⑨が⑨じゃなくなった日   作:monochrome vision

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第08話 再会

 

 

 まずは揺れを止めるために、思いっきり足を地面に叩きつけて霊力を放出する。俺の震脚とも言える踏み込みに地面が陥没し、小さな亀裂がいくつも走る。地面がトンネルとは違った揺れを発生させ、俺と俺に掴まっている奴ら以外の全員が尻もちをついた。

 

 同時に、トンネルの揺れが消える。しかし、その代わりと言っては何だが至る所から大量の霊が姿を現す。他のやつにも見えているようで、気絶していないだけマシだろう。蓮子と茜に関しては既に泣いている。

 

「お前ら、トンネルから出るぞ。さっさと立て、死にたいのか!」

 

 俺がそう叫ぶと同時に男子と数人のスタッフが走り出す。それを追うように怨霊が瞬間移動するみたいに背後に迫るが、霊力を放って吹き飛ばす。あいつらよりもこっちだ。この転がった男どうする。

 

 残った男ではカメラマンとスタッフ二人。未だに撮影を続けているカメラマンのガッツには感服である。サムズアップしてきた。思わず俺も苦笑しながらサムズアップしてしまう。

 

「さて、この男だが……スタッフのどっちか、持っていってくれ」

「えぇ…正直捨てていきたいんだけど、駄目かい?」

「よし、捨てていこう」

「「うん」」

 

 スタッフ二人と俺、そしてカメラマンが同時に頷く。危機的状況では考えられない茶番である。

 流石に冗談であり、スタッフ二人で適当に担いでダッシュで逃げていく。カメラマンは後方ダッシュでこちらを撮影しながら逃げるという難易度MAXの荒業で離れている。思わず吹き出した。

 

 そしてあと3人…

 

「蓮子、走れるな?」

「うん、なんとか……」

「茜は?」

「ご、ごめんね…腰が抜けちゃって……」

 

 だろうな。地面にぺたりと座り込んでいる泣きながら絶望的な表情で霊を見ている。

 メリーはといえば………

 

「マジか……」

 

 ぐすっと何度も嗚咽を漏らしながら、下からとある液体を漏らしている。「心配しないで、私もチビッちゃったから」とか蓮子が言っているが、カメラに写ってなくてよかった。

 

 漏らしてしまったメリーは俺が抱きかかえていくことにする。涙を拭ってあらゆる感情を我慢するようなメリーを抱きかかえようとしゃがんだとき、風が吹き荒れ、帽子が飛ばされる。

 

「蓮子、1体たりとも行かせないから走って車まで行け。戻ってくるな。いいな」

「わ、わかった……絶対に戻ってきて!」

 

 若干フラフラしながらだが、蓮子は走り出す。トンネルも中程なのですぐにつくだろう。

 風が吹き荒れた原因としては、数体の霊が俺の中に入ったからだろう。だが、瞬時に鬼に掌握されて何もできなくなる。

 

 メリーを抱きかかる。太ももを持った手が温かい液体に濡れてしまうが、別に汚いとも思わない。これは仕方のないことだ。

 

「お前はどうする? アイドルさん」

「連れて行ってくれないの!?」

「とは言え、俺はメリーを抱えているし、お前は走れないんだから…」

「お、おんぶは!? 絶対に離さないから…! お願い…ッ!」

 

 脚は抱えられないがそれでもいいと言うなら……しゃがみこんで背中を向けると、すぐに背中に抱きついてくる茜。走れないんだから……俵抱きでもいいならと提案しようとしたんだが、まあいいか。

 

 知らず知らずのうちに強化された俺の身体能力によって、女性とは言え二人分の体重を抱えながら立ち上がり、走り出す。アスリート選手もかくやという速度で走り出すと、あっという間にトンネルの入口だ。

 

 そこには何人も中の様子を伺っており、筆頭にはカメラマンがカメラを構えて立っていた。

 そのカメラマンまで50m…それを三秒ほどで詰め、カメラマンの前で止まって茜を下ろす。

 

「こいつを頼むぞ」

 

 グッとサムズアップしてくるカメラマンに苦笑しながら、メリーを車まで抱え、蓮子がやってくれたのだろう、タオルを敷いた助手席に座らせる。帰るまで気持ち悪いだろうが、我慢してもらわないと。

 

 俺の紅茶で悪いがペットボトルを渡して出ようとしたところで、腕を掴まれて動けなくなる。見てみると、メリーが泣きながら見上げていた。初めて見るその表情にドキッとするが、今はあの怨霊共を消してこないといけない。

 

「行かないで…」

「……大丈夫だ。ここには何もいない。直ぐに帰ってくるさ」

「でも…総司が……」

「心配するなって。俺にとってはあんな雑魚どもは相手にもならない。知らないかもしれないが、俺は強いぞ?」

 

 そう笑って頭をくしゃくしゃと撫でてやる。

 

「蓮子、一緒に居て見てやってくれ。お前も辛いだろ?」

「そうするわ。気をつけてね…」

「ああ。帽子落としてきたし、取ってくるわ」

 

 バタンとドアを閉めて、ペットボトルの水で手を洗ってからトンネルへ戻っていく。カメラマン、俺はいいから茜を撮ってろ。なに? 流石に泣き顔はまずい? いや、司会者から何か言われてないのか? 

 

 このまま着いてきそうだったので、シッシと手を振って下がらせる。

 

「総司君、何しに行くんだい? 危険だからもう帰ろう。この中継も切ることにしたから」

「ああ、いや、帽子取りにこうと思って」

「いや、もう諦めて後日、昼に取りにきなよ…」

 

 そんな面倒くさいことはしたくないので走って先程の場所まで戻ると、やはり黒い存在感を感じられる怨霊ども彷徨いている。俺に近寄ってきているが、もう相手にするのも面倒くさいので勝手に取り憑かせることにした。

 

 黒いキャップを探していると、ふと、壁に一つの黒い線が走っていることに気づいた。近づいてみると、そこから白い魂魄のようなものが溢れ出してきて、生前の形だろうか、人の形を取った。

 

 中が覗けたので見てみるが、そこはまるで地獄のような場所であり、溶岩何かが見えた。なんだろうか…気になるのも確かだが、これ以上増やすわけにもいかないので、まだ自在に使える妖力で無理やり塞ぐことにした。

 

 要領としては邪気を抑えずにその亀裂を侵食して塞ぐ感じだろうか。例えるなら、亀裂の入った鉄壁を溶接して修復する感じ。

 

 あと少しというところで誰かが見えた気がしたが、気のせいだろう。収まると同時に霊力を放出して怨霊を見える範囲で消し飛ばす。濃密な霊力は肉眼で見えるほどに多く、人前では決して出来ないことだ。

 

 俺の周りの霊共は綺麗さっぱり消え去ったが、今回の一件で俺に取り憑いただろう霊の数は倍以上の数になっているだろう。なんということだ…何れ、入り切らなくなって暴発みたいなことになるんだろうか。その前に一気に開放しておきたいな。出来るならだが。

 

 というか、キャップはどこに行ったんだ。帰りがてら探してみるが、もしなければ反対方向に飛んでいたということで諦めよう。しかし、その考えは杞憂だったようだ。

 

 入口付近から少しだけ離れたところに落ちており、少しだけ汚れていた。パンパンと叩きながら歩き、出る頃に被り直す。

 

「総司、無事だったか!?」

「総司君!」

 

 出ると同時に茜が抱きついてくる。カメラの前では止めて欲しい。

 

 吉田たちは無事だったらしく、女子は何があったのかわからないと行った顔だ。つまり、あの揺れと現象はトンネルの中だけであったということで、トンネルの外は揺れすらなかったのだろう。

 

 今回のこれは何が原因でこうなったのかは全くわからないが…せめて、口止めしておかないとマスコミとかが絶対に来るだろう。来たら怨霊に呪われるかもとでも言っておこうか。だが、それでも来るだろう。だからその時は見せしめに何人か犠牲になってもらう。入院は覚悟するんだな。

 

「はぁ、疲れたな…」

「え、総司、憑かれたのか!?」

「いや、そうじゃなくて…強ち間違ってないけど、疲れたんだよ。帰って寝たい」

「そう、だな…俺も疲れた。まさかこんな凄まじい体験をするなんて思わなかったぜ……また休み中に会って遊ぼうぜ」

「おう。じゃあな」

 

 大学生組は誰も彼もが疲れ切っており、取材班のことは忘れたかのように帰っていく。スタッフの一人が何処かに電話しているが、現状報告なのだろうか。再びスタジオに繋ぐようにしたのか、カメラに向かって話しかけている。

 

 どうでもいいが俺も帰りたい。だが、このアイドルさんに離れてもらわないと帰れない。

 

「おい、そろそろ離れてくれないか? 俺も帰りたいんだが」

「嫌…今日は君と一緒に居る……」

「いやいや、お前も帰れ。というか仕事しろ」

「もう無理だよ…」

 

 それでも離れないこいつにどうしようかとカメラマンを見るが、サムズアップ。だから何に対してサムズアップしたんだお前は。スタッフー。

 

 俺の思いが通じたのか、スタッフがやってきて話しかけてきた。

 

「茜ちゃん、離れてあげて。もう撮影も終わりだから帰ろう?」

「嫌だ…総司君と離れると不安になるんだもん…」

「茜ちゃん……」

 

 グリグリと俺の胸に顔を押し付けてくるこいつと俺のことを撮ろうとカメラマンが近寄ってきたので、ここぞとばかりにカメラをずらそうと手を伸ばす。しかし、カメラマンは器用に避けている。やめろ、画面の向こうの奴らが酔うだろうが。

 

 ビシっとカメラを向けてくるので、イラッと来て中指をビシッと立てておく。うぜぇ…

 

「お前もいい加減離れろ。悪いが俺は帰らせてもらうぞ。眠いんだよ」

「でも……」

「ならアドレスを渡しておくから電話でも掛けてこい。今夜は無視するけどな」

「わかったわ…でも!」

 

 最後に声を上げて俺の帽子を取っていく。収めていた髪が風にあたる。

 

「この帽子は貰っていくね。君のことだと思って大事にするわ」

「まぁ、それくらいならいいが…」

「それにしても綺麗な白髪ね…染めたの?」

「地毛だ」

「地毛で黒白になるんだ……隠さないほうが格好良いわよ? 似合ってる」

「……そうかい」

 

 連絡先を渡して、手を振っているカメラマンと茜に見送られて帰ることにした。

 

 帰り道では蓮子もメリーもボーッとしたままで静かであり、帰ってすぐに風呂に入って寝ることにした。朝に近い時間帯に一度目を覚ますと、蓮子もメリーも俺に抱きつくようにして寝ていた。今回だけ、我慢して寝かせておくか。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 あれからやはりマスコミが来たが、数人が入院したと報道されてぱったりと止んだ。どうもそいつら全員トンネルに行ったようであり、呪われてしまったんじゃないかと噂されているようだ。

 

 霊的存在が証明されて、色んなニュースや番組であの映像が使われていた。あの半端者の霊能者ではなく、俺のことや茜のことが多く取り上げられており、一気にある意味有名人になってしまったが、大丈夫だろう。髪の色、もうじき変わるだろうし。

 

 あれ以来、茜からの連絡も毎日来るし、いつの間にか同じアイドルグループからも連絡が来る。俺は渡していないので、茜がやったに違いない。今度会うことが合ったらアイアンクローの刑に処す。

 

 まぁ、そんなことはどうでもいい。

 

 メリーは以前よりも甘えてくるようになり、そして甘やかしてくるようになった。蓮子とも壁は完全に無くなったと見ていい。メリーに対するスキンシップ並に接してくる。

 

 そして俺は現在、再びあの夢の中の世界に入り込むような現象を体感しているところだ。

 

 自室で寝ていたところ、俺が今回立っているのはどうやらあの湖のようだ。未だに氷の柱は消えておらず、あたり一面に冷気が奔っており、涼しいを通り越して寒い。霧も凍っているのかキラキラと細氷が見える。

 

 俺がゴリラもどきと戦った所とは少しばかり離れており、あの岩のところまで歩いていくことにした。

 

「しかし、夢の世界か、それとも異世界か……どっちだろうな」

 

 ポケットに手を突っ込みながら改めて当たりを見渡しながら歩く。この前は戦いに集中しており、周りの景色なんてしっかりと見ることはできなかった。

 

 美しい景色は人の手が加えられておらず、自然のままの美しさを保っている。その中でも氷柱は異彩を放っており…それでも自然に溶け込んだようなオブジェになっている。まるで、最初からそこにあったかのような感じだろう。

 

 やがて、金髪の少女を隠した岩のところまで辿り着いた。

 あのゴリラもどきと戦ったときの地面の崩壊は残ったままであり、俺が叩きつけられた岩の跡も残っている。

 

 その岩の上に座って見る。そこそこの高さから眺めることの出来るこの岩の上で、いつの間にか爺さんの蔵からついてきた(憑いてきた)瓢箪と盃を具現化させると、まるで付喪神のように手足が生えて盃に注ぎ込み、歩いて俺の手の上に乗る。

 

 零さないように慎重に歩いているのは見ていて可愛らしいものだ。

 

 氷柱と霧の湖を眺めながら酒を飲む。この瓢箪の付喪神はいくらでも上等な酒を生み出すことが出来るらしい。きついが飲みやすく、何より美味い。鬼になったからなのかは分からないが、このところ酒が美味いと感じ、いつでも飲みたいと感じるようになった。

 

 そっと盃の付喪神を岩の上に置いてやれば、ちょこちょこと歩いて瓢箪のところまで行く。

 

 俺が憑かれるのは霊的存在だけではない。鬼面と似た感じかは分からないが、付喪神と言われるような存在にも憑かれる。というかついてくる。他にも扇子や番傘、刀なんていうのもある。害があるわけでもないから掌握はされるが、さすがは神がつくもの。こうやって動ける程度には自我が残っている。

 

 もう一度飲もうと手を差し出せば勝手に近寄ってきて俺の手に乗り…………突如、俺の背後から何かがぶつかってきて盃が酒を零しながら岩から転がり落ちていった。「アー」なんて声が聞こえてきそうな手足の広げ方で落ちていく。

 

 そして、俺の後ろからぶつかってきたのは……

 

「お前は……」

「お兄さん…やっと会えた……」

 

 俺を最初に襲ってきた金髪の少女だった。傷はすっかり癒えているようであり、サラサラと綺麗な金髪が頬をくすぐる。

 

 ぎゅっと背後から抱きしめてくる少女の他に、前方から水色の髪を持った170cmはありそうな長身のスタイル抜群の女性と緑の髪を持った少女が近づいてくる。水色の長髪の女性は服があっていないのか、豊満な胸は深い谷間が伺え、歩くたびにぷるんぷるんと揺れている。あらエロい。スカートも短く、ミニと言ってもいいのかわからないほど短く、スラリと長くも肉付きの良い脚を惜しげもなく晒している。

 

 俺を見て嬉しそうに微笑んでくるその女性は見覚えのあるものが背中にあった。四対八枚の氷の羽根は自然に削り取られたかのような美しさがあり、まるであの時の俺の背中に生えていたのと同じものだ。

 

 今までとは違った美しさに少しばかり見惚れている俺の視界の端では、盃がよいしょよいしょと岩をよじ登ってきて、瓢箪に手を貸してもらって登頂に成功していた。ファイトー、イッパーツ!

 勢い余って転ける瓢箪から酒が少しばかり溢れていた。

 

 

 

 

 

 

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