秀吉とムッツリが手を尽くして知り合いのカウンセラーやら精神科医を探し出した為、明久と雄二は何とか正気を取り戻した。
しかし、さらなる問題が発生する。姫路も翔子も、二人とも懐妊してしまったのだ。高校生でその状況はリスクが大きすぎる。明久と雄二は窮地にさらされることとなった。鉄人による連日の鉄拳指導はあったが、退学にならなかっただけでも有難い。
雄二はある意味母親公認だったからまだ良いが、明久は地獄だった。美波には「何でウチじゃないのよ!」と暴力を振るわれ、家では姉によるボッキリとした話し合いもあり、ボロボロになっていた。
どうあがいても逃げ場はなかった。三年になり、明久と雄二は何故か責任をとる形で十八歳の誕生日に婚姻届を提出した。女性陣は当然の如く狂喜乱舞状態だったが、男性陣は完全に魂が抜けてしまっていた。
しかし、明久と雄二が立ち直るきっかけになったのも、やはり子供の存在だった。『子は鎹』とは良く言ったもの。子を中心に置く形で、吉井家と坂本家は徐々に明るさを取り戻していった。
そして、十年の月日が流れる。
*****
「アキト君~、待ってよ~」
「待てと言われて待つ馬鹿は居ないっ!」
とある小学校の廊下で、吉井明希斗は一人の女子から逃げ回っていた。
明希斗は全力で走っているのだが、何故か引き離せない。それどころか、徐々に差が縮まっていた。
(ちょっと! 何か異常に速いんだけど!)
明希斗は追いつかれていることに驚愕する。これでも明希斗は学年で一番足が速い。その彼が逃げ切れないなんて、最早異常事態としか言いようがない。
明希斗が廊下を真っ直ぐ逃げていると、ちょうど曲がり角から人が出てきてぶつかりそうになる。
(――危なっ!)
明希斗は危うくその人を避け、なおも逃走をはかる。しかし、腕をつかまれて逃走が阻まれてしまった。
「もう明希斗くんってば、廊下は走っちゃダメですよ」
「お願い母さん、離して!」
明希斗を捕まえたのは、とある一人の女教師だった。
「学校では先生ですよ明希斗くん♪」
「それどころじゃ無えぇぇっっっ!!!」
その時、明希斗を追っていた女子が追いついてきた。
「瑞希先生ぇ~、そのままアキト君捕まえてて~」
「ヤバイっ! 追いつかれた! お願い離して母さんっ!」
「もうっ、女の子から逃げちゃダメですよっ」
明希斗は女教師に懇願するも、その教師は明希斗を追ってきた女子に差し出してしまった。
「ちょっと母さあぁぁぁんっっっっ!!!」
「アキト君つ~かま~えたっ!」
絶望の声をあげる明希斗にギュッと抱きつく女子。そして、そのまま明希斗の唇を奪おうとする。
「し、しょうゆちゃん! それは勘弁――んんっ!!!」
明希斗は抵抗も空しく、ファーストキスを奪われてしまう。
(俺のファーストキスがああぁぁっ!!!)
あまりの出来事に涙する明希斗。しかし、瑞希先生はその様子をニコニコして眺めていた。
「あらあら二人とも仲良しね。しょうゆちゃんったら、そんなに明希斗くんのこと好きなんだ?」
「はいっ、大好きですっ! 将来は絶対明希斗くんと結婚しますっ!」
「あらあら、孫の顔を見るのが楽しみね♪」
しょうゆちゃんの言葉にフフフッと笑みを浮かべる瑞希先生。
(ああ、父さんと雄二さんの言葉が痛い程よく解かる。けど雄二さん。せめて、しょうゆちゃんの躾はしっかりして欲しかった……)
明希斗の父と雄二さんが言っていた言葉、それは――。
『――男とは、無力だ』
完