異世界にレオパルドンを持ち込むのは反則ですか? 作:塩田多弾砲
「おはようございます! ……って、マコト様?」
朝。
真にあてがわれた部屋にて、ツクミが訪れて起こしに来たが。
くたくたに疲れた真の身体は、朝が訪れても『休息・睡眠』を求めており、覚醒を拒否していた。
早い話、昨晩に行ったイブキとの訓練が、かなりハードだったという事。そのため、全身筋肉痛。ついでに疲労も身体を縛ってたり。
「あの、朝ですよ? 起きて下さい……」
ツクミの声を聞きながら……既に目を覚ましていた真は、わざとそれを無視して寝たふりを続ける。
ううっ、キビしいとはイブキさん言ってたけど、あれほどとは思わんかったよー。眠いー、筋肉痛が痛いー。
クリエイタニアに来る前から、筋トレ自体はやってたけど、ここまで筋肉痛がじんじん響くほど筋肉を酷使した事はなかったよー。
今日はこのまま、一日中寝てたいー。疲れたらやっぱ休まなきゃなあ。人間休息が必要だ。ツクミさんだったら、イブキさんと違って優しいだろうから、このまま寝かせておいてくれるだろうし……、
などと考えてたら。
ばしゃっ……という水音とともに、結構な量の水が、マコトの頭にぶちまけられた。
「うひゃっ! ……って、な、なんだっ?」
あわててベッドから起き上がると、そこには、
「おはようございます、マコト様」
空の水差しを手にしたツクミが、にこやかな表情を浮かべていた。
「……おはようございます。って、あのー、その水差しは?」
「申し訳ありません。マコト様がお目覚めにならないものですから、ちょっと利用させていただきました。代わりの洗顔用の水と飲み水は、今すぐにお持ちしますね」
って、一応自分は客人なんだけどなあ。イマジン王国では、目覚めぬ客人に水ぶっかけて無理やり起こすんかい。心の中でそんなツッコミをしてみた真は、
「おはようございまス、マコト様、ツクミにそうスるように命じたのは、メイド長のワタシからの命令でスので、どうかご心配なくでス」
イブキもまた、姿を現していた。
「は、はあ。さいですか」
彼女の顔を見て、真は昨夜の模擬戦を思い出していた。
あれから、『フィア・ファイア』の他に、クリスの『百剣の騎士』、その他『大蛇』や『巨鳥』など、大小様々な見知らぬ、名前も知らぬクリエイテッドと対戦した真は、ただの一度も攻撃を当てられなかった。
体力が尽きて倒れ、気が付いたらあてがわれたこの部屋のベッドで目が覚めていた次第。
見ると、着替えさせられていた。下着は流石にそのままだったが、パジャマらしきものを今は着ていた。
「……で、今晩も同じくらいの時間に、昨夜と同じく『女神の手の平』にて訓練を行いまスので、お伝えしておきまス。マコト様は、お昼の間は可能な限り、ミリア姫のお側に付いてくださいでス」
そうだった。元の世界に帰るため、ミリア姫を守るって約束していたっけ。
「は、はい……」
まあ、姫様を守るためなら、戦わなくちゃあならないし、戦うためにはクリエイテッドを自由に使えるようにしなくちゃあならないから、訓練する必要があるわけだけど。
夕べみたいに一方的にフルボッコ、そして今以上の疲労がと思うと、ちょっと心が折れそうでもある。
「お召し物をお持ちしましたー」
ツクミが着替えと、洗顔用の水を持ってきた。とりあえず、着替えるとしよう。
『お着換えのお手伝いを』と言う二人のメイドを説き伏せ、真は一人で服を脱ぎ、用意された服を着てみた。
丈夫な布製のズボンにブーツ。そして、チュニックに似た上着を着て、腰にベルトを巻く。
着心地は、悪くない。サイズに余裕があるためか、むしろ最初に着ていた学生服よりも着心地がいいくらいだ。
そして、用意してくれたステッキを手にして、床に突き……立ってみた。
こちらも具合がいい。ステッキ自体は、いわゆる「T字杖」。やや重いが、真に扱えないほどの重さではない。金属製のそれはバランスが良く、施された装飾が実に魅力的。ゲームに出てくるマジックアイテムっぽくも見える。
部屋の鏡で、自分の服装とその姿を映し、
「……悪く、ないんじゃあないかな」
柄にもなく、見入ってしまった。
さてと、出よう。
一日が始まる。この一日が、どんなものになるか。それこそ神のみぞ知る、だ。
杖を突きつつ、真は扉に手をかけ、廊下へ足を踏み出した。
「……何が、言いたいのですか?」
午前中の会議。
閣僚を前に、ミリアは……『憤り』を感じていた。
「単刀直入に申し上げる。姫様はあのよそ者……あのストレンジャーの小僧をなぜあそこまで目を掛けられる?」
慇懃かつ攻撃的な口調で、閣僚の一人が言葉を投げつけて来た。
「……異世界から迷い込んできた者に、親切にするのは普通ではなくて? それに、彼は私たちの命の恩人です。礼を尽くすのは当然でしょう?」
ミリアの言葉に、
「……相変わらず甘えなあ。ミリアリア。そんな甘い事を言えるほど、お前は余裕があるとはな」
やや下品で、同時に力強さもある口調で、女性が口を挟んできた。
「ったく、昨夜遅くに姉貴と帰還したら、ミリアの奴がストレンジャーの男をひっかけて戻ってきたっていうから、驚いたぜ……。ま、自力でろくに歩けもしなけりゃ、クリエイテッドは貧相な車の『使えねえ』ヤツと聞いたが……そんなナマっちろい奴なら、お前には似合いだな」
嘲りを含んだ口調で、彼女は……ミリアへと言葉を投げつける。
「……ええ。少なくとも、クリエイテッドを持っている点だけでも、『持たない』……いいえ、『持てない』ザニア姉様よりは、戦場で『使える』人材ではありますね」
ミリアもまた、『持てない』『使える』という点を強調し、返答する。
「……おい、テメエがクリエイテッド持ちだからって、調子に乗ってんじゃねえぞ。クリエイテッドが無けりゃ、テメエも弱っちいだけの役立たずな事を忘れんな!」
「そちらこそ、クリエイテッドがあるからこそ、霧獣から国と人々を守れるのだと忘れないでいただきたいです。クリエイテッドを持たぬからと、八つ当たりするのはみっともないですよ」
「なんだとテメエ!」
剣呑な空気が漂うも、
「おやめなさい、ザニア。貴女が戦うべきは……妹ではないでしょう?」
その場を収めたのは、穏やかな女性の声。上座に、ケイナス王の隣りの席に座っている、神々しさを感じさせる一人の女性が放ったものだった。
「姉貴……でもよ!」
「ザニア。まことに強き者なら、その力を簡単にひけらかさないもの。そして、力劣る者や力無き物を、見下さないもの……違いますか?」
「そ、そりゃ、そうだけどよ……」
「ならば、反省なさい。勇猛な戦士といえど、身内への愛情を持たねば……ただの戦闘狂にすぎません。私の妹ならば、わかってくれますね?」
穏やかな声は、ザニアと呼ばれた豪快かつ下品な声と異なる、奥ゆかしいそれ。
しかし、有無を言わせない言葉の力、反論を許さない意志の力が、その声にはあった。
「とはいえ……ミリアリア。貴女の言葉も少々言い過ぎとは思いますよ。重要な事は、クリエイテッドを持つか持たないか、ではなく……一人ひとり、何が出来るか、という事です」
「メトリア姉様……そうですね、失言でした。謝罪します」
ミリアは頭を下げ、
「……まあ、姉貴が言うんなら、反省するぜ」
ザニアと呼ばれた女性も、不承不承それに同意する。
「ええ。姉妹は争うものではなく、愛し合うもの。わかってもらえて嬉しいわ」
メトリアと呼ばれた女性は、満面の笑みとともに、満足げにうなずいた。
「……ま、まあ。話を戻そう。あのストレンジャーの少年、クリエイテッドを持ってはいるが……その能力も、そう大したものではなさそうだし、適当に、穏便に済まそうではないか」
いささか威厳を欠いた口調で、ケイナスが議題を進めんと試みた。
正直、こういった議会での話し合いは、ろくに進んだ試しは無い。
夕べの報告の際もそうだったが……誰もが『現状の問題』から目を反らし、『解決策を出さず』、現状維持のままで『責任』を取ろうとしないのだ。
かつてはイマジン王国も、それなりに議会が回っていた時期もあった。が、ここ最近は、『現状維持』のみを良しとして、問題解決の『案』を出そうともしない。
出したところで、あれが悪い、これが良くないと文句を言い、結果的に却下。当然、ミリアの発言も同じく却下されてばかり。闇霧や霧獣の不審な大量発生も、隣国ガリアン帝国の動きも、対帝国のために周辺各国で同盟を結ぶ事についても、ろくに取り上げていない。
特に、先の紛争でミリアの実の父とその一派が亡くなってからは、その傾向が強くなっていた。
「…………はあっ」
目前の、茶番のようなやりとりを見つめつつ、
ミリアはいつものように、『早く終わってほしい』と願うばかりだった。
「……なるほど」
ミリアの執務室。
やや広めのその部屋には、扉が開いた正面に机がある。
その机とは別の、小さな机。部屋の端に新たに据え付けられたそこに、真は座っていた。
側には、ツクミが。
そろそろ、ミリアが午前中の会議を終えて戻ってくる頃合い。それまで、真はこの部屋に待機しておくようにと言われ……、
待機している間、彼はこの世界の成り立ち、『イマジン王国』の歴史、周辺諸国の知識などを、書籍から学んでいた。
「『言葉』のみならず、『文字の読み書き』もできるとはね。都合よすぎな感はあるけど……」
なんでも、ストレンジャーがクリエイタニアに転移される際には、例外なく全ての人間に、『意思疎通のための翻訳能力』が付加されるらしい。
その能力を用い、真は書籍を読み進めていく。
本を読む時、真は集中する癖があった。集中しすぎて、周囲で何が起ころうと気にせず、目前の書籍の内容に夢中になる。そのせいで、放課後に図書館にいたら、既に日が暮れていた……という事も少なくは無かった。
そして、読む書籍の内容が面白いものならば、その集中力はさらに高まる。
「……世界そのものは、オーソドックスはファンタジーものっぽいな。人間以外の種族は、ドワーフ、エルフ、ハーフリングに……ライカンってのは、獣人か」
とはいえ、科学技術の類は中世レベルよりも、少し進んでいる様子。何せ、『火器』『銃器』がある。と言っても、最新式の銃は単発式のマスケットのようだが。
魔力石により、電気は無くとも灯火があり、魔力石の補助で水道に近いものもある。一番近いのは、18~19世紀のヨーロッパのイメージだろうか。
『イマジン王国』は、マージニア大陸の北に位置する、小規模の王立国家。
かつてこの地に存在した『マージニア王国』の栄光再びと、その末裔たちが建国した……という歴史を有していた。
マージニア国は千年以上の歴史を持つ古代王国だが、イマジン王国はまだ建国から百年程度の若い国家だという。
現国王は、現在から五年前に即位した、ケイナス・ブルカッスル・イマジン。
ちなみに、前国王のデュラッヘ・レドカッスル・イマジンは、ミリアの父親。
主産業は、魔力石の採掘。しかし、最近は魔力石の鉱山が枯渇してしまい、ほとんど採掘できていない。そのため、経済的な危機に陥りつつある。
イマジン国の東側には、強大な軍事国家『ガリアン帝国』の国境があり、西側は、広大な山脈を擁する『ブリガンダイン公国』と接している。
そして、公国のその先には、大小の国家による『ユートピアン国家連合』、その中心的国家『イーグラント王国』の存在する内海『ハオース』がある。
この『ユートピアン国家連合』。要は過去に発生した、闇霧および霧獣による世界規模の戦争にて、人類側が協力して対抗するために設立したもの。
人類側の勝利により、戦争は終結。しかし、その後の国家間の問題や紛争は後を絶たなかった。
そのため連合は、『戦争法』を制定。クリエイテッド同士の代理戦争を行う事で、被害を最小限にして問題解決に努めてきた。イマジン王国も連合に加盟しており、当然その法律に従わねばならない。
「……要は、クリエイテッドを使ってGガンやロボジョックスのような事をしなきゃならないって事かよ」
どんだけ戦争がしたいのか、この世界の連中は。
……まあ、闇霧やら霧獣やら、危険が常時存在するのなら、『戦い』ありきの法律になって当然なのかもしれないけど。
その闇霧および霧獣も、地震や台風のような自然災害のように、自然発生する災害として捉えられている。それらに対抗するのも、またクリエイテッド。
「……なるほどな。ならば『クリエイテッド』の存在は、思った以上に重要なんだな」
「ええ、そうですよ」
「ミリアさんのあの『フィア・ファイア』も、俺が思っている以上に、王国民には頼りにされてるんだろうな。……そんな彼女を、俺が守り切れるだろうか?」
「え?」
「いや、守らなきゃ! 死んだ母さんも言ってた。男だったら、女の子を守れるような強さを持てって。腕力が無理なら、知力や技術など、別の力を用いて守りなさい……ってな」
「……そ、そうですか」
「にしても、お姫様を守る、か。クリスさんのような騎士みたいに、ミリアさんを守れるか……」
「私みたいにか? なら、戦術をもっと学ばねばならないだろうな。イブキにそう伝えておこう」
「そう、イブキさんに……って、え?」
と、クリスの言葉を聞いて、真は我に返った。
既に室内には、ミリアとクリスの姿があったのだ。それとともに……先刻から『返答』されてる事もようやく気付いた。
「あのー、姫様とクリスさんが戻られましたとお伝えしたのですが……」
おずおずと、ツクミが言葉をかける。
「……ええと、どのあたりから」同じくおずおずと、二人へ声をかける真に、
「……『じーがんやろぼじょっくすみたいな事を』あたりからか。どういう意味かは、わからないが」
そう言うクリスの後ろには、頬を赤らめているミリアの姿が。
「え、ええと……わ、わたしはその、大丈夫! 守られるより、守る事のほうが、わたしは得意ですから!」
などと言いつつも、嬉しそうに顔がにやけてしまってる。
「……そ、そうですか。はい」
などと返した真は、ものすごく『恥ずかしかった』。
(「いろんな作品でよくある『俺がお前を守る!』ってなシチュ、実際にやってみたら……なんだよこれ、すっげー恥ずかしいんだけど!」)
まるで女の子に「好きです、付き合ってください」などと勢いで告ったかのような、むずがゆい羞恥が身体を貫く。
「……あー、マコト殿。そろそろよろしいか? ……今後の事について、色々と話し合っておきたい」
と、クリスが。
それまでの浮かれた空気を払拭するかのような、冷徹な声で話しかけて来た。
「……ええと、確認させてください。まず、俺がここ最近でしなければならない事は『二つ』。
一つ、二週間後に行われる『ガリアン帝国との代理戦争において、ミリア姫を護衛』。
二つ、一月後の『イーグラント王国、ハオース海の島で行われる、ユートピアン国家連合の会議に同行』。それで間違いないですか?」
クリスから言われた内容を、真は繰り返した。
二週間後に、先刻にも口にした『代理戦争』、すなわち、国の代表同士の『決闘』が行われる。
イマジン王国側の決闘者は、ミリア。
ガリアン帝国側は、まだ知らされていない。
ガリアン帝国側の要求は、『イマジン王国にて、ガリアン帝国の軍の駐屯及び補給の全面協力の要求』、
イマジン王国側は、『ガリアン帝国側の要求を拒否』。その権利をかけて戦うのだという。
「しかし、ここ最近の動向からして、おそらくガリアン帝国側は、何か仕掛けてくる可能性が髙い。例えば、決闘前に姫様を暗殺、もしくは出場を妨害し、不戦勝にする、などな。なので、可能な限り、身辺に付いていてほしい」
それから……と、クリスは言葉を続ける。
「可能な限り、マコト殿が出すクリエイテッドは、マシーンGP7のみとするように。マコト殿のレオパルドンは、おそらく周辺諸国とのパワーバランスをやすやすと崩す事だろう。今のところは、他国にもその存在を隠しておいた方が良いと思われる」
「でしょうね。……で、もう一つの方は?」
「それについては、わたしから」と、ミリアが口を。
「イマジン王国は、マージニア大陸の北側に位置している事は……先刻から読まれていた書籍に書かれていたと思われます。そして……東と西の、それぞれの国家に挟まれていると」
ミリアの言う通り、イマジン王国は東のガリアン帝国、西のブリガンダイン公国とに挟まれている。
そして、西側はさらに進むと、大小の国家が集まる地域……『ユートピアン国家連合』の中心部へと続いている。
「ユートピアン連合に赴く理由は……そこで他の国家に協力要請をするためです。ガリアン帝国の昨今の不穏な動きのみならず、その周辺地域での闇霧や霧獣の活性化。それに対し、現在のイマジン王国では対処しきれないと思われるので……」
「他の国家に、助けを求める、ってわけですね」
「はい。おそらくは……その時にも何者かが襲撃するだろう事は、容易に想像できます。なので……」
「わかりました、それも任せて下さい」
「……さて。それでは……そろそろ昼食の時間ですね。お話の続きは、食事の後で構いませんか?」
ミリアの言葉に、真は自分が空腹な事に気付く。
「ええ、お願いします」
真はその事をなんとなく実感したが、
……ま、何とかなるか。くよくよ考えても、わからんものはわからんし。
どこか呑気に、そんな風に考える自分も実感していた