俺がジャンゴに憑依した時の話   作:月夜鴉

10 / 11
長らくお待たせ致しました。
更新が滞っているにも関わらず覗いて下さってる方ありがとうございます。モチベーションにつながります。

さて、前回に引き続き今回に関しても書き直しや加筆等が多くなるかもしれません。
その場合には変更点などをこの前書きに記載致します。


10 確かに息づくもの

 音が聞こえて振り返った時に見えたのは広がっていく皹だった。

 

 その皹が数々の岩となって落ちてくる風景を見て自身の置かれた状況を理解した時、カヤは自らの死を悟った。

 

 決死の覚悟はあった。それでもこんな終わりは納得の出来るものではない。

 

 大切なことをまだ伝えられていない。

 

 走馬灯を見るかのように遅くなった景色の中、カヤは彼と目があった。

 

 まだ出来ることがあるならと彼女は微笑み、口を開いた。

 

 

 

 

 衝撃は思っている以上に優しいものだった。

 掬い上げられたかと思うと強い風が体に吹き付けられる。反射的にというべきか、飛ばされないようにカヤは目の前にあったものに抱きついた。

 

 風圧がなくなって恐る恐る目を開けた時に見えたのは、見慣れた執事服だった。

 

 見上げるとそこに彼がいた。眉をひそめてとても不機嫌そうな顔だった。

 

「ありがとうクラハドール」

 

 ピクンと彼の眉が跳ね、向けられた視線がカヤと交差する。

 

「それで、話ってのは?」

 

 これまでとは違った聞いたことのない低い声音と荒い口調。

 

 クラハドールは無言でカヤを地面に立たせた。それはいつか足を挫いて運んでもらった時のようにとても丁寧だった。あの時はベッドだったなと思い出し嬉しくなった。

 

「私、クラハドールのことが大好きよ。あなたがいてくれたから頑張れたの」

 

 頬笑みカヤが静かに告げたのは紛れもない本心だった。

 

「まだ理解してねェのか。この三年間は演技だと言ったはずだ」

 

 理解出来ないと言わんばかりに彼は眉を顰めていた。彼はそう言うが、全てが演技だったとはカヤには思えなかった。

 あの人から聞いたクロとクラハドールには共通点もあった。

 結構短気なことも、頑固な所も、几帳面さも仕種だって彼と一緒。

 

 だからこそカヤは彼が赤の他人だとは思えなかった。

 

「そうだったとしても私が感じた気持ちは本物だもの。一緒に居てくれて嬉しかったし楽しかった。お父さんとお母さんが亡くなった時、私は居なくならないって言ってくれて凄く救われた。とても感謝しているの」

 

 事実、もしもクラハドールが居なかったら、カヤは食事も取れず衰弱して死んでいたかもしれない。それほどクラハドールはカヤの支えになっていた。

 

「今だってこうやって私の話を聞いてくれてる。さっきだって助けてくれた」

 

 カヤはクラハドールを見つめた。

 

「私はこれからもあなたと一緒にいたい」

 

 だから居なくならないで欲しいとカヤは続ける。

 

「このおれにあれを続けろってのか? うんざりなんだよっ!!」

 

 怒鳴り声にカヤは怯みそうになる。

 それでもクラハドールから目をそらしてはいけないとカヤは思った。

 

「これからは演技なんてしなくていい!  好きなことも嫌いなことも教えて。私はあなたのことが知りたいの!」

 

 無理に演技なんてしなくていい。本当の彼のことが知りたいとカヤは言う。

 

「クラハドール、一緒に帰りましょう」

 

 カヤは手を差し出した。

 

「……自分が何を言ってるかわかってんのか?」

 

 眉間に皺を寄せたまま、理解出来ないと言いたそうにしている。

 

「わかってるつもりよ」

 

「殺されたいのか」

 

 殺されたいとは思わない。けれど、

 

「あなたがそうしたいなら、あなたの手で殺して」

 

 それでも一緒にいたい。

 

 それがカヤの正直な気持ちだった。

 

 手を差し出したまま無言の時が流れる。

 

 

 

「……全く、カヤのワガママにも困ったもんだ」

 

 クラハドールの口調が変わる。それは聞き覚えのある困ったような呆れたような優しげな声音だった。けれども言い方は少し荒い。

 

「えぇ、クラハドールのこと、諦めないわ」

 

「後悔するぜ」

 

「今諦めたらそれこそ後悔する。だからお願い」

 

 

 

「チッ……わかった。計画は延長だ」

 

 クラハドールがカヤさんの手を取る。

 

 この時、俺とジャンゴさんの内心は同じだったのだろう。自然とガッツポーズをしていた。

 

「クラハドール、ありがとう!」

 

 カヤさんが嬉しそうにクラハドールに抱き付く。

 

「淑女が人前ではしたねェ。離れろ」

 

「気にしないわ。もう少しだけ……」

 

 そう言うカヤさんの声は震えていた。

 クラハドールは小さくため息をついてカヤさんの頭を撫でる。

 

 

 

 

 

「で、てめェらはどうするんだ?」

 

 ジャンゴさんがルフィさんたちに振り返って尋ねる。

 

「あっちはいい感じにまとまったみたいだぜ」

 

「あいつがカヤを、誰も傷付けないっていうならもういい」

 

 と、ウソップさん。

 

「あなた、こうなるってわかってたの?」

 

 と、ナミさん。

 

「いや。だがまぁ、クロにお嬢様を殺せないってのはわかってた。だからわざわざおれ達を使ったんだ。直接手にかけなくて済むように。そうでもなけりゃ、ここまでのリスクを負う必要がない」

 

 それは何となく思った。けどだったら……。

 

「あの子のことが大切なら、計画自体止めれば良かったじゃない」

 

 そう、それだよ。

 

「それはあいつのプライドが許さなかったんだろ。あのキャプテン・クロが情に絆されて計画を覆すなんてな」

 

 うーん、俺には分からないなぁ。でも、プライドの高いクロなら嫌なのかも。それにカヤに海賊としての姿を見られる前にいっそのことっていうのもあったかもしれない。

 

「それで、あなたはどうするの? お仲間は遥か遠くよ」

 

 確かに。原作じゃ一人で船出して何やかんやで海軍に入ったってのは知ってるけど、どうするんだろ。

 

「合流できるまでお前らについていくのも面白そうだな」

 

 マジすか!? え、何それ楽しそう。じゃない。それはいいとして俺はどうなるんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、後始末というかメリーさんやちびっ子三人組と合流して事の顛末を伝えた。メリーは非常に不安そうだったが、カヤさんが頑張って説得していた。メリーさんはウソップさんにも申し訳なさそうに謝った。

 

 クロネコ海賊団との死闘はなかったこととしようということになった。

 ウソップさんがいつものように海賊が来たという嘘を吐いたということになるのだろう。

 

 屋敷へ戻って各人の手当が終わる頃にはすっかり日暮れだった。

 船もお礼にルフィさんたちに譲るということで、原作からもそう外れていないと思いたい。

 

 それからルフィさんたちを屋敷へ招き食事会というかパーティーが行われた。ケーキが出てきた時には驚いたが、何と勤めて三年のクラハドールを祝う会を予定していたのだという。

 

「クラハドール、これからもよろしくね。これ、プレゼント」

 

 パーティーでカヤがクラハドールに差し出したのは、ラッピングされた手のひらサイズの長方形のものだった。

 それを開封すると出てきたのは眼鏡ケースだった。中には新しい眼鏡が入っている。

 

「ありがたく頂きます」

 

 そう言ってクラハドールはかけていた眼鏡を外してその眼鏡にかけかえるとカヤさんに微笑んだ。

 

「よく似合ってるわ」

 

 カヤさんもそれを見て微笑んだ。

 

 

 

「ところで、お前が乗った計画の発案者は何処にいるんだ?」

 

 ウソップさんのもっともな疑問。これ、どう答えるのが正解なんだろ。俺自身よく分かってないからな。

 

「おれも直接会ったわけじゃねェからどこにいるかは分からない。だが、事の顛末は見ていたはずだ。満足してるだろうぜ」

 

 大満足です。まぁ、憑かれてるなんて答えられないわな。

 

「そいつにもお礼を言いたかったんだけどな」

 

 

 

 パーティーは深夜まで続いた。

 

「お嬢様、そろそろお休みください」

 

「でも……」

 

 メリーさんに退室を勧められているが、カヤさんは眠そうにしながらもまだ残りたそうだった。

 

「お休みください。お体に障ります」

 

 見かねたクラハドールもカヤに休むようにそう言うと、カヤはクラハドールを見た。

 

「その口調でなくてもいいのよ? あの時の口調もかっこ良かったわ」

 

 何を言うのかと思えばカヤさんはそんなことを言って微笑んだ。

 

「話を誤魔化さないで頂きたい。それに、この口調はもはや習慣のようなものです」

 

 

 三年経っても手の平で眼鏡を上げる癖は抜けてなかったもんな。口調だって習慣になってもおかしくないか。

 

「誤魔化したつもりはないわ。嫌でないならいいの」

 

「ではもうお休みください」

 

「……まだ寝たくない」

 

 あ、クラハドールが少し険しい表情になった。

 

「なぜですか」

 

「……朝になったらクラハドールが居なくなってそうで怖いの」

 

 デレ来た! いや、カヤさんは不安だろうからそんなこと言っちゃ駄目なんだけども。甘くて素敵だ。

 対してクラハドールは?

 

「メリー。私はカヤお嬢様を部屋までお連れします」

 

 と言ってカヤさんを横抱きにした。

 メリーさんは心配そうにしながらも返事をして二人を見送った。

 

「ひ、一人で歩けるわ」

 

「今日は随分無茶をされましたから、少しでも休んでもらいませんと」

 

 恥ずかしそうなカヤさんは遠慮するも、クラハドールも引かない。

 

 

 

「まるで別人ね」

 

「あぁ、あんな奴は初めて見た。難しそうな顔は相変わらずだがな」

 

 言いながらジャンゴさんは小さく笑った。

 

 その後少ししてクラハドールは戻ってきた。

 

 

 

 

 0時を回り、メリーさんは眠気に負けて部屋に戻った。

 ルフィさんたちも途中で眠りこけ、起きているのはジャンゴさんとクラハドールだけだった。

 

 

 

「これこそあんたのいう平穏じゃねェか?」

 

「おれの計画とはまるで違う」

 

「執事業も似合ってるぜ。お嬢様もあんたと一緒に居たいって言ったんだろ? 色男」

 

「お人好し共が。嫌になるぜ」

 

 ひねくれてんな。まぁ素直なクロっていうのも想像つかないけど。

 

「そういうあんただって随分丸くなった」

 

 否定する気はないのか、クラハドールは何も言わずに酒を煽った。

 

「計画だって、半分は達成だな」

 

 ニヤリとジャンゴさんが笑う。

 

「今のあんたはキャプテン・クロには見えねェからな」

 

 

 

 

 そして夜は更け、俺の視界もやがて真っ暗になった。




ということで終結です。
次回はエピローグとなります。
エピローグの投稿はそう遅くならないと思います。早ければ一週間以内に投稿できそうです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。