異世界にレオパルドンを持ち込むのは反則ですか?   作:塩田多弾砲

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3話:空中で危機的状況に抗うのは反則ですか?

「……ペンはやっぱり書きにくいな……」

 真があてがわれた、城砦内の小さな部屋。

 室内にて今、真が向かっているのは『机』。

 彼はそこで、借りたペンと紙を用い……今までの衝撃的な体験、及び、この異世界での出来事を箇条書きし、自分なりに『整理』し、『理解』しようと努めていた。

「天を司るカブトムシの彼じゃあないけど……俺の婆ちゃんも言ってたしな。『何か困った事があったら、頭の中で悩む前に、帳面に書き出してみなさい。そうすれば、何が問題なのかが分かるものよ』……って」

 まず……、

 

:この俺、拝田真は地下街にいたところ、地震が発生。その時に、地下の穴に落ちた。

:落ちた先は、空中。そこは『クリエイタニア』って異世界。

:落ちた時に気を失い、気が付いたら、『イマジン王国』のお姫様たちに助けられていた。

:この『クリエイタニア』には、『闇霧(ダークミスト)』とかいう謎の物質が湧いて出て、それが集まる事で『霧獣(ミストビースト)』という怪物が生まれ、人々を襲う。

:人間は、霧獣と日夜戦い続けている。

 

「……それから……」

 

:その『霧獣』とやらと戦うため、一部の人間には『クリエイテッド』という力を持っている。

:それは簡単に言えば、『一般人にも見えるスタンド能力』。その人物にとって思い入れのある存在……伝説の英雄や、物語の登場人物、有名な怪物など、要は『好きなキャラクター』を実体化し、そいつを操り戦うという。

:そのクリエイテッド能力は、異世界から来た人間。流離人(ストレンジャー)は必ず有している。

:この俺、拝田真もその例に漏れない様子。

 

「……いやはや、マジにハードな世界に来ちまったもんだ」

 まだ、言われたこの「クリエイテッド」が、俺自身出せるかどうか、試してはいない。いや、試して良いし、試すべきなんだろうけど……。

 ファーグ市は現在、先刻の霧獣の群れの襲撃の後で、事後処理に忙しい。あのお姫様も、女騎士さんも、そしてメイドさんも、忙しく動き回っている状況だ。練習するにしても、状況がいったん落ち着いてからにすべきだろう。

 ……俺が空から落ちた時、マーベラーが受け止め……、

 そのマーベラーが墜落して、お姫様たちに迫ってた霧獣の群れを薙ぎ払った……と聞いたけど、もしそれが本当なら……。

「……ま、そうなるよなあ」

 自分は確かに東映版スパイダーマンが好きで、それに出てきた巨大ロボ『レオパルドン』が好きだ。

 つまりは、自分は『レオパルドン』を呼び出せる事が可能に、って事になる。

 

『レオパルドン』。

 1978年に、東映が製作した特撮ドラマ「スパイダーマン」に登場した巨大ロボット。

 原作はアメリカの、マーベルコミックが出版している「スパイダーマン」。そのタイトルを、日本の東映が契約を交わし製作した作品だが……ほぼ別物と言える内容の設定、物語に。

 主人公がクモの超能力を得て、コスチュームを着てスパイダーマンになる点は同じ。しかし……、

 原作の、『放射能を浴びたクモ』、あるいは『遺伝子操作されたクモ』、いずれかに噛まれて能力を得たのと異なり、東映版の能力は宇宙人がもたらしたもの。

 加えて、東映版には……「レオパルドン」という巨大ロボが登場する。

 敵組織「鉄十字団」が差し向ける怪物『マシーンベム』。

 最後に巨大化し、迫ってくるマシーンベムに対し、スパイダーマンはブレスレットを使って、戦闘母艦『マーベラー』を呼ぶ。

 そして、マーベラーに乗り込み、巨大ロボ「レオパルドン」に変形させ、巨大化したマシーンベムと戦うのだ。

 レオパルドンはまさに無敵。巨大マシーンベムからの攻撃を受けてもびくともせず、必殺の「ソードビッカー」を放ち、瞬殺してしまう。

 十年以上前、真は幼稚園の頃……父親にDVDを見せられ、その活躍に夢中になった。本編の方はちと、子供には難しかったが、スパイダーマンのアクションと、レオパルドンの雄姿には夢中になった。

「……親父、よく言ってたっけなあ。『これは、俺がお前と同じくらいの子供の頃に、TVで放送して夢中になってたんだ』って、な」

 その後で『バトルフィーバーJ』とか、戦隊シリーズの初期作品も見せられたっけ。

「ボヘミアンなんちゃらを目の当たりにしたら、こんな気分になるんだろうか……っていかんいかん、そんな事を言ってる場合じゃないな」

 仮に、本当にレオパルドンを呼び出せるとしても……その力で、何をするべきか。

 やっぱり、あの霧獣と戦う事になるんだろうけど……。

 それ以前に……色々と大変な事になる。

 ……そう、

 

『大いなる力には、大いなる責任が伴う』

 

 ずっと後になって、アメコミの原作でこのセリフを知ったけど。

 中二病的に「俺TUEEE」って、力を無責任に使いまくる……みたいな事は、したくない。

 ……こりゃ、マジに今後の身の振り方、考えないと。

「……マコト殿?」

 やがて、部屋の扉が開くと。

 そこには、トレイを手にしたクリスの姿が。

「あ、クリスさん。こりゃどうも」

「粗末ですまないが、食事だ。ツクミは姫様と事後処理や負傷者の手当などで忙しくて、私が代わりに持ってきた」

「どうも、恐縮です」

 トレイに乗せられているのは、固皮のパン……フランスパンを小さくしたような印象のそれと、やはり固そうなチーズ。それに水の入ったカップ。

 先刻のティーセットとは、雲泥の差。それでも真は……空腹に腹を鳴らしつつトレイを受け取り、

「……いただきます」

 机に乗せ、軽く手を合わせてからパンにかぶり付いた。

「……イタダキマス? ……ふむ……」

「? 何か?」

「いや、食前の祈りの言葉は、様々だなと思ってな。というか、少し暗くなってきたな」

 確かに、この部屋は窓からの日光以外に光源が無い。そして窓の外には、夕日が落ちつつある。

「ちょっと待ってろ、今……」

 クリスはそう言うと、壁に立てかけられていた装飾……に見えるものの、つまみをひねった。

 途端に、そこから光が放たれた。

「え? それ、照明器具だったんですか?」

「ああ、魔力石(パワーストーン)による魔灯具(マジックランタン)だ」

「魔力石?」

「簡単に言えば、エネルギーが込められた鉱物、だな。我々はこれを用いて、様々な機械や仕掛けを動かすための動力源にしている。こうやって、小さいものは日常で使う道具に、大きいものは機械兵や重機などに、色々と用いている」

 天然の電池のようなものかと、真は推測した。

「それで……」

 クリスは椅子を引き、真の前に座った。

「マコト殿、貴殿の事を……私は知りたい」

「ええっ!?」

「……ああ、最初に言っておくが、貴殿は私の好みとはやや外れている。そういった意味での『知りたい』ではない事を、先に伝えておこう」

「……ですよねー」

『安心』と『がっかり』をブレンドしたような感情を覚えつつ、真は……、

「……それで、俺の『何を』知りたいんですか?」

 パンを噛みつつ、クリスに問いかけた。

「単刀直入に言えば、貴殿が『どんな人間か』。そして、貴殿の『クリエイテッド』が何か。……私と姫様たちを助けてくれたはいいが、あの状況はあくまでも『偶発的』。狙って行った事ではない。加えて……あの巨体。どんな力を持ち、何が行えるのか。それを知っておきたいのだ」

 クリスが鋭い眼差しを、真へ向ける。それを見つめ返しつつ、真も困惑するかのように、

「……俺も、その……分からないです。正直、クリエイテッドっての自体が初めてですし。そもそも、自分自身にこんな超能力を授かって、それを操るなんて、考えもしてませんでした」

 正直な気持ちを、そのまま述べた。

「……ふむ……」

 その言葉を聞いて、考え込むように沈黙したクリスは、

「……いいだろう。では、次の質問だ。いや、質問というより、『お願い』というべきだろうが……」

 改まり、一呼吸入れてから……言葉を紡いだ。

「……貴殿のその身柄、しばらくはイマジン王国に預からせてはもらえないだろうか? 貴殿にとって、このクリエイタニアは『異世界』。右も左もわからないだろうし、何より闇霧と霧獣、周辺各国との事情や状況など、ありていに言えば『危険』なのだ。それゆえに、自由を抑制するようで心苦しいが……」

「ぜひ、お願いします!」

 言い終わらぬうち、今度は『安心』を全快にした真は返答。

「……そ、そうか。やけにあっさりと受け入れたが」

「いや、俺もその……不安だったので。ここで放り出されたらどうしようって思ってたとこなんですよ。いやー、良かった良かった」

 心底安堵したという感で、『にぱっ』という擬音がきこえそうな笑顔を浮かべる真。

「いやあ、安心したら食欲出てきちゃいました。……このパン、固いけどうまいッスね。チーズも……臭いきついけど、嫌いじゃないですよ」

 がつがつとパンとチーズを喰らい、水を流し込む。

 その様子を、あっけにとられ見ていたクリスだが、

「……今晩は、この部屋で眠ってくれ。明日、王都から迎えが来る。貴殿も姫様たちとともに、来てもらうぞ」

 ……次第に微笑みを浮かべ、そう告げた。

 

 その後。

 特に何事もなく、真は寝床に横になり、目を閉じた。

「……考えてみれば、異世界転生してから……いや、転移か。ともかく、こっちの世界に来てから『初めての夜』だな」

 ……おばさん、大丈夫だろうか。妹ズは……あいつらはほっといても大丈夫だろう。

 クラスの友人たちも、心配してるだろうなあ。

 バイトは……まあ、俺がいなくても仕事に支障はないだろうけど……連絡つかない今のままだったら、クビになるかなあ。

 定期通院してる病院にも、迷惑かける事に……。

 考えてみれば、異世界にこうやって『来てしまった』って事は、『元の世界での生活を全部捨ててしまう事』と同じ。周囲の人間にとっては、近しい人間が行方不明になったわけだから……騒ぎにならんわけがない。

 ……十年前。自分は6歳か、7歳だったか。あの頃の事はうすぼんやりとしか覚えてないが……火事になって、父さんがいなくなって、周囲が色々と騒がしかった事だけは覚えている。

 大人たち、警察とか火災保険の人とか、そういう人たちが入れ代わり立ち代わりやってきては、色々と話し合いが行われていた。

「……父さんがあの時にいなくなってから、もう十年なのか……」

 母さんは、もういない。そして、父さんも……。

「……寝よ寝よ、悩んだところで何にもならんだろ」

『戻らなきゃ』ならないだろう。しかしそのためには、こちらでの生活基盤を整えないと。

 幸い、一国の王女様と、女騎士さんとメイドさん……といった、美少女たちとお近づきになれた。少なくとも衣食住に関しては、なんとかなるだろう。

『霧獣』やら『クリエイテッド』やらが問題になるだろうけど、これから学べばいい。

 生じる不安を無理やり抑えこむかのようの、真は強引に……自分を眠りにつかせた。

 

 

「これは、また……」

 次の日、朝。中庭にて。

 今度は真が、あっけにとられ見つめる番。

 彼の視線の先には、巨大な『船』があったのだ。

「大きさは……ボーイング727くらいか。普通に『船』に似ているけど……船底は平らだなあ」

 実際、それは『底が平らな船』という印象だった。もっとも近い印象の船を上げるなら、『カーフェリー』だろうか。

 上部には甲板があり、戦艦のごとき砲塔が前後の甲板上に設置。中心部には船橋も……軍艦の艦橋のようなものもある。

 船底は平らになっているが、通常の船同様に分厚い金属に覆われている様子。どうやら、水上に降りた時に、普通に船として用いるのだろう。

 真は最初に見て、船舶のプラモデル……「ウォーターライン」を連想していた。

「これは、我が王族用の飛行空船(フライトシップ)、『クイーン・スミア』……。クリエイタニアで用いられている、飛行する船です」

 隣に立ったミリアリアとツクミが、真へと言葉をかけた。

 見ると、あちこちに『紋章』らしきものが埋め込まれている。つまりは……これは、イマジン王国の王家専用の船と見て間違いなかろう。

 もっとも、各部は傷みがみられたり、錆がそのままだったりするが。あまり整備がなされていないか、もしくは……その余裕がないのか。

「……あの、姫様」

「ミリア、と呼んでいただいて構いませんよ。何ですか? マコト様」

「じゃあ、ミリアさん。それに、ツクミさん。昨日にクリスさんにも言いましたが……しばらくの間、イマジン王国にお世話になります。受け入れて頂き、ありがとうございます」

 二人へ頭を下げる真に……、

「いえ……あの時に助けて頂いたのは事実。少なくとも、それに報いる事は必要と存じます。改めまして……」

 よろしくお願いします。そう言いつつミリアは、頭を下げた。

 

「船尾推進装置、及び左右回転翼、異常なし!」

「魔力石駆動機関、始動!」

「浮遊石、加熱始め!」

「前方、障害物無し! 両舷、後方、同じく障害物無し!」

「船尾推進装置、始動! 回転翼、回転始め!」

「浮遊石、加熱異常なし! 浮遊反応確認! 抜錨準備完了!」

「イマジン王国、王室専用飛行空船『クイーン・スミア』発進!」

 船長の一令とともに、空船は浮き上がった。

 地面から船体が離れ、空へと舞い上がるのを……真は、客室の窓に広がる景色を見て知った。

「これは……良いなあ。旅客機と同じくらい、快適だ!」

 客室は、ほとんど『揺れ』が無かった。ゆっくりと浮かび上がったためか……むしろ、『旅客機』というより『飛行船』に乗っているようだと真は感じていた。

「マコト様、『クイーン・スミア』の乗り心地はいかがですか?」

 客室に、ワゴンを押したツクミが入ってくる。

「ええ、とても良いです。ほとんど揺れないし」

「それは良かった。イマジン国の王都までは、空路ではここから三時間ほどで到着できます。それまでゆっくりとおくつろぎくださいね」

 そう言って、テーブルにティーセットを並べるツクミ。

「ああ、ありがとうございます。……それにしても、この船。こんなに大きいのに空を飛べるなんて、すごいですね」

 ツクミに入れてもらった紅茶を口にしつつ、真は窓の景色を眺める。

「私もよくは知りませんが……空に浮く事ができるのは『浮遊石(ウルリウム)』の性質によるもの、なんです。この石は加熱すると、重力を遮断して空に浮かぶので、これを利用して乗り物を空に浮かばせているのですよ」

 ツクミの説明によると、ウルリウムは魔力石の一種であり、希少価値のある鉱物。高値で取引されるのみならず、その採掘も、加工にも、技術が必要なものとの事だった。

 ともかく、この石の塊を乗り物に内蔵し、それを炎などで加熱すれば、乗り物は空に浮き上がる。そして、魔力石による別の動力も用い、プロペラを回し推進力を得る事で、飛行できる、という原理だ。

 浮遊石やその加熱の仕掛けは、ある程度の大きさがなければ物体を浮遊させるパワーが出ない。そのため、乗り物を浮遊させるためには、最低でも『小型船くらいの大きさ』が必要とのことだった。

「まあ、飛行できるクリエイテッドを持っていれば、自前で空を飛ぶことができますが……」

 苦笑しつつ、ツクミはそう付け加える。

 そうだった。自分もマーベラーが出せるなら、それに乗って空を飛べるはずだし、実際そうした。まだ実感は湧かないが。

 そこから、真は……思い出した。

『クリエイテッド』について、色々と聞きたい事があったのを。

「あの、ツクミさん」

「ツクミ、と呼び捨てて頂いて構いませんよ。なんでしょう?」

「その……まだ実感がわいてないので、教えてもらえませんか? 『クリエイテッド』の事を」

 

 

『クイーン・スミア』が、森林地帯の上空を飛んでいる時。

 優雅に空を進むその飛行空船を、見つめるかのように、注意を向けている存在が居た。

『それ』は、優雅に空を進む飛行空船に、頭部を向けていたが……見つめているようだったが、見つめてはいなかった。

 なぜなら、それには『見つめる』ための『眼』が存在していなかったからだ。

 それは森林内部に、その頭部を出していた。周囲に生えた、高さ数十mはある『大木』。それらに擬態するかのように、それは自身の細長い巨体を伸ばし、立っていた。

 やがて、それは……。獲物を値踏みした捕食生物が、先回りしようとするかのように。その身体を地面へと引き込み、そして……。

 地中へと、その姿を消した。

 後に残るは、直径が十mはある『穴』。その穴の内部と周辺には……、

『闇霧』が、漂っていた。

 

 

 ツクミの淹れてくれる紅茶は、実にうまい。

 きっと、放課後にティータイムしてた軽音楽部の子達は、毎日こんなのを口にしてたんだろうな……などと、真は勝手に考えつつ、二杯目を飲み干した。

 いや、それ以前に。異世界であるクリエイタニアにも、「紅茶」という飲料とその文化がある事に、真はちょっとした驚きを有していた。

 この世界、どうにも……色々と自分の世界との「共通点」が多いように思える。単位もメートル法だし。ひょっとしたらコーヒーもあるかも。

 この辺りは、おいおい調べてみよう。

 今は……『クリエイテッド』。この超能力について、もっと学びたい。

「ふう、ごちそうさま。それで、ツクミさん。やっぱり王都には、様々な能力を有したクリエイテッドを持つ人も、やっぱり多くいるんですか?」

「ええ。ただ……『クリエイテッド』を持つ人は、よほど信頼がなければ、他者には『クリエイテッド』の詳細は口にしないものなんです。なので……『おそらくそういう人もいる』とは言えますが、具体的に『誰がどのように』までは、私にも分からないですし、知っていたとしても、おいそれとは言えないです」

 ま、そうなるよなあ。

 ……あれ? でも、それじゃああの二人は?

「でも、だったらミリアさんとクリスさんは? どうしてあの二人は『クリエイテッド』を持ってる事を教えてくれたんです?」

「それは……お二人は、『責任』があるからです」

「責任?」

「……お二人は、イマジン王国の『戦い』の先陣を切らねばならないお立場にいらっしゃいます。『霧獣』との戦いのみならず、他国からの侵略者や、国家の危機。そう言った時に、鼓舞し、力を見せる事で、兵士や国民の皆さんを安堵させる『シンボル』としての役割をも担っているのです」

 それに、何より……と、ツクミは言葉を続ける。

「……クリエイテッドという力を持つゆえの『責任』……イマジン王国と、その国民を守るための『責任』。それを一身に受け、その行動を国民のみならず、周辺各国に知らしめる義務も……同時に存在するのです。なので、イマジン王国では、ある法律が制定されています」

「法律?」

「はい。イマジン王国の王家の血筋、もしくは王家に仕える人間で、なおかつ強力なクリエイテッドを有している人は、その力を私利私欲のために使わず、『公務』に、あくまでも国民のため、国を守るために使わなければならない……という法律があり、それに従わなければなりません。そして、その法を順守するために……義務ではないですが、自身の能力をある程度公表する事が習わしになっています」

 ……なるほど、公的な存在としてその身を置いているから、その『能力』を持つ事を皆に知らしめて、そして……それを用いて公務をこなし、責任ある『行動』として示す義務を有しているわけか。

 だから、隠さず堂々と『自分が力を持つ事を、示さなきゃあならない』わけか。

 ブチャラティ風に言えば、

 

『公務は遂行する』、『責任も負う』。「両方」やらなくっちゃあならないってのが「イマジン王国・王室」のつらいところだな。

 

 ……ってとこか。

 きっとその『覚悟』も、できてるんだろう。

 だとしたら、二人はアベンジャーズみたいでもあるな。特に王女や王族が特別な戦闘能力を持ってるってとこは、ブラックパンサーか、X-メンのストームみたいじゃないの。

「……ミリアさんと、クリスさん。二人とも……スゴイんだな」

「え?」

「あ、いや……あんなスゴイ力を持ちながら、そうやって為すべき事をしてるのは、とても魅力的だ……と思ってね」

 真のその言葉に、当初驚きを見せていたツクミは……くすっと笑みを浮かべた。

「そう、ですね。お二人が聞いたら、きっと喜ばれると思います」

 が、真はツクミのその笑みに、やや違和感を覚えた。

 どこか……寂しそうな笑みにも思えたのだ。

「ええと、それで、姫様とクリスさんは?」

「姫様は、休まれています。昨日は激務でしたので、しばらく眠られるとの事で。クリスさんは、霧獣などの敵襲来に備え、待機されています」

「『敵』? 空でも霧獣が出てくるんですか?」

 その質問をしてから、すぐに真は自分のマヌケさに気付いた。昨日のマンティコア……だったか。あの怪物も、ミリアのフィア・ファイアと空中戦を行えるくらいに空を飛べたのだ。

『飛行可能』な霧獣も、存在して当然だろう。

「ええ。ですが心配なさらないで下さい。『空』に闇霧が発生するという例はなく、霧獣が襲撃するにしても、見晴らしが良い現在の天気なら、すぐに見つけられます。これが夜や曇り空だったら、大変でしたけどね」

 空も、安心はできないってとこか。

 この様子なら、おそらく海や湖など、水辺や水中にも同じく存在するだろう。昨日の戦いを見ていたら、クリエイテッドを持たない一般人の兵士も、戦って勝てなくはなかったけど……かなり苦戦してた。こんなのが恒常的に湧いて出てくるんなら、これらと戦える力を持つ人間は、率先して前に出る必要があるだろう。

 まさに、『大いなる力には、大いなる責任が伴う』だ。

 溜息をつきつつ、真がそんな事を考えていた、その時。

「!?」

『警報』が鳴った。

 

「状況は?」

 クリスの元へ、船橋の指揮室へと、ミリアが駆け込んできた。

「飛行型の霧獣を目視で確認。数、50以上。内10体以上が巨大化。現在、後方5時の方向より接近中!」

 簡潔に、しかし、必要な内容を素早く述べたクリスは……船橋の窓から外の様子を見つめていた。

「……50以上!? ……ちょっと……楽観視できない数ね」

 ミリアリアは、上擦っている自分の声を聴いた。

「砲撃準備は完了しています。ですが……」

 クリスの言葉が詰まった事から、ミリアは悟った。

 おそらく、生きては帰れない。

 通常ならば、飛行型霧獣は10体前後の群れを作る。その大きさも、さほどのものではないのが普通。小回りが利かなくなるので、巨大化も群れ内部で1~2体が普通。

 しかし……、

 50体で、しかも10体以上が巨大化している群れなど、聞いたことがない。そんな大量に集まっている状況もまた、聞いたことがない。

 それに、これほど大量の霧獣が発生するなら、相応の『前兆』……、大量の闇霧が発生するなどの前兆が起こって然るべき。

 ファーグから出立する時、兵士たちからは報告は無かった。飛行空船が出発する前には、周辺に闇霧や霧獣が発生していないか。それを確認したうえで出発する。今回も、闇霧も霧獣も確認はされなかった。

 ……帰還を急いだため、十分とは言えなかったが。

 が、いまや『原因』よりも、『現状』をどうすべきか。そちらを優先すべき。

 あれほどの数の飛行霧獣の群れに対抗するには、完全武装した戦艦十数隻が必要。申し訳程度に武装しただけの王家用船舶がたった一隻では、交戦するのは自殺行為。

 何か、違和感がある。

 が、まずは……生きのこらねば。

「魔力石駆動機関、全力前進! できるだけ距離を取って!」

 

「飛行型霧獣の大群?」

 船橋に呼ばれた真は、現状をミリアたちから教えられ……絶句していた。

「……マコト様。こう言ってしまうのはなんですが……どうか、『覚悟』を決めておいてください。この状況下では……あなたの身の安全は、保障できません」

「……わかりました」

 絞り出すように、返答する真。

 何か言って力づけたいと思ったが、何も……浮かばなかった。

 今現在、なんとか群れとは距離を取っているが……それでも追いつかれるのは時間の問題だという。

 クリスも、ツクミも、そして……兵士たちも。全員の顔に浮かぶのは、絶望的な悲痛なる表情。

 何か、打てる手はないのか……。

 が、そうこうしている時。

「前方、山頂付近に巨大な闇霧を確認!」

『クイーン・スミア』の進路上、山の山頂付近に、巨大な黒い霧が……渦を巻いていた。

 霧は……徐々に固まり、それは……その姿を露わにする。

「……闇霧、凝縮・固体化していきます!」

 兵士の言葉通り、山頂の闇霧が、徐々に集まり、そして……。

「それ」は、山頂にとぐろを巻いて……その姿を現した。

「……霧獣、出現を確認!」

 クリスが、鋭い眼差しをそいつに向けた。

 そいつを見た真は、一見『大蛇』に見えたが、徐々に近づくにつれ、ミミズや芋虫、細長いヒルのような印象を強めた。

 その巨体。山の頂上から尾根にぐるりと巻きついているところから、全長は数百mから数kmはあるだろう。

 頭部は、爬虫類のそれとは程遠い。眼も、顎も無く、円形の口があるのみ。

 いや、その円形の口の周辺に、無数の触手がうねっている。とぐろを解いたそいつは……明らかに『クイーン・スミア』に注意を向けるかのように、鎌首をもたげていた。

「あれは……『巨大死蚯蚓ジャイアント・デスワーム』! ……あのクラスの霧獣が、どうしてここに……」

 クリスの眼差しが、驚愕から恐怖のそれに変化した。

 デスワームと呼ばれた霧獣が、巨大な鎌首をもたげ……後ろに引いた。

「まずい! 避けろ!」

「間に合いません!」

「全員、衝撃に備えろ!」

 真はクリスの言葉に従い、近くの椅子に座り、身体を固定する。

 次の瞬間、

『デスワーム』の鎌首が、まるで毒蛇のハブのように、勢いよく放たれた。

 触手に覆われた、丸い口が……『クイーン・スミア』に襲い掛かるが、操舵手の捜査によって直撃は躱せた。

 が、直撃しなかっただけで、衝撃が無かったわけではない。その巨大な長虫の体当たりは……飛行空船の側面を破壊するのに足るものだった。

 衝撃が、乗組員全員を襲う。

「船体の状況を報告しろ!」

「船尾推進装置、左舷破損!」

「浮遊石加熱装置、及び浮遊石、異常なし!」

「浮遊反応、異常なし!」

「報告します! 敵霧獣、本船左舷破損部に、頭部口腔部周囲より触手を伸ばし、本船に絡みつき固定しています!」

 そして、更なる絶望の報告が。

「報告します。後部より霧獣『翔竜鳥リンドブルム』型の接近を確認!」

 50体以上の霧獣の群れが、視認できる程度に接近してきたのだ。

 リンドブルムは、いうなれば『鳥に近い体型のドラゴン』といった姿の霧獣。ドラゴンと比較したら、前肢が無く、顔や身体つきもまた、鳥に近い。

鋭い嘴と鋭い爪を持つ後脚は鳥めいているが、その翼はコウモリのそれ。しかも縁部分が鋭く研ぎ澄まされ、まるで刃物。

 大きさは、その多くが5mくらいだろうか。そんな怪物どもが、群れを成してこちらに迫っているのだ。

 中には、巨大な個体……昨日のマンティコアと同じか、それ以上に巨大になっているものもあった。

 この状況。まさに『前門の虎、後門の狼』ならぬ、『絡まれたデスワーム、追いつきつつあるリンドブルム』。

「船長、主砲発射の許可を!」

「許可します! 後部主砲、撃て!」

『クイーン・スミア』の後部主砲が火を噴き、弾丸が発射された。

 密集しつつ飛来したリンドブルムの群れは、ほとんどがその砲撃を回避。が、砲弾はかろうじて一匹に命中し、その胴体を吹き飛ばした。

 一匹は倒した。が、たった一匹。

 後部主砲が、再び発射されるが、リンドブルムの動きは素早く、当たらない。

「姫様!」

「ええ、クリエイテッド!『フィア・ファイア』!」

 船橋の外すぐに、あのドラゴンがその巨体を現した。が、

 リンドブルムが高速で接近し、すれ違いざまに翼で切り付けた。

「うああっ!」

 フィア・ファイアが切り付けられるとともに、ミリアリアの身体にも切り傷が刻まれる。

 リンドブルムは、鳥に近い体型のドラゴン……といった姿の霧獣。

 フィア・ファイアもまた飛行は出来るが……、飛行能力のみに関しては、リンドブルムの方が『上』。

 それ以前に……的の数が多すぎる。

 リンドブルムが連続で切り付け、それとともにフィア・ファイアの傷も、ミリアの傷も増えていく。

「姫様! 私も……」

「だめよクリス! あなたのクリエイテッドは『飛行』はできないわ! 本体の近くに浮遊する程度ならともかく、『飛行』と『空中戦』までは不可能! ……それよりも、あなたは船を守りなさい! ……いや、この船に絡みついている、デスワームの方を!」

「はい!」

 クリスはすぐに、左舷甲板へ、デスワームが触手を巻き付けている場所へと駆けていく。

 ツクミはというと、不安そうに外を、そして傷が増えるミリアへと視線を泳がせている。

「…………くっ」

 そして、その様子を……、

 真は見ているだけだった。

 しかし、見ながら……、

 真は、考えを巡らせていた。思考を止めず、回転させ続けていた。

 

 だが、次の瞬間。

「マコトさん、危ない! 逃げてっ!」

 ツクミが叫んだ。

 ミリアのフィア・ファイアの攻撃をすり抜けて来た、リンドブルムの一体が、

 船橋の、真が居るその場所へ、鋭いその嘴を突き刺したのだ。

 それは、巨大な個体。嘴の一撃はツクミをも巻き込み、彼女を床に叩き付けて気絶させた。

「ツクミさん! ……うわああっ!」

 そして、リンドブルムの嘴は、真を摘まみ上げると。

 そのまま空中へ、彼の身体を放り投げた。

 

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