異世界にレオパルドンを持ち込むのは反則ですか? 作:塩田多弾砲
「……俺は……『傍観』するばかりだったな……」
リンドブルムに空中に放り出され、落下中。
真の脳裏に走るのは、自分が『傍観』していた事。
そして、その事による『無念』。
事故でこの片足が、右足が効かなくなってから……自分自身は多少の不自由を被りはしたが、それほど『悲観』はなかった。
だが、代わりに『無力感』を感じる事も少なくは無かった。お年寄りや妊婦や、自分と同じく何らかのトラブルを抱えた人、そして助けを求める人。そういった人々を見かけても、自分が助ける事はできず……誰かが助けるのを傍観する事しかできなかった。
もちろん、自分は身の丈に合わない事をするつもりは無いし、無理や無茶を通すつもりもない。
……いや、
しかし、それでも……『助けが必要な人を、助けたい』と思う気持ちはある。だからなんとかして、どうすれば自分でも助けられるか、そのために自分はどうすべきか。そういった事を思案し、実行し、わずかではあるが成功する事もあった。
けれど……やはり多くの場合、自分は『助けられる』側であり、『助ける』側ではなかった。
片足が効かないってだけで、誰かを助けられない。自分の事だけで精いっぱいで、他者を助ける『余裕』が無い。
現に今も、怪物に襲われ、そして……殺されかけた。
情けない。助けたいのに、助けられない。
……クリエイテッドなる『能力』が、あるかもしれないとは言われたが、それの出し方も知らないし分からない。
しかし……、
この世界に初めて現れた時、この世界の『空中』に出た時、確かに自分は『マーベラー』を出せた。あの時はただ単に、口にしてみた……ところがあったが。
そもそもが、
『なぜ落下して死にそうな時に、マーベラー=レオパルドンの事が頭に浮かんだのか?』
あの時、危機的状況下にあった。そして、
正直、今も危機的状況下。それも、あの時と比べ物にならないほど危険。
が、同時に……頭の中に『マーベラー』が、『レオパルドン』が、浮かんでいる。
ムックや関連書籍に掲載された写真のように、細部まで詳細なイメージが、頭の中に浮かんでいる。
加えて、そのイメージは、
「…………」
こんな状況で、自分は傍観する事しかできないのか? 許されないのか?
『傍観』するだけでなく、『助ける側』になれるか?
もう一度、呼び出せるか?
いや……『呼び出せるか?』じゃない。
『呼び出す』んだ!
なにをぐずぐずしている?
呼べ! マーベラーを一度出せたのなら、もう一度出してみろ!
「…………」
自分へと、自分が叱咤する声が聞こえてくる。
落下しつつ、真は左腕を伸ばし。
「……クリエイション!『マーベラー』!」
叫んだ。
『クイーン・スミア』は、リンドブルムの群れに、完全に囲まれていた。
船橋にて、ミリアは荒い息で膝をつき、周囲を見回していた。
既に船橋の天井は、リンドブルムの嘴に何度も突かれて、天井はほぼ存在しないほど……穴を穿たれていた。
船橋にいた船長と乗組員、兵士たちは、全てが突かれて、あるいは嘴により空に放り出され……生きながらえているのは、ミリアとツクミのみ。
ツクミは床に倒れ、動かない。ミリアリアは助け起こしたかったが……自分もほとんど動けない。
何故なら、自身の分身たる『フィア・ファイア』が猛攻を受け、血みどろの様相となっていたからだ。
既に彼女のクリエイテッドは引っ込めている。というか、ミリアの生命力が低下していたため、引っ込めざるを得なかった。
……出せたとしても、多勢に無勢で、万が一にも勝ち目はない。
船の左舷は、外装が破壊され、内部の機械類がむき出しに。そこへとデスワームが、巨大な頭部を船中に深く突っ込んでいる。その様子はまるで、生きた獲物の腹へ頭を突っ込み、内臓を喰らっているかのよう。
『こちら機関室! デスワームの触手が! ……うわああああっ!』
『た、助けてくれえっ! ……ぎゃあああっ!』
『こちら船倉! 非戦闘員は全員こちらに移りましたが……ああっ、扉が! いやああっ!』
船橋の伝声管より、船内各所から悲鳴が響いてきた。その全てが、デスワームによる殺戮と……その犠牲者の断末魔。
デスワームは、船内に触手を入り込ませ、船内の人間を次々に襲っていたのだ。触手が突き刺し、締め上げ、床や壁や天井に叩き付け、血祭りに。
ややしばらくすると、それらの断末魔は消え……静かになった。
その沈黙が語るのは、冷徹にして残酷な『現実』。おそらく船内全ての人間が……デスワームにやられてしまったに違いなかろう。
「くっ……だめだ、多すぎる!」
そして、甲板上ではクリスが、船内から伸びてきたデスワームの触手、そして空から強襲するリンドブルムの群れに、『
が……その行動は徒労に。
『百剣の騎士』が、様々な剣で斬り付け、触手を切断するものの……切った端から触手は次から次へと再生し、きりがない。
それと同時に、空中からの攻撃。
『
とうとう力尽き、クリエイテッドも引っ込め……膝をつく。
「……はあっ、はあっ、はあっ……」
疲労が激しすぎる。戦うどころか、立つ事も、クリエイテッドを出す事もできない。
そして……、
船は徐々に、デスワームに引っ張られて地面に近づいていった。デスワーム自身が、巨大な錨と化し、動きを強制的に止められている。
デスワームの顎と触手から逃れる事は、今の自分たちにはできない。
仮に逃れられたとしても、リンドブルムの群れから逃れる事はできない。
そして、戦う事も……できない。
「……これまで、なの? ここで終わるっての?」
ミリアの心が折れかけた、その時。
ほとばしる『轟音』が、彼女の耳に響いた。
「!」
ミリアは、それを聞き、
「!!」
クリスは、それが『砲撃』と知り、
「……あれ、は……!?」
意識を回復したツクミは、砲撃した『それ』を見た。
自分たちを助けた、飛行空船が……、
『マーベラー』が再び飛来し、リンドブルムの群れを攻撃していたのだ。
「……『理解』、できたぜ」
マーベラーの、コックピット内部。
そこで、真は……コックピットシートに座っていた。
「こいつは本物だって事が、間違いなく『理解』できたぜ! 本物の……マーベラーだ!」
興奮とともに、操縦桿を握る。劇中に出てきたセットと同じ、レバーや計器類のレイアウトも同じだ。
そして、これを操る自分は、マーベラーの力を自分のものにできたのと同じだ。それを理解した、『理解』できた。
操縦方法は、なんとなくわかる。どのレバーを押し、どのボタンを押せば、どのように動くのか。それも理解できる。
目前にはモニターが、そして襲い来るリンドブルムの群れの様子が写っている。
先刻ならば、自分の無力さに絶望し、恐怖するしかなかった。が、今は違う。
「もういっちょ、喰らえ! マーベラー、カノン発射!」
飛行しつつ、マーベラーの前部から……強力な砲弾が再び発射された。
それは、先刻の『クイーン・スミア』の防御砲とは比べ物にならない。命中どころか、掠っただけで霧獣を破壊し、霧散させたのだ。
逆襲してくるリンドブルムもいたが、いくら嘴でつつき、翼で切り付けても、マーベラーの装甲に傷一つつきはしない。
そのまま飛行するスピードを上げて、軽々とリンドブルムを振り切ると……、Uターンし、再びマーベラーカノン。
砲撃に薙ぎ払われるが、仲間を掻き分けて巨大なリンドブルムが。そいつが体当たりを仕掛けてきたが、
マーベラーもそのまま、スピードを緩めず突撃した。
マーベラーと霧獣。勝ったのは当然、マーベラー。体当たりして巨大リンドブルムの片翼をもぎ取り、そのまま墜落させたのだ。
マーベラーの艦橋、獅子の頭部を思わせる艦橋が、霧散した闇霧を飛び散らせ、消滅させていく。もはやリンドブルムの群れは、その立場を変化させていた。獲物を狙う側だったのが、襲われ霧散される獲物の側になっていたのだ。
マーベラーの姿はまさに、天翔ける巨大な獣のよう。豪快かつ俊敏に、その巨体を巡らし、動かし、カノンを放つ。
空のリンドブルムを掃討した真は、
「お次はお前だ! デカいミミズ野郎!」
『クイーン・スミア』を助けるべく、次なる攻撃を。
「……試してみるか。映像は同じだったけど……ムカデ鉄人を怯ませたんだから、電気ミミズ……もとい、巨大ミミズにも効いてくれよ?」
呟き、
「マーベラー、ファイバーサンダー!」
叫んだ。
マーベラーより、再びカノン砲が発射された。
連続発射される、強大にして強烈な砲撃。その攻撃が命中したデスワームは、まるで電撃を喰らったかのように痙攣させた。
昆虫めいたキチキチキチ……という鳴き声とともに、デスワームは頭部の触手を緩め……、
『クイーン・スミア』を解放した。
「よっし! さすがはマーベラー! こいつはすごいぜ!」
だが、デスワームは。攻撃目標を飛行空船からマーベラーに変更し、それを実行した。
すなわち、その頭部の触手をマーベラーに向け、伸ばしたのだ。
触手から逃れたマーベラーだが、
「なっ!」
その先に待ち構えていたデスワームの尻尾が、マーベラーに叩きつけられる。空中できりきり舞ったマーベラーは、そのまま地面に激突……、
しなかった。
「この程度で……やられるかーっ!」
操縦桿を思いっきり引っ張った真は、マーベラーの推進器を全開にする事で地面への激突を避けたのだ。マーベラーは強引に空中へ舞い戻り……、
「マーベラー、チェンジ……『レオパルドン』!」
真の掛け声とともに、変形を開始した。
「あれは……」
ミリア、ツクミ、そしてクリスは、真が操るマーベラーの活躍を見守っていた。
見守りつつ、先刻から『予想外』の事が連発している事実を実感していた。
霧獣の群れに襲撃を受けた事も『予想外』。
その霧獣の群れ相手に、勝ち目のない戦いを繰り広げ、かろうじて生き残っているのも『予想外』。
そして、ストレンジャーの少年が、訓練もせずにクリエイテッド(これを持っていた事は予想していたが)を実体化させられた事も『予想外』。
さらに、そのクリエイテッドを操り、霧獣の群れをほぼ一掃した事も『予想外』。
これ以上、『予想外』は起こらないと思っていた矢先……地上の超巨大な霧獣・デスワームに襲われて墜落しなかったどころか持ちこたえ、『変形』までし始めている。
マーベラーの、見上げた獅子の頭部のような船橋が縦に分かれ、内部から人の顔に似た鉄の顔が。
それは、蜘蛛の巣のモールドが刻まれた船首部分を巻き込んで、前の方へとせり出て、地面を向いた。
それとともに、船尾に立っていた垂直尾翼が折りたたまれて船内に収納。更に、左右に広がっていた舷側が折りたたまれ……、逞しい『両足』に。
そして、増槽のように見える船体側面の箱状パーツが展開すると、ごつごつした巨大な拳が現れるとともに、巨大な『両腕』へと変形した。
「あれが、マコト様の……クリエイテッド?」
ミリアが呟き、
「巨大な、機械兵?」
ツクミが驚愕し、
「だが……強そうだ!」
クリスが期待を込めた言葉を。
『クイーン・スミア』に乗った三人に見られつつ……身長60mの巨大ロボが地面へと降り立つ。
両足の甲には、蜘蛛の巣のモールドが刻まれた、細長い六角形の装甲。
四角い胴体と両腕。角ばった拳は文字通り『鉄拳』。
胸部には、マーベラー時には船首だった箱状のパーツ。赤いパネルには、やはり蜘蛛の巣のモールドが。
頭部は、額に三角形のパーツ。顔は、すぼめたような、星型のような形状の口が特徴的。
その鉄の顔が……巨大な霧獣を睨むように見つめ返していた。
『レオパルドン』……それが、その巨大ロボの名前。そして、真のクリエイテッドの名前。
そのコックピット内で。真は自身が搭乗している事を実感していた。
デスワームは、山の尾根に身体を巻きつかせつつ、鎌首をもたげて待ち構える。
それに対し、レオパルドンはいささかも身構える事無く、地面を踏みしめ歩き出した。
デスワームの長い身体が、とぐろを解き、蛇のようにくねりながらレオパルドンに迫る。
レオパルドンはそれに動じず、デスワームの体当たりを受け止めた。怪物の口から伸びる触手を無造作につかんだレオパルドンは、そのまま引っ張り、引きちぎる。
触手が再生し始めるが、
「レオパルドン、パンチ!」
振りかぶった巨大ロボの鉄拳が、巨大ミミズの頭部へと炸裂し、吹き飛ばす。
更なる攻撃をせんと、レオパルドンが歩き出したが、いきなり側面から巨体が体当たりを。
それは先刻に、片翼を吹っ飛ばされた巨大リンドブルム。しかし、体当たりが全く功を奏しないと知ると、今度は嘴でつつき始めた。
『クイーン・スミア』の船橋を穴だらけにした鋭い嘴だが、レオパルドンの前にはまったく効かない。逆にその嘴を無造作につかみ取られ、巨大リンドブルムは脇へと投げ捨てられた。
地面を転がされながら、それでも立ち上がった巨大リンドブルムへ、
「アークターン!」
真は次なる攻撃を。レオパルドンの額から、金色のブーメランを放ち……、
それは、巨大リンドブルムの嘴を切断した。
「アームロケッター!」
止めとばかりに、両の拳を発射。巨大リンドブルムのどてっ腹にめり込み、貫き……断末魔の悲鳴とともに、巨大な霧獣は闇霧となり、霧散し……果てた。
「残るは、お前だ!」
拳を戻し、向き直ったレオパルドンに、デスワームは……、
レオパルドンの周囲を囲むようにして、ぐるぐると回り始めたのだ。
その意図はすぐに判明した。デスワームはレオパルドンに、その長い身体を巻き付けたのだ。まるで獲物をぐるぐる巻きにして締め付けるニシキヘビのように、デスワームはレオパルドンの身体をきつく締め付ける。
「マコト様! あれではさすがに……」
空中で、その様子を見守るミリアは……不安な眼を向ける。
が、その不安はすぐに、全く時間をかける事無く消え去った。
締め付け始めて十秒もせずに、レオパルドンがその両腕を開いたのだ。それとともに、デスワームの体中が引きちぎられ……デスワームの胴体の破片が周囲に飛び散った。それらはすぐに、闇霧へと変化し、霧散する。
身体の半身を失ったデスワームだが、それでもレオパルドンの身長の三倍はあった。
死なばもろともとばかりに、触手を再び伸ばすが……、
「レオパルドン、ソードビッカー!」
真はレオパルドンを操り、右脚側面に内蔵されていた、剣を引き抜かせた。
デスワームがその口を大きく開き、レオパルドンを飲み込まんとしたその時。
レオパルドンは、手にしたその剣を投げつけた。
剣はまるで槍のように宙を切り……、デスワームの頭部に深く突き刺さった。
巨大な霧獣は、断末魔の悲鳴と共に……爆発。
そして一刻後。霧獣とともに、周囲の闇霧は全てが消え去り……、
レオパルドンの巨体が、闇霧の晴れた大地に立っていた。
「まさか、あれだけの霧獣を、たった一人で……」
ミリアは、目前の光景を理解するのに時間がかかった。
ツクミも、それは同様。
「……あれほど強力なものとは……予想外、です」
体中を苛む疲労と傷で、くたくたになりつつも……自分たちを救ってくれた巨大ロボを、畏敬の念とともに見つめていた。
「……敵には、したくないな。マコト殿が味方で、良かった」
自分が本音を語るのを、クリスは聞いた。が、
「!?……高度が、下がっている?」
船が地面に迫っていく事も気付いた。
おそらくこれは、ウルリウム機関の破損が原因だろう。先刻にデスワームに船内を荒らされた時、破壊されたに違いあるまい。
飛行能力を無くした船が、バランスをも無くして大きく傾いた、その時。
飛行したレオパルドンが、船体を抱え込み……墜落を防いでいた。
レオパルドンはそのまま、飛行能力を失った『クイーン・スミア』を地面へと置き、
直立不動の姿勢を取ると、その姿を霧散させ始めた。
巨大ロボが、大量の光の粒子と化して、その姿を霧散させた、その後……、
巨体が立っていたその場所に、真が……座り込んでいた。
「……あの、また杖を無くしちゃったみたいで。助けてはくれませんか?」
やや間の抜けたその言葉に。
「……ええ、少し待っててくださいね」
ミリアが、声をかけていた。