異世界にレオパルドンを持ち込むのは反則ですか? 作:塩田多弾砲
「……ペンはやっぱり書きにくいな……」
真があてがわれた、城砦内の小さな部屋。
室内にて今、真が向かっているのは『机』。
彼はそこで、借りたペンと紙を用い……今までの衝撃的な体験、及び、この異世界での出来事を箇条書きし、自分なりに『整理』し、『理解』しようと努めていた。
「天を司るカブトムシの彼じゃあないけど……俺の婆ちゃんも言ってたしな。『何か困った事があったら、頭の中で悩む前に、帳面に書き出してみなさい。そうすれば、何が問題なのかが分かるものよ』……って」
まず……、
:この俺、拝田真は地下街にいたところ、地震が発生。その時に、地下の穴に落ちた。
:落ちた先は、空中。そこは『クリエイタニア』って異世界。
:落ちた時に気を失い、気が付いたら、『イマジン王国』のお姫様たちに助けられていた。
:この『クリエイタニア』には、『
:人間は、霧獣と日夜戦い続けている。
「……それから……」
:その『霧獣』とやらと戦うため、一部の人間には『クリエイテッド』という力を持っている。
:それは簡単に言えば、『一般人にも見えるスタンド能力』。その人物にとって思い入れのある存在……伝説の英雄や、物語の登場人物、有名な怪物など、要は『好きなキャラクター』を実体化し、そいつを操り戦うという。
:そのクリエイテッド能力は、異世界から来た人間。
:この俺、拝田真もその例に漏れない様子。
「……いやはや、マジにハードな世界に来ちまったもんだ」
まだ、言われたこの「クリエイテッド」が、俺自身出せるかどうか、試してはいない。いや、試して良いし、試すべきなんだろうけど……。
ファーグ市は現在、先刻の霧獣の群れの襲撃の後で、事後処理に忙しい。あのお姫様も、女騎士さんも、そしてメイドさんも、忙しく動き回っている状況だ。練習するにしても、状況がいったん落ち着いてからにすべきだろう。
……俺が空から落ちた時、マーベラーが受け止め……、
そのマーベラーが墜落して、お姫様たちに迫ってた霧獣の群れを薙ぎ払った……と聞いたけど、もしそれが本当なら……。
「……ま、そうなるよなあ」
自分は確かに東映版スパイダーマンが好きで、それに出てきた巨大ロボ『レオパルドン』が好きだ。
つまりは、自分は『レオパルドン』を呼び出せる事が可能に、って事になる。
『レオパルドン』。
1978年に、東映が製作した特撮ドラマ「スパイダーマン」に登場した巨大ロボット。
原作はアメリカの、マーベルコミックが出版している「スパイダーマン」。そのタイトルを、日本の東映が契約を交わし製作した作品だが……ほぼ別物と言える内容の設定、物語に。
主人公がクモの超能力を得て、コスチュームを着てスパイダーマンになる点は同じ。しかし……、
原作の、『放射能を浴びたクモ』、あるいは『遺伝子操作されたクモ』、いずれかに噛まれて能力を得たのと異なり、東映版の能力は宇宙人がもたらしたもの。
加えて、東映版には……「レオパルドン」という巨大ロボが登場する。
敵組織「鉄十字団」が差し向ける怪物『マシーンベム』。
最後に巨大化し、迫ってくるマシーンベムに対し、スパイダーマンはブレスレットを使って、戦闘母艦『マーベラー』を呼ぶ。
そして、マーベラーに乗り込み、巨大ロボ「レオパルドン」に変形させ、巨大化したマシーンベムと戦うのだ。
レオパルドンはまさに無敵。巨大マシーンベムからの攻撃を受けてもびくともせず、必殺の「ソードビッカー」を放ち、瞬殺してしまう。
十年以上前、真は幼稚園の頃……父親にDVDを見せられ、その活躍に夢中になった。本編の方はちと、子供には難しかったが、スパイダーマンのアクションと、レオパルドンの雄姿には夢中になった。
「……親父、よく言ってたっけなあ。『これは、俺がお前と同じくらいの子供の頃に、TVで放送して夢中になってたんだ』って、な」
その後で『バトルフィーバーJ』とか、戦隊シリーズの初期作品も見せられたっけ。
「ボヘミアンなんちゃらを目の当たりにしたら、こんな気分になるんだろうか……っていかんいかん、そんな事を言ってる場合じゃないな」
仮に、本当にレオパルドンを呼び出せるとしても……その力で、何をするべきか。
やっぱり、あの霧獣と戦う事になるんだろうけど……。
それ以前に……色々と大変な事になる。
……そう、
『大いなる力には、大いなる責任が伴う』
ずっと後になって、アメコミの原作でこのセリフを知ったけど。
中二病的に「俺TUEEE」って、力を無責任に使いまくる……みたいな事は、したくない。
……こりゃ、マジに今後の身の振り方、考えないと。
「……マコト殿?」
やがて、部屋の扉が開くと。
そこには、トレイを手にしたクリスの姿が。
「あ、クリスさん。こりゃどうも」
「粗末ですまないが、食事だ。ツクミは姫様と事後処理や負傷者の手当などで忙しくて、私が代わりに持ってきた」
「どうも、恐縮です」
トレイに乗せられているのは、固皮のパン……フランスパンを小さくしたような印象のそれと、やはり固そうなチーズ。それに水の入ったカップ。
先刻のティーセットとは、雲泥の差。それでも真は……空腹に腹を鳴らしつつトレイを受け取り、
「……いただきます」
机に乗せ、軽く手を合わせてからパンにかぶり付いた。
「……イタダキマス? ……ふむ……」
「? 何か?」
「いや、食前の祈りの言葉は、様々だなと思ってな。というか、少し暗くなってきたな」
確かに、この部屋は窓からの日光以外に光源が無い。そして窓の外には、夕日が落ちつつある。
「ちょっと待ってろ、今……」
クリスはそう言うと、壁に立てかけられていた装飾……に見えるものの、つまみをひねった。
途端に、そこから光が放たれた。
「え? それ、照明器具だったんですか?」
「ああ、
「魔力石?」
「簡単に言えば、エネルギーが込められた鉱物、だな。我々はこれを用いて、様々な機械や仕掛けを動かすための動力源にしている。こうやって、小さいものは日常で使う道具に、大きいものは機械兵や重機などに、色々と用いている」
天然の電池のようなものかと、真は推測した。
「それで……」
クリスは椅子を引き、真の前に座った。
「マコト殿、貴殿の事を……私は知りたい」
「ええっ!?」
「……ああ、最初に言っておくが、貴殿は私の好みとはやや外れている。そういった意味での『知りたい』ではない事を、先に伝えておこう」
「……ですよねー」
『安心』と『がっかり』をブレンドしたような感情を覚えつつ、真は……、
「……それで、俺の『何を』知りたいんですか?」
パンを噛みつつ、クリスに問いかけた。
「単刀直入に言えば、貴殿が『どんな人間か』。そして、貴殿の『クリエイテッド』が何か。……私と姫様たちを助けてくれたはいいが、あの状況はあくまでも『偶発的』。狙って行った事ではない。加えて……あの巨体。どんな力を持ち、何が行えるのか。それを知っておきたいのだ」
クリスが鋭い眼差しを、真へ向ける。それを見つめ返しつつ、真も困惑するかのように、
「……俺も、その……分からないです。正直、クリエイテッドっての自体が初めてですし。そもそも、自分自身にこんな超能力を授かって、それを操るなんて、考えもしてませんでした」
正直な気持ちを、そのまま述べた。
「……ふむ……」
その言葉を聞いて、考え込むように沈黙したクリスは、
「……いいだろう。では、次の質問だ。いや、質問というより、『お願い』というべきだろうが……」
改まり、一呼吸入れてから……言葉を紡いだ。
「……貴殿のその身柄、しばらくはイマジン王国に預からせてはもらえないだろうか? 貴殿にとって、このクリエイタニアは『異世界』。右も左もわからないだろうし、何より闇霧と霧獣、周辺各国との事情や状況など、ありていに言えば『危険』なのだ。それゆえに、自由を抑制するようで心苦しいが……」
「ぜひ、お願いします!」
言い終わらぬうち、今度は『安心』を全快にした真は返答。
「……そ、そうか。やけにあっさりと受け入れたが」
「いや、俺もその……不安だったので。ここで放り出されたらどうしようって思ってたとこなんですよ。いやー、良かった良かった」
心底安堵したという感で、『にぱっ』という擬音がきこえそうな笑顔を浮かべる真。
「いやあ、安心したら食欲出てきちゃいました。……このパン、固いけどうまいッスね。チーズも……臭いきついけど、嫌いじゃないですよ」
がつがつとパンとチーズを喰らい、水を流し込む。
その様子を、あっけにとられ見ていたクリスだが、
「……今晩は、この部屋で眠ってくれ。明日、王都から迎えが来る。貴殿も姫様たちとともに、来てもらうぞ」
……次第に微笑みを浮かべ、そう告げた。
その後。
特に何事もなく、真は寝床に横になり、目を閉じた。
「……考えてみれば、異世界転生してから……いや、転移か。ともかく、こっちの世界に来てから『初めての夜』だな」
……おばさん、大丈夫だろうか。妹ズは……あいつらはほっといても大丈夫だろう。
クラスの友人たちも、心配してるだろうなあ。
バイトは……まあ、俺がいなくても仕事に支障はないだろうけど……連絡つかない今のままだったら、クビになるかなあ。
定期通院してる病院にも、迷惑かける事に……。
考えてみれば、異世界にこうやって『来てしまった』って事は、『元の世界での生活を全部捨ててしまう事』と同じ。周囲の人間にとっては、近しい人間が行方不明になったわけだから……騒ぎにならんわけがない。
……十年前。自分は6歳か、7歳だったか。あの頃の事はうすぼんやりとしか覚えてないが……火事になって、父さんがいなくなって、周囲が色々と騒がしかった事だけは覚えている。
大人たち、警察とか火災保険の人とか、そういう人たちが入れ代わり立ち代わりやってきては、色々と話し合いが行われていた。
「……父さんがあの時にいなくなってから、もう十年なのか……」
母さんは、もういない。そして、父さんも……。
「……寝よ寝よ、悩んだところで何にもならんだろ」
『戻らなきゃ』ならないだろう。しかしそのためには、こちらでの生活基盤を整えないと。
幸い、一国の王女様と、女騎士さんとメイドさん……といった、美少女たちとお近づきになれた。少なくとも衣食住に関しては、なんとかなるだろう。
『霧獣』やら『クリエイテッド』やらが問題になるだろうけど、これから学べばいい。
生じる不安を無理やり抑えこむかのようの、真は強引に……自分を眠りにつかせた。
「これは、また……」
次の日、朝。中庭にて。
今度は真が、あっけにとられ見つめる番。
彼の視線の先には、巨大な『船』があったのだ。
「大きさは……ボーイング727くらいか。普通に『船』に似ているけど……船底は平らだなあ」
実際、それは『底が平らな船』という印象だった。もっとも近い印象の船を上げるなら、『カーフェリー』だろうか。
上部には甲板があり、戦艦のごとき砲塔が前後の甲板上に設置。中心部には船橋も……軍艦の艦橋のようなものもある。
船底は平らになっているが、通常の船同様に分厚い金属に覆われている様子。どうやら、水上に降りた時に、普通に船として用いるのだろう。
真は最初に見て、船舶のプラモデル……「ウォーターライン」を連想していた。
「これは、我が王族用の
隣に立ったミリアリアとツクミが、真へと言葉をかけた。
見ると、あちこちに『紋章』らしきものが埋め込まれている。つまりは……これは、イマジン王国の王家専用の船と見て間違いなかろう。
もっとも、各部は傷みがみられたり、錆がそのままだったりするが。あまり整備がなされていないか、もしくは……その余裕がないのか。
「……あの、姫様」
「ミリア、と呼んでいただいて構いませんよ。何ですか? マコト様」
「じゃあ、ミリアさん。それに、ツクミさん。昨日にクリスさんにも言いましたが……しばらくの間、イマジン王国にお世話になります。受け入れて頂き、ありがとうございます」
二人へ頭を下げる真に……、
「いえ……あの時に助けて頂いたのは事実。少なくとも、それに報いる事は必要と存じます。改めまして……」
よろしくお願いします。そう言いつつミリアは、頭を下げた。
「船尾推進装置、及び左右回転翼、異常なし!」
「魔力石駆動機関、始動!」
「浮遊石、加熱始め!」
「前方、障害物無し! 両舷、後方、同じく障害物無し!」
「船尾推進装置、始動! 回転翼、回転始め!」
「浮遊石、加熱異常なし! 浮遊反応確認! 抜錨準備完了!」
「イマジン王国、王室専用飛行空船『クイーン・スミア』発進!」
船長の一令とともに、空船は浮き上がった。
地面から船体が離れ、空へと舞い上がるのを……真は、客室の窓に広がる景色を見て知った。
「これは……良いなあ。旅客機と同じくらい、快適だ!」
客室は、ほとんど『揺れ』が無かった。ゆっくりと浮かび上がったためか……むしろ、『旅客機』というより『飛行船』に乗っているようだと真は感じていた。
「マコト様、『クイーン・スミア』の乗り心地はいかがですか?」
客室に、ワゴンを押したツクミが入ってくる。
「ええ、とても良いです。ほとんど揺れないし」
「それは良かった。イマジン国の王都までは、空路ではここから三時間ほどで到着できます。それまでゆっくりとおくつろぎくださいね」
そう言って、テーブルにティーセットを並べるツクミ。
「ああ、ありがとうございます。……それにしても、この船。こんなに大きいのに空を飛べるなんて、すごいですね」
ツクミに入れてもらった紅茶を口にしつつ、真は窓の景色を眺める。
「私もよくは知りませんが……空に浮く事ができるのは『
ツクミの説明によると、ウルリウムは魔力石の一種であり、希少価値のある鉱物。高値で取引されるのみならず、その採掘も、加工にも、技術が必要なものとの事だった。
ともかく、この石の塊を乗り物に内蔵し、それを炎などで加熱すれば、乗り物は空に浮き上がる。そして、魔力石による別の動力も用い、プロペラを回し推進力を得る事で、飛行できる、という原理だ。
浮遊石やその加熱の仕掛けは、ある程度の大きさがなければ物体を浮遊させるパワーが出ない。そのため、乗り物を浮遊させるためには、最低でも『小型船くらいの大きさ』が必要とのことだった。
「まあ、飛行できるクリエイテッドを持っていれば、自前で空を飛ぶことができますが……」
苦笑しつつ、ツクミはそう付け加える。
そうだった。自分もマーベラーが出せるなら、それに乗って空を飛べるはずだし、実際そうした。まだ実感は湧かないが。
そこから、真は……思い出した。
『クリエイテッド』について、色々と聞きたい事があったのを。
「あの、ツクミさん」
「ツクミ、と呼び捨てて頂いて構いませんよ。なんでしょう?」
「その……まだ実感がわいてないので、教えてもらえませんか? 『クリエイテッド』の事を」
『クイーン・スミア』が、森林地帯の上空を飛んでいる時。
優雅に空を進むその飛行空船を、見つめるかのように、注意を向けている存在が居た。
『それ』は、優雅に空を進む飛行空船に、頭部を向けていたが……見つめているようだったが、見つめてはいなかった。
なぜなら、それには『見つめる』ための『眼』が存在していなかったからだ。
それは森林内部に、その頭部を出していた。周囲に生えた、高さ数十mはある『大木』。それらに擬態するかのように、それは自身の細長い巨体を伸ばし、立っていた。
やがて、それは……。獲物を値踏みした捕食生物が、先回りしようとするかのように。その身体を地面へと引き込み、そして……。
地中へと、その姿を消した。
後に残るは、直径が十mはある『穴』。その穴の内部と周辺には……、
『闇霧』が、漂っていた。
ツクミの淹れてくれる紅茶は、実にうまい。
きっと、放課後にティータイムしてた軽音楽部の子達は、毎日こんなのを口にしてたんだろうな……などと、真は勝手に考えつつ、二杯目を飲み干した。
いや、それ以前に。異世界であるクリエイタニアにも、「紅茶」という飲料とその文化がある事に、真はちょっとした驚きを有していた。
この世界、どうにも……色々と自分の世界との「共通点」が多いように思える。単位もメートル法だし。ひょっとしたらコーヒーもあるかも。
この辺りは、おいおい調べてみよう。
今は……『クリエイテッド』。この超能力について、もっと学びたい。
「ふう、ごちそうさま。それで、ツクミさん。やっぱり王都には、様々な能力を有したクリエイテッドを持つ人も、やっぱり多くいるんですか?」
「ええ。ただ……『クリエイテッド』を持つ人は、よほど信頼がなければ、他者には『クリエイテッド』の詳細は口にしないものなんです。なので……『おそらくそういう人もいる』とは言えますが、具体的に『誰がどのように』までは、私にも分からないですし、知っていたとしても、おいそれとは言えないです」
ま、そうなるよなあ。
……あれ? でも、それじゃああの二人は?
「でも、だったらミリアさんとクリスさんは? どうしてあの二人は『クリエイテッド』を持ってる事を教えてくれたんです?」
「それは……お二人は、『責任』があるからです」
「責任?」
「……お二人は、イマジン王国の『戦い』の先陣を切らねばならないお立場にいらっしゃいます。『霧獣』との戦いのみならず、他国からの侵略者や、国家の危機。そう言った時に、鼓舞し、力を見せる事で、兵士や国民の皆さんを安堵させる『シンボル』としての役割をも担っているのです」
それに、何より……と、ツクミは言葉を続ける。
「……クリエイテッドという力を持つゆえの『責任』……イマジン王国と、その国民を守るための『責任』。それを一身に受け、その行動を国民のみならず、周辺各国に知らしめる義務も……同時に存在するのです。なので、イマジン王国では、ある法律が制定されています」
「法律?」
「はい。イマジン王国の王家の血筋、もしくは王家に仕える人間で、なおかつ強力なクリエイテッドを有している人は、その力を私利私欲のために使わず、『公務』に、あくまでも国民のため、国を守るために使わなければならない……という法律があり、それに従わなければなりません。そして、その法を順守するために……義務ではないですが、自身の能力をある程度公表する事が習わしになっています」
……なるほど、公的な存在としてその身を置いているから、その『能力』を持つ事を皆に知らしめて、そして……それを用いて公務をこなし、責任ある『行動』として示す義務を有しているわけか。
だから、隠さず堂々と『自分が力を持つ事を、示さなきゃあならない』わけか。
ブチャラティ風に言えば、
『公務は遂行する』、『責任も負う』。「両方」やらなくっちゃあならないってのが「イマジン王国・王室」のつらいところだな。
……ってとこか。
きっとその『覚悟』も、できてるんだろう。
だとしたら、二人はアベンジャーズみたいでもあるな。特に王女や王族が特別な戦闘能力を持ってるってとこは、ブラックパンサーか、X-メンのストームみたいじゃないの。
「……ミリアさんと、クリスさん。二人とも……スゴイんだな」
「え?」
「あ、いや……あんなスゴイ力を持ちながら、そうやって為すべき事をしてるのは、とても魅力的だ……と思ってね」
真のその言葉に、当初驚きを見せていたツクミは……くすっと笑みを浮かべた。
「そう、ですね。お二人が聞いたら、きっと喜ばれると思います」
が、真はツクミのその笑みに、やや違和感を覚えた。
どこか……寂しそうな笑みにも思えたのだ。
「ええと、それで、姫様とクリスさんは?」
「姫様は、休まれています。昨日は激務でしたので、しばらく眠られるとの事で。クリスさんは、霧獣などの敵襲来に備え、待機されています」
「『敵』? 空でも霧獣が出てくるんですか?」
その質問をしてから、すぐに真は自分のマヌケさに気付いた。昨日のマンティコア……だったか。あの怪物も、ミリアのフィア・ファイアと空中戦を行えるくらいに空を飛べたのだ。
『飛行可能』な霧獣も、存在して当然だろう。
「ええ。ですが心配なさらないで下さい。『空』に闇霧が発生するという例はなく、霧獣が襲撃するにしても、見晴らしが良い現在の天気なら、すぐに見つけられます。これが夜や曇り空だったら、大変でしたけどね」
空も、安心はできないってとこか。
この様子なら、おそらく海や湖など、水辺や水中にも同じく存在するだろう。昨日の戦いを見ていたら、クリエイテッドを持たない一般人の兵士も、戦って勝てなくはなかったけど……かなり苦戦してた。こんなのが恒常的に湧いて出てくるんなら、これらと戦える力を持つ人間は、率先して前に出る必要があるだろう。
まさに、『大いなる力には、大いなる責任が伴う』だ。
溜息をつきつつ、真がそんな事を考えていた、その時。
「!?」
『警報』が鳴った。
「状況は?」
クリスの元へ、船橋の指揮室へと、ミリアが駆け込んできた。
「飛行型の霧獣を目視で確認。数、50以上。内10体以上が巨大化。現在、後方5時の方向より接近中!」
簡潔に、しかし、必要な内容を素早く述べたクリスは……船橋の窓から外の様子を見つめていた。
「……50以上!? ……ちょっと……楽観視できない数ね」
ミリアリアは、上擦っている自分の声を聴いた。
「砲撃準備は完了しています。ですが……」
クリスの言葉が詰まった事から、ミリアは悟った。
おそらく、生きては帰れない。
通常ならば、飛行型霧獣は10体前後の群れを作る。その大きさも、さほどのものではないのが普通。小回りが利かなくなるので、巨大化も群れ内部で1~2体が普通。
しかし……、
50体で、しかも10体以上が巨大化している群れなど、聞いたことがない。そんな大量に集まっている状況もまた、聞いたことがない。
それに、これほど大量の霧獣が発生するなら、相応の『前兆』……、大量の闇霧が発生するなどの前兆が起こって然るべき。
ファーグから出立する時、兵士たちからは報告は無かった。飛行空船が出発する前には、周辺に闇霧や霧獣が発生していないか。それを確認したうえで出発する。今回も、闇霧も霧獣も確認はされなかった。
……帰還を急いだため、十分とは言えなかったが。
が、いまや『原因』よりも、『現状』をどうすべきか。そちらを優先すべき。
あれほどの数の飛行霧獣の群れに対抗するには、完全武装した戦艦十数隻が必要。申し訳程度に武装しただけの王家用船舶がたった一隻では、交戦するのは自殺行為。
何か、違和感がある。
が、まずは……生きのこらねば。
「魔力石駆動機関、全力前進! できるだけ距離を取って!」
「飛行型霧獣の大群?」
船橋に呼ばれた真は、現状をミリアたちから教えられ……絶句していた。
「……マコト様。こう言ってしまうのはなんですが……どうか、『覚悟』を決めておいてください。この状況下では……あなたの身の安全は、保障できません」
「……わかりました」
絞り出すように、返答する真。
何か言って力づけたいと思ったが、何も……浮かばなかった。
今現在、なんとか群れとは距離を取っているが……それでも追いつかれるのは時間の問題だという。
クリスも、ツクミも、そして……兵士たちも。全員の顔に浮かぶのは、絶望的な悲痛なる表情。
何か、打てる手はないのか……。
が、そうこうしている時。
「前方、山頂付近に巨大な闇霧を確認!」
『クイーン・スミア』の進路上、山の山頂付近に、巨大な黒い霧が……渦を巻いていた。
霧は……徐々に固まり、それは……その姿を露わにする。
「……闇霧、凝縮・固体化していきます!」
兵士の言葉通り、山頂の闇霧が、徐々に集まり、そして……。
「それ」は、山頂にとぐろを巻いて……その姿を現した。
「……霧獣、出現を確認!」
クリスが、鋭い眼差しをそいつに向けた。
そいつを見た真は、一見『大蛇』に見えたが、徐々に近づくにつれ、ミミズや芋虫、細長いヒルのような印象を強めた。
その巨体。山の頂上から尾根にぐるりと巻きついているところから、全長は数百mから数kmはあるだろう。
頭部は、爬虫類のそれとは程遠い。眼も、顎も無く、円形の口があるのみ。
いや、その円形の口の周辺に、無数の触手がうねっている。とぐろを解いたそいつは……明らかに『クイーン・スミア』に注意を向けるかのように、鎌首をもたげていた。
「あれは……『巨大死蚯蚓ジャイアント・デスワーム』! ……あのクラスの霧獣が、どうしてここに……」
クリスの眼差しが、驚愕から恐怖のそれに変化した。
デスワームと呼ばれた霧獣が、巨大な鎌首をもたげ……後ろに引いた。
「まずい! 避けろ!」
「間に合いません!」
「全員、衝撃に備えろ!」
真はクリスの言葉に従い、近くの椅子に座り、身体を固定する。
次の瞬間、
『デスワーム』の鎌首が、まるで毒蛇のハブのように、勢いよく放たれた。
触手に覆われた、丸い口が……『クイーン・スミア』に襲い掛かるが、操舵手の捜査によって直撃は躱せた。
が、直撃しなかっただけで、衝撃が無かったわけではない。その巨大な長虫の体当たりは……飛行空船の側面を破壊するのに足るものだった。
衝撃が、乗組員全員を襲う。
「船体の状況を報告しろ!」
「船尾推進装置、左舷破損!」
「浮遊石加熱装置、及び浮遊石、異常なし!」
「浮遊反応、異常なし!」
「報告します! 敵霧獣、本船左舷破損部に、頭部口腔部周囲より触手を伸ばし、本船に絡みつき固定しています!」
そして、更なる絶望の報告が。
「報告します。後部より霧獣『翔竜鳥リンドブルム』型の接近を確認!」
50体以上の霧獣の群れが、視認できる程度に接近してきたのだ。
リンドブルムは、いうなれば『鳥に近い体型のドラゴン』といった姿の霧獣。ドラゴンと比較したら、前肢が無く、顔や身体つきもまた、鳥に近い。
鋭い嘴と鋭い爪を持つ後脚は鳥めいているが、その翼はコウモリのそれ。しかも縁部分が鋭く研ぎ澄まされ、まるで刃物。
大きさは、その多くが5mくらいだろうか。そんな怪物どもが、群れを成してこちらに迫っているのだ。
中には、巨大な個体……昨日のマンティコアと同じか、それ以上に巨大になっているものもあった。
この状況。まさに『前門の虎、後門の狼』ならぬ、『絡まれたデスワーム、追いつきつつあるリンドブルム』。
「船長、主砲発射の許可を!」
「許可します! 後部主砲、撃て!」
『クイーン・スミア』の後部主砲が火を噴き、弾丸が発射された。
密集しつつ飛来したリンドブルムの群れは、ほとんどがその砲撃を回避。が、砲弾はかろうじて一匹に命中し、その胴体を吹き飛ばした。
一匹は倒した。が、たった一匹。
後部主砲が、再び発射されるが、リンドブルムの動きは素早く、当たらない。
「姫様!」
「ええ、クリエイテッド!『フィア・ファイア』!」
船橋の外すぐに、あのドラゴンがその巨体を現した。が、
リンドブルムが高速で接近し、すれ違いざまに翼で切り付けた。
「うああっ!」
フィア・ファイアが切り付けられるとともに、ミリアリアの身体にも切り傷が刻まれる。
リンドブルムは、鳥に近い体型のドラゴン……といった姿の霧獣。
フィア・ファイアもまた飛行は出来るが……、飛行能力のみに関しては、リンドブルムの方が『上』。
それ以前に……的の数が多すぎる。
リンドブルムが連続で切り付け、それとともにフィア・ファイアの傷も、ミリアの傷も増えていく。
「姫様! 私も……」
「だめよクリス! あなたのクリエイテッドは『飛行』はできないわ! 本体の近くに浮遊する程度ならともかく、『飛行』と『空中戦』までは不可能! ……それよりも、あなたは船を守りなさい! ……いや、この船に絡みついている、デスワームの方を!」
「はい!」
クリスはすぐに、左舷甲板へ、デスワームが触手を巻き付けている場所へと駆けていく。
ツクミはというと、不安そうに外を、そして傷が増えるミリアへと視線を泳がせている。
「…………くっ」
そして、その様子を……、
真は見ているだけだった。
しかし、見ながら……、
真は、考えを巡らせていた。思考を止めず、回転させ続けていた。
だが、次の瞬間。
「マコトさん、危ない! 逃げてっ!」
ツクミが叫んだ。
ミリアのフィア・ファイアの攻撃をすり抜けて来た、リンドブルムの一体が、
船橋の、真が居るその場所へ、鋭いその嘴を突き刺したのだ。
それは、巨大な個体。嘴の一撃はツクミをも巻き込み、彼女を床に叩き付けて気絶させた。
「ツクミさん! ……うわああっ!」
そして、リンドブルムの嘴は、真を摘まみ上げると。
そのまま空中へ、彼の身体を放り投げた。