Lily on Battlefield[更新停止中]   作:畑渚

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0002 クラン

 

 

 

 「クロハさん、本当にありがとうございました」

 

 

 「いえいえ、たまたま通りかかっただけですから」

 

 

 その後二人――アオイとクロハは意気投合し、安全地帯まで一緒に歩くことにした。

 

 

 「あそこもそうですが廃虚街というのは待ち伏せが多いです。今度からは一人では通らないほうがいいですよ」

 

 

 「みたいですね。本当に急がば回れって感じです。今度からは近道せずに安全な道を探すことにします」

 

 

 「そうですね、もしいればフレンドとかとチームを組むといいですよ。複数人でいれば襲われる確率は格段にさがりますし」

 

 

 「うーん始めたばっかりでフレンドはゼロなんですよね。リアルでの知り合いから隠れてやってるんでそっちもゼロですし」

 

 

 「アオイさんもですか」

 

 

 「も、ということはクロハさんもですか?」

 

 

 「はい、リアルでの知り合いはゼロですね。ただクランに入っていますし、数少ない女性プレイヤーということで話しかけてくる人も少なくないですからフレンドはたくさんいますよ」

 

 

 「クランかあ。私も入ろうと思ったんですけど知らない輪に入っていくのを躊躇しちゃって」

 

 

 「それわかります。でも勇気を出して入ってみると案外すぐに打ち解けられるものですよ」

 

 

 「ああクロハさんってどこのクランなんですか?」

 

 

 「……白百合です」

 

 

 「へえ、かわいい名前ですね」

 

 

 「全然です。由来はリーダーが百合が好きだからなんですが……」

 

 

 「百合が好き?ガーデニングとかが趣味なんですかそのリーダーさん」

 

 

 「ああ……うん、何も知らなくていいです。何も……」

 

 

 「何ですかその気になる言い方……まあこれくらいにしておいて、やっと着きましたね」

 

 

 前方の大きな壁を見上げながら言う。壁で囲まれているのはこのゲームで唯一エネミーやPKから身を守れる場所だ。大きい門をくぐると、プレイヤーとNPCがごちゃまぜになった大通りに入る。

 

 

 「今日は本当にありがとうございました」

 

 

 「いえいえ、また遊びましょう。あっそうだ、フレンド登録しときましょうか」

 

 

 「あっいいんですか!よろしくお願いします!」

 

 

 アオイはピコンという通知音とともにUIの端に表示されたフレンド申請に即座にYESと答える。

 

 

 「それじゃあ私もう落ちますね。おやすみなさい」

 

 

 「はい、おやすみなさい」

 

 

 クロハの体がスッと消える。それをみたアオイは少しふらふらと歩いた後、広場のベンチに座り込んで頭をかかえる。

 

 

 (もしかして私……クロハさんに一目惚れした!?)

 

 

 はたから見れば顔を赤らめ恋に悩む乙女だが、その内容は少し差異があった。

 

 

 (私って女性のほうが好きだったの?今まであんな気持ちになったことなんてないし……でもクロハさんかっこよくて美人で……)

 

 

 LGBTなどとはもう耳にタコができるくらいに聞いてきたし彼女自身も偏見は持っていないはずだった。しかし自分がそうかもしれないとなると話は別で、普通ではないという普段は潜んでいた思想が出てきたのだった。

 

 

 (あっもうこんな時間か。私も寝なきゃ)

 

 

 もう時計は0時をとっくに過ぎている。彼女だって一般人。朝が来ればまた社会人としての生活が待っている。

 

 ログアウトしようと端末をいじる手が止まり、スクリーンショットのフォルダを開く。そこには先ほどクレハと歩いているときにこっそり撮った写真が何枚も入っていた。

 

 

 (やっぱり私、クロハさんに惚れちゃってるんだな)

 

 

 写真に写るアオイの表情は、とても幸せそうで、誰が見てもそう思ってしまうほどだった。

 

 

 

 

 

「あーだるいな」

 

 

 寝る直前にゲームをしていると眠りが浅くなるというのを身体で実感しながら、黒住静葉は身体を起こす。

 

 

 「そろそろ学校休みたいな」

 

 

 彼女は社会生活を送る一般人。その中でも学生に分類される。

 

 学校を休みたいというのは彼女の口癖のようなものだった。しかしそれに反して彼女は毎年皆勤賞をとるような人物だ。

 矛盾しているがそれもまた彼女。不登校かと親に心配をかけることを嫌い、惰性で、特に休む理由がなかったからという適当さで学校に通い続けてきた。

 

 

 「行ってきます」

 

 

 そんな他人の目には優等生に見えなくもない彼女の両親は、静葉に信頼を寄せ朝早くから仕事に出かける。だから家には誰もいない。返事のない家の中を見た後、彼女は今日も学校へ向かう。

 

 

 「おはよー黒住さん」

 

 

 「おはよう」

 

 

 静葉が教室に入れば何人かがあいさつをしてくれる。だがそれ以上に会話が発展することはなく、静葉は自分の席で本を読み始める。

 

 

 これが静葉の現実世界での日常だった。

 

 

 「ただいま」

 

 

 誰もいない家にそう呟いてから自室へと向かう。荷物を置き服を着替えて、ゲーム機の電源を入れる。

 ここからはクロハの世界の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 「リーダー、こんにちは」

 

 

 「おっクロハちゃんじゃん、お疲れ様」

 

 

 この遊んでる感満載の彼がここ、クラン「白百合」のリーダーだ。見た目はチャラい金髪のお兄さんだが、根はすごく真面目で優しい。

 

 

 「リーダーは仕事中じゃないんですか?」

 

 

 「休憩中にコレを吸いに来ただけだよ。もうすぐ戻る」

 

 

 「おつかれさまです」

 

 

 「クロハちゃんもどう?」

 

 

 そういってリーダーは葉巻を差し出す。

 

 

 「いえ、もうやめたんで」

 

 

 バーチャル空間内なら煙草による現実への影響はまったくない。むしろバーチャル空間内でしか満足できないと現実での禁煙に成功した事例や、好奇心で中高生が現実で吸い始めることの防止にもなるということで推奨されているくらいだ。クロハもそれならと一時は吸っていたが、近接戦闘をメインとするクレハには致命的なデバフがかかることもありやめてしまった。

 

 

 「リーダーはスナイパーですから逆に集中力のバフが付いて良いんでしょうけど」

 

 

 「クロハちゃんには筋力低下のデバフは少しとはいえきついのか」

 

 

 「そうですね。ただでさえDEXにステ振りをしているせいでSTRの値がギリギリなのにデバフがかかると敵の懐に飛び込んだ無力な人間に逆戻りですよ」

 

 

 「そういえば初心者の頃はよく突撃しては死んでを繰り返してたよね」

 

 「もうその頃の話はやめてください。ほら、仕事に戻るんじゃなかったんですか?」

 

 

 「おおそうだったそうだった。じゃあまた夜ね」

 

 

 「はい、がんばってください」

 

 

 リーダーがログアウトしたのを見てクレハは箱に入った葉巻を一本手に取る。

 

 

 「もう止めたんじゃなかったのか?」

 

 

 扉の陰からそう野太い声が聞こえてクレハはさっと葉巻を戻す。

 

 

 「デリクさん来てたんですか。ただ高級品だったから気になっただけですよ」

 

 

 「確かにリーダーはソレにマネーを使いすぎだよな」

 

 

 扉の陰からゆっくりと出てきながらそう言うのは、現実のある大国の実際の装備をモチーフにした装備一式に身を包む大男だ。ヘルメットとグラサンがやたらと似合っている。

 

 

 「いくらゲームマネーとはいえ、このハイペースだと稼ぎのほとんどを使い込んでいそうで心配なんですが」

 

 

 「ははは、いいのさ。あいつはそれで」

 

 

 「そうですね。変わらないほうがいい。そのほうがいいことだってありますよね」

 

 

 「ああ、ここもすっかり寂しくなっちまって」

 

 

 そういいながら二人は壁にかかった写真をみる。そこには同じ部屋で10人のメンバーが集っている集合写真がかかっていた。

 

 

 「もう残ってるのは俺たち3人だけか」

 

 

 「そうですね。皆もう……」

 

 

 写真に写るのは元クランメンバーの人たちだ。いろいろな諸事情でこのクラン、はたまたこのゲームからいなくなってしまった。

 

 

 「そういえばクレハ、昨日町のほうで女と歩いてなかったか?」

 

 

 「ああ、最近始めた初心者の子で、廃墟街で襲われてたから助けてあげたんです」

 

 

 「へえ、で、どうなんだそいつは」

 

 

 「どうって……勧誘はしませんでしたよ」

 

 

 「どうしてだよ」

 

 

 「なにもこんな変なクランを勧められるわけないでしょう。このクランの入隊試験をクリアできる逸材にも見えませんでしたし」

 

 

 そういいながらクレハは髪の毛を結びなおす。

 

 

 「ダウト。一体何を見たんだお前は」

 

 

 「……また嘘つけなかったみたいですね私は。……みたんです、彼女が最初に撃たれた際に、瞬時に、正確に方向を把握していたところを」

 

 

 「本当かそれ。いくらゲームだからと言ってもそんな能力……」

 

 

 「おそらくですが耳が良いんです。不意打ちであったはずの手榴弾を安全ピン抜く音で把握していましたし、部屋の中で一番先に私に気づいたのも彼女です」

 

 

 「お前の隠密すらも看破する耳か……どうしてそんな逸材をスカウトしなかった?」

 

 

 「彼女にはもっと良いクランを見つけてほしいんです。こんな廃れた少人数クランに縛られてほしくなかったんです」

 

 

 「たしかにな。ここは新人が入るような華やかさはないかもしれないな。もっと大手のほうが楽しいのかもしれないな」

 

 

 「何が楽しいかを勝手に決めないでください!」

 

 

 扉を大きな音を立てて開け放ち、づかづかと一人の少女が拠点に入ってくる。

 

 

 「アオイさん!?どうしてここに」

 

 

 「クロハさん、昨日はありがとうございました。あれから考えたけどやっぱりどこかクランに入りたいなっておもったので。良ければ私をこのクランに入れてくれませんか?」

 

 

 「おいおい嬢ちゃん。ほかにもいっぱいクランはあるのにどうしてここなんだい?」

 

 

 「それは……クロハさんにはお世話になりましたし、これからも頼りたいからです。そしてこのクランはメンバーがもうあと三人なのにまだ続けている、そこに何か思いがあるとおもったからです」

 

 

 「アオイさん……そんな、昨日のことはただの偶然で」

 

 

 「偶然後をつけてたら偶然私が襲われて、そして偶然あなたが助けに入ったと?」

 

 

 「あの尾行まで気づいてたんですか!?」

 

 

 「はい。自分と他人の足音くらい聞き分けられます」

 

 

 「ははは!クロハ、あきらめな。こんな良い才能もった加入希望者をみすみす手放すほどこのクランは腐っちゃいねえぜ!」

 

 

 「……はあ、クランは一度入ったらしばらくは抜けることができません。それでもいいんですね?」

 

 

 「はい、よろしくお願いします」

 

 

 こうしてクラン白百合に、新たなメンバーが加わったのだった。

 

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