異世界にレオパルドンを持ち込むのは反則ですか? 作:塩田多弾砲
イマジン王国。
その国境近くに、国境防衛都市『ファーグ』は存在する。
人口はさほど多くはない。というのも、ここは都市ではあるが、どちらかというと国境警備のために建立された、いわば『基地』。侵略者迎撃の『防衛拠点』としての役割が大きい都市である。それゆえ、非戦闘員の一般市民はほとんどおらず、住民の多くは駐留している兵士。
周囲を城砦で囲み、国境側には戦闘用の城壁が、国土側には王族専用の城砦が存在。城砦は小高い丘の上に建っている事も手伝い、市内を一望できた。
市内のところどころには、武器を手にした巨像、『機械兵』が歩哨に立ち、警戒に当たっている。
そして、ファーグ市城砦の応接室にて……ミリアリア、ツクミ、クリスを前に、真は紅茶のカップを手にしていた。
その頬に、手形を付けて。
「……あれは『事故』、その事は認めよう。何より、貴殿は姫様とツクミの命の恩人であるからな」
憮然……もしくは恥ずかしさと幾分の怒りとがこもった表情で、クリスはカップをあおった。
「しかし! 念のために言っておく。今後、故意にあのような行動を起こした場合……貴殿の安全は保障しかねる。よろしいか?」
「……はぁ」
迫るクリスに、あいまいに返答する真。
きっかけは、些細な事。
「詳しい話は、応接室でお茶でも飲みながら……」と、そう言われたが。真はベッドから立ち上がれなかった。
彼は『杖を貸してください』と申し出て、ツクミが持ってきたが……それがばきっと折れ、ツクミを床に押し倒す形に。
「え……きゃあっ!」
更に悪い事に、押し倒した際に『むにゅっ』と、真の手に柔らかな感触が。それがツクミの胸だと知るのに、真は若干の時間を要した。
「な……き、貴様っ!」
クリスは激昂、
「あらあら」
ミリアもまた、赤面しつつその様子を見守る。
かくして数分後。
真はツクミにはたかれ、クリスに睨まれつつ……応接室に移り、紅茶とお菓子を目前にして座っていた。
『ううっ、まさか自分がハーレムものみたいなラッキースケベを起こすとは』
などと思いつつ、
『……でもあの感触は、悪くなかったかなー』
などと手をわきわきしてる真だったが、
「聞いているのか! マコト殿!」
「ひゃ、ひゃいっ!」
クリスの怒号に、思わず返答してしまう。
「あ……あの……わたし、気にしてません、から……」と、ツクミは真っ赤
「まあまあ……」と、その場を和ませるはミリアの声。
ミリア・イマジン王女。
こうやって改めて彼女を見てみると、王族らしい育ちの良さと、凛とした雰囲気を持つ女性だ……と、真は実感していた。
見た目の年齢は真と同じくらい……16歳くらいだろうか。王族という肩書からか、どこか『貫禄』と『威厳』はあるが、『威圧感』は無かった。
彼女を見て、真が連想したのは『耳がとがってないエルフの美少女』。
そして、『生徒会の会長をしていそうな、文武両道な女子の先輩』。
流れるような長い金髪と、エメラルド色の瞳と、色白の肌。整った顔立ちが、また美しさを際立たせていた。着ている服も王族らしさを保ちつつ、華美ではない質素なデザイン。が、それがかえって彼女の魅力を際立たせているかのように見える。
ミリアの隣に座っているクリス・ブレイドは、彼女とは異なり『威厳』と同時に『威圧感』があった。彼女はミリアリアより背は高く、年齢も上……大体、20歳前後くらいだろうか。眼差しは鋭いが、それと同時に優しげな感もあった。瞳の色はルビーのような赤色、やや長い髪も赤毛で、情熱が燃えているかのよう。
そんな彼女が着ている鎧は、全身を板金で包むフルプレートではなく、主に革を用いた軽装なもの。腰に下げるは短めの剣。
そして、ツクミ・イーミア。
先刻に押し倒してしまった際、触ってしまった胸は、他の二人よりもやや大きめ。
彼女には、他の二人のような『威厳』は無い。が、他の二人には無い『安心感』があった。ミリアリアの日常雑務を受け持っているためだろうか、ツクミには日常における、安堵できる『空気』『雰囲気』。そういったものが醸し出されていたのだ。
着ているメイド服は、フリルなど無く、実務一辺倒の地味なもの。しかし……真の眼には、それがとても『かわいい』ものだと思えていた。メイド喫茶には何度か行った事はあるが、ここまでかわいい子はなかなかお目にかかれた事は無い。
そして、彼女の瞳もまた、エメラルド色。その色は、ミリアリアと同じくらい……いや、それ以上に澄み切ったそれ。
「あの……その……」
そんなツクミは、やや恥ずかしそうに……、
「き、気になさらず。あの、それで、その……」
もじもじしつつ、視線をあっちこっちに。
「あの、そういえば……その脚は、どうなさったのですか?」
と、問いかけてきた。
「ああ。昔ちょっと事故に巻き込まれたんですよ。杖が無いと歩けませんが、杖さえあれば普通に生活できるので、あまりお気になさらず」
と、簡単に説明した真は、
「それで……もしよろしければ、先刻の質問の続きを伺いたいのですが」
自身からも質問した。
「…………ええと、ちょっと整理させてください」
そして、更に数刻後。
「まず、最初の質問の答え……この世界『クリエイタニア』ですが……確かに俺達の世界から見たら『異世界』で間違いないようですが」
「はい」と、ミリア。
「……で、この世界には『闇霧』とやらがあって、そいつがモンスターと化して、人々を襲っていると」
「ああ、その通りだ」と、今度はクリス。
「『闇霧』は、クリエイタニアにおける『穢れ』『邪念』……そういった、負のエネルギーが集まり、実体化したものらしい。情けない話だが……王国内で有名な学者、賢者、術師などが長年研究しているが、未だにあれの全容が何かは、我々もほとんど解明できていない」
「その『闇霧』が、具体的に『何か』は解らない……では、『なぜ』『どこに』現れるかは……」
「すまんが、それもわかっていない。分かっている事は、何やら『嫌な気配』が強まると、場所や昼夜問わず、どこにでもあの霧は湧いて出てくる、という事くらいだ」
真が重ねて質問した事にも、クリスはかぶりをふった。
「……ですが、ある程度の『傾向』ならば、判明しています」と、ミリアが補足する。
「先刻にクリスが言ったように、『嫌な気配』が感じられる場所。『闇霧』はそういう場所に比較的多く発生している、という記録は残されています」
「その、『嫌な気配』が感じられる場所、とは?」
「具体的に例を言うなら……廃墟や、荒れた墓場、洞窟に地下迷宮、死者の屍が放置された戦場跡など、『陰鬱な雰囲気』を醸し出している場所ですね。ただ、これも確たる基準はないので、一概には言えませんが」
ですが……と、ミリアは言葉を続ける。
「『闇霧』自体は、発生しても通常はごくわずかで、すぐに霧散してしまいます。恐ろしいのは、それが大量に発生し続けると、やがて『闇霧』自体が凝縮して……『霧獣』に変化する事、なのです」
「……マーベラーで一掃したという、あの怪物たちの事ですか?」
真が問うと、ミリアは頷いた。
「はい。『闇霧』が大量に発生すると、次第にそれが凝縮し、実体となります。それが『霧獣』です。『霧獣』は、姿形も様々で、似たものはあっても、完全に同じ個体は存在しません。大抵は動物、または伝説上のモンスターの姿を取ります。さらに厄介な事に……周囲の『闇霧』の力が強いと、巨大化もするのです」
そして……と、息を継ぎ、
「その行動理念はただ一つ……『人間に害をなす』。それが、『霧獣』の全てです」
静かに、冷徹に、ミリアはそう言い放った。
彼女の後を、ツクミが続ける。
「『闇霧』と同様、『霧獣』に関しても、あまり多くは判明していません。しかし、程度の差はあるものの、『人を害して殺す』事だけは、例外なく行っています。……この世界には、いわゆる人間以外の種族……エルフやドワーフといった種族はいましたが……先の『霧獣』との大規模な戦いで、だいぶ数を減らしてしまいました。なので、私達は常日頃、『霧獣』と戦う術を研究し、実践しています」
(……ずいぶんと、ハードな異世界に来ちまったなあ)
ミリアたちからの話を聞いて、真はため息をついた。しかも、人間以外の種族も半減させたとは、一体過去にどんな戦いがあったのか。
「『霧獣』との戦いは熾烈なものだが……我々もただ、座して死を待つわけではない。『霧獣』とて万能無敵というわけでもない。戦い、倒す事は十分可能だ。とはいえ……戦う敵としては厄介である事はかわらないが」
と、クリスは付け加えた。
一つ目の質問の『答え』を得た、と判断した真は、
「………それで、『二つ目』の質問ですが……」
と、まだ答えを貰っていない質問について切り出した。
次の質問は……。
『なぜか、自分は「マーベラー」を呼び出したら出てきて、落下した自分を受け止めてくれた。あれはいったい何なのか?』
『クリエイテッド』などと言っていたが、そもそも何なのか?
「それは……」
ミリアがそれに答えようとした、その時。
「姫様! 大変です!」
息せききった兵士が部屋にやって来た事で、中断された。
「どうしました?」
「申し上げます。市街地に『霧獣』が多数出現しました! 現在、市街地防衛部隊が出動し、対処しています!」
兵士のその言葉に、その場の『空気』が、一変した。
『日常』の空気が、『戦場』のそれに、変化したのだ。
「姫様、私も行きます!」
クリスが立ち上がり、ミリアへと言葉をかける。
「分かりました。クリス、気を付けて」
そのまま、彼女は部屋から出ていく。そして、ミリアは真へ向きなおった。
「マコト様、この部屋は安全です。しばらくここで、ツクミと一緒に待っていてください。ツクミ、お願いしますね」
「はい、姫様も気を付けて!」
そのまま、ミリアも兵士を伴い退室してしまった。
「…………」
ツクミと、部屋に残された真は……、
いささかの居心地の悪さを、実感していた。
自慢じゃないが、自分は戦いには向いていない。なにせ戦いとは無縁の日常を送っていた、ただの高校生。加えて……杖が無ければ歩くどころか、立ち上がる事すら困難。こんな自分など、足手まとい以外の何物でもない。
あのクリスという女性騎士は、中々に強そうな感じではあった。けど、姫様は……、
「あの、マコト様?」
ツクミの問いかけが、真の思考を中断させた。
「大丈夫ですよ、マコト様。クリスさんはすごく強いんです。大抵の霧獣ならば、簡単に退治出来ちゃいますよ」
そう言って微笑みを浮かべるツクミ。しかし……それでもツクミのその笑みから、真は感じ取ってしまっていた。彼女の有する、『不安』を。
なんとなく、その不安を解消しようと……、
「あー、そういえば。紅茶とお菓子、まだ残ってるね。……おかわり、もらえますか?」
やや冷めた紅茶をぐっと飲み干した真は、空になったカップをツクミへと差し出した。
「あ、はい。……焼き菓子もどうぞ。これは私が焼いたんですよ?」
「では、遠慮なく」
新たな紅茶が注がれたカップを受け取った真は、紅茶を一口飲み、ツクミが勧めたキッシュ……もしくは、それに似た焼き菓子を手に取り、一口噛んだ。
「うん、これは中々……ん?」
美味が口中いっぱいに広がり、おかわりの紅茶を飲もうとしたその時、真は……。
突如襲ってきた強烈な『振動』に、カップを取り落した。
「なっ……なんだっ!?」
再び『振動』。それは言うなれば……外から巨大な何かが、この建物自体に体当たりをしているかのよう。
「……ツクミ殿? お客人も、こちらでしたか」
扉が開き、数人の兵士が部屋に入ってきた。彼らが手にしているのは、マスケットに似た銃。
「皆さん……ここも、危険ですか?」
「ええ。『霧獣』も一体は倒しましたが、どうやら別の『霧獣』が巨大化し、攻撃しているらしいです。ここも危険だから、すぐに避難するようにと姫様が」
「わかりました。皆さん、お願いします! マコト様……」
ツクミからの問いを待たず、真は杖を用いて立ち上がった。
「それで、どちらに行けば?」
真は今、『左手』に杖を持ち、左足に荷重をかけつつ、速足で廊下を進んでいた。
「大丈夫ですか? わたしか兵士がお力添えを……」と、ツクミが申し出るが、
「大丈夫ですよ。杖で歩くのには慣れてます!」と、真は歩きつつそれに答える。
実際、彼の歩行速度は速くはないが、決して『遅い』とも言えなかった。先刻の杖は古ぼけたものだったが、今借りているこれは金属製で、簡単に折れない程度の強度はあった。
真の『右足』は過去の事故の後遺症で、体重をかけたら膝に激痛が走り、力も入らない。そのために、片足で自身を支えきれず、歩くこともできない。
ただ立っているだけなら何とかなるが、起立や着席、そして自力での歩行には、杖が必要。
が、杖を用いない人間は「右足に荷重がかけられないなら、『右手』に杖を持ち歩く」と考えがちだが、実際は違う。
杖を使って歩く時には、『痛みのある悪い方の足とは逆の、良い方の手で杖を突き、痛みのある足と合わせて前に出し、良い方の足で踏みだす』。正しいこのやり方を、真はリハビリの時に学んでいた。
『左手』に杖を持ち、左に身体を傾けつつ、『左足』と『左手の杖』で歩く。この歩き方をマスターし、真は日常生活に支障を出さすに過ごせていた。
杖を突きつつ階段を降り、建物から出る。そのまま門へと進もうとした、その時。
突然、目前の門そのものが……空から降り立った『何か』により、破壊された。
「!?」
全員が立ち止まり、その『何か』を凝視する。
まず最初に見えたのは、巨大な『顔』。
黒ずんだ皮膚の、狂乱に歪んだ人間の、老人の『顔』。それが……真らを見下ろしている。
『顔』が咆哮すると……乱杭歯がむき出しに。
真は最初、そいつを見て『巨人』かと思ったが……違った。人間の顔の下、胴体部は……獣、獅子のそれだった。
四足だが、顔の高さは十m……いや、二十mくらいだと真は目視で予測。その背中には蝙蝠を思わせる禍々しい翼が広がり、それが更に体を巨大に見せている。おそらく直立したら、この二倍から三倍の体高になるだろう。
長く伸びた尻尾は甲虫類のような甲殻に覆われ、先端は棘鉄球のように太い針が無数に生えている。それをハンマーのように振るい……建物へと叩き付けた。
その一撃で、重厚な石造りの建物が積み木のように崩れる。先刻の振動音は、この尻尾の打撃に違いなかろう。
「『
兵士の一人が、そいつを見て……呻くようにそいつの名を口にした。
更に、そいつの周辺に……数体の、小型の『霧獣』が出現した。
が、小型とはいえ、あくまでマンティコアと比較しての事。そいつらは獅子と熊とを混ぜ合わせたかのような外観で、その体格は雄牛なみ。凶暴な牙を剥き出し、恐竜を彷彿とさせる鉤爪をむきだしている。
そんな凄まじい化物が……真らの目前に姿を現していたのだ。その数、見える範囲で三~四十体。
「『
ツクミが叫び、兵士たち……そして真もそれに従う。
が……数人の兵士が犠牲に。何人かは銃を構えて発砲、何匹かの『熊獅子』に命中し、霧散させるが……、群れの前にはほとんど無力だった。
「まずい……やられる!」
真が、背中に、自分のすぐ後ろに、そいつの気配を感じ取った。
思わず目をつぶった、その時。
『熊獅子』が、苦痛らしき咆哮をあげたのを聞いた。
真が振り向くと、背後まで迫っていた『熊獅子』の一匹が、倒れているのが見えた。太い『剣』がその脳天に突き刺さり、断末魔の咆哮とともに……痙攣し、やがて……霧散した。
それに合わせて、『剣』も、光の粒子と化して霧散し、消えた。
「……えっ?」
「クリスさん!」
「二人とも、大丈夫か? すぐに下がれ、ここからは私と……姫様が相手をする!」
騎士・クリス・ブレイズと、
「ええ……町中の『霧獣』は、兵士の皆さんと機械兵で何とかなりそうです。あとは……ここの『霧獣』を倒せば済みます」
ミリア・イマジン姫の二人が、勇者たちのように立ちはだかっていた。
真とツクミ、そして兵士たちの生き残りは……姫君と女騎士の後ろへと下がる。
「……マコト様、そういえば……先刻の『二つ目の質問』に、まだ答えていませんね」
落ち着いた口調で、ミリアが問いかける。
「貴殿に言った『クリエイテッド』とは……『創造せし想像物』。クリエイタニアには、自分の心の中で『想像』したものを、自らの生命力を媒介として実体化させ……自在に操る事が出来る人間がいるのです」
「そして……それを操って、『霧獣』と戦う武器とするのだ!」
クリスが、後を続けた。
そして、
「「クリエイション!!」」
二人が同時に叫ぶとともに、
二人の身体から、光り輝く『粒子』が放たれた。
ミリアから放たれた『粒子』は、彼女のすぐそばで、大きな『形』を伴い、凝縮され、固形化し……『立った』。
そこに立っているのは、巨大マンティコアに匹敵するほどの、巨大な『ドラゴン』。
一昔前の、背を伸ばし直立した『恐竜』の復元図を、真は連想した。が、上半身は人間のようなプロポーションで……ドラゴンというより、ドラゴンと人とが合わさった、竜人とでも言いたくなるような姿。
「これは……まるで……」
真はそれを見て、
「……フィン・ファン・フーンみたいだ」
マーベルコミックに出てくる、ドラゴン型異星人を連想していた。
鱗に覆われ、背中には翼。しかしそれが周囲に醸し出しているのは……『恐怖』。
その体の表面には、炎が燃えているかのように、気迫が満ちて漂っている。竜から放たれた力強い咆哮が……周囲の空気を、震わせた。
顕現したドラゴンの名を……、
「クリエイテッド!『
……ミリアは、叫んだ。
同様に、クリスからも『粒子』が放たれ、それが固まり、彼女のすぐそばに『立った』。
こちらは、等身大の『鎧の騎士』。しかし、その周囲には……、種々雑多な無数の『剣』が、ずらりと浮かび並んでいた。
「クリエイテッド!『
クリスもまた、その騎士の名を、己の『クリエイテッド』の名を叫ぶ。
「こっちは、シルバーチャリオッツ……いや、どちらかというと赤セイバーのモードレッド?」
真が、似た印象のキャラクターを口にする。その両方の雰囲気を持つ鎧の騎士は、
「行け!」
クリスの命令を受け、それこそかのフランス人の『そばに現われ立つ』騎士のごとく……、
『霧獣』めがけて走り出した。
怪獣ほどに巨大なマンティコア一体と、数十体の大柄な獣の群れ。
それに対するは、二人の少女が顕現させた……巨大なドラゴンと、無数の件を携えた一人の騎士。
それらは真の目前で、ぶつかり合った。
コウモリの翼を広げ、マンティコアが空へと舞いあがる。
それを追い、恐炎竜もまた空へと舞いあがった。二体の巨獣は空中を飛び、空中でぶつかり合う。
弾き飛ばされたのは、『霧獣』の方。バランスを崩したマンティコアは、そのまま地上に落下し、木々や建物を押しつぶしながら転がった。
追撃せんと、空中から急降下する『フィア・ファイア』。しかしそれを迎え撃たんと、マンティコアは立ち上がり、体をひねって尻尾を叩きつけた。
棘鉄球のごとき尻尾の先端が、ドラゴンに直撃し……地面に叩き落す。
「くっ!……その程度、効きませんよ」
『フィア・ファイア』が痛手を負うと同時に、ミリアもまた……顔をしかめていた。
そして、地上では。
数十の熊獅子の群れが、一体の騎士へと襲い掛かっていた。
十体の熊獅子が、騎士へと飛び掛かるが……、
「はっ!」
クリスが叫ぶと同時に、騎士の周囲に並び漂う種々雑多な形状の『剣』が動き、宙を舞い、『霧獣』の群れを迎え撃つ。
騎士が腕を振り、それに合わせ、無数の剣が宙を舞い、霧獣を切り裂いていく。
「……百の剣と、その剣技。それらを極めし剣の騎士の伝説を……なめるな!」
クリスの言葉とともに、近くを漂う剣を手にした『百剣の騎士』自身が突撃した。
騎士の両の手が握るは、日本刀に似た、僅かに反りのある剣。両手に握った剣を振るい、騎士は迫りくる熊獅子の群れへと斬り込んだ。
両脇からせまる熊獅子を、体を回転させ、両手に構えた剣で切り裂く。休む間もなく、跳躍し襲い掛かる一匹へと剣を切り上げ、足元から襲い来る別の一匹に剣を振り下ろした。
「!」
騎士の猛攻から下がり、真たちへと顔を向けた熊獅子が向かってきたが。
「……逃がさん!」
騎士が投げつけた剣が、熊獅子に突き刺さり、引導を与えていた。
熊獅子の群れも、大柄なものに変わり、若干小柄な個体が進み出ると……上下左右から、一斉に飛び掛かった。そいつらの大きさは普通の犬程度だが……禍々しさは大きな個体に引けを取らない。
それらに対し騎士が手にしたのは、レイピアのような細身の剣。
それを手にすると、騎士の構えもフェンシングのようなそれに変化。まさにあの銀の戦車の名を持つ騎士のように、超高速で剣身を振るい始めた。
空間そのものを切り裂くように、目に見えぬほどの刃の斬撃が、小型の熊獅子を切り刻み……黒い霧へと霧散させていく。
「……これは、すごいな……!」
真の言葉とともに、熊獅子の群れにも変化が起こっていた。明らかにたたらを踏むように、突撃するのを躊躇し始めている。
「これで……止めだ!」
クリスが腕を振り、その動きに合わせ『百剣の騎士』も腕を振る。
その腕の動きに合わせ、周囲に漂って展開していた『剣』もまた、熊獅子たちへと刃を向けた。
全ての剣が、クリスを中心にして……竜巻のように回転する。
「『
回転する『剣』の群れは、それ自体が巨大な『竜巻』であり、『嵐』
その『嵐』が、熊獅子の群れを巻き込んだ。内部を飛びかう『剣』の刃をその身に受けた『霧獣』は……その全てがズタズタに切り裂かれ、塵と化し、霧になり、文字通り霧散した。
「……はあっ、はあっ、はあっ……」
剣の嵐が収まるとともに、『騎士』の姿も消え、
疲労困憊した、クリスの姿がそこに残された。
そして、巨竜と巨獣の対決は。
コウモリの翼をはばたかせ、再び空に舞い上がったマンティコアが、『フィア・ファイア』へと突撃した。
その顎を大きく開き、その牙で噛みつこうとした獅子の巨獣は……、
「はーっ!」
ミリアの怒号と共に放った、巨竜のパンチをカウンターで、その顔面に受けた。
もんどりうって、地面に転がされるマンティコア。『フィア・ファイア』は、その隙を逃さず……、
「……『
その口から、燃え盛る火炎の帯を吐いた。その苛烈なる炎は、あたかも巨大な火炎放射器を仕込んでいるかのように、『フィア・ファイア』の口から絶え間なく放たれ続け……、巨大な『霧獣』を包み込む。
炎に巻かれ、悲痛なる断末魔の咆哮とともに……マンティコアはのたうち回り……そして、霧散し、消滅した。
「……はあっ………」
ミリアは周囲を見回し、他に『霧獣』がいないかを確認すると……膝をつく。
そして、それとともに、『フィア・ファイア』も光の粒子に変化し、空中に霧散していった。
「……マコト様、お怪我は……ありませんか?」
クリス同様に、疲労した様子で……ミリアが真へと問いかけた。
ねぎらいの言葉をかけたかった真だったが、それ以上に……。
「……これ、が……」
……『驚愕』が、彼を支配していた。
「これが……『クリエイテッド』……!?」
「ああ、そうだ」
やや回復した、クリスが相槌を打つ。
「人の精神力から生じたエネルギーが、姿を得て、実体化した存在……それが、『クリエイテッド』だ!」
クリスの言葉が、真の胸に叩き込まれる。
「じゃあ、さっきのあのマーベラーは!」
「そうです、マコトさん」
その場にやってきたツクミが、真へと相槌を打つ。
「『クリエイテッド』……。これは、『霧獣』と戦う運命の者が、生まれつき有している『力』。そして……『この世界』を守るために、異世界より召喚されし者、『流離人(ストレンジャー)』も有している『力』……。マコトさん、あなたもこれを、持っているのです」
「…………」
にわかには、信じがたい。否、『
だが……『クリエイテッド』を実際に目撃した真は、それを信じない事が出来なかった。