「ルビィね 悠くんのことが好き!だから こんな私ですが 付き合って下さい」
2ヶ月前に 男性恐怖症の私がそう目の前の人言った。
Aqoursのお手伝いさんとして来た彼と出会ったのが3年前。
男の人という事で、初めはすごく怖かったし慣れるのにも時間が掛かった。
彼が来て、数日経ったある日、ふと彼と二人きりになるという日が来た。
なんてこった。ルビィは自我を保てるのか。そんな風に ビクビクしながら 部室の端で彼を覗いていた。
すると彼はそんな私を見て言った。
「大丈夫。俺もすごく女の子苦手だから。」
「え」
「平静を保ってても 内心ビクビクだし、手汗の量とか多分 黒澤さんには負けないと思う」
そこから、お互いの欠点だのここがダメだのと永遠と二人で自分を晒しまくったあと、二人で大笑いした。
こんな人は初めてだ。
素直にそう思った。
中学生の時、ずっと箱入り娘で習い事や作法そういったことをずっとして来た私は父以外の男の人と話す機会があまり無かった。
そのせいか、小学生の時は 端で本を一人でずっと読んでいた為、影の薄い子として捉えられそこまで問題にはならなかったのだが、中学生という思春期、強引に話しかけてきたり、名前のわからない男の子に 私のことを聞いてきたり、遊びに誘われたり。
それに怯えて男嫌いが酷くなり、近くに男の人がいるとビクついたり、話しかけられたりしようものなら奇声を上げながら逃げたり。クラスでも変な奴という目で見られるのがしょっちゅうだった。
一年生の時は、三年に姉がいたので学校生活はなんとかなったのだが。
そんな風に悩む私を見て、両親は 習い事も全て好きにして良いと言われ、習い事も辞めて、それまで姉と同じだったロングヘアを切りバッサリとショートヘアにした。
姉が卒業し高校生になり、どうして学校生活過ごそうかと スクールアイドルの本を読みふけっていた時 今の大親友 国木田 花丸ちゃんと出会った。
中学生活は殆ど彼女と過ごしたといっても過言ではない。
好きな本の話や、スクールアイドルの話もたくさんした。
そんな花丸ちゃんと話す内に彼女には 男の子の幼馴染の親友がいるんだと話してくれたのを覚えている。
会って欲しいと花丸ちゃんに言われていたけれど、断り続けていた。
そして高校1年、スクールアイドルaqoursにルビィと花丸ちゃんとで加入したと同時に花丸ちゃんが 男手が必要と言い連れてきた人物。それが柏木悠斗との初めての出会いだった。
それから、二人で自分達の事を話して以来、彼に対しての恐怖心は日に日に薄れていった。
花丸ちゃんやaqoursのメンバーの他に男の子の友達ができた。それだけでも嬉しかった。
この事を家で両親に話すとほっとしながら、今度家に連れておいでと言っていたのを覚えている。
彼にどんどん慣れていき、男性恐怖症も克服できたと、悠くん以外のファンの男の人と触れ合ってみたものの それは思い込みで、逃げ出してしまったこともあった。
アイドルとして、見られる分には構わないのだが、話したりするとなると 途端に ビクついてしまう。
そんな私は、スクールアイドルの話を彼にするのが好きだった。
ちゃんと私の目を見てお世辞ではない笑顔でウンウンと聞いてくれる。
aqoursの活動があるたびに、また悠くんに会える。そう思うと 胸が高鳴った。
これが恋心だと認識したのはaqoursが解散して、私も花丸ちゃんも 2年に進級してからだった。
単純な話、aqoursという活動が無ければ、彼とは会えない。そもそも女子校なのだから当たり前だった。ふとそれに気づいた時、言い様のない 気分に襲われた。
胸が締め付けられるようなチクチクと刺すような感覚。
単純に寂しいという感情と、それ以外の何かが私の心を突き刺した。
気を紛らわすために本やアイドルの雑誌を読んでも内容もそっちのけ。
授業中も内容なんて入ってこなく、気づけばボーッと彼のことを考えている。
そんな私を見た花丸ちゃんが私を心配してくれた。
今の気持ちを親友に打ち明けると
「そ、それは 恋ずら!何という文学的な表現!はぁぁ いい響きずら〜」
その言葉を聞いた時 頭が真っ白になり、恥ずかしさで顔が真っ赤になったのを覚えている。
それからというもの、aqoursのみんなの助けもあり、2年かけて やっとそれらしいデートなど 出来るようになり、卒業式の日、違う学校の彼を呼び出し、告白した。
「こんな俺でよければ よろしくね」
そう、顔を赤らめながら言った彼に抱きついたのを覚えている。
それから2ヶ月、同じ大学にも進み、両親にも紹介し、所謂、公認カップルとなった。
〜〜〜
そよそよと風が木を揺らす。日陰はまだ涼しいが、太陽はギラギラと日に日に暑さを増していく。
日向に出れば薄っすらと汗ばむほどに。
そんな季節の変わり目を感じると同時に、幼馴染のカップルの事を考える。
順風満帆、まさにその言葉通りであると私、国木田花丸は思っていた。 彼女たちはとても仲が良く、他から見ても羨ましいと思うほど。
男性恐怖症というのも、幼馴染である柏木悠斗の横にいるとそんなもの 元から無かったかのように、親友のルビィちゃんは 彼に心を許して自然体で話せていると思う。
彼といる時のルビィちゃんの顔は、aqoursのみんなや、私ですら見た事が無い顔をしているし、嬉しそうで、悠斗も楽しそうにしている。
そんな相思相愛の彼女たち。そういう考えを 疑うべく事になったのは、大学のとある教室で、親友である ルビィちゃんからの相談だった。
「最近 悠斗の様子がおかしい?」
「うん。なんか隠している気がして。」
「心当たりあるずらか?」
「最近、先に帰っててって言うのが多くて、まぁ、友達と遊んでるのかなとか、思ってたんだど、」
考え込むルビィちゃんが下を向きながら首を傾げた。
「けど?」
「ここ最近、遊びも 用事があるって キャンセルされるし、大学でお昼ご飯も 用があるから一緒に食べれないとか、食べても すぐどこか行っちゃうし、誰かとコソコソ電話してるし、そのくせ 私と電話してくれないし、メッセージの返信も遅いし。」
「な、なんかおかしいずら それ」
「だよね。絶対 何か隠してると思うんだけど。この前 家に行った時 聞いても はぐらかすだけだし、答えてくれないし」
シュンとしぼむ ルビィちゃんを見て、可愛いと思ってしまった事は 黙っておこう。
「明らかに動揺してたんだよねぇ」
「なんかおかしい所はあったずらか?」
「匂い。」
そう言うルビィちゃんの目は 彼女の髪で少し隠れているせいか、目元に 影が出来ている。少し怖い。
「に、匂い?」
「そう、悠斗君の服から、嗅いだことない 香水みたいな匂いがするの」
「そ、そんな事 わかるズラか?匂いなんて、ちょっと難しすぎない?」
「簡単だよ。いつも悠斗君の横に居るんだから、」
ニッコリと笑うルビィちゃん。その笑顔は、今まで見たことないくらい 怖い。
「ほ、他には?もっと 確実なる証拠的なものとか 思い当たる?」
「今まで、おじさんみたいな服装だったのに、最近 お洒落してるところ」
確かにそれはおかしい。小学校の頃から 悠斗とは一緒だが、お洒落なんて彼が気にする訳がない。しかも、香水なんて、絶対に付けたりしない。10年以上一緒にいて、それは断言できる。
「それは、女ね」
声がした方に振り向くと善子ちゃんこと、津島善子がお決まりの厨二ポーズを取りながら立っていた。
「どこから聞いてたの?」
「最近おかしいから」
「全部ずら」
立ち聞きは良くないと叱ってやろうと思ったが、第三者的な意見は 聞いても損ではないかもしれないと思い、飲み込んだ。
「なんでそう思うずら?」
「おかしいでしょ。悠斗がお洒落とか、香水の匂いするとか、あんな暇人が 最近妙に忙しいとか、女絡みしか思いつかないじゃない」
「えー?あの悠斗が? 顔だって地味で 犯罪者みたいな顔してるし、服装とかおっさんみたいだし、ありえないずら」
「そうでも無いわよ。」
私は後に、ここで止めておけばと後悔する。
「あいつ、天然ジゴロよ。究極の優しさというか、包容力というか、話してても 悪い気しないし、ちゃんと目を見て聞いてくれるし、性別関係なく 邪な気持ち無しで 話しかけてくれたりするし、なんか、横に居ると、依存してしまうようなそんな 不思議な雰囲気でてるし、」
「そ、そうずらか?」
「ずら丸は 長く居すぎて気づいてないけど、あれ、結構モテるタイプよ。」
「全くそんなこと思わないずらけど」
「しかも 可愛い顔してる女の子は 顔だけ見て寄ってくるような 男どもに うんざりしてるから、ああいう 邪の気持ち関係無しで接してくるようなタイプに 惹かれるのよ。友達から聞いたりするけど、あの法学部の第2ゼミの子、あの清楚な可愛らしい子いるじゃない?あの子本気で悠斗に惚れてるみたいよ。ルビィが居るからって諦めては居るみたいだけど。」
「知らなかったずら」
「噂レベルなら まだあるわよ」
教えてあげようかと 言う善子ちゃんの顔が引きつった。何かに怯えてるようだ。
何事かと振り返る。
私は見てしまった。鬼を。
ルビィちゃんが ブツブツと独りで何かを呟いていた。ドス黒いオーラみたいな物が見える。目は一点を見つめていて、大きく見開いている。綺麗な瞳が色を失っている。
思い出した。この子 そういえば ダイヤさんの妹だった。あのダイヤさん曰く、怒ると家で1番怖いって言ってたっけ。
なんていうか、殺気を感じる。
「ルビィちゃん、お、落ち着いて。殺気を抑えて」
「そ、そうよ ただの噂とかだし、そもそも あいつが浮気なんかすると思えないし。ほ、ほら!レポートとかで忙しいのかも、最近あいつと同じ法学部の子が 忙しそうにしてたし!」
「そ、そうずら!まだ決めつけるのは早いずら!」
そう言うと ルビィちゃんは はっと我に返った。
「そうだよね!勘違いかもだよね!取り乱しちゃってごめんね。もう大丈夫!」
てへっと笑ったルビィちゃんを見て 善子ちゃんは 愛想笑いをしてる。
無理もない。こんなルビィちゃんを見たことがない。
「ねぇ それより2人に聞きたいことがあるんだけど」
「な、なんずら?」
「自白剤ってどうやったら買えるかな?薬局とか売ってるのかな?」
全然大丈夫じゃなかったずらぁぁぁ
もう一度問い詰めて話を聞いてみる。そう言う結論で、その場は収まった。
〜〜〜
大学の帰り道の街路樹を歩く。緑色の木の葉がゆらゆらと踊っている。
木陰に入っては日向に出る。歩いてる為、その繰り返しをずっとしている。
こんな気持ちのいい初夏の陽気に浸りたいと思った。しかし、そうもいかない。
携帯がポケットの中で震えている。メッセージが来たんだと 自分で判断した。
すぐに見て返信したいところだが、今はそれどころでは無かった。
「そいつは いつ来るんですか?」
「わかんない。でも最近ほぼ毎日見かけるからやっぱり 付きまとわれてるのかなぁ」
「果南さんが 思わせぶりな事するからじゃないですかぁ」
「やんわりと 傷つけないように断っただけなのにぃ。もーう どーしてこーなるの!」
2つ年上の 松浦果南さん。aqoursの元メンバーでもある彼女と 俺は今一緒にいる。
「こんな事して、ルビィちゃんに嫌われるよね、絶対。」
「やっぱり伝えた方がいいですかね?俺も罪悪感に押しつぶされそうです。」
「鞠莉が 隠密に済ませるべきって言うからぁ。まぁ 確かに みんなに迷惑掛けるわけには行かないけどさぁ」
彼女は 今、大学のとある男性に付きまとわれてるらしい。果南さん曰く、告白して来て、やんわりと断った人らしいのだが、断り方が良く無かったらしく、気を持たせてしまっているらしい。
「なんで俺が 一緒にいることが 解決策なんですか?」
「鞠莉が言うには、男と一緒にいることで 相手に現実を見せつける作戦らしいよ」
「俺以外いなかったんですか。荷が重すぎます」
「し、仕方ないでしょ、こういうの 相談できる人って 男じゃ 悠斗しか居ないんだから。鞠莉もそれで 納得しちゃってるし」
「俺、ルビィちゃんにバレないか ビクビクしながら 毎日過ごしてるんですよ、」
「ほんと申し訳ない。終わったら私からもちゃんと言っておくから」
「それより、果南さん、最近思ってたんですけど、香水とか付けてません?」
「鞠莉が持ってる香水なんだけど、最近 私にもって つけてくるの。女のたしなみよーって」
そんなことするから 色気も出てしまって、こういう事になってるんじゃ無いか?という言葉が喉から出そうになった。
そんなこんなをしていると、果南さんの顔が引きつった。
「あの人だ」
「よし、いかにも 仲良しって感じで 話しましょう」
そう言い、グッと距離を縮める
「いやぁ、溢れ出る木漏れ日が眩しいわねえ!空が光って綺麗よー 」
「そ、そうだねー。よーし 2人でスキップでもしましょうかー!あはは」
そう言い、その男の人の横を通り過ぎていく。
「これで どうだ」
「如何にも バカのする会話っぽいけどねぇ」
それを聞き俺はそんなぁと、肩を落とした。
それを見た果南さんは 悪く思ったらしく、
「とりあえずは、今日も 何もして来なかったし、一応効き目はあるみたいだけど。」
「な、なら良いんですけど。」
「次は 明後日の日曜日ね、多分 家からつけて来ると思うんだよね。この前とかそれで やぁばったりみたいな感じで近づいて来たし。」
「鞠莉さん曰く、その日曜が勝負らしいですしね、」
「付き合わせちゃってごめんね、ルビィちゃんに構ってあげてね、」
「はい。」
そう言い、メッセージを、開くと、今から家に来たいと言うので、了解とメッセージを返した。
〜〜〜
「今日、悠斗くんのお母さん残業する日でしょ?だから、恵ちゃんと悠斗君に晩御飯作ろうと思って」
「あー、そういえば そうか。わざわざありがとう」
「ルビィちゃん ありがとうございます!」
そう言って さっき帰って来たばかりの 高校3年の恵は、部活動で使う剣道の竹刀の入った袋を リビングに置いた。
「恵ちゃん疲れてるし、ゆっくりお風呂でも入っててね。悠斗君はこっち来て 手伝って」
はーい と言い、風呂場に向かう恵を後ろで見ながら、なんだかいつもと雰囲気が違うルビィちゃんに 違和感を感じながら 彼女の横に立つ。
手際よく 手を動かしている彼女は、無言で 何も言わない。ただ横に立って 俺は できることをしているだけだ。
いつもなら 何か話してくれるし、俺もすぐ話しかけれるのだが、今日の彼女は 何かがおかしい。
果南さんとの事を隠していることもあって、むず痒くなり、関節をポキポキ鳴らす。
どーしたものかと 考えていると、ルビィちゃんが先に口を開いた。
「そういえば最近、人の癖みたいなのに気づいたんだ」
「癖?」
「うん。この前、大学で、心理学の講義があってね、まぁ それでなんだけど なんとなく 丸ちゃんとかを観察してみたんだ。」
「ほうほう。それで?」
「丸ちゃんや善子ちゃんとかと、トランプしたんだけど、丸ちゃんなんかは ババ来た時なんか、ポーカーフェイス保つんだけど、髪の毛をクルクル触り出すの。善子ちゃんは今まで 散々騒いでたのに 急に黙ったりとか 結構 観察してると面白いんだよ」
知らなかった。花丸って そーなのか。今度確認してみよ
「他には?なんか無いの? もっと面白い癖みたいなの」
「あるよ。」
こういうのって 知ってた方が 結構特だったりするよな。
これを機にもっと聞いてみよ。
「例えば?」
「悠斗君は 何か隠し事や嘘ついてる時、指の関節ポキポキ鳴らすの」
ビクッと 身体を動かす。
目を合わせず今まで下を向いて作業して居た彼女が 満面の笑みを浮かべ、こっちを向いた。
「ねぇ、悠斗君。なに かくしてるの?」
いつもは 可愛らしいはずの笑顔が、何故か今日のは 恐怖を感じる。
目だ。目が笑ってない。前髪で目が隠れて影になってる。なのに口はにっこり。
「えっと なんのこと?」
これは 不味い。明らかに 不審がられてる。果南さんは 他の人に迷惑かけたく無いって、隠密にしてるのに、ここでバレたら 不味い。
「怒らないから ほんとうの事 おしえて」
「る、ルビィさーん。怖いですよー。ほら!最近 レポート忙しくって 終わったら また 遊び行こうよ!ね?」
「今、ここで、全てを 話して」
「お、おこってる。?」
「違うよ、怒ってない。 これから怒るんだよ」
ドス黒いオーラが 背後に出ている。ダイヤさんの言ってたのはこれのことか。
まさに 鬼。
ジリジリと俺との距離を詰めてくる。
目の色を失ったルビィちゃんな顔を見て冷や汗が出る。
「動揺し過ぎじゃないかなぁ?悠斗君」
「な、何か 勘違いしてるんじゃ無いかな?」
「そんなわけ無いでしょ。最近、どこ行ってるの?今日も夕方何してたの?急にお洒落な服とか来て どこ行ってるの?私の知らない香水の匂いがするけど?」
「えっと、そ、それはー」
「日曜日も 遊べないって行ってたよね。何するの?」
「れ、レポートが進んでいないもので、それで、」
「言えないような事してるの?正直に話して」
怖い 本当に怖いよルビィちゃん!
でもバレるわけにはいかないし、どうしよう。
そう思っていると、
「ご飯だー!お腹すいたぁ!」
そんな 救世主の如く現れた我が妹は 水色のパジャマを着て、台所に寄ってきた。
「あれ?なんかお取り込み中だった?」
それを見た ルビィちゃんは はぁぁとため息をついた。
「この話はまた今度ね」
そういうと、ほぼ出来上がった 夕食の支度に取り掛かった。
〜〜〜
思い出す。あの 確実に笑ってない笑顔を。ダイヤさんから聞いてはいたが、怒らせるとここまで怖いとは。
今日は日曜日。果南さんにとって勝負の日。
俺たちは、沼津のとあるショッピングセンターに来ていた。
果南さんが言うには、絶対に現れるとの事。
しかし、俺個人の問題があった。
「ねぇ、顔 やつれてるけど 大丈夫?」
「ルビィちゃんに 一昨日 問い詰められました。なんとか 凌げましたが、物凄く怒ってるみたいで、」
「その時に 本当の事 言ってくれても良かったのに。ルビィちゃんに悪いことしてる罪悪感、私にもあるんだからさ。」
「ここまできたら、隠密にしましょう。俺も首を突っ込んだだけに、ルビィちゃんや 他の人に迷惑かけたく無いですし。」
「それでもなぁ。ルビィちゃんに申し訳ないよ」
「今日の事が終わったら、俺から報告しますから」
「終わったら、ルビィちゃんに ちゃんと構ってあげてね。私からも報告しておくからさ」
「助かります」
とにかく、今日は 大学で、レポート書いてるって事にしてるし、多分 大丈夫だろう。
「それより、最近思ってたんだけど、悠斗もそういう服装、ちゃんと持ってるんだね。おじさんみたいな格好しかしてる所しか 見た事なかったしさ。」
「そーですか?周りの大学生の子とか見てると、まだかなり 地味だと思いますけど。」
今日はタイトな明るめの色のジーパンに、七分丈の白のシャツ、中にボーダーのTシャツと、かなり普通な格好なのだが、確かに 普段の俺では こんなのは着ない。
「自分で選んだの?」
「いえ、妹が、デートとか行く用にって、色々いつも 選んでくれたりするんです。母さんも 俺があまりにも服とかに興味ないから、買って着てくれたりとかで、一応 あるにはあるんですが、」
「なんで普段から 着ないのさ」
「なんか、気取ってるみたいで、性に合わないんですよねぇ。肩が凝るっていうか、」
「そんな事ないと思うけどなぁ。似合ってるよ、顔的に シンプルな白とか黒が似合うよね 悠斗は」
「周りの大学生の友達とか、もっとお洒落というか、こんだけ頑張っても、地味目な感じにしかならんし、諦めてるんですよねぇ」
「普通が1番だよ。地味な感じでいいの。これ、結構みんな思ってる事だからね。女の子とか特に。」
「そんなもんですか?」
「私は、チャラチャラしてるような格好より、そっちの方が、好感持てるよ。人によるだろうけど」
髪の毛を染めたり、確かに大学生らしいことは、しようと思えば出来るのだが、俺はそういう事したいとは微塵にも思わない。何故なら、確実に似合わないから。
なんせ 顔が濃いせいか、犯罪者みたいな顔してるし。
「少なくとも、ルビィちゃんは チャラチャラしたのは苦手だと思うよ」
「ルビィちゃん、なんでこんな 地味な俺の事を、、、。ますます分からない。」
「まぁ、確かに、顔は格好よくないし、お洒落でも無いしね」
笑いながら果南さんは クスッと笑いながら そう言った。
ガーンと肩を落とすと それを見た果南さんは 微笑みながら俺に言った。
「顔とかで 選んだんじゃ無いと思うよ。少なくとも、悠斗の良さは そこじゃ無い。もっと、こう、中身というか、言葉で表現できないような すごく魅力的な部分があるんだよ。これは、私やaqoursのみんなも 保証できるよ。」
だから 心配しないでと 笑う果南さんを見て、なんだか恥ずかしくなった。
この人は こういう恥ずかしい事を平気で言う。サバサバした性格だからか、それが嘘偽りなく、本心で言ってくれていると分かるから、余計に恥ずかしい。
「ルビィちゃんも 多分 そういう所を見てくれてると思うよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「まぁ そもそも、あの子は 悠斗以外の男の人とはまだ 話すの苦手みたいだしね。」
そう言って果南さんは、よしっと呟いた。
「今日も来るであろう 一度振ったのに 付きまとって来る人 撃退大作戦 決行だ!」
「お、おー」
こうして、俺の日曜日は始まった。
〜〜〜
「あれ?今日 ルビィちゃん 悠斗と遊ぶんじゃなかったの?」
花丸ちゃんにそう言われたのは、今日の朝、電話でのことだ。
レポートで忙しく 大学に行くからと 日曜日の遊びは キャンセルでお願いって 言われ、暇になったものだから、花丸ちゃんに電話をかけたのだ。
「キャンセルされたの。大学に行ってるらしいよ。ほんとか どうかは 定かじゃ無いけど」
「どこか 遊びに行く?ほら、ストレス溜まってるだろうし…」
確かに、ここ最近 彼の挙動不審な行動の原因をずっと考えていたせいで、疲れてる。
一回忘れて 遊びに行くのもいいかもしれない。
「そうだね!買い物行こうよ!沼津に」
「わかったズラ じゃあ 一時間後くらいに迎えに行くずら」
そう言い 電話が切れた。
2時間後、沼津のショッピングセンターを私たちは歩いていた。
「買い物行きたいって言ってたけど 買いたいものでもあるの?」
「アイドルのライブDVDが出たから それが欲しくって!」
「ほんと好きずらね アイドル」
キラキラと輝くように 歌って踊るアイドルは やっぱり、形容しがたい 素晴らしいものなのだ!こればかりは 辞められない
「今日は とことん 遊びまくって 嫌なこと忘れるって決めてるんだ」
それを聞いた 花丸ちゃんは 苦笑いしながら、大変だねと言った。
「で、何隠してるか、わかったずら?」
「それが どれだけ問い詰めても はぐらかす ばっかりで、こうなったら 今日 自白剤でも買って、、、」
「ストップ!一回落ち着いて」
ハッとする、しまった また考えてしまった。
「今日は忘れるって決めたんだった。よーしレッツショッピングだー!」
それから数時間、私たちは 買い物をしたり、クレープを食べたり、充実した時間を過ごした。嫌なことは忘れて。
しかし、私たちは見てしまった。
そして、思い出すこととなる。
〜〜〜
「さっきから 下向いて付いてきてる あのひとだよね?」
「そう。間違いない」
朝から 2人で 居て、ようやく元凶の人物が現れた。
ここ一時間、ずっとああして付いてきている。
仲良さげに 話したり、距離を詰めたりしているのだが、一向に立ち去る気配は無い。
どーしたものかと 考えていると、突然その人が 近づいてきて、話しかけてきた。
「やぁ 果南さん 奇遇だね」
なんだ この 如何にも キザッて感じの男は。
「君、前からそうだけど、付きまとうのはもうやめてもらってもいいかな。不愉快」
果南さん、えげつない
「そんなこと言って 照れ隠し?」
「そんなわけないでしょ」
「それより、最近 果南さんの横にいる君は 誰かな?弟さん?」
弟かよ!今まで、あれだけ頑張って、弟にしか思われてなかったのかよ!
「違うし、あんたに、諦めて貰うために 協力して貰ってるだけ」
え?それ言っちゃうの?果南さん
「照れ隠しはよしてよー そんな男より、僕はイケてる思うけどなあ」
おいおい 急におれに矛先向いたぞ
「ふざけないで、あんたなんかより、悠斗の方がよっぽど かっこいいし」
「いいから、そんな奴より 僕と ショッピングしない?」
そう言い、グイグイ果南さんの腕を引っ張る。
「ちょっとちょっと、流石にそれは待った」
「なに?邪魔するつもり?」
「邪魔というより、もう果南さんとは 関わるなって 言ってるのがわからない?」
「だから ただの照れ隠しだって」
うがぁぁ なんだこいつ 話通じないタイプかー!
「遠回しに言ってくれてるのに、気づけよ」
「そもそも 君 彼氏とかじゃないんでしょ?だったら どうこう言われる筋合いは無いなぁ」
「果南さんの 友達としてだよ。お前より 俺は果南さんの事分かってあげれてるよ」
「なんだと」
「果南さんの 性格とか好きなものとか 言ってみろ」
「そ、それは、可憐で 美しくて、」
「それだけだろ?」
「君は何がわかるって言うんだ」
「いっぱいあるぞ。まずは、サバサバしてて、ちゃんと本音言ってくれる 相談を1番しやすい。気が強そうに見えて 繊細で乙女。友達の為なら 傷ついても その子ために何かしてあげれるような優しい人だし、本音言いすぎて、毒舌。まだあるけど 言おうか?」
「ぐ、それなら 僕だって」
「いい加減にして」
そう言った果南さんは おれと腕を組んだ。
「私はあなたなんか 大嫌い。本音を言う毒舌な女だから なんでも言ってやる。気持ち悪いし、全然かっこよくなんかない。あんたなんかと付き合うなら 1億倍 悠斗と付き合う方がマシ」
「そ、そんな」
「もう この話は終わり、一切これから 関わってこないで」
チクショーっと 泣きながら去っていく。果南さん、えげつない。
「ふぅ。スッキリした。」
「なんとかなって 良かったですね」
「悠斗もありがとうね。さっきのカッコよかったよ」
この人は 本当にずるい。平気でそう言う事を言うから。
「いえ、役に立ててよかったです」
「さ、帰ろっか」
そうですね、と言おうとしたとき、後ろで 何か落とす音が聞こえた。振り返る。
そこで絶句する。
そこには、ルビィちゃんが 花丸と立っていた。
「悠斗君。ここで 一体なにしてるの」
「ち、違うんだ、これには訳があって、」
「悠斗君はレポート書いてるはずだよね?」
「いや、だから聞いて、」
「悠斗君のレポートは コソコソ私に隠れて、果南ちゃんとお出かけする事なの?」
「ちょ、話を」
「それが、悠斗君のレポートなの?」
目の色が スゥっと消えていく。これ、マジで怒ってるやつだ。
「一回落ち着こう!ね?」
花丸ちゃんがルビィちゃんの肩を掴む
「なんで嘘ついたの?嘘つくって事は、後ろめたい事があるからだよね?」
「ルビィちゃん、私からも話があって」
果南さんが そう言うが、聞いていない、
ルビィちゃんはおれの腕をがっしり掴んだ。
「怒らないから本当のこと言って。本当はなにしてたの でも最近の悠斗君は嘘つきだから、私に嘘ついて隠れてこっそり 何かしてるんだよね嘘つきだから。嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき」
掴まれた腕がミシミシいってる。
「落ち着いて、どーすれば話を聞いてくれる?」
「監禁して、薬 漬けにするとか?拷問するとか、水責めとか?骨の一本や二本ならいけるかな?不本意だけど、花丸ちゃんや善子ちゃんにも手伝ってもらわなくちゃ。痛みと恐怖で本当のこと聞き出すしかないよね。こんな事したくないけど 仕方ないよね?嘘つきだから」
だぁぁぁ!大変なことになったぁぁ!ルビィちゃんが壊れたぁぁぁ!
そんなこと本当にされたら死ぬ!死んじまう!
「あ、あのね、ルビィちゃん これには色々訳があって、大学で付きまとってくる 男の人を 撃退するって事で 協力して貰ってたの。私が頼んだ事だから 悠斗を責めないで」
「そう!そーなんだよ ルビィちゃんには 後で報告しようとしてたんだ!」
「なんで、その時言ってくれなかったの?」
「えっとそれは、」
「問い詰めた時とか、話す機会 あったでしょ」
「その、迷惑かけたく無かったから、、余計な心配かけるかもだし、」
「私って、悠斗君にとって、その程度なんだ。」
「え?ルビィちゃん、何言って、」
「私じゃ、相談するに値しないって事でしょ?私じゃ、力不足って事でしょ?私じゃ、悠斗君の本心を話す程の人じゃないって事でしょ?」
「ルビィちゃん、一回落ち着くずら、ね?」
花丸がそう言うと、ルビィちゃんは キッと 俺をにらんで言った。
「今日はもういい。花丸ちゃん ごめんね。私帰るよ」
そう言い、走って行ってしまった。
追いかけなきゃ、と走り出そうとしたが、花丸に腕を掴まれた。
「今は、多分 何言っても無駄ずら」
ちゃんと相談しておけばよかった。意固地になってカッコつけてた事に 後悔する。
脳裏に焼き付いたのは、怒ったルビィちゃんの顔では無く、睨んだときの 薄っすらと涙を浮かべた顔だった。
〜〜〜
道端で咲いている花を見る。アスファルトの上で力強く生きている彼らは、一体どこに そんな力があるのだろうと不思議に思う。
踏んでしまえば、折れてしまいそうな そんな姿をしているのに。
彼らは どこから来たんだろう。親や兄弟はいるのかな?
なんてらしくない事を考えたところで はっとして 正気に戻る。
いかんいかん。目的を忘れてはいけない。
そう思って、立派にそびえ立つ家の 門の前でインターホンを鳴らす。
これぞまさに日本の家の代名詞というような、そんな和の豪邸を見ると、改めて 黒澤という家は 名家なんだと実感させられる。
そんな事を考えていると インターホン越しに はい と返事がした。
「あ 柏木です。ルビィさんはいますか?」
「あら、悠斗さんですの?ルビィは今居ませんけど?」
インターホン越しにわかる この上品な話し方。これだけで誰かすぐ分かった。
ルビィちゃんの姉である、黒澤ダイヤさんだ。
「そうですか、ありがとうございます ダイヤさん」
あれから、1週間。ルビィちゃんは電話もメールも音沙汰ない。
大学で彼女を探しても、明らかに避けているようで、顔すら見れていない。
ガッくり肩を落として 帰ろうと思い、振り返ると、家の扉が開いき、ダイヤさんが 待ちなさいと 言いながら 出てくる。
「あなたに 話がありますから、上がっていってください」
「話、ですか?」
ええ、と言って、ダイヤさんはニッコリ微笑んだ。
とある和室の一室。そこには アイドルのポスターなどが貼られている。
俺はそこに 座って 出されたお茶を啜っていた。
目の前のダイヤさんもお茶を飲む。ただそれだけの事なのに、絵になるように美しい。
美という文字が これほど似合う人を見たことが無い。
「貴方と ルビィの間で 何があったかという事は、果南さんから聞いて 知っています。」
「そ、そうですか。」
やっぱり、ルビィちゃん、相当怒っているんだろうなぁ。
「先週の日曜日。遊びに行くと行った後、帰ってきてから様子がおかしかったものですから。その後、果南さんが、迷惑をかけたと 謝罪と共に、その出来事の事を 報告してきましたので。」
妹思いの彼女からすると、俺にはやはり、怒りという感情を抱いているのだろう。
「その、俺の不甲斐ないせいで こうなってしまって、すみません。」
怒られる覚悟で頭を下げる。
しかしダイヤさんは 怒る事はなく、微笑みながら口を開いた。
「別に、怒ってなどいませんわ。」
「でも、」
「ルビィは、あの子自身で 貴方と恋人になるという事を望んだ。あの子も もう大人です。こういう辛い事もちゃんと考えた上で 貴方とお付き合いしているんですから、わたくしがどうこう言うのは間違いですから。」
それでも、人様の妹を、自分の勝手な行動で傷つけてしまった。
居た堪れなくなり、下を向く。
少し沈黙が続いた後、ダイヤさんが口を開けて 話し始めた。
「ルビィは、昔から 好きなものには とても素直な子です。自分が好きなものの話をしているルビィは、本当に可愛らしくて、綺麗でした。」
ダイヤさんは 少し下を向きながら そう話し始めた。
「しかし、家の都合というか、そのせいで、友達を作る事も出来ないほど、控えめな性格になってしまいました。男性が怖いと言い出した 中学生の時のルビィを見たとき、あの子はこれから、どうやって生きていくのだろうと、心配でした。」
聞いたことのない、ルビィちゃんの昔の話。
今の問題と何が関係があるかはわからないが、ダイヤさんは 俺を真っ直ぐ目を見て話していたので、聞き入ってしまった。
「私の硬い性格から、あの子の好きなものを縛ってしまい、好きなものを好きと言えず、ただひたすらに、男性や、嫌いなものに対して、苦手や怖いと思う感情が強くなっていたのだと思います。
しかし、aqoursの皆さんと出会い、彼女は 一歩前進した。そして、なにより、貴方と出会い、今まで嫌いだと意識してきたものを、本当の意味で好きだと感じるようになった。
男性という 苦手意識を 貴方と出会った事で、彼女なりにその意識を変えたんでしょう。それから 克服しようと 相談に来た事もありましたし。」
そう言い 笑いながら ダイヤさんは上を見上げた。
「貴方と出会った事で、自分を変えれたと ルビィは そう言っていました。嬉しそうに、顔を赤らめながら。あの子のあんな顔は見た事がありません。アイドルの話をしている時とは 比べ物にならないくらいに、幸せそうな顔をしていたのですよ。」
そう言い、俺に微笑みかける。
なんだか、恥ずかしくなってきた俺は 顔を晒す。
「あの子は、恐らく、貴方に"依存"しているんだと思います。」
想像もしなかった言葉が出て、思わず 目を見開く。
「悠斗さんが、今のルビィにとって、"好きなもの"から "無くてはならない必要不可欠なもの"に変わっているんだと思います。」
「あの、一体どういう、」
「貴方にとっては 何気ない彼女への行動が、あの子にとっては 自分の全てなんだと思います。家でも両親の前でも 悠斗さんの話が大半を占めていますし。」
だから、と言い、俺の目を見つめて 頭を下げて ダイヤさんは言った。
「これからも、あの子を ルビィを 大切にしてあげてください。よろしくお願いします。」
開けた窓から 入ってくる風に、すこし暖かさを感じた。
それが 近づいている夏のせいなのかは分からない。
俺はそんな事を考えながら、ダイヤさんに ただ一言 言った。
「もちろんです。」
今この時、吹き付ける風と共に、自分が本当に何をするべきなのかを 理解した。
〜〜〜
西の空が オレンジ色に染まっている。海の向こうで 夕日が 沈もうとしている。
今日も天気は晴れていて、日に日に気温が上がっている。
もうそろそろ半袖でも大丈夫な気温だな、と、大学からの帰り道に ふと一人で考えながら歩いていると、道端の花に目が行ってしまった。
アスファルトに咲く花は、こんなにか細いのに、どうしてここまでして、咲こうとするのだろう。
私の方が、この花よりも、弱いのかもしれない。
そんな風に花と私を比べてみる。
この1週間、自分なりに 考えるために、悠斗君と少し距離を取った。
別に、怒っているという訳ではない。ただ、私は、悠斗君に少し 甘え過ぎていたのかもしれないと思ったからである。
あの出来事で、色々な事を考えた。
でも もし、悠斗君が本当に私の所から 居なくなってしまったら。
そう考えるだけで、胸がチクチクして、頭が真っ白になり、何も考えられなくなる。
あの事も、後に、果南さんから 電話で内容を聞いたし、すぐさま 誤解は解けたよと 悠斗君の元に戻る事もできた。
私は、悠斗君と出会えて、人生が変わった。
彼を見ているだけで、彼と話しているだけで、心が満たされる。
男性という 苦手なものを 少しずつ克服できたのも、そのおかげで、少しの間だが、アイドルとしてステージに立てたのも 彼のおかげなのだ。
大袈裟かもしれない。でも私にとって 柏木悠斗という存在は もう 無くてはならないものになっている。
しかし、それではダメだと気付かされた。
私はこれからも、彼と一緒に人生を歩んでいきたい。彼に私の全てを捧げたいし、彼の全てを私は欲しいと思っている。
けど、そうなるには 彼に相応しい人にならなくてはいけない。
いつまでも、悠斗君以外の男の人に怯えていては、彼に迷惑をかけてしまう。
それは、自分でも分かっている。
だからこそ、少し距離を置いて考えた。
1週間、自分から 彼を避けても、私にとっての彼という存在の大きさがどんどん増すなるばかり。
答えは出ない。どーすれば良いのかも分からない。
はぁぁ。と大きなため息を吐く。あれから、一人で考える為、駅からバスを使わず、歩いているが、考えはまとまらない。
どーすれば良いのだろうと考えながら 家の門が見えてくる。するとそこに、誰かが立っていた。
その人はこちらに近づいてくる。
歩き方、雰囲気ですぐに誰か分かった。
顔を合わせづらい。逃げようと 逆方向に走ろうとした時、その人は私に話しかけて来た。
「ちょっと待って ルビィちゃん」
「なに。悠斗君」
「話があるんだ、」
話。ただ日常的なことだけど、今の私には彼からの話がすごく怖い。
捨てられるんじゃないか。別れられるんじゃないか。
「黙ってた事はごめん。」
「怒ってない」
「俺さ、ルビィちゃんに 余計な心配かけたくなくて、こんな事したんだけど、この前、ダイヤさんと話したんだ」
「お姉ちゃんと?」
いつの間にそんな事が。そんなそぶり 一度も見せてなかったのに。
「どうすればいいか。この1週間ずっと考えてた。」
私と同じだ。
「俺は いつも笑顔で隣にいてくれる、愛情を注いでくれるルビィちゃんに甘えてた事に気がついてなかった。ダイヤさんと話して気づいた。」
そう言うと、悠斗君は少し離れた私との距離を縮めて来た。
「こんな 自分勝手俺に 不器用な俺に 愛想つかしてしまったかもしれないけど、もう一回チャンスをください」
考えてくれていた。
私だけじゃ無かった。
ちゃんと彼は私達の2人のことを考えてくれていた。
そう思うと、このシビアな状況だけれどニヤついてしまった。
「私も、ずっと考えてた。どーしたら悠斗君に相応しい人になれるかって、」
でも答えは得た。
「不器用な2人なりに これから考えていこうよ」
今すぐ完成形になる必要は無い。まだまだ焦らなくても、ちゃんと辿り着ける日が来るはず。
「うん」
私は彼の正面から抱きついてみた
この感触、この匂い。感じ慣れた物だけれど、やっぱり私は彼が好きだ。たった1週間という短い間だったけれど、何故か懐かしさを感じてしまった。
私ってやっぱり 依存してる?
まぁいい。彼は私のものだから。どう思うかなんて自由だ。
不意にキスをしたくなった。
「ねぇ チューしていい?」
こう言うと、いつも顔を真っ赤にするくせに、今日に限って 笑顔で頷いてくれた。
そんな彼の成長に少しムッとしてしまう。
いつもより長めにしてやろう
それは、普段の触れるだけのものとは違い、しっかりと彼の味を感じるキスをする。
予想とは違ったのだろう。ビックリして手をバタバタしている。
離してやるもんか。
1週間悩ませた罰だ。コソコソ隠れてしてた罰だ。
こんな事、前なら恥ずかしくて出来なかったけれど、今は恥ずかしさよりも幸せが断然上回っている。
この時間が永遠に続けばいいのにな。
そんな事を考えていると、ふと ここが外だったということに気づいた。しかも自分の家の前。
人に見られるんじゃないかと考えたが、まぁいい。
私達なら大丈夫。
不器用な2人なりに、これから起こる辛い事も きっと乗り越えて行ける。
何故か そんな自信に満ち溢れている。
今なら何にでも負ける気がしない。
だって、か細い花でも、アスファルトの上のような場所で、たくましく咲いてるのだから。
だからきっと 大丈夫だと。
ほとんど沈みかけた太陽と 暗くなった空が混ざって幻想的な景色をしている。さっきまでの夕焼けとは全く違う景色に変化している。
フワッとした風が吹く。海の湿気を含み、温かくなった風が 近くの木と、私達の身体を刺激する。
夏の季節への変わり目と、私達が踏み出した小さな一歩を、まるで祝福してくれているかのようだった。
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