俺がジャンゴに憑依した時の話   作:月夜鴉

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01 目覚め

「おい、おい!」

 

 肩を揺さぶられ目を覚ます。目の前には黒髪をオールバックにした眼鏡をかけた異様に眼光の鋭いスーツの男。

 見覚えがあるような……いやいやまさか、な。

 

 そして男の後ろに暗い空が見える。

 昨日はベッドで寝た。空なんて見えるわけがない。そもそも生まれてこの方、目が覚めたら空だったことなんてない。てか後頭部がいてぇ。

 

「寝惚けてんのか。さっさと起きねェかジャンゴ」

 

 ジャ ・ン・ゴ!?

 うそぉーっ!

 奥さん聞きました? ジャンゴですって。ええ聞きましたわ。ジャンゴって言ったらワンピースのジャンゴよね? そのジャンゴよきっと。だって視界が暗いもの。きっとサングラスのせいよ。

 

 混乱しすぎか。思考がおかしい。

 男の威圧にびびりながら体を起こす。

 

「あ、あぁ」

 

 声ちげーし。

 起き上がり後頭部をさすりつつ、辺りを見渡す。ぽつりぽつりと見える家と木々と柵、そして土がむき出しになっている道。

 

 今の状況から考えるに、ここってシロップ村?

 え、マジで? 夢? けど、夢にしちゃ後頭部が痛いんだよなぁ。

 ちらと男を見るとさらに眼光が鋭くなってる。俺は慌てて立ち上がった。

 目線が高いな。手足の長さ、体感がまるで違う。

 

 うん。俺の身体じゃない。違和感しかない。マジどういうことだ。

 

「ぼさっとするな。来い」

 

「悪い」

 

 状況を把握出来ないまま男、クロ……今はクラハドールか。彼が歩き始めたため慌ててついていく。

 クラハドールが先導していることをいいことに自分の顔を触ってみる。顎、サングラス、帽子。俺の記憶にあるジャンゴっぽい。呼ばれもしたしきっとジャンゴだ。なぜに?

 

 とりあえず体は思うように動く。それどころか身体能力が高いようで元の身体より動きやすい。

 動体視力も良いような気がする。

 

 よし、今のうちに状況を整理しよう。確かちびっ子に催眠術を見せたんだったか。そして自分にもかかって寝こけたと。そのまま放置されていたところを起こされたって感じか。

 後頭部が痛かったのはちょうど頭の位置に石があったからだった。眠って倒れた時にぶつけたらしい。

 

 うーん、これって漫画とか小説で言う憑依ってやつ?

 ジャンゴの記憶があったら良かったけどさっぱりだ。原作もアニメも知ってはいるものの、知ってるからといって出来るわけじゃない。

 

 

 

 

 

 

 そのまま互いに無言で歩いていると海岸へ着いた。

 クロが止まり振り返る。思うところがあるようで鋭い視線に射貫かれる。やっぱ元海賊。すげー怖い。

 

「ジャンゴ。この村で目立つ行動は慎めと言ったはずだ。村の真ん中で寝てやがって」

 

「あれくらい大丈夫だって。目立ってねーよ」

 

 声が震えないよう気を付けながら答える。目立ってはいたが、認めるわけにはいかない。

 

「それで、計画の準備はできてるんだろな」

 

「あぁ、お嬢様暗殺計画だろ? バッチリだ」

 

 確かルフィとウソップが崖の上にいるんだよな。必要そうな情報は出来るだけ出さないと。

 原作から外れて殺されたくないし、殺しもしたくない。というか出来ない。殴り合いのケンカすらしたことないんだぞ……。

 俺は覚えてる限りで原作の台詞をなぞった。

 

 彼がキャプテンクロだということ、処刑されたのは身代わりであること、三年前から計画は始まっているということ。

 あとは……。

 

「催眠術でお嬢様に遺書を書かせてから、不幸にも海賊に襲われたように装って殺しゃいいんだろ?」

 

「あぁ、そこが一番大切なんだ。遺書がありゃ財産の相続は成立する。おれはこの三年でそんな遺書が残っていてもおかしくない状況を作り上げたんだ」

 

 ジャンゴならどんな反応をする?

 

「そのために三年間も執事をしたのか。気の長いことで」

 

 ただ奪うことに意味はなく、政府に追われないためには必要であり、そんな自分は平和主義だとクロは言った。

 皮肉もいいところだ。

 

「自分の望みのため金持ちの一家を皆殺しにするたぁとんだ平和主義者がいたもんだな」

 

 お嬢様の両親が死んだのは偶然で、クロは何もしていないと言う。よしよし、いい流れじゃない? こういうこと話してただろ確か。

 ふと、原作を読んだ時の疑問が浮かぶ。気が付くとその疑問は口をついて出ていた。

 

「てことはお嬢様一人なのか。だったら、あんたとそのお嬢様がくっついちまったら良かったんじゃねェの? そうすりゃわざわざ遺書なんて書かせなくても遺産を相続出来るだろ?」

 

 ずっと気になっていた。なぜそうしないのかと。

 そっちの方がよっぽど平和的で失敗するリスクも低い。ルフィたちに介入されることもなかったはずなんだから。

 

「てめェはバカかッ! 不自然だろうがッ!」

 

 これまでで一番の大声。驚いて思わずクロを見つめてしまった。ビビッて変な声を出さなくて良かった。

 クロの方はというと、不愉快そうに眼鏡を手のひらで押し上げていた。

 

「もう三年も待ったんだ。これ以上待ってられるか」

 

 声量を落とし、俺を睨んでいるのは確かに海賊と言われても納得のできる凄みのある男。

 それもただの海賊じゃない。力もあって緻密な計画を立てる知能犯。実力は折り紙付きだ。

 そんな男が動揺した? 

 

「そうかぁ? 遺書を書かせて殺すんだな」

 

 だが追及なんて怖くて出来なかった。もしお嬢様とくっつくことになったら村を襲う必要も無くなり、分け前も不要になるわけだし、立場的にもしつこく聞くのは変だ。

 

「お嬢様を殺すな!」

 

 そんな声が聞こえてきたので見上げると、崖の上にはルフィとウソップがいた。

 原作を再現しよう。懐を探り紐の付いたチャクラムで催眠術を……待てよ、チャクラムはあったが俺にかけられるのか? 

 くっ、やるしかない!

 

「ワン・ツー・ジャンゴでお前らは眠くなる。ワン……ツー……ジャンゴ!」

 

 チャクラムを揺らし、祈りながら唱える。そして俺の意識は途切れた。

 

 

 再びクロに起こされた時にはルフィは崖の下まで落ちていた。

 

「もう一人はどうする?」

 

 聞くと放っておいても問題ないとのこと。

 殺せって言われなかったことにほっとする。原作を知っていても不安になるものはなる。

 

「明日の朝だジャンゴ。夜明けとともに村を襲え」

 

 クロはウソップがいることも気にせず計画について話す。あくまでも事故であるかのように見せるため民家も襲うということ。

 そしてクロがウソップを見上げて、君が知ったところで無意味だと煽る。

 すげー自信。こういうところがかっこいいよな。

 

 ウソップが声を上げながら走っていく。

 

「あのガキ一人が騒いだところであんたの信用は崩れねぇってか?」

 

「あぁ、あいつの言葉を信じる奴なんていねぇのさ。わかったんなら最終確認でもしておけ」

 

「分かってるって。任せとけよ」

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