異世界にレオパルドンを持ち込むのは反則ですか? 作:塩田多弾砲
6話:活気の無い王国に逗留するのは反則ですか?
「…………」
真は、若干複雑な気分に陥っていた。
異世界の空に落ちて来た彼は、そこで王女と騎士とメイドさんに助けられ、逆に助けもした。
そして、その身を預けられる事となり、それを承諾。そうして、イマジン王国王都『サラモリア』へとやっては来たものの……。
「……あまり『活気』が感じられないなあ」
というのが、正直な感想だった。
王都の上空、特に城の周辺は、ウルリウムの飛行空船が飛んではいけない決まりになっている……要は、飛行禁止区域に指定されていると、ミリアたちから説明を受けた。
それと同じく、王都周辺を囲む城壁。それを飛行空船でそのまま中へ入る事も禁止されている。王都に入りたくば、城壁外に船を着陸させ下船。関所で入場の許可を得てから入らなければならない。
真はマシーンGP7を王族専用の入場門近くへ走らせると、そこで降り、クリエイテッドを消した。そこから門に向かい、番兵らの前に姿を現したのだ。
そこから、煩雑な手続きを行ったうえで……、ようやく入場が許可された。
「王女殿下、無事にご帰還されて何よりです。入場を許可します」
兵士からの言葉に、ミリアは頷き、
「ありがとう。では、マコト様」
「あ、はい」
真を促した。
門は大きく、頑丈なつくり。その重々しい扉が開かれ……、真は王都内へと足を踏み入れた。
門を通り抜けたそこは、乗り合い場所。様々な動物が、乗り物、もしくは運搬のためにと待機していた。
馬が繋がれた荷車へと、人間の形をした機械……鎧を着ているような大柄な人型の機械が、大きく重そうな木箱を、いくつも運び込んでいた。どうやらあの人型機械が、ミリアが言っていた『
簡単に言えば、魔力石を動力として動く、ロボットのようなもの、カラクリ人形らしいが。
「ふーん、『馬』は存在するんだな……」
それとともに、
「あれは……『自動車』?」
真は思い出した。マシーンGP7が、『
おそらく、飛行空船のように『魔力石を動力源として動く車』といったところだろう。
とはいえ……数が少ない所を見ると、あまり普及してないようだが。
などと考えつつ、真はミリアたちの案内で……待機していた『馬車』へと向かった。
やはりまだ、馬車などの動物に牽引させる乗り物や、動物そのものに跨っての移動手段の方が多いようだ。
荷役獣もまた、馬が最も多く、それに次いで牛やロバなどの姿が目につく。このあたりは、どうやら真の世界と共通している様子。
が、
「……ダチョウ? ……じゃないな。エミューとかジアトリマとか、あんな感じの鳥だな。それにあっちは……恐竜?」
大きな二足歩行の鳥や、巨大なトカゲもしくは恐竜のような大型爬虫類などを見ると、『異世界に来た』という事を実感してしまう。
「あの鳥は『バンブ』といいます。馬に比べ体力はやや劣りますが、その分早く走れるので、クリエイタニアでは主に乗用に利用されているんです」
「トカゲの方は、『ザムファ』だ。鈍いがその分力があるため、牛やロバ同様に、荷役獣として用いられている」
真の疑問に、ツクミとクリスが説明してくれた。
やがて、待機していた馬車に真等は乗り込み……、
「では、出発しまス」
王宮へと向かい始めた。
小柄な御者が、手綱を握り馬車を走らせる。
馬車の窓から見えるサラモリア市内は、街路には石畳が敷かれ、石造りの建物が通りに沿って建っていた。その様子は、中世……というより、18~19世紀のヨーロッパの都市部のような、そんな印象を真に与えていた。
「…………」
だが、やはり……、
『活気』が無かった。民たちの様子は、必死に元気を出そうとしてはいるものの、気力も体力も限界、疲れ切った様子だった。
「……あの……」
「……お気づきになりましたか、マコト様」
真が質問を口にする前に、ミリアがその質問に回答した。
「イマジン王国は、小さな国土の独立国家です。小国といえど、かつては領土もあり、活気もあり、霧獣の脅威はあっても……それなりに平和でした。ですが……このところ、国家間の紛争や、大規模な霧獣との戦闘が多く、国家自体が疲弊してしまっているのです」
「過去には、魔力石の鉱脈があり、それを採掘し加工して輸出していたのだが……鉱脈は今や枯渇し、わが国には現在、これと言った資源や財源が無いのだ」クリスが、ミリアを補足した。
つまり、戦争の危機に瀕しているのみならず、経済的にも危機に瀕している状況。
「……でも、疲弊してるなら……近隣諸国から侵略されたりとかは?」
「その危険性はあります」と、今度はツクミが。
「なので、隣国と条約を結び、防衛に関しては協力してもらっている状態なのですが……。イマジン国内ではそれを良しとしない一派もあり、問題になっているのです」
国家には、闇霧や霧獣以外の問題も存在している。
隣の国が攻め込んで、自分の領土にしてしまう危険性も、その一つ。
だから、その国と友好を結び、不可侵条約をかわしたのだろうが……人は約束を『破る』こともある。戦争や戦乱、災害、霧獣の襲撃、不安要素は数限りなく存在する。
加えて、経済的にも良くは無く、明日の希望も見えない。
なるほど。こんな状況下なら、『活気』が出るわけがない。
「……あの、ミリアさん。それに、クリスさんにツクミさん」
しばらく考え込んでいた真は、今まで考えていた『思い付き』を、口にした。
杞憂かもしれないし、必要ないかもしれない。しかし……混迷しているこの状況下では、やはり必要になるんじゃないか。そんな気がしたのだ。
「……わかりました。そのようにいたしましょう」
彼の『思い付き』を聞いたミリアとクリス、そしてツクミは、
その言葉に頷いた。
王宮の大広間にて。
玉座の前に、ミリアら三人、そして杖を手に苦労しつつ、王に向けて膝まずき、頭を下げる真の姿があった。
「……面を上げよ。マコトと申したか、そちの言い分、だいたい分かった」
イマジン王国、国王・ケイナス・イマジンが、玉座から声をかけた。
ケイナスの印象は、ファンタジーものRPGによくある、『勇者に魔王討伐を依頼する、典型的な王様』といったものだった。それなりに威厳がある中年男性だが、あまり……『これといった個性』が感じられない。
ミリアによると、実の父ではないという。実の両親は相次いで亡くなり、ミリアは立場上『王女』の地位に就いている状況なのは、先刻に聞いていた。
なんとなくだが、『お飾りで王座につく事になった、普通の男』みたいだなと、真は王を見て思っていた。
「よかろう。ろくなもてなしはできないが、そなたを我が国の賓客として迎え入れよう」
そう言ってくれたものの……あまり歓迎されている感はない。
ケイナス王自身のみならず、周囲の閣僚たちの表情は曇っており、中にはあからさまにしかめっ面の者も。
ほとんどの者が、明らかに『面倒ごとがやってきた』と、拒否しているかのような表情を浮かべていたのだ。
「ではミリアリア、マコト殿に関しては、お前に任せる。それで……」
本題とばかりに、ケイナスは周囲の人間に目くばせした後に、
「……マコト殿。そなたに聞いておきたい。そなた、この世界の『クリエイテッド』の事は聞いておるか?」
「はい。うかがっております」
「……ならば、聞いておこう。おぬし、クリエイテッドを『持っているか?』」
「はい」
「では、それを見せてもらおうか」
王宮、中庭。
「これが、俺のクリエイテッドです。……クリエイション!」
ケイナス王を含む、ほぼ全員が王宮の外に移動し、
真は彼らの前で、己のクリエイテッドを顕現させた。
「……『マシーンGP7』!」
彼の目前に、先刻まで出していたクリエイテッドが。スマートな車体の自動車……スパイダーマンが駆る専用ヴィークルが、その姿を現していた。
「ほう……」
「魔動車のクリエイテッドか……」
「早そうだが……大局を覆すほどではなさそうだな……」
ひそひそと、そんな声が聞こえて来る。
「…………ふむ。で、このクリエイテッドは何ができる?」
「高速で移動できます」
乗り込み、エンジンをかける。そのまま、マシーンGP7は発進。王宮を臨む中庭を疾走した。
「……これは……馬車や、普通の魔動車より早いな」
「……確かに、使いようによっては役立ちそうだ……」
「……まあ、霧獣相手に戦うには、やや力不足の様だが……」
閣僚や大臣たち、彼らの様子を遠目に見た真は、
『まあまあスゴイが、大したもんじゃあないな』
という彼らの気持ちを、なんとなく感じ取っていた。
ひとしきり走らせた後、
「もうよい。そなたのクリエイテッド、しかと目にしたぞ。なかなかのものだ」
ケイナス王からの言葉に、真はマシーンGP7を停車させ、降り立った。
「ありがとうございます」
「では、後の事はメイドに世話させよう。下がるがいい」
やれやれ、やっと解放されるか。
杖を突きつつ、その場を後にする真。
「あの、こちらに」
ツクミが真の手を引き、導いてくれた。
「…………」
導かれつつ、真は、
「……少しばかり、『嫌な空気』が流れてるな」
そう感じざるをえなかった。
真にあてがわれた部屋は、お世辞にもあまり良い部屋とは言えなかった。
「……ファーグ市の屋敷の部屋の方が、まだまともだよなあ。別に豪奢な部屋に泊めろとは言わないけど、これじゃまるで……」
『独房』みたいじゃないか。
装飾品らしきものは無く、簡素な寝床と、やはり簡素な魔灯具の明かりが一つと、必要最低限の家具があるのみ。窓は一応ガラスがはまり、鉄格子も無い。が、飾り気も無く殺風景。
いや、独房というより、『廃墟』に近いと、真は思い直した。
とはいえ、贅沢を言える立場でもない。ベッドにごろりと横になり……真は大きくため息をついた。
溜息をつきつつ、彼は馬車の中で、ミリアらとかわした会話を思い出していた。
あの、『取引』した内容を。
…………………
「……あの、ミリアさん。それに、クリスさんにツクミさん」
しばらく考え込んでいた真は、
「……この世界、クリエイタニアの実情と、イマジン王国の事情は、大体わかりました。それで、その……」
……今まで考えていた『思い付き』を、口にした。
「……『取引』を、したいのですが」
「『取引』……ですか?」
首をかしげるミリアに、頷く真。
「……結論から申しますと、俺は『元の世界に戻りたい』んです。幼い日に、俺は母親を失い、十年前に父親とも死に別れました。俺を育ててくれたのは、叔父夫婦です。……その叔父も亡くなり、俺の家族は、今は叔母だけです」
「そのような、事情が……」
驚愕したミリアにうなずき、真は言葉を続ける。
「……この俺が、クリエイタニアという異世界に居たままだと、叔母をひとりぼっちにさせてしまう。だから俺は……元の世界に、戻りたい」
なので、と、話を切り出す。
「……なので、皆さんにお願いします。『元の世界に帰る手助け』をして下さい。そのかわりに……俺のクリエイテッド『レオパルドン』の力を、可能な限りお貸しします」
『直感』ではあったが、真は確信していた。
この姫様と、女騎士と、メイドさん。この三人は……おそらく悪人ではない。
もしもこの四人で無人島に流れ着き、飴玉一つしか手持ちの食料が無く、皆が空腹だったら。
三人とも、他者に一個しかない飴玉を譲りあう事だろう。
ひょっとしたら、自分はそう思うようにダマされているのかもしれない。が、真のこの『直感』は、けっこう当たる。
この足の自由が効かなくなってから、人を観察する『癖』がついたせいか、結構いろいろな人間の『善意』と『悪意』に接してきたせいか。少なくとも現時点において、彼女たちは『信用するに足る』と真は感じていた。
しばしの沈黙の後、
「……分かりました、そのようにいたしましょう」
ミリアの返答が、沈黙を破った。
「ならば、こちらからもお願いがあります。目下……わたしにも抱えている『問題』があるので……その問題解決に協力してはいただけないでしょうか?」
「問題?」
「詳しくは、後で話すが……簡単に言えば『姫様の護衛』をしてもらいたいのだ」
クリスが言葉を継ぐ。
「詳細は後で説明するが、ミリア姫は何者かに狙われている。おそらくその黒幕は……王宮内部に居るはずだ。しかし……それが誰かは分からない。なので、異世界から来て間もないマコト殿に、ミリア姫を守っていただきたい」
「護衛ですね? わかりました、やらせていただきます! ……って、あれ?」
即答したら、再び沈黙が。というか、三人とも目を丸くしている。
「……よろしいのですか? そんなあっさり」
ツクミの言葉に、
「もちろん! 俺も何もしないで、元の世界に戻る……ってな事は考えてないですからね。それに……レオパルドンならば、どんな相手でも倒してみせますよ!」
と、受け合う真。
しかし、
「マコト殿、その……貴殿のあのクリエイテッド、『レオパルドン』と申したか? その事についてだが……可能ならば、内密にしていただきたいのだが」
クリスの言葉に、今度は真が目を丸くする。
「それは構いませんが、なぜです?」
「先刻言った、姫様を狙う者。その彼または彼女が、『デスワーム』を瞬殺したほどのクリエイテッドを持つ者の存在を知ったら……まず間違いなく『警戒』して身をひそめ、暗殺の矛先をマコト殿にも向けるだろう。我々も、そんな事は避けたい」
なるほど。強力すぎる『力』は、その使い道の善悪関係なく、人を『警戒』させ『恐怖』させる。ミリア姫を狙ってるのが誰かは知らないが……そいつの立場から考えると、レオパルドンほどの強力な力を持つ奴を知ったら、間違いなく『警戒』し『恐怖』する事だろう。
「わかりました、秘密にしておきます。ならば……俺のクリエイテッドは、『マシーンGP7』という事にしておきましょう」
…………………
「……『レオパルドン』……というか、『マシーンGP7』だけを出せて助かったよ。もしも違ってたら、少々メンドクサイ事になってただろうしなあ」
ひとりごちた真は、改めて先刻に自分が実体化させた、マシーンGP7の事を思い出していた。
レオパルドン本体に比べれば、能力的にかなり落ちるが……あれくらいならば『注目』も、『危険視』も、『警戒』もされないだろう。
だが、『こちらが警戒』するに越した事は無い。用心しすぎかもしれないが、ここは『霧獣との戦いが恒常的に存在する、危険な異世界』。
クリエイテッドの事を含め、馬鹿正直に自分の事を周囲にバラす事も、良い判断とは思えない。
当面は正体を隠し、このままやっていくしかないだろう。
とりあえず、王宮に置いてもらえるかどうかの、当面の目的は解決した。
「さて、これからどうしたものか……」
安堵しかけた真だったが、再び問題が発生。
「腹、減ったな……」
考えてみれば、今日摂った『食事』は……。
朝食は取っておらず、昼前あたりに『クイーン・スミア』号の船室で、お茶とお菓子をごちそうされた。その後で、霧獣の群れがやってきて、戦って。
解決した後に、森の中に入って、野営した時にパンと水とをもらって……、
考えたら、今日口にしたのは『それだけ』だ。それを思うと、ますます腹が減ってくる。
贅沢は言わんから、何か腹を満たすものを……、
「……!?」
扉からのノック音が、
コン、コン、コンと、二秒ほどの間隔を置いて『三回』。
続き、コン、ココンと、長め『一回』短め『一回』長め『一回』。
「O……K……ツクミさんかな?」
先刻に『取引』に関し話し合った時。真は仲間内のみで用いる『合図』も教えていた。簡単にだが、ノックでのモールス信号を教えたのだ。
それと、『合言葉』も。
杖を突きつつ扉に向かい、その前に立った真は、
「……『ナポレオンの切り札は?』」
合言葉を述べた。
「……『ダイヤの13』」
扉の向こうからは、その返答が。真がゆっくり扉を開くと、
「……えっと……どちら様?」
そこには、ツクミでも、クリスでも、ましてやミリアでもない者が、立っていた。
「……ワタシは、あなたに『三つ』伝える事がありまス」
その者は、ツクミ同様にメイド服に身を包んだ女性。後ろには、押してきたのか。布が被されたワゴンがあった。
ツクミよりも小柄で、ツクミにはない『不信感』を、漂わせていた。
「『一つ』、食事をお持ちしました。とりあえず、そこにアホみたいに突っ立ってられると、ワゴンを中に入れられないんで、どいてくれると助かるんスが」
低い背に、やや浅黒い肌。一見すると子供かと思ったが、醸し出す雰囲気は、子供のそれではない。どことなく、鞘に納めた短刀を連想させた。
逆らうのは得策では無かろうと、真は後ろに引き、ベッドの縁に座った。
「どうも。『二つ』、姫様とクリス様から伝言がありまス」
ぶっきらぼうにも、どこか見下しているようにも思える口調とともに。彼女はワゴンを室内へと入れ、自分も入り、扉を閉めた。
「はい。で、その伝言とは?」
「まず、姫様から。『マコト様、これから色々とご苦労とご迷惑をおかけすることになると思われますが、どうかよろしくお願いします。イマジン国内にいる限り、衣食住に困らないように努めますので、どうかご心配なく』と」
それから……と、彼女は言葉を続けた。
「クリス様からは、『マコト殿。貴殿の力になれるよう、私と姫様は全力を尽くそう。私から出来る事は、マコト殿にクリエイテッドの使い方をマスターさせる事くらいだ。私達の忠実なる部下、イブキ・クロカゲを師事させる。クリエイテッドの正しい使い方を、その者から学んでもらいたい』……以上でス」
イブキ・クロカゲ?
「……分かりました。で、そのイブキさんは、今どちらに?」
「アナタの目前に居るメイドがそいつでス」
「え?」
「『三つ』……自己紹介させていただきまス。私が、イマジン王国・王室内メイドの一人、でもってついでに『直属隠密兵』などをやらせていただいてる、『イブキ・クロカゲ』と申しまス。以後、お見知りおきを」
「……あ、はい。ええと、拝田真と申します」
「挨拶は結構でス。先刻の馬車で会話されてる時から、大体の事情は把握し、理解しておりまス。ま、そういう事なので、アナタのクリエイテッドが『レオパルドン』なるものである事も存じておりまス」
……あの時の『御者』?
「ご心配なく、ワタシは姫様に忠誠を誓った者。この命は姫様のために存在するものでス。内密にしていただきたいと姫様が望まれているならば、それに従うまででス。それよりも……」
ワゴンの布を取り、室内にあった折り畳み式の小さな食卓を真の前に広げると……、
テーブルクロスを敷いたイブキは、そこに食事を並べた。
「空腹でしょうから、はやいとこ食事をどうぞでス」
並べられたのは、堅皮のパンにチーズ、ハム、乾燥した果物、それに水差し。贅沢とは言えないが、腹を満たすには十分だろう。
「クリエイテッドの訓練は、明日の夜から始める予定でス。何か質問は?」
ぶっきらぼうで愛想など無いが……するべき事はちゃんと行うといったタイプの人物らしいなと、真は彼女の眼差しを見て思った。
よく見たら、ツクミよりも小柄だが、顔立ちは整っている。短めに切りそろえられた髪も、ファッションよりも機能性重視した結果なのだろう。目つきは良く無く、いわゆる『ジト目』な感じだが、見慣れればそう悪くもない。
「質問がないなら、ワタシはこれで。ワゴンは出しておいてくださいでス」
「……『質問』です」
イブキを呼び止めた真は、
「クリエイテッドの『訓練』ですが、『明日の夜』ではなく、『これを食べ終わってからすぐ』は、できますか?」
そう、問いかけた。
そうだ、俺は今『異世界』に居て、チート級の『能力』を有しているのに、それを使いこなすための『技術』が無い。
マーベラーとレオパルドンを使ったのも、先刻にマシーンGP7を出してみせたのも、『なんとなくやってみたら出来た』という感覚的なもの。どこか『確信』が足りない気がする。
レオパルドンを、使いこなしたい。某京兆の兄貴じゃないけど、モンスターマシンを手に入れても、それを乗りこなせずミミッちい走りしかできないんじゃあ、正に宝の持ち腐れ。
少しでも、『訓練』しておきたい。その機会があるのなら。
「……わかりました。では、食べ終わるまでワタシはこちらで待たせていただきまス。それと……」
「はい?」
「……ワタシの教えはキビしいでス。覚悟しておくように願いまス」
そう言って、僅か、ほんのわずか、
イブキは、真へ微笑んだ。