Aqours〜恋愛物語〜   作:ジャガピー

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2年ぶりハグ #松浦果南

澄み渡った青い海。水中を魚たちが泳ぎ、水底の砂利を巻き上げている。

それはまるで 雪のように舞い散り、碧色の水と混ざり合い 幻想的な絵面を見せてくれる。

 

水の中は好きだ。心を無に出来る。嫌なことも全て この時だけ忘れられるから。

いっそのことずっと潜っていたい。いつもそう思う。

 

息が苦しくなってくる。人間は数分しか水の中にしか居られない。私の下で泳ぐ魚たちはみんなずっと潜って居られるのに。子供の時から羨ましいと思っている。

 

 

 

水面に上がり、身体を仰向けにプカプカと浮かぶ。足りなくなった酸素を身体に取り込む。海の中はあんなに綺麗なのに、空は灰色に曇り、冷たい雨が 痛いほど体に叩きつけていた。

 

腕につけた 防水時計の針を見る。時刻は午後2時前を指している。

 

そこで ハッとする。鞠莉がうちに来るんだったと思い出す。

 

近くに留めていた船に上がり込み、数メートル先のダイビングショップ兼私の家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「チャオ 果南」

 

「ごめん 待たせちゃって」

 

金髪を肩あたりまで伸ばした、日本人離れしたルックスの持ち主 小原鞠莉はショップの船乗場で傘をさして手を降っていた。

 

「いいけど、また一人でダイビングしてたの?」

 

「うん。平日だしお客さんあまり来ないしね。」

 

「雨だよ?」

 

苦笑いしながら 傘に入れてくれる。

 

「まぁ これぐらいなら 余裕だからね!」

 

「相変わらず、果南はマーメイドですね〜」

 

そう言いながら 家の中に入って行く。

 

濡れたウエットスーツを脱ぎ 軽めにシャワーを浴びて 私服に着替える。

 

鞠莉はその間にお茶やらお菓子やらを用意してくれていた。

 

「大学楽しい?」

 

「とっても エンジョイよ!いっぱい友達も出来たし!」

 

「花の大学生だねぇ。ダイヤは?大学ではどんな感じ?」

 

「あのまんまよ。友達にも しっかり者のヘッポコピーのダイヤさんで通ってるわ」

 

「いいなぁ 楽しそう。彼氏とか出来ちゃったり?」

 

「そんな訳でないでしょー。良い男が居ればねぇ。」

 

「そんなもんなんだ」

 

「それより果南は?どうなのよ」

 

ギクッとする。痛いところを突かれる。

 

「いえ、特には。そもそも私は大学行かず家業継いだんだから」

 

そう言うと鞠莉はジトっと私を見て言った。

 

「悠斗とは どーなってるの?」

 

やっぱりその話か。

 

「どうもこうも、何も無いです。たまに千歌や曜とかと遊びに来たりするけど。」

 

「はぁ。寄り戻したいとか思わないの?」

 

「それを、言われると。戻したいけど、どうすれば。」

 

私は 1つ下の幼馴染の柏木悠斗と中学生の時から高校一年の時に掛けて付き合っていた。

高校一年の時、鞠莉やダイヤとスクールアイドルのゴタゴタで別れる事になってしまったのだ。

 

「素直に寄り戻したいって言えばいいじゃない」

 

「そう言えれば苦労しないよ。あんなに酷いこと言ったんだから。」

 

私は、鞠莉との一件で、全てが嫌になり、大好きだった 悠斗に酷いことを言って無理矢理別れたのだ。

 

「でも、私達が仲直りして、aqoursに戻るきっかけ作ってくれたのは 彼よ?」

 

「そ、そうだけど」

 

「そんなウジウジしてると、私が取っちゃうよ〜?」

 

「それはダメ!」

 

「あ〜!やっぱりまだ好きなんだぁ」

 

鞠莉はそう言いクスクスと笑う。

 

はめられた。顔が赤くなり体温が上がるのが自分でも分かった。

 

「イッツ ジョーク。でも、顔はカッコ良さのかけらも無いけど、あの子美女とかになぜかモテるからねぇ…。大学行ったら それこそ 彼女とか出来ちゃって取り返しつかないことなるわよ?

 

悠斗が 他の知らない女の子と歩いてる姿を想像すると、胸がチクチクする。

 

aqoursが解散して、この事をちゃんと話し合いたいとずっと思っていたのだが、私の意気地なさでここまで伸びてしまった。

 

「でも、高3って言う大事な年だし、迷惑になるんじゃ無いかな」

 

「そんな事 ユートが考えると思う?」

 

「思わないけど」

 

「でしょ?」

 

「でも、私のこと 嫌いになってる確率の方が高いし。」

 

「リアリー?なんで?」

 

「付き合ってた頃とかは 居心地いい感じで、話しやすかったけど、今は さん付けで敬語だし、私と2人になるのを避けてる感じするし。」

 

「まぁ、仕方ないと言えば 仕方ないけどねぇ。あんなことがあったんだし」

 

「やっぱり、無理だよね。」

 

がっくり肩を落とす。

 

「無理かどうかは置いといて、果南がどうしたいかでしょ?このままじゃ 後悔して泣くことになるよ?」

 

「それも嫌だ」

 

こんな中途半端な優柔不断な女を誰が好きになると言うのか。自分で自分が嫌になる。

 

「まぁ、ユートの事だから、気を遣ってるだけだと思うけど?私達の仲を戻して、aqoursに戻す為に 1番裏で尽力してくれた子だし、嫌ってるとかでは無いと思うよ?」

 

aqoursが9人ででいられた理由は、間違いなく彼のおかげだ。

 

私達 初代aqoursの時も チラシ配りなど色々手伝ってくれたりしてくれたし、私と鞠莉とダイヤの関係を前以上に良く修復してくれたし、他のメンバーの良き理解者でもあった。

 

人見知りな ルビィちゃんや花丸ちゃんですら すっかり心を許している。

 

「千歌っちや 曜にも 取られるかもだよ?あの子ら昔から仲良いし。しかも梨子という新たな宝石まで すぐ近くに居るんだから、おちおちしてらんないわよ?」

 

「でも、」

 

「まぁどーするか決めるのは、果南の判断だし、とやかくは言わないけど、しっかり考えた方がいいよ?」

 

「うん」

 

そう、鞠莉に煮え切らない返事を返した。ここから気を遣ってくれたのか この話は一切せずに今日一日が終わった。

 

けれど、私はずっと胸の奥に引っかかっていた。

 

 

 

 

 

やっぱり、彼とやり直したいのだと。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久々に果南ちゃんの所に遊び行こうよ!」

 

朝から 眠たさが勝ち、学校にどんどん近づいて行くバスに、俺 柏木悠斗が嫌気がさしていた時、唐突に俺の後ろに座る千歌がそんな事を言い出した。

 

「久しぶりっていうか、つい2、3週間前に行ったくない?」

 

曜が苦笑いしながら 千歌にそう言うと、千歌は海の見える方の窓を指差した。

 

「最近暑くなってきたし、ダイビングしたいなっておもってさ!」

 

「私も行きたいな」

 

俺の横に座っていた 桜内梨子も千歌の言うことに珍しく賛同した。

 

「梨子ちゃん 分かってくれる?!私は今泳ぎたくてしょうがないのだよ」

 

「なら 私も 行くであります!」

 

もうすでにお馴染みの 敬礼ポーズを取ると、3人の目線がこっちに向いて来た。

 

「これは悠くんも行くって言う空気だよ!」

 

「そーだよ!悠斗行こうよ!」

 

「待て、曜。お前 毎日プールで泳いでるじゃん。何故そこまではしゃぐ」

 

「海とプールとでは勝手が違うのですよ!部活と遊びとではテンションも違うのです!」

 

「あー。それはなんとなく分かるけど。お前たち本当に泳ぐの好きだよな。」

 

「悠くん泳ぐの嫌いなの?」

 

「嫌いではない。むしろ好きな方だが、君たちが可笑しいくらいに好きすぎるだけ。ついこの前 プールに泳ぎに行ったろ?」

 

「あれから1週間経ってるじゃん!」

 

「もはや魚人だな」

 

「人魚って言ってよ。なんかやだそれ」

 

行こうよ〜と駄々をこねる2人を横で見守る桜内が苦笑いしている。

 

なんだかんだで桜内も行きたいようだ。ここに転校してきてもう彼女は1年以上経つ。すっかり千歌や曜に 内浦色に染められている。

 

「でもなぁ、最近梅雨で雨が降ってるし、危なくない?」

俺がそう言い放つと フフンと後ろの2人がドヤ顔をした。

 

「果南ちゃんというプロがいるではありませんか!」

 

「まぁ確かに あの人なら 無理なら無理って言ってくれるし、安全ね」

 

「果南さんね。分かったよ。」

 

「やったぁ!」

 

そう言うと2人はハイタッチをする。

 

後2つ先に千歌達が通う学校の前まで着くというところまで来た所で 桜内が俺に向いて話しかけてきた。

 

「そういえば、果南ちゃんや千歌ちゃんや曜ちゃんと柏木君って小さい頃からの幼馴染なんだよね?なんで柏木君は 果南ちゃんにさん付けで敬語使うの?いくら年上といえど幼馴染なんだし、なんか距離感じない?千歌ちゃんなんか普通にタメ口ではなしてるのに」

 

痛いところを突かれギクっとする。

 

後ろをチラッと見ると、千歌や曜は 目を見開いて 冷や汗ダラダラかいている。

 

「まぁ、それは、あれだよ!悠くんが恥ずかしがってるだけだよ!」

 

「そ、そうそう!悠斗さんは 恥ずかしがり屋さんだから!」

 

待て、その反応おかしいだろ。明らかに何かあるって感じモロ出してるぞ。

 

はぁと ため息を一つ吐く。

 

自分にとって 思い出したくないのに、忘れられない出来事がよみがえる。

 

「え?なに?聞いちゃいけなかったの?ごめんそうとは知らずに」

 

「いや、別に気にすることないよ」

 

焦る桜内を見て、そう笑って返す。別に悪気があって聞いた訳ではないのだ。逆にこんな空気にしてしまった俺たちが悪い。

 

そんなこんなで 彼女達の学校にバスが着く。

 

すると千歌が立ち上がって、ビシッと俺に指をさしてきた。

 

「ともかく、明日の土曜、果南ちゃんの所に行くのは決定事項だから!忘れずに!」

 

そう言うと 何故か威張った格好で バスをズンズン降りて行く。

 

桜内が 俺を見て 申し訳なさそうに 手を合わせているので、俺は それに手を振り返す。

 

1番最後に降りる曜が また連絡するね!とウインクして降りていった。

 

彼女達が降車すると 俺しか居なくなったバスが動き出した。

 

灰色の雲が空を覆っているのを見て、今日もまた雨が降りそうだと 自分で予想する。

 

傘を持ってきて正解だった。

 

ふと後ろを見ると、見覚えのある水色の傘が窓の所にかかっていた。曜が忘れて行ったんだなと思い それをこっち側に持って来る。一人で傘を2本持っているのって、学校で変に思われるかな。

 

そんな事を考えながら、再び外の海を見ると、明日の事を思い出した。

 

桜内が質問してきた事で思い出してしまったあの記憶。

 

そのせいで 明日 彼女の所に行くのに 今から緊張してしまう。

 

それを紛らわす為に、イヤホンを耳に挿し、千歌が おっさんが聞く曲みたいといつも言ってくる、自分のプレイリストの先頭の曲を再生した。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「昔 果南ちゃんと悠斗君が付き合ってた?!」

 

「そうなんだよ。だからあの質問の後まずい空気なったの」

 

「つまり、私は禁句を言っちゃたって事か」

 

お昼休み。元aqoursのみんなでお昼を食べるのが日課になった今、私達三年生とルビィちゃん達二年生が毎日こうして集まる。

 

いつもなら たわいもない会話をするのだが、今日は 朝から気になっていた事を 聞いてみた。

 

「え?果南と悠斗ってそんな関係だったの?」

 

善子ちゃんが私と同じ反応をする。

 

「オラも知らなかったずら」

 

「千歌ちゃん、やばいよ。これ言っちゃって良かったやつなの?悠斗怒ったりしない?」

 

焦るように聞く曜ちゃんを 千歌ちゃんはなだめる様に答えた。

 

「まぁまぁ、悠君はこんな事で怒ったりしないよ。私達のこと信用してくれてるし」

 

「ほんとかなぁ。果南ちゃんにも怒られないかなぁ」

 

「大丈夫!aqoursに隠し事は無し!」

 

「そんな約束あったっけ?」

 

「今決めたぁ〜!」

 

えへへと笑う千歌ちゃんの横で ルビィちゃんがスッと手を挙げた。

 

「ちなみに私は 知ってたんだけど」

 

「そーなの?」

 

「はい。まぁお姉ちゃんが 果南ちゃんと仲良いから、チラッと聞いたことある程度だけど」

 

「元カノって事は 別れたんでしょ?なんで?」

 

善子ちゃんもが 痛い所を突いた。それを聞いた花丸ちゃんが キッと善子ちゃんを睨んだ

 

「ほんと善子ちゃんはデリカシーないずら。全然善い子じゃないずら」

 

「な、別にいいでしょ!気になっただけなんだから。あと、ヨハネ!」

 

「あの2人が2人きりで喋ってるとなんか 誰にも入れない様な 独特な雰囲気出すよね。それがずっと気になってたんだけど。そう言う事だったんだ」

 

「2人が別れちゃった理由は?」

 

再び善子ちゃんが聞き直すと、曜ちゃんは首を傾げた。

 

「それが、分からないんだ。」

 

「気になったんだけど、根掘り葉掘り聞くのはデリカシー無いし、聞かなかったんだよね」

 

下を向き、お弁当をつつく。何故か 暗い空気になり、少しの間 無言が訪れる。話題を振った手前、何か話さなきゃと思ってると、千歌ちゃんが沈黙を破った。

 

「でも、果南ちゃん 多分 悠君の事 まだ好きなんだと思うけどなぁ」

 

「え?そーなの?なんで?」

 

「鞠莉ちゃん達が aqoursに入って、元3年生達が仲直りしてから、果南ちゃんが 時々 寂しそうな目で悠君見てたし。特に最近 果南ちゃんの所に悠君と行くと ずっと見てる。」

 

「あ、それ私も思ってた」

 

 

曜ちゃんが続けざまに言う。

 

「今の果南ちゃん、すごく苦しそうなんだよね。多分、果南ちゃんにとって まだ悠君は忘れられないんだと思う。」

 

地面を見つめて 話す千歌ちゃんに 花丸ちゃんが パンをかじりながら質問した。

 

「肝心の悠斗君は どー思ってるずら?」

 

「それが、分かんなくて、今日も 梨子ちゃんがその話しした時、怖い顔してたから、もしかしたら、悠君の方は何も思ってないのかも。」

 

「それはそれで、なんか悲しいずら」

 

「果南ちゃん可愛そう。。」

 

花丸ちゃんとルビィちゃんも 下を向いてしまう。

 

「何があって 別れちゃったのかは、本人達しか知らない事だしね。」

 

「そうだ!」

 

急に何かを思いついたらしく、千歌ちゃんが立ち上がって言った。

 

「鞠莉ちゃんやダイヤさんなら知ってるかも!」

 

「その手がありましたか!」

 

「ルビィちゃん!」

 

千歌ちゃんが、ピギッと反応するルビィちゃんにビシッと人差し指を指した。

 

「ダイヤさんからの情報収集という任務を与えよう!お姉ちゃんを誘惑するのだ!」

 

「誘惑って、」

 

「私達は 鞠莉ちゃんに聞こう。今日、勉強教えて貰うって事で 夕方会いに行こう!」

 

「急すぎない?私部活あるけど」

 

「あちゃー。じゃあ曜ちゃん抜きで 私と梨子ちゃんで鞠莉ちゃんの所に、ルビィちゃん達はダイヤさんを任せた」

 

「くくくく。我に与えられし任務を しかと遂行するとしよう」

 

「いや、聞くだけだし、やるのはルビィちゃんだし」

 

そうしてると予鈴が鳴り、全然食べれなかったお弁当の蓋を閉め、来たる夕方に向けて、千歌ちゃんが 携帯電話を操作していた。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

小刻みに揺れる車内で 頬づえを突いて窓の外を見る。

 

朝はあれだけ騒がしかったのに、1人になると急にしんみりとする。

 

いつもは 彼女たちの時間に合わせて帰るのだが、今日は 『鞠莉ちゃんの所に行ってくるから 1人で帰ってていいよー!』とメッセージが来ていたので 1人寂しくバスに揺られているのだ。

 

予報通り 雨が降っている外は 薄暗く、気分まで滅入ってしまう。

 

「ちょっと お兄さん お尋ねしてもええかな?」

 

「なんですか?」

 

バスに一緒に乗り、前の席に座っていた おばあさんが 話しかけてきた。

 

「次の所でおりたいんやけど 目がなかなか見えんくて、停車ボタンと 横のカバンに入っとる 私の財布から220円出してくれると助かるんやけど」

 

言われた通りに 停車ボタンを押し、カバンの中から財布らしきものを取り出し、小銭をおばあさんの手のひらに 置いた。

 

「助かったわ。ありがとうな」

 

「いえ、外は雨なんで 転ばないように気をつけて帰ってくださいね。」

 

「優しいお兄ちゃんで 助かったわ。最近の子は無愛想って聞いてて、話しかけるかどうか迷ってたけど、ええ人もおるもんやなぁ。」

 

「ははは…それは、良かったです。」

 

そう言うと おばあさんは 杖をつきながら バスを降りていった。

 

無愛想か。恐らく、目が見えてて、俺の顔を見ていたら、話しかけるのやめてただろうな。なんせ顔が濃すぎるんだもん。友達には犯罪者だのテロリストだのって弄られるし。

 

バスが止まる。中には俺1人しか座っていないので 恐らく 人が乗ってくるのだろう。

 

後ろのドアが開く音がする。窓の外を見ているので、誰が入って来たのかなんて 分からないし、興味もない。

 

しかし、その人は 俺の近くまで来て 突っ立っているのを気配で感じた。うっすら窓に映る 車内の風景に 見知ったイルカの絵の服を見たとき、ハッとした。

 

横を向くと、ずぶ濡れの 松浦果南がこっちを見ていた。

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

これぞまさに お嬢様。そんなイメージピッタリの 小原鞠莉ちゃんの部屋では、真ん中の大きな机に、マカロンや、エクレアやシュークリームといった 女の子大好きなお菓子達が並べられている。

 

千歌ちゃんはそれを うまいうまいと バクバク食べているし、鞠莉ちゃんはそれを紅茶を飲みながら 嬉しそうに見ている。

 

なんか 飼い主とペットみたいと 勝手に想像してしまった。

 

「それで?果南と悠斗の何が聞きたいデスか?」

 

本題を忘れていたのか ハッとした千歌ちゃんが、お菓子を置き 鞠莉ちゃんに向かいあった。

 

「なんで、2人が別れちゃったかって 理由を知りたくて」

 

「知ってどーするんデス?」

 

「それは…その。果南ちゃんが苦しそうな感じだし、このままじゃ、2人とも ダメになっちゃうような気がして。」

 

「それは同感デース」

 

「何かしてあげられないかな」

 

「梨子はともかく 千歌っちは 悠斗とずっと一緒にいるのよね?好きだったりしたことないの?」

 

鞠莉さん グイグイいくな。千歌ちゃんは ほけーっと聞いているが。

 

「いやぁ…まぁ 昔はあるよ。でも 悠くんが果南ちゃんの事ずっと追いかけてたから 諦めざるを得なかったっていう…あはは」

 

「じゃあ まさに今チャンスじゃないの?」

 

「うーん。なんか違うんだよね。そもそも、もう終わった気持ちの話だし、今は なんかお兄ちゃんって感じかな?」

 

千歌ちゃんがそうなら 曜ちゃんはどうなんだろう。もしかしたらって事もあるし。

 

いや 考えるのはよそう。昼ドラみたいな感じになってくるし。

 

女の子は怖いんだし。例え 曜ちゃんといえど。

 

「まぁ、あなたたちが どうこう言おうと、どーするか決めるかは当の本人達だから、そこは忘れないでね」

 

「うん。」

 

手に持っていた紅茶を 一口飲み、鞠莉ちゃんは口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「果南が もう好きじゃなくなったって そう突き放して 悠斗を 振ったのよ」

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

バスの1番後ろの席に 彼の横に 一人分のスペースを空け 腰を下ろす。

 

ランニング中、急に雨に降られたものなので、仕方なくバスで帰ろうと 乗り込んでみると、悩みの原因である 人物が座っていた。

 

なんだか 気まずかったのだが、挨拶くらいはしておこうと思ったのだが、流れで 彼の横に1人のスペースを空けて中途半端に座ってしまった。

バスが走り出して 数分 お互い何も話さない。いつもは千歌や曜がいるから 会話が成立していたけれど、2人になると、こうも極端に話さなくなる。

 

いや、そもそも 2人きりになるのは 高校卒業してからは初めてかもしれない。何か話題をと考えていると、悠斗の方から話しかけてきた。

 

「なんでそんなにびしょ濡れなんですか?」

 

「いやぁ…ランニング中に雨に降られてさ 予報とか見てなかったし 傘もないし 帰りはバスに乗ろうと思って」

 

「風邪ひきますよ。これ、使って下さい。」

 

そう言ってタオルを渡してくれる彼を見て 胸がチクっとする。

 

やっぱり 敬語。距離を感じる。

 

「あ、あのさ…

 

「そういえば、明日 千歌達が ダイビングしに行くって 言ってましたよ」

 

話を遮られてしまう。

 

「そ、そーなんだ。準備しておくよ。」

 

「忙しいのに ほんとすみません。」

 

「それは別に良くて、その…」

 

私がそう続けようとすると なんですか? と首をかしげる。

 

「明日は 悠斗も来てくれるの?」

 

「はい。千歌が無理にでも連れて行くーって うるさいので、宜しくお願いします。」

 

良かった。明日も悠斗と会える。そうホッとしているとバスが停まった。

 

「じゃあ 俺はここで失礼しますね」

 

「あ、うん。」

 

彼が立ち上がると 私の前に傘を差し出して来た。

 

「まだ雨降ってるんで これ 帰りに使って下さい。俺は 朝 曜が忘れていった傘あるので」

 

「あ、ありがとう」

 

「では、俺はこれで」

 

そう言い 前の出口まで 歩き出した。それを見て 急に寂しく、切なくなる。

 

私は立ち上がり 彼を呼び止めた。

 

「明日 楽しみにしてるから」

 

それを聞いた彼は ニッコリと笑い はい と一言だけ残し バスを降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は 鞠莉の留学の為に、友達の為に 嫌われてでも 鞠莉の将来を優先した。

 

スクールアイドル活動は 私達にとって 輝くような時間だった。それを踏みにじってまでして 鞠莉を突き放したのは 正しかったのか 間違いだったのか それは今でも分からない。

もっと素直に 正直になっていれば良かったと心底思う。

 

私が意固地になったせいで 高校3年間のうちの1年間無駄にしてしまった。

 

しかし それをどうにかしようと もっと良い方法があるのではないかと 必死に考えてくれている 人が居た。

 

いつも 隣に居てくれた人。私を1番隣で見ててくれた人。

 

 

 

 

 

 

蘇るあの日の思い出。

 

 

 

 

 

ザーッという雨の音が より一層 その記憶を鮮明にさせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日。砂浜の堤防の上で 私と悠斗とダイヤは話し合って居た。雨が降って来たのを 三人とも気づかないくらい 話はヒートアップしていた。

冷たく突き放す私の考え方を 悠斗は 珍しく 真っ向から否定した。

 

「そんな考え方 これからまだあるかもしれないチャンスを 壊すことになる。考え直した方が良いって」

 

「だから これが一番考えなの!冷たく突き放さなきゃ 絶対 鞠莉は ここに残るっていうに決まってる!」

 

「果南は 熱くなって 周りが見えなくなってるだけだって!一回落ちこうよ」

 

「悠斗さんの言うとおりですわ。ここでムキになるのは 間違ってます。」

 

悠斗にも そして、ダイヤにも否定されて そして、来る現実に周りが見えてなかった。

 

「だいたい、ダイヤはともかく 悠斗は これに関しては関係ないから いちいち でしゃばって来ないでよね」

 

「え?」

 

「な、果南さん 今のは 聞き捨てなりません!貴方のことを思って 必死に考えてくれてるものを」

 

「だから、うっとおしいんだよ。私たちの気持ちなんか知らないくせに 中学生が一人前に 首突っ込んできて。」

 

「俺は、その、彼氏として 果南の役に立とうと…」

 

「そんな時だけ 彼氏面するのやめて。普段は私に何もしてくれないくせに。」

 

「果南さん 一旦落ち着きましょう。ね?」

 

「悠斗なんて 大嫌い。今すぐここから 居なくなって」

 

「果南さん 貴方何を言って、

 

「それは、別れるってこと?」

 

下を向きながら ボソッと呟いた。

 

「そう。もう好きじゃないから」

 

私がそう言うと、雨の降る中 彼は わかったと一言 言い残し トボトボと歩いて帰っていった。

 

「貴方、本心でそれを言ってるのですか?!今のは いくら果南さんでも 味方できません!」

 

「でも、鞠莉の為、これじゃないと あの子は絶対残るって言う。だから ダイヤ あなたも協力して」

 

そして、彼女の将来の為に 私達は 鞠莉を冷たく突き放す事により、留学に行かせることができた。

 

しかし、その負い目はすぐにやって来た。

 

鞠莉が居なくり、ダイヤともあんな事があった為、2人ぎこちなくなり 距離ができ、 もはや 学校なんて楽しくなく どうでもいい毎日が来るだけ。

 

そしてもう一つ。

 

あれから悠斗から 一向に連絡が来なくなった。そりゃ、そうだ。あんな事を言ったのだから。

 

本心じゃない。熱くなって でまかせを言ってしまった。

 

彼は 真剣に 私たちのことを考えてくれていた。

よく考えれば、あの相談だって 悠斗に手伝って欲しいと打ち明けたのは私だ。

 

事が落ち着いてようやく周りが見えて来たときに気づいた私の愚かさ。

 

大嫌いなんかじゃない。ずっと昔から好きだった。幼稚園から小学生からずっと。

 

私が中学2年の時、悠斗も私の事が好きだと言ってくれた。

 

嬉しさのあまり 思い切り彼に飛び付いたのを覚えてる。

 

胸が張り裂けそうになる。私はあの時、一番大切な何かを忘れていた。

 

彼の行為に甘えていた。しかもそれを 周りが見えない私のせいで 断ち切ってしまった。

 

それから、彼は 私に 敬語を使うようになった。私と会うときは 常に千歌や曜が一緒。完全に彼は私と距離を取っていた。

 

なんとかして、関係を戻したいと何度も思った。

 

甘えたい。触れ合いたい。ハグしたい。キスしたい。

 

そう思っても、もうそれはもう遅かった。

 

だが、それから1年 千歌がスクールアイドル活動を始め、鞠莉も留学から帰って来た。

 

一筋の光がさした瞬間だった。

 

私と鞠莉とダイヤ。この関係はもう二度と戻らないと思っていた。

 

けれど、千歌や曜、aqoursのみんな、そして なにより、悠斗が 私達をaqoursに迎え入れてくれた。 地獄の底から引っ張り出してくれた。

悠斗はもう一度私たちの為に aqoursというグループを支えてくれた。

 

私の為じゃないのかもしれない。それでも嬉しかった。

 

辛かった日を忘れさせてくれるかのようaqoursでの活動は 楽しかった。

 

しかし、同時に こんな私にも もう一度手を差し伸べてくれた彼の事が もっともっと忘れられなくなっていった。

 

 

好きで好きでたまらない。

 

でも、私は、寂しい視線を彼に送ることしかできなかった。

 

満たされているはずの今の心も ポッカリと大きな穴が空いている。

 

走るバスの窓の外を眺め、そんな事を思い出し、 はぁとため息を吐く。

 

やり直したいというのは やっぱり ダメなのかなぁ。

 

そう思いながら 1人取り残されたバスの中で、貸してもらった 悠斗の匂いが若干残ったタオルを顔に押し当て、片方の手でギュッと傘を握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

家に帰って すぐ風呂に入った。

 

なぜか 一人で考え事をしたくなったからだ。まぁ 考えることなんて決まっているが。

 

今日会った果南さんのことを思い出す。そういえば あの人と2人で話すのは あれから数える程しかないと思う。

自分なりにあれから気持ちに整理はつけたつもりだったが、桜内に聞かれて、果南さんと偶然会ってと 色々あり、あの事を思い出してしまった。

 

まぁ、俺がなんと言おうと あの人に嫌われてちゃ どうにもならないし。

 

そんな事を考えながら、風呂から上がると 妹が俺の所にかけ寄ってきた。

 

「お兄ちゃん 電話鳴ってたよ」

 

「おー。サンキュー」

 

「珍しくお風呂長かったね。私 傘忘れてびしょ濡れだから 早くどいたどいた」

 

そう言いながら 妹がシッシと手を振ると 脱衣所に入って行く。

 

妹に言われた通り 携帯を確認してみると 桜内から着信が来ていた。

何事かと掛け直すと 3コールで 彼女は出た。

 

「おー 桜内か?さっき電話もらったけど 何か用があった感じ?」

 

「あ、うん。その 今日のことを謝っておこうと思って。」

 

あの朝のバスでのことか。

 

「気にしてないよ。桜内は律儀だなぁ」

 

「それって褒めてるの?」

 

「もちろんもちろん。あなたの長所ですよ」

 

くそまじめだからな 桜内は。それが良いところでもあるんだが。

 

「その、それで 千歌ちゃんや 鞠莉ちゃんから話を聞いて、」

 

その言葉だけで 何のことか すぐ検討がついた。俺と果南さんとの事だろう。

 

「そうか。隠すつもりは無かったんだけどさ。まぁ そういう事だから って言っても どうすることもできないし」

 

「柏木くんは どーしたいの」

 

桜内がそんな事を聞いてくる。

 

「どーするも何も 嫌われてるんだから 何もできないし。」

 

あの日、俺は果南さんに 大嫌いだと言われ、拒絶された。

 

力になりたかった一心の気持ちが 彼女には疎ましく思ったのだろう。

ただ 自分なりに 整理はつけたし、1年後 果南さんを新生aqoursに加入させる事で 責めてもの罪滅ぼしはしたつもりだ。

 

そう考えていると 桜内の声が 電話から聞こえて来た。

 

「私は 果南ちゃんは 本心でそう言ったんじゃ無いと思う。」

 

「どーしてそう思うんだ。」

 

「女の勘ってやつよ。果南ちゃんとは 話したりするんでしょ?」

 

「仕方なくってことだろ。」

 

「そうじゃない。ただなんとなくだけど、果南ちゃんは 柏木くんと ちゃんと話したがってると思う。」

 

「話すって 一体何を。」

 

「もちろん 2人のことだと思う」

 

「嫌いだと言われて 他に何を言われるってんだ。心が持たん。勘弁してくれ。」

 

「違うそうじゃない。ただ単純に 果南ちゃんは 思っていることを 柏木くんに伝えたいだけだと思う。それから 柏木くんの事も聞きたがってると思う。」

 

「そう言われてもなぁ。あれから まともに話すことなんて 本当に無かったんだし。今更な感じが…いや、そういや今日果南さんと2人で久しぶりに話したな」

 

「そーなの?どんな話?」

 

「千歌が 明日行くからよろしくって」

 

「他は?果南ちゃん 何か柏木くんに言ってなかった?」

 

今日の会話を思い出す。本当に 事後報告みたいな事しかしてないし 俺に何か言ってたことなんてしれてるし。

 

「明日は俺もくるのか?ってのと、楽しみにしてるってぐらいかな」

 

電話の奥で やっぱりと呟く声が聞こえる。

 

「明日 果南ちゃんが 柏木くん何かに話そうとしてたら ちゃんと聞いてあげてね。2人で話せる環境も作るから。」

 

「待て。話ってなんだ。どーしてそんなこと分かる。」

 

「だから 女の勘よ。いい?これは 私 桜内梨子としてからのお願いでもあるんだからね?」

 

「うーん。納得した訳では無いけど とりあえず分かった。でも本当に話ってなんなの?」

 

「明日になれば分かるわ じゃあ切るわね?おやすみ」

 

そう言い残し 電話を切ってしまった。一体何だったんだ?

 

そう思いながら電話を置き、今日のことを思い出す。

 

あのバスの中。最後に呼び止められ 楽しみにしてると言った彼女の顔が 少し 自分の胸をドクンと脈打った。

 

俺はまだ 未練があるのか。

 

いや、考えるのはやめよう。変に期待を持たすと後で辛くなる。もうあんな思いしたくないし、させたくない。

 

どうなろうと もう 受け入れる覚悟はある。

 

ただ さっき電話して 思い出して 感じたことがある。

 

果南さん達がaqoursに戻った時に言ったありがとうの表情。そして、今日 バスで 楽しみにしてると言った あの顔が 少しばかり似ていると。

 

ふと窓の外を見ると 満月ではない 中途半端な 形の月が リビングの窓から見える。

 

その形に 何故か不気味さを覚え カーテンを閉めた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

「やぁ!来たよ果南ちゃん!」

 

土曜日の午後1時。お昼を食べてからの集合となった今日のダイビング。

 

果南さんの家でもある ダイビングショップに行くと もう既に 人数分のウェットスーツが用意されていた。

 

「待ってたよ。今日は晴れてるし絶好のダイビング日和だ」

 

「雨降ってても 果南ちゃんは一緒じゃん」

 

曜が突っ込む所に納得してしまう。この人 天気とかあんま関係ないし。

 

そんな事を考えながら すぐ隣にいる桜内に俺は声を掛けた。

 

「昨日のことなんだけど あれ やっぱ無しって事にならない?」

 

「果南ちゃんが 話したがってるから 話してあげてってやつ?どーして?」

 

「やっぱ色々考えると 今更感あるし、そもそも 向こうが話をしたがってるって根拠も無いだろ?」

 

俺がそう言うと 桜内は 分かりやすいように ため息をついた。

 

「ダメよ。約束したでしょ。もし向こうから何も言ってこなかったらそれでいいけど 話したいって言って来たら ちゃんと向き合う事」

 

「なんでそんな事わかるんだよ」

 

「まぁ、私たち aqoursの情報力よ。ルビィちゃん達に協力してもらって ダイヤさんや鞠莉ちゃんから色々な事聞いたから分かるの。それから私の勘」

 

俺の知らないところで なんか話が勝手に進んでるらしい。後 勘っていうのもよく分からんが。

 

うーんと唸っていると ジトっとした目で睨んでくるので 観念しする事にした。

 

まぁ 向こうから何も言って来なかったら 何も話さなくて良いんだし。その時考えよう。

 

そう勝手に自分の中で結論付ける。

 

 

ウェットスーツに着替え 果南さんの操縦する船に乗り、ダイビングポイントまで移動する。

千歌と曜、それから桜内が 海に入って行くのを見て 俺も入ろうとすると 桜内が指でペケ印を作って俺に言った。

 

「約束忘れてない?ちゃんと2人で話せる環境も作るからって言ったでしょ?あなたは果南ちゃんとここに残る事。いい?」

 

せっかく来たんだし 泳ぎたかったんだけど。と言おうとしたが また冷めた目で見られるので わかったと頷いて船で残る果南さんと ここに残る事にした。

 

「あれ?悠くん入んないの?」

 

そう言う千歌の耳元でコソコソと何かを話す桜内。それを曜も耳を近づけて聞いている。

 

すると それを聞いた千歌と曜は、ほうほうと頷いた後、ごゆっくり〜と早々に三人で潜っていってしまった。

 

必然的に2人になる船の上は 案の定 無言という世界が広がる。海の波が船底に当たる音が鮮明に良く聞こえる。

 

なんか気まずい。どーしたものかと考えていると、ジーッと視線を感じたので 振り返ると 果南さんがこっちを見ていた。目が合うと 何故か頬を赤く染め 彼女は目を逸らし、下を向きながら話しかけて来た。

 

「じゅ、受験勉強はどんな感じ?志望校受かりそう?」

 

「いやぁまぁ まだ6月ですし これからって感じですかね。」

 

「確か ダイヤや鞠莉と同じ大学目指してるんだっけ?」

 

「はい。」

 

会話が途切れる。桜内が言ってた 果南さんが話したい事とはなんなんだろう。今の受験の話じゃ無いだろうし。

 

「あ、あのさ。ダイビング終わった後 夕方に少し話があるんだけど。少しいいかな?」

 

ドキッとする。

 

「話って何ですか?ここじゃダメなんですか?」

 

「お願い。ちゃんと2人で話したい。」

 

桜内が言ってた通りになった。女の勘てのは怖い。

 

妙にドキドキする。果南さんとの事は自分から

無意識に避け続けてたのかもしれない。

 

それでも この事にはちゃんと話に決着をつけなきゃならない。

 

あの事は心に整理をつけたつもりだった。

 

しかし、まだウジウジと未練を残して引きずっているのが現実。

 

腹をくくろう…

 

「わかりました。」

 

そう一言言うと 果南さんは ありがとうと にっこり笑った。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

「じゃあ 悠くん 先帰ってるね!」

 

「おう 気をつけてな」

 

「果南ちゃん また来るねー!」

 

そう言い帰って行く千歌 曜 梨子ちゃんの3人を見送る。私の隣には 話があるから残ってくれと頼んだ 悠斗がいる。

 

今日 私の想いを彼にぶつけるにあたって 色々観察してみた。

 

率直なところ 脈なし。

 

そもそも 私にもう 興味のかけらもない可能性もある。

 

そして何より気になったのが、梨子ちゃんとの関係だ。

 

2人で話している事が多いし、付き合ってるのかも知れない。内気な彼女が あそこまで男の人と話せているんだから。

 

玉砕前提かぁ。なんか 呆気ないなぁ。

 

鞠莉にも 昨日相談していたが、後悔するのだけは やめようと結論に至った。

 

振られるよりも、何もせずに誰かに取られる方がよっぽど辛いと。

 

それでも 振られると分かってて 告白するのはやっぱりきつい。

 

「残ってくれてありがとう」

 

「いえ。それより話って?」

 

彼の目を見る。くっきりと見える二重に焦げ茶色の瞳。

その目を見るだけで 幸せな気分になれるのは昔から変わらない。

 

満たされていたあの頃、告白されたときの事、一緒にデートした時の事。それら全部が私の一瞬の一言でこぼれ落ちた。

ポッカリ空いた穴。鞠莉やaqoursの皆んなでは恐らくこの穴は埋められない。彼しか埋められない。

 

だから 言う。全ての気持ちをぶつけようと。

 

「好きです。もう一度 私と付き合って下さい」

 

私にもう一度 チャンスを下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

 

ずっと嫌われていると思っていた。

 

小さい頃から ずっと彼女の後ろを追いかけていた。走る時も泳ぐ時も。

 

何もかも 彼女の方が 自分より前を行く。彼女の背中しか見た事なかった。

 

俺が告白して 付き合ってくれた時、とても嬉しかったのと同時に 彼女に何も勝てない自分が情けなく、怖かった。

 

何か一つ 彼女よりも優れたものが無ければ 呆れられる。そう勝手に思い込んでた

 

中学3年のとき 鞠莉さんが留学するかもしれないと話してくれた。

スクールアイドル活動をしている彼女達に 何か力になれないかと 果南さんに頼み込み お手伝いとして彼女達とは面識があった。

 

ただ 初めて 弱気な萎んだ果南さんの顔を見たとき 彼氏として 男として 何か出来ないかと思った。

 

それが 果南さんには 迷惑だと気付かず。

 

俺の勝手な考え方が 決心した彼女の心を揺さぶる事も知らず でしゃばって 強がってしまった。

 

「大嫌い」そう言われた時 無力さに情けなくなった。

 

その通りだと。俺は何も出来ない。彼女と対等になりたかったという考えは 現実を突きつけられたことにより 見事に打ち砕かれ そして、大きなものを失った。

 

 

 

 

俺なんかが 彼女に近づく事も おこがましい。

 

あの時 大嫌いだと言われた日、俺はそう結論付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

「今 なんて」

 

彼がそう聞き返して来る。

 

「もう一度 私と付き合って下さい。って言ったんだけど、」

 

私がそう言うと彼は 目を見開いて 口を開けて静止する。

 

そんな彼をジッと見つめ 私は返事を待つ。

 

真剣な眼差しを送ると 彼は少し目を逸らした。何か考えているようだ。

 

何を言われようと 覚悟は出来てる。それくらい酷いことをしたのだから。

 

数秒か数分かは分からない。私がまだかまだかと待っていると彼はようやく決心したのか口を開いた。

 

「俺はあなたの背中しか見た事無かったんです」

 

「ど、どう言う事?」

 

「何をしても あなたが俺の先を行く。それがすごく嫌だった。」

 

さっきまで逸らしていた目は 私の事をジッと見ている。

「あなたに釣り合う人になりたかったんです。でも あの日もそれが出来なかった。こんな情けない俺をずっと果南さんは嫌ってるんだと思ってました。」

 

聞いたことの無い彼の本心。

 

そうか、私が無意識に彼を悩ませていたんだ。

何も考えてなかった自分を 殴ってやりたいと本気で今思う。

 

何も言うことの出来ない私は、もう振られる未来しか見えないと 下を向いた。

 

しかし、少しの沈黙の後 ただ、と彼は続けて言った。

 

「aqoursと輝いている貴方を見て、あぁやっぱり 俺は 松浦果南という1人の人間が好きなんだなと 心の隅で思ってました。」

 

「え?」

 

信じられない言葉が彼の口から出て思わず 聞き返してしまった。

 

好き?私の事が?あんなに酷いことをしたのに?

 

「あんなに酷いこと言ったのに?私の事が?あ、ありえないよ そんなの」

 

「諦めてたって言うのが正しいですかね?ずっと嫌われてると思ってたから。今果南さんが告白してくれて ずっとモヤモヤしてた気持ちがこれだと気付きました。」

 

彼はそう言って笑う。

 

「じゃ、じゃあ。私と、その付き合ってくれるって事?」

「こんな情けない俺で良ければですが 宜しくお願いします。」

 

太ももをつねってみた。痛い。

 

同時に涙が止まらなくなる。

 

「うぇぇぇん。ごめんなさい。あんな酷いこと言ってごめんなさい。ずっと好きだったんだよぉ。胸が痛かったんだよぉ。」

 

 

膝から崩れ落ちてなく私の手を彼は優しく取ってくれた。

 

「釣り合うかどうかなんて 考えないようにします。俺はあなたに好かれていたと言う事実が今はすごくすごく嬉しいです」

 

「釣り合うかとかそんなこと考えなくていい。隣に居てくれるだけでいい。」

 

「はい」

 

「後、敬語禁止」

 

泣きながら 話す私を 手を繋いで、ニッコリ笑いながら返してくれる。

 

その笑った顔が ずっと好きだった。

 

私に向けられたその笑顔に トクンと胸が弾み 我慢できずに 思いっきり抱きついた。

 

彼とハグをしたのは何年ぶりだろう。

 

匂いや感触が さらに私の胸を弾ませ 熱くする。

ウエットスーツで 恥ずかしいけれど もういいや。

彼になら どんな醜い姿も見せれる。

 

あれだけ酷いことをした私を もう一度受け入れてくれたのだから。

 

 

 

 

2年間 出来なかった 彼とのハグは 今まで一番で誰よりも キツくがっしりと もう逃さないと言わんばかりの 強さだった。

 




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