子だが、メリーは撮られることに少しばかりの拒絶感が見られる。多分だが、何かが映っていた時に自分の身体に手でも乗っていたらとかネガティブなことを考えているに違いない。安心しろ、今のところ何もない。
「明るいし、声が聞こえてくるから怖くないわねぇ…」
「お前は見えてないから怖くないんだろう」
「総司は見えるんだっけ?」
「ああ。結構な数いるぞ…カメラ貸してみろ」
「はい」
受け取ったカメラで霊が居るところに向かってピンポイントでシャッターを切る。多分だが、見直せば大量に映っているはずだ。
ぼうっと浮くようにして立っている奴も居れば、動いて吉田達の方に行っているやつも居る。ブツブツと何かを呟いている女の霊も居るが、ちょっと多すぎるな…俺に引かれてやってきたわけではなく、恐らくこの土地に集まってきているのだろう。
例の上からにゅっな女の霊にもカメラを向けてみる。おーい。はい、ピース。
……いいカメラ目線だ。ピースが似合ってないけどノリが良い。
カメラを投げ返す。早速カメラのデータを見直しているようだが、俺が撮った数々の写真を見ていくにつれて静かになっていく。メリーも横から見ていたが、徐々に見るのを止めて泣きそうな顔で俺に近寄り、左腕を抱きしめてくる。その豊満で温かく、柔らかな気持ちのよい感触に流石の俺も身を固くする。意識するなという方が無理だ。
だが、メリーは本当に怖いのか、少しばかり震えながら力強く腕を抱きしめてくる。俺も色々と憑かれる前は怖かったのかもしれない。今ではこっそりと、メリーに近づいてきた霊を掴んで吸収するほどだ。寧ろ、メリーを素通りして俺にとり憑いてくる。普通に嫌なんだが…。
「ほ、本当に居るのね……ね、ねえ総司? 今は大丈夫なのよね? 私達、取り憑かれたりしてない?」
「大丈夫だからそんなに不安そうになるな。俺が居る限り、お前らには絶対に害を与えさせない」
「本当よね? 私達、分からないからちゃんと守ってね? 絶対よ?」
「はいはい」
「もう! 適当に返事しないでよ!」
なんてことを言いながらも俺の右腕を抱きしめてくる。蓮子もそれなり以上に豊満な物をお持ちであり、かなり柔らかい。なんだろうな、息子がクラスチェンジしてないだけ俺は凄いと思う。血流操作のスキルでもあるのか?
俺は鬼でもあり…それ以前に人間なのだ。妖力だけではなく、人間には霊力というものがあり、これが強いと霊能者なんて言われる人達になる。俺にもそこそこの量があるようで、今はただ単に放出するだけしか出来ないが、それだけでも周りの雑魚共は消し去ることが出来るだろう。
脚を少しばかり上げ、叩きつけると同時にその音と衝撃に霊力を乗せ、心霊スポットを潰してやろうかと思ったが、叩きつける前に後ろからガヤガヤと声が聞こえてくる。どうやら吉田や春賀達が来ているようだ。
しかし、どうも知らない声も聞こえてくる。そして、何やら機材を運ぶときのようなガチャガチャとした音も。どういうことだ?
次第に明かりが見えてきて、謎が顕になってくる。今は夏であり、心霊スポットやホラー系の番組が増えてくることは誰でもわかるだろう。つまりそういうことだ。本当に偶然だが、取材してきた連中に遭遇してしまったということだろう。
こんなところ、既に有名となっているため来る必要性もないだろうが、心スポ巡りだろうか。まあいい、騒がしくなるなら帰る方がいい。だが、森の俺を呼ぶ声に足を止める。
「おーい、総司~! 何かあったかー!?」
懐中電灯の明かりを当てられて眩しいため、少しばかりキャップのつばを下げて光を遮断する。やはり後ろにはカメラマンやモデルか女優なのかは知らないが綺麗な女性が居る。その女性の隣には知らない男が一人。付き添いの霊能者とかだろうか。カメラに写ってないところで女性ばかり見ている。
本当に霊力を持っており、除霊の方法まで知っている坊さんなんかじゃなかったのが悪いのだろう。その半端者である男に刺激されて集団の周りの霊がざわめいている。夥しい数の霊だが…少量とは言え、俺のように霊力を出さないのではなく垂れ流しているからか。
というか、なぜ、誰も背後を向かない。今向けば、望みの霊が大量にいると言うのに。
頭部のない無数の男性や、女性の頭部だけ。血塗れの女や青白い眼孔が真っ黒な男。……ホラーハウスにでも出てきそうだな。
「な、なに? なんか人が増えてない? どういうこと?」
「さぁな。心スポ巡りしている番組じゃないのか? カメラに向かって話して会話が成立しているし、生放送かもしれないな」
「うぇ、なにそれ…テレビに映りたくないから帰りましょうか。心霊写真が大量に撮れちゃったし…メリー、今日あんたんちに泊まっていい?」
「え、ええ、いいわよ。なによ、蓮子も怖かったんじゃないの」
「そりゃあんだけ写れば誰だって怖いものは怖いわよ! 総司、今日はメリーの家に泊まるから帰っちゃ駄目よ?」
「……まぁ、元々泊まるつもりだったし、別に構わんが…」
「よぅし、それじゃあ帰りましょ。なんかお腹減ったから途中でファミレスでも寄る?」
「太るわよ?」
「今日だけよ。甘いもの食べないとやっていけないわ」
そんな二人の会話を聞きながら近づいてきた森や吉田に話しかけられ、適当に答えることにした。聞いたところによると、本当に生放送している番組らしく、偶々鉢合わせたそうだ。24時間テレビに似ている的なアレで、俺は知らないが有名人と霊能者の二人とのこと。あ、そう。帰ってもいい?
そんな俺の気持ちは口に出していないのでわかるわけがなく、女優?が話しかけてくる。つか、カメラ向けるな。。リアルタイムだろ? 知り合いが見てたら普通にバレるし、全国に顔が配信される。キャップ深く被っとこ。
メリーと蓮子も写るのが嫌なのか、俺の後ろに隠れている。
「えっと、吉田さん達の友人ですか? 彼らよりも先に入ったらしいんですけど、何か心霊現象はありましたか?」
「……いえ、何もありませんでしたよ。流石にこんなに大勢では、出るものも出ないのかもしれませんね」
「そうなんですか? 私は怖くてこれ以上入りたくないんですけど…霊能者の清水さんが言うには、女性の霊が数人いるらしいです」
「はい、そうなんですよ。壁から顔が出てたり、女性が一人立っている気配を感じます」
……偽物じゃねぇの? お前が指差した所、何もいないんだけど。メリーと蓮子も写真を見比べながら首を傾げている。何もいないからなぁ…だが、ここで敢えて言わないのはテレビがあるからだろう。霊能者の人に貴方は偽物ですねといっているようなものだ。
写真見せてもいいが、面倒事は御免だ。
それよりも早く帰らないとな。出来ることなら吉田たちにも帰って欲しいが、多分帰らないだろう。取材班はどうなろうが知ったことではない…取れ高上がるんだから存分に襲われてくれ。
「吉田、俺達は帰るがお前らはどうする?」
「なんだよ、もう帰るのか?」
「ああ。後ろの二人がカメラに写りたくないそうだし……お前らだけに言っておく」
カメラとその他二人が勝手に写真を撮っているのを確認してから小声で伝える。変な奴と思われようが構わない。そろそろ丑三つ時だ…こいつらの動きが活発になるだろう。
「あの霊能者は偽物だ。ここには、女一人だけとかではなく、無数に霊がいる。そろそろ動き出す時間だ…怖い思いしたくなければ俺達と一緒に帰ったほうがいいぞ」
「はははっ、大丈夫だって。あの霊能者の清水さんは有名で、何度もテレビに出てるんだぜ?」
「本物じゃない。半端者だろうな…さっき指を指したところには何もなかったぜ」
「お、阿久鬼は霊感あるタイプか? なら清水さんや茜さんに教えてやったらどうだ?」
男子はやはり信じていないのか。まぁ、普通はそうだろうな…人間なんて所詮、本当に怖い目にあってからじゃないと認識なんてしないだろうし。男どもは生の有名女優やテレビに興奮しているのか、笑いながら茜とかいうやつに向かっていった。
「はぁ…馬鹿どもが」
ため息をつく。出来の悪い心霊動画みたいだが、割りと本気で霊はいる。なにせ、俺が不思議体験を何度もするくらいだから、霊は実際に居るだろう。というかお前ら首無し共、こっち来んな。
放っておいて帰るかと歩みを進めたところで、天音といる女子の中の一人が腕を掴んで止めてくる。
「どうした?」
「……本当に、いるの?」
「……言ったところで信じるやついるのか?」
「私たちは信じる。皆、不安。それに、先輩方の怯え方はおかしい……なにかある?」
馬鹿な男子共と違い、状況を把握しようとしているらしい。俺が居るからというのもあるかもしれないし、あの清水というのが居るからかもしれない。それか、俺達二人がいるから反応して大量に出てきたのかもしれない。
写真を見せれば一発で信じるだろう。なにせ、加工する暇なんて絶対にないのだから。
「蓮子、カメラ渡してやってくれ」
「うん…貴女たち、覚悟して見なさいよ? 苦手な子は絶対に見ないこと。いいわね?」
「…はい。ありがとうございます」
蓮子から渡されたカメラを受け取り、女子が写真を見ていくにつれて、小さく悲鳴が上がりだす。「なに、これ……」と呟く天音の顔もいつもよりも白くなっているのがわかるくらいだ。心霊写真なんて信じていなかったのだろう…俺が霊力をカメラに注ぎながら撮ったからよく分かるようになった。
女子たちの異変を感じ取ったのか、茜とやらが走り寄ってきた。
「皆、何かあったの? もしかして、写ってた?」
「あ、いえ、その……」
女子の一人が反応して俺を見てくる。別に見せてもいいのだが、見せる筋合いもないし、別にいいだろう。答える代わりに、再度聞くことにした。
「それで、俺達と帰るか、帰らないか……さあどうする?」
「「「「帰ります!」」」」
全員が揃ってそう返事する。信じるしかないだろうしな。
「ならいい。走らずに、出口だけを見て歩いて帰るといい。車に乗って待ってろ……二人はどうする?」
「わ、私は残るわ。車に居るよりも総司の近くにいた方が安心するもの」
「私も残るわね。一人だけ車に居るなんて絶対に嫌!」
「そうか。なら俺から離れるなよ?」
「「うん」」
ここで俺達も一緒になって帰れればよかったんだが、やはり吉田たちが居るというのと、入り口の方に回り込んで話しかけられて進めなくなったというのが残る理由となる。
「やはり何か写っていたそうです。女子大生の皆さんがカメラを見てから一人の男の子の言葉に従って帰り始めました。見せてもらえないか聞いてみます……ということで、どうです?」
「いや、なにがということで、だよ。アンタ、本当に女優か? テレビ出るの初めての新参者か?」
「アイドルよ。それと何度も出たことあるもん。じゃなきゃ有名になれないわよ。そう言えば、先程から女性が二人後ろにいるけど…随分と綺麗な子ね。彼女さん?」
「ちげぇよ。あと話ずれてんぞ……写りたくないそうだから二人を写すな」
「茜さん! 清水さんが何か見つけたそうですよ! って、総司なに羨ましいことしてんだ」
「黙れ。大体、俺はこいつを知らないからどうでもいいんだよ」
小声でそう答え、走り寄ってきた吉田をゆっくりと蹴るが避けられた。本気で蹴ったら壁に埋まるのではないだろうか。
「そうですか。総司君っていうんですね……吉田さんは清水さんと見つけたものを持ってきて頂けますか? ―――はい? はい、そうです。なにか不思議なものでも見つけたらしいですね。スタジオの皆さんにも見てもらうために…カメラマンさんに行ってもらいましょう。私は聞き込みと写真見せてもらいますね」
マジで何なのだろうか、こいつは。いくら美人で有名だからとは言え、なんかもう適当な気がする。どれだけ写真が気になるのか。というか、カメラマンも動いてないぞ。ちらっとカメラを見てみると、カメラマンがサムズアップしてきた。なにに対してだこの野郎。
絶対これスタジオの方とか画面の向こうの国民は暇だろう。まぁ、そろそろ盛り上がるだろうが。俺がそう思うのと同時に、後ろのスタッフがパソコンで現在放送されている番組を見せてくる。受け取ってみてみると、なんとまぁリアルタイムで俺の動きが写っている。
司会者とか他の芸能人とかが色々言っているが…
「いや待てそこの…茶髪イケメン。キャップ被ってるのはハゲ隠しじゃねぇよ。髪の毛毟り取るぞチャラ男風情が」
「総司君って禿げてるの!?」
「てめぇの頭を禿げさせて、二度と雑誌やテレビに出れないようにしてやる。よかったな大人気アイドルさん…重い責務から逃げられるぜ」
「イタタタタ!? アイアンクローはだめぇ!」
スタジオに笑いが起きる。もうダメだ、こいつら放って置いて帰ろう。カメラは吉田たちに渡してもらっていつか返してもらおう。だが、もう時間になる…午前二時、丑三つ時だ。
吉田達も近寄ってきてこの女がどうしたのかと聞いてくる前に、俺のアイアンクローを見て驚いたように叫んでくる。
「総司、なにしてんの!? 茜さんにアイアンクローってお前、ファンに殺されるぞ!」
「へぇ、こんなやつにもファンは居るのか」
「総司君酷い! サインあげないし握手もしてあげないんだから!」
「いると思ってたお前に吃驚だよ……いや、サインだけくれ」
「おお? やっぱり総司君といえども有名人のサインは欲しいのかな?」
「ああ。売る」
「ちょっとー!」
茜とやらを離し、蓮子とメリーとトンネルの壁際まで移動する。それに伴って、俺の変わった雰囲気に何かを感じ取ったのか、春賀、吉田、森のいつもの三人が近くに来た。半年とは言え大学生活で付き合いが一番長い三人だ。俺のことも少しばかりわかっているのだろう。
「なぁ、総司。本当にやばいのか?」
「憑かれやすい俺が居るせいかもしれないし、清水とかいうなにもわかっていない微妙なやつが居るせいかもしれない」
「ちょっと、君、なんでそんなことを……「丑三つ時だ」……なに?」
「新月であり、丑三つ時のこの時間帯…あの世とこの世が繋がる。そしてこの人数だ…人間に恨みを持った悪霊が襲い掛かってくるぞ」
「確かにヤバそうだけど、別にそこまで霊が居るわけでも…」
仕方ないので写真を見せてやる。カメラでも撮っているのか、茜や清水が静かになっていく。先程撮ったばかりで加工なんて無理だしな。
「そ、総司君…これって……」
「そういうことだ。良かったな、全国の諸君。今回はやらせなしの本気の心霊現象だ。霊的存在が居るということを、お前らは信じることになるだろう」
そう言うと同時に、小さな揺れから次第に大きな揺れが起きる。トンネル全体を揺らす地震のような現象に、照明がチカチカと何度も明滅して、オォオオォォと人間の声とは思えない重い声が聞こえてくる。
周りで叫び声が上がり、メリーと蓮子……何故か茜に正面から抱きつかれる。そこそこ大きな胸が押し付けられ、甘い香りがする。
数体の霊が瞬時に近づいてきて、干渉しやすかったのか清水に入り込むように取り憑く。きっと、カメラにも写っているだろう。
「あがぁッ! ぎッ…カハッ!!」
いきなり地面で狂ったように暴れだす清水に誰も何も言えなくなり、必死に揺れに堪えるだけ。白目をむき、口から泡を吹き出して気絶した清水は……これからどうなるのだろうか。安定の失踪か、自殺か。ちょっとワクワクするよな。
さて、どうやって全員でトンネルから出るか。さっさと帰ってればよかったな。