異世界にレオパルドンを持ち込むのは反則ですか? 作:塩田多弾砲
真は、杖……代わりの、適当な棒を見つけ、再び歩行が可能に。
ようやく、『傍観するのみ』でなく、『助けられるだけ』でなく……、
『助ける事が出来た』。
その事を実感した彼だったが……更なる実感が……彼の心を曇らせた。
「……気に病む事は無い、マコト殿。クリエイテッドを知らない者に、いきなり『使え』という方が間違いだ。それに……あれだけの霧獣が攻めてくるのを予測できず、対抗策も立てておかなかったのは、私の……ミスだ」
ここは、『クイーン・スミア』内、船倉。
クリスはそこで、目前の……数多くの『遺体』を前に、自らを戒めるかのように言っていた。
「……わたしは、やはり……王女よりも、戦士になった方がよかったのかもしれません。……臣下を守れずして、何が王女……」
床に転がっている、メイドの死体。それに近づき膝をついたミリアは、彼女の開いたままの眼に手をやって、そっと閉じさせた。
ツクミもまた、彼女の後方で祈るように手を合わせ、目を閉じていた。
レオパルドンが霧散してから、真は近くに落ちていた木の枝を杖として、船内へ入って行った。
そこから、なんとか甲板までたどり着き、ツクミら三人と合流。その後に船内に生き残りが居ないか、けがを負い動けない者はいないかと、探していたが……。
その名の通り、デスワームは船内を『死』で埋め尽くしていた。船員も、兵士も、非戦闘員の召使やメイドたちも、そのことごとくが触手のもたらした『死』の犠牲になっていたのだ。
ここは異世界。近くに常に戦いが、殺し合いが存在する世界。
『死』は、すぐ近くに存在し、命の危険がより高く、死する事がより容易に起こり得る世界。
その事を、真は……実感した。否、『実感しなきゃならない』、そんな気がした。
「……姫様、そろそろ」
「……ええ、そうね」
ツクミに促され、ミリアは外へと向かった。
「マコト様、行きましょう。再び霧獣が現れないとも限りません。あなたのクリエイテッドが強力である事に意義は申しませんが……時間を置かずに何度も攻めてこられると、体力が持ちません」
そしてミリアも、真に促した。
「あの、この船員たちの遺体は……」
しかし、真は気になっていた。
死した船員たち。彼らの遺体を、ここにこのまま放置しておくのは、ちょっと抵抗がある。
「それですが……」と、真の言葉を遮ったミリアは、
「……これから、『フィア・ファイア』の炎で、船ごと『燃やします』」
「え? 燃やす?」
「はい」
「ちょ、ちょっと待って! 燃やすって……せめて、あとで戻って、遺体を回収して埋葬するとか、そういう事は……」
「……マコト殿。おそらく貴殿の世界では、同様の事件が起こったならば、そのようにしているのだろうな。我々とて、可能ならば手厚く葬りたい。彼らは王国民として、懸命に戦い、命を落としたのだ。葬儀される権利があって当然だ」
だが……と、クリスは言葉を続ける。
「……この周辺、闇霧の気配も徐々に濃くなってきている。闇霧は凝縮し実体化するだけでなく、人間や動物の死体にも寄生する。死体を依り代として、新たな霧獣と化するのだ」
「死体にも? ……って、え?」
戸惑う真の前で、クリスはいきなり『百剣の騎士』を抜き放ち、
「はっ!」
剣の一つを、真の背中越しに投げつけた。
「!……え?」
いつしか、メイドの死体の一つが起き上がっていたのだ。が、クリスのクリエイテッドが投げつけた剣に、胸を貫かれ……死体は動きを止めて倒れ込んだ。
死体からは、わずかに……黒っぽい霧のような気体が漂っている。
「……『理解』、しました。こういう事、なんですね」
真は実感した。死体の処理もまた、闇霧との戦いなわけだ。屋外の、それも闇霧の発生する場所で遺体を放置していたら……それに闇霧は憑依し、霧獣と化すのだと。
それに……ミリアたちの方がこの船員たちとの付き合いは長い。死んだ船員たちがゾンビめいた、『歩く死体』になって襲ってくる様子など、彼女らは見たくないだろう。
「……わかりました。行きましょう」
「……『ブレス・オブ・ドームフレイム』!」
旅に必要な、水と食料、それにいくつかの道具を船内から持ち出したのち。
ミリアは『フィア・ファイア』……ドラゴンのクリエイテッドを解き放ち、その口から猛烈な火炎を放射した。
一日前に、霧獣マンティコアを葬った火炎。吹き付けられたそれは、たちまちのうちに『クイーン・スミア』を包み込んだ。
まるで、巨大な棺を火葬しているかのよう。踊る赤色の炎は、幻想を見ているかのような美しさがあった。
やがて、炎に包まれた『クイーン・スミア』は、
『浮き上がり』始めた。何事かと思った真だったが、すぐに理解した。
船内のウルリウムが、『フィア・ファイア』の炎に熱せられて、浮力を産み出したのだと。
が、放たれ続ける『フィア・ファイア』の炎は、飛行空船を完全に包み込むと……、船の、浮遊石以外の材質を熔解させた。
火炎の中に浮かんだ、巨大な石の塊。炎に当てられた石塊は更に熱せられ、液化し、気化。
気化したウルリウムは、輝きながら高く、高く、空に浮かび……、
そのまま、空の彼方へと、消えていった。
真は思った。まるで、犠牲者たちの魂を、天に導いているかのようだ……と。
「……イマジン王国、第三王女、ミリアリア・レドカッスル・イマジンの名において……この炎が、忠誠心と献身に身を捧げた国民たちを、平穏の地へと導かん事を……」
ドラゴンのクリエイテッドもまた、消えると。その本体たる少女は、両手を合わせ、目を閉じ……『祈り』を、捧げていた。
クリスとツクミも、それに続く。真もまた、合掌。
しばらく、それを続けた後、
「……皆さん、それでは……先を急ぎましょう」
ミリアの言葉に、皆が頷いた。
……『急ぎたい』けど、これは……『急げない』よなあ。
杖を突きつつ、真は……その事を実感していた。
それも当然と言える。彼らは森林内に続く『道』を進んでいたが、それは当然ながら舗装もされず、整備などもされておらず、ただ単に踏み固められただけの獣道だったのだ。
そこはでこぼこして、非常に歩きづらい。そして真は、杖を突いており……このような歩きにくい道を歩く事は、不得手であった。
そして、真は嫌と言うほど、うんざりするほどに思い知らされていた。道なき道を歩く事は、自分にとっては他者よりも『困難を伴う』のだと。
……しかし、だからといって、泣き言を言うかっつーの。
真は疲労を覚えつつも、自身を叱咤。確かに『困難』はあるだろう。だが、この世に『困難』の無いものなどない。それに、挑戦してみれば、成功失敗はともかく、案外うまくいくものだ。
片足に力が入らない、片足の自由が効かないならば、それ以外の自分の身体を、もっと鍛え、もっと動かせばいい。
その為には、ちょっと協力してもらおう。
「……あの、クリスさん。ちょっとお願いが」
数分後。
「……これでいいか?」
「上等です。ありがとうございます」
クリスの『百剣の騎士』の剣で、近くの木の、太めの枝を切断。それとともに、近くにあった植物の蔓をロープ代わりに用い、真は即席の松葉杖を一組、作り終えていた。
「マコト様、それは……?」
ミリアが、不思議そうにそれを見つめる。
「ああ、これは『松葉杖』という道具です。肩の部分で体重を支える事で、片足を負傷していても歩けるようになる杖なんですよ」
そのまま、肩に力をかけ、立ち上がる。
「……よっし、うまくいった」
「それは、マコト様の世界では、良く用いられている道具なのですか?」
ミリアの言葉に、相槌を打つ真。
「ええ。自分も良く使ってました」
ついでに、壊れた時などは自分で修理したり、時には自作したりもした。
ともかく、これで前よりも格段に歩きやすくなった。
「さて、それじゃあ先を『急ぎ』ましょうか」
真が促し、ミリアはそれを聞いて、僅かにくすっと笑みを浮かべていた。
ミリアらが、森の中に姿を消して数刻後。
数分前まで、『クイーン・スミア』があった場所へ、近づく者たちの姿があった。
「なあ、あんなの今までに見た事あったか?」
「『あんなの』? 何が『あんなの』だ? さっきのデスワームのことか? それとも、燃えながら空に消えてったフライトシップのことか?」
「一応、燃えて天に召された船の方だ。とはいえ……さっきのデスワームもスゲエもんだったがな。俺は一度だけだが、デスワームを見た事があった。で、その後で俺以外の周囲の人間は、全員おっ死んだ。それだけじゃあなく、城砦都市自体がカルーク壊滅しやがった。まさに『デス』だ。デカいのは図体だけじゃなく、危険度もブッちぎりでデカいってもんだ」
「で? それがどうした。あんな超巨大な霧獣を見て『スゲースゲー』と騒ぎたいってのか?」
「つーかよー、そうやって俺をディスるのがデフォになってねーかオメーよぉ。俺が言いたいのは、そんな危険度最大の霧獣を、あのデカいクリエイテッドがこれまたカルークぶちコロしたってのがスゲくないか? って事だ」
「……そうだな。確かにあんなクリエイテッドは見た事が無い。人型で巨大な存在なら、多くは無いが相応に存在するし、変形するものもだ。だが……あれだけ頑丈で強力なものは、俺も見た事が無い」
「だろ? ……でだ、これからどうする? 俺らの任務は、イマジン王国の王女と騎士の監視、あわよくば拉致……だったが……まさかここまで霧獣が大量発生するとは思ってもみなかったぜ」
「確かにな。それに加えて、あの巨大な未確認のクリエイテッド。一体何が起こっているのか、見当もつかん」
「王女サマと騎士殿、やられちまったか?」
「二人のクリエイテッドは、あの未確認クリエイテッドには及ばずとも、この地域では最強の一角を成すクリエイテッドだ。おそらくは生き延びているかもしれん」
「しかし、船ごと燃えちまったんなら、遺体を確認したくともできない……」
「しなくていいぞ」
二人へと、言葉を重ねる者の声が。
「隊長?」
二人がふりむいた先には、一人の女性が。
しなやかさと同時に、力強さを兼ね備えた四肢。軍服めいた服に身を包んでいたが、それでも隠し切れない大きな胸と腰つきは、魅力的であると同時に……危険なものも感じさせた。鋭い目つきとともに、全身から鋭い気配を醸し出している。まるで抜き身の刃が歩いているかのような、そんな印象の女性だった。
「ご苦労。別の部下から、報告を受けて駆けつけてみたが……。リンドブルムの群れとデスワームが発生し、それらを未確認の巨大なクリエイテッドが掃討したと聞いたが、間違いないか?」
「はっ! 自分も目撃しました! 未確認クリエイテッドは、飛行空船から巨大な人型へと変形し、デスワームを一撃で倒し、すぐに消えました!」
「俺も目撃してやす。飛行空船形態では、船前部からの強力な砲撃を、人型では額の三角形の飾り、および両拳を発射し、武器としていやした」
「お前たちの飛行空船は?」
「申し訳ありません、クイーン・スミアを追跡中にリンドブルムの群れの襲撃を受け、不時着しました。なんとか自分ら二名が脱出し、デスワームと未確認クリエイテッドとの交戦を地上から視認した次第であります!」
「そうか……しかし、デスワームを一撃で倒したというのは、にわかには信じられんな」
「いえ、間違いありやせん。奴は人型で、デスワームに巻き付かれ……そんな事が何でもない感じに、腕を開き胴体を引きちぎりやした。で、半身が残ったデスワームは、飲み込もうとしやしたが……」
「未確認クリエイテッドは、どこからか剣を抜き、それを投げつけたのです。それがデスワームの頭部に突き刺さり……爆発しました」
「ふむ……その、未確認クリエイテッドの本体は? それに、王女たちはどうした?」
「確認しようとここにかけつけましたが、既に本体らしき人物、および王女らの姿は周囲には見えません」
「……」
隊長と呼ばれた女性は、二人の男の言葉を聞き、何やら考え込むように思いにふけっていたが、
「……ミリアリア王女に、騎士クリス。二人の強力なクリエイテッドに、そんなクリエイテッドが加わったら……少しばかりまずい、な」
「いかがいたしやしょう? このまま援護を待ちやすか?」
男の片方から問われ、
「いや……おそらく奴らは、ここからそう離れてはいない場所にいるかもしれん。それに……移動手段も、徒歩のようだ」
女性は、足元の足跡に目を落としつつ、答えた。
「脱出用のボートを使ったのでは?」
もう片方の男からの問いには、
「思うに……霧獣の群れに襲われた時、壊されたのだろうよ。でなければ、徒歩での移動などしないだろうからな。それに……」
足跡の中に、普通とは違うものが、杖の跡も残っているものを見つけ、
「……『歩行速度』も、遅めかもしれん。今から追えば追いつけるだろう。連中は疲れている。我々三人のクリエイテッドを用いれば、捕まえる事も難しくはなかろうよ」
にやりと、彼女は微笑んだ。もうじき獲物をしとめる事が出来る。そんな確信めいた笑みだった。
真は今、座り込んでいた。
クリスは自分のクリエイテッドから、今度は大ぶりな剛剣を実体化させて、倒木を切り刻んでいた。
そして、積み上げた薪に、ミリアが『フィア・ファイア』を実体化させ、ほんの僅か、炎の息を吹きかけた。
薪が燃え、焚火になる。その炎を見て、真は安堵を覚えた。
木々の中、下生えの少ない開けた場所。そこで皆は、今晩はここで泊まろう……という事になったのだ。
松葉杖を作った後の旅は、さして妨害も無く、トラブルも無く、霧獣との遭遇も無かった。
しかし、霧獣の群れと死闘を繰り広げ、かろうじて生き延びたのだ。ミリアも、クリスも、そしてツクミも、疲労度は限界だろう……と、真はなんとなく感じていた。
なので、
「すいません、疲れたので、一休みしませんか?」と、真は申し出て……現在に至る。
森の中は、ひんやりしてやや肌寒い。日も傾きはじめ、薄暗くなりつつある。
「どうぞ、お水とパンです」と、ツクミが小さなカップに、固い保存食の小さなパンを差し出す。それらを受け取った真は、その石のようなパンを苦労しつつ噛みちぎり、無理に飲み下した。
「持ち出せた水と食料は、これだけだった。これらが尽きる前に、早く森を抜けられればいいのだが……」
クリスの不安そうな声が、森の中に響く。
「…………」
それ以上に、ミリアは不安そうな表情を浮かべていた。
「あの……ミリアさん?」
真が声をかけるが、
「…………」
何かを考え込んでいるかのように、ミリアは落ち込んだまま。
「ミリアさん? どうか、しましたか?」
「……え? あっ、はい。いえ、別に……なんでも、ありません……」
いや、なんでも『ある』。何か思い詰めているような、そんな表情。
先刻の、船員たちを救えなかった事で、まだ自分を責めているのだろうか。
その『思い詰めた表情』を変えようと、
「……ねえミリアさん。『クリエイテッド』って、この世界における個人の『思い入れのある存在』を、実体化させたもの……なんですよね」
唐突に、真が質問してみた。
「え? あ……はい。そうです」
「という事は……ミリアさんと、クリスさん。お二人の『フィア・ファイア』と『百剣の騎士』も、お二人ともそれぞれ思い入れがある……って事、ですよね」
「ええ、そうです」
「……そうだな、私も思い入れがあるから、あのクリエイテッドを持てたわけだ」
頷く二人に、
「なら、もしよかったら……それらのクリエイテッドの『元ネタ』を教えてもらえませんか? あれだけスゴイドラゴンと騎士なら、さぞかし元ネタもスゴイのでは」
「静かに!」
いきなりクリスが立ち上がり、『百剣の騎士』の剣のみを周囲に実体化させ……周辺を見回した。ミリアもまた、立って身構える。
「え? なにを……」
突如訪れた、緊迫した空気。
真は戸惑うが、すぐに彼も感じ取った。殺気めいたなにかの気配を。
その張り詰めた空気は、少しの間、流れ……、
「……失礼した、マコト殿。気のせいだったようだ」
「ええ。私も何か、殺気を感じましたが……気配は消えました」
と、クリスとミリアは安堵し、緊張を解いた。
「……闇霧か、霧獣でも、近くにいたんでしょうか?」
ツクミが不安そうにつぶやくが、動くものは視界の中には見当たらず、わかる限りではあの黒い霧も見えない。
「…………」
だが、真は。まだ周囲に浮遊したままの、クリスの『百剣の騎士』、ないしはその数本の剣を見つめていた。
「マコト様? どうかなさいましたか?」
問いかけるミリアに、
「……すいません、ちょっと質問です」
質問で返答する真。
「……クリエイテッドに関してですが……クリスさん、これってあの騎士の剣『だけ』ですよね」
「? ああ、そうだが?」
「それでしたら…………」
「……隊長。発見しました」
先刻の男たち。
眼鏡をかけた、二人の男の片方。彼はずれてもいない眼鏡を直し、『隊長』と呼ぶ女性へと報告した。
「クリエイテッドを使ったのか?」
「はい。私のクリエイテッドで接近し、姫と騎士の姿を確認しました。他には護衛などおらず、メイドと、『ストレンジャー』らしき少年が一名ずつです」
眼鏡の男の報告を聞き、もう一人……隣にいた、顔に傷のある男が、
「よしッ! ならば今度は、俺が一気に力業で……」と、張り切る様子を見せるも、
「いや……お前はまだ待機だ。お前よりも、まずは私のクリエイテッドで攻撃してみる」
顔に傷のある男の、ややしょんぼりした表情を見て、
「……大丈夫だ。お前の出番はすぐに来る。お前のクリエイテッドは大きいし、強力だからな。あの巨大クリエイテッドに対抗できるのは、お前しかいない。その時に、大暴れしてやれ」
隊長は、力づけるように言葉をかけた。
「はっ! おまかせください!」
「うむ……。それで、奴らは?」
眼鏡の男に、隊長が問うが、
「奴らに『気配』を感知されそうになったので、距離を置いていますが……何やら、話し合っている様子です……ん? あれは?」
「どうした?」
「いえ、その……な、なんだっ!?」
眼鏡の男が、いきなり狼狽えた。
そして、彼のクリエイテッドは。真がクリエイテッドを実体化させ、それに乗り込んだ一行が、その場から離れていくのを感知していた。
「あとで、メモをしとかなきゃな」
クリエイテッドのメモ。『元ネタの、一部だけを実体化させる事も可能』。
それをクリスから聞き出した真は、その実践を試みて、見事に成功。
森の中の獣道を、四人が乗り込んだ『マシン』が、高速移動していた。
「ま、マコト様! これもまた……そうなのですか?」
「ああ! こいつは『マシーンGP7』! レオパルドンの、一部です!」
真が乗っているのは、流線形のスーパーカー。それはまるで、猛禽類の顔のような印象を与えるデザインをしていた。
フロント部分に描かれているのは、クモの巣の模様。運転席はオープントップで、後方にはエンジンと、小さな補助翼が付いている。
『マシーンGP7』
元ネタたる、東映版スパイダーマンに登場する、スパイダーマン=山城拓也が運転する、マーベラーに内蔵されたスーパーカー。
時にスパイダーマンの足として地上を走り、時には空を飛んで巨大化したマシーンベムを翻弄したり、飛来したマーベラーへと飛行してスパイダーマンを搭乗させたりと、様々な活躍をする万能マシンである。
クリエイテッドの『一部』のみを出せるのなら、これもまたマーベラー=レオパルドンの一部。
真は先刻の、クリスの『剣のみを出した「百剣の騎士」』を見て、このマシーンGP7のみを出せないかと思いついたのだった。
かくして実体化したマシーンGP7は、森の中の獣道を走破していた。先刻までの徒歩の遅さが嘘のように、高速移動している。
だが、獣道は狭く、車が走行するのには向いていない。加えて、前方に倒れた大木が。
ならば……、
「皆さん! 『飛ばし』ますよ!」
そのまま真は……マシーンGP7を、空中へと飛ばした。
「ま、マコトさん? ……ひゃあっ!」
「これはっ……空も飛べる、のか?」
「ま、マコト様のクリエイテッドは……本当に、『予想以上』の事ばかりですっ!」
ミリア達の驚愕を背中に感じつつ、真はマシーンGP7のスピードを上げていく。
そのまま真たちは、森の上空へと姿を現した。既に日が落ち、夜の帳が落ちている。
頬に夜風を受けつつ、真は……改めて、驚愕していた。
俺は……自分は、本当に、『クリエイテッド』なる能力を、身に着けた……いや、身に着けて『しまった』のだ、と。
そして、これから……おそらくはこれに見合う『責任』も、負わされることになるのだろう。
だけど、今は……、今くらいは、得たこの力を楽しんでも良いだろう。
眼下には、イマジン王国の領土……緑の森と山、平原が広がっているのが見えた。
本当に、こうやって見る分には……。自然豊かな、平和な場所としか見えない。雄大な山脈と、生き生きとした緑。夜空には月と星とが、優しい光を灯している。
頬にあたる風が、いささか冷たいが、心地良くもあった。
「……このスピードなら、おそらく今晩中には王都に辿り着けるだろう。マコト殿、重ねて礼を言わせてほしい」
「はい! マコトさんは、命の恩人です!」
「……私からも、お礼を言わせてください。マコト様……ありがとう、ございます」
三人の美少女から、三者三葉の礼を述べられ、
「どういたしまして、みなさん!」
高揚感を覚えつつ、真は夜空を飛んでいった。
「……あれは?」
そして、地上から。
真らが飛び去る様子を、やはり驚愕とともに見ている三人が居た。
「……クーン。あれがそうか?」
「はっ、ティラン隊長。自分はクリエイテッドの分身の一体を、接近させて偵察していたのですが……間違いありません。あの走行・飛行するクリエイテッドは、ストレンジャーの少年が出したものです」
「……となると、あのデスワームを倒した、巨大クリエイテッドは、誰が出したのだ?」
「……他にストレンジャーがいるんでしょうか? どうしやす? このまま王女らを追いやすか?」
「いや、ドラーゴ。引き返すぞ。クーン、お前に確認するが……ストレンジャーの少年が、あの小さなクリエイテッドを出した事は確かか?」
「間違いありません。自分が確認できた範囲では、少年が出したクリエイテッドは、
「その、巨大クリエイテッドは『変形』したとの事だが。あの小型クリエイテッドが変形する、という可能性は?」
「それも考えられません。巨大クリエイテッドが人型に変形する前は、獅子の意匠の巨大な飛行空船でしたから。ドラーゴもそれは目撃しています」
「俺も見やした。それに、大きさも俺のクリエイテッドと同じくらいでやしたし」
「……ふむ……」
ティランと呼ばれた女性は、考え込むように沈黙し、
「……とにかく、今は戻るぞ。あの少年のクリエイテッドも気にはなるしな。行くぞ、クーン、ドラーゴ」
「「はっ!!」」
三人は身をひるがえし、その場を去った。
そして、三人とはまた、別の場所にて。真のマシーンGP7が飛び去る様子を遠くから見つめる、人影があった。
それは、まるでその様子を目に焼き付けんとするかのように、じっと見据えていた。
それから、一時間ほど経過。
整備された街道を上空から発見した真は、マシーンGP7を着地させ、地上を走行させていた。
飛行は可能ではあっても、GP7で空を飛ぶのはやはり疲れる。やはりスーパーカーは地上を走るものだしな。
そんな事を考えていると、
「マコト様! そろそろ、王都です。……ほら、見えてきました」
ミリアの言う通り、前方に……巨大な『壁』が見えてきた。間違いない、都市全体を囲っている城壁だ。
高さは……おそらくレオパルドンと同じくらいだろう。そこはファーグ市よりも、はるかに規模が大きいように思えた。
「マコト様、ようこそ我が国……『イマジン王国』王都『サラモリア』へ。王女ミリアリア・レドカッスル・イマジンの名において、歓迎いたします」
ミリアのその言葉に、安堵するとともに……、
『不安』を、真は覚えていた。先刻以上の、問題と騒動に巻き込まれる『不安』、先刻以上の戦いに巻き込まれる『不安』を。
だが、『不安』とともに『期待』もしていた。今の自分は……無敵の巨大ロボ『レオパルドン』がついている。
この身一つなら、おそらく不安に押しつぶされ、心折れていた事だろう。だが、レオパルドンがついているなら話は別。これから、レオパルドンでどんな敵と、霧獣と戦えるのか。それを期待している自分がいる事も、確かに感じ取った。
マシーンGP7は、そのまま……新たな冒険へと真を誘うかのように、サラモリアへと進んで行った。