1981時は止まった 作:ぴのこ
次の異動先のM県までナップ島から無事たどりつけるだろうか。
数十分歩いた後、木戸は恩納村本土にたどりついた。
マシン内でずっと座っていたせいか、腰とふくらはぎが痛む。
マシン内温度は23度に設定されていたので
気温差も多少体に負担をかける要因となったようだ。
(これは少し本土で休んでからフライトをしたほうがよいな
エコノミー症候群になってしまうとやっかいだ。体調の回復を待って
M県までのフライトプランを立てよう)
陸地にあがり、木陰に腰をおろして少し休むことにした。
飲料と食料は多少多めに持ってきてある。
持参したペットボトルを開け、水分補給をした。
すると、小柄な女性が近づいてきた。
腰まで伸びた黒髪が風になびいていた。
「あの・・・内地の方ですか?」
(沖縄では本島を外地といい、日本本土を内地と言う。
そして、内地の人間をナイチャーと呼んでいる。
顔をみれば、大方内地か外地かは判断が付く。やはり、私も
内地の人間に見えるのであろう)
「はい、内地のM県から参りました。大学の研究調査でこちらを
訪れましたが、少々疲れてしまいましたので、休憩していたところです。」
「大学の先生でいらっしゃるのね。よろしければ私の
お店でお休みください。小さな食堂ですが、ソーキソバぐらいなら
お出しできますので」
「それはありがたい。ご厚意に甘えさせていただきます。
腹ぺこだったもんで・・・」
「それでは、先生、どうぞこちらに」
歩いてほんの数分のところに、小さな食堂があった。
「とても素敵な食堂ですね。なんだかとっても落ちつきます」
「父がはじめたんです。最初は村の人々が農作業の途中に
立ち寄って食事をしていたんですが、最近では本島の学生さんも
ちらほら訪れるようになって。それでメニューを増やしたんです。
先生のお口に合うと良いのですが・・・」
「うん!これはおいしい!この小さい瓶はコーレーグースですね?
僕、大好きなんですよ。僕の時代にも・・・いえ、昔、おみやげで
いただいたことがあって、それから大ファンなんですよ!」
「先生、ご存じなんですね!コーレーグースはソーキソバとよく合うんです。
人によってはゴーヤチャンプルーにかける方もおられます。」
「泡盛に島唐辛子をつけこんだものなんですよね?内地じゃあなかなか手に入らないので、たくさん買って送ってもらったことがありますよ!」
「先生は泡盛もお好きで?」
「ええ!泡盛、マッコリ大好きです」
「よろしかったら、今日はこちらで一泊なさってはいかがでしょう?
夜には父ももどってきます。自分で釣った魚を、宿泊客の皆さんに
お出ししているんですよ。とても好評なんです。先生が晩酌してくださったら
父もよろこびます」
「いやぁ・・・なんだか至れりつくせりで、悪いなあ。でも
沖縄の魚もぜひいただいてみたいので、お言葉に甘えます」
黒髪の女性は満面の笑みで、木戸にさんぴん茶でもてなした。
「ああ、このすっきり感がたまらないなあ。中国のジャスミン茶と
同じようだが、僕は沖縄のさんぴん茶が好きだ。
研究中も、よくさんぴん茶を飲んで頭をすっきりさせたもんですよ」
「うちにたくさん茶葉がありますので、お持ち帰りください。
研究出張はお疲れになられると思いますから、今日はゆっくりお休みください」
「ありがとうございます!M県からなにか送りますよ。」
「まあ、うれしい!もしよかったら・・・・」
「遠慮せずに言ってください!」
「M県のきいろくて柔らかいスィーツがありますよね?あれ、
一度でいいから食べてみたいって思っていたんです」
「『薙の星』ですね!いいですよ。おやすいご用だ。M県にもどったら
早速送りますよ」
「うわぁ!うれしい!先生、楽しみにしていますね」
「ええ、待っててください」
軽食を済ませると、案内された部屋に荷物を置き、シャワーを浴び
窓辺で荷物の整理をしていた。
『宮里食堂』
沖縄特有の名字だ。喜納とか比嘉とか、宮里は沖縄に多い姓である。
先程、丁重にもてなしてくれた女性も、宮里鈴音(みやざとすずね)、
生まれてから一度も恩納村を出たことがなく、本土の那覇市にさえも訪れたことが
ないとのことだった。古風で落ちついた雰囲気ではあるものの、明るく
親しげで、笑顔が素敵な女性だった。
木戸は一刻も早くM県に移動すべきではあったが、この土地のゆったりした空気と
暖かい人情に触れて、数日滞在してみたくなっていた。
しかし、時は待ってはくれない。
T大に保管してある各人種のDNAを持ち帰り、人類絶滅の危機を
救わねばならない。
とりあえずこれらのDNAで人口を増やし、少数民族に関しては
U.S.Aの大学から南米のDNAを集める。アフリカに関しては
エジプトのカイロ大学を目指す。
スケジュールは詰まってた。タイムトラベルも頻繁にできるわけではない。
自分が開発したマシンでは、せいぜい5回がいいところだろう。
精度の保障はない。1回1回を慎重に移動する必要がある。
とり急ぎ、日本は銃で攻撃される心配がないため、プライオリティをここに
置いたが、U.S.Aやエジプトでは危険が伴う。マシンを最大限に
補強してからでなければ、移動はかなり困難を極める。
そのためには、まずT大で目的を果たさねばならない。
今日はここに一晩泊めてもらって、これからの計画を綿密に
たてなければ・・・と、鈴音が差し入れてくれたちんすこうと
ジャスミン茶を飲みながら、大きなシステム手帳を開いた。
タケコプターちょうだい!!!!