1981時は止まった 作:ぴのこ
移動したM県でアクシデントに見舞われる。
この出来事が聖哉の計画を大いに狂わすことに・・・
宮里親子へしばしの別れを告げ
聖哉は那覇空港に向かった。
沖縄からM県への直行便が就航して間もない
この年は便数が限られていたが
とにかく移動しなければいけなかったため
宮里家でゆっくりすることもままならなかった。
M県の国内空港に到着すると、聖哉の
目の前で、長身の若い男性が倒れた。
聖哉はすぐに応急処置を施し、空港近くの病院に搬送の手配をする。
小早川央(おばやかわひろ)というこの男性は
18才の高校3年生だった。
事件はこの1ヶ月前に起こった。
小早川青年の恋人が、目の前でビルの上から飛び降り自らの命を絶ってしまうという
衝撃の現場を目撃してしまう。
亡くなった少女が残した日記に記された内容から
この青年はすべての事実を知る。
放心状態になりながらも、パイロットを目指していた
小早川青年はM県の国内空港に来ていた。
耳をつんざくようなジェット機の爆音を聞いた瞬間
小早川青年はめまいを起こして倒れてしまう。彼は数日間不眠でいたため
ほとんど心神喪失の状態であった。
倒れた現場に居合わせた聖哉は
小早川青年とはまったくの赤の他人であったが、この青年が倒れた時、
日記帳を抱きしめていたことから
なにか事情があると察して、身元引受人として、治療費を負担する。
目が覚めた小早川青年に、聖哉は倒れていた経緯を話すと
見ず知らずの自分を助けてくれた恩人に
青年はことのいきさつを話しはじめる。
あまりの衝撃の事実に、他人事とは言え、感情移入してしまう聖哉。
内容はこうだった。
-ある女子校で生徒から人気の数学教師がいた。
しかし、ひとりの少女だけはこの教師には興味を抱かなかったため、
抜け駆けする心配がないという理由で、仲間から
教師へのファンレター日記を渡すことを頼まれる。
数学教師はこの少女を見た瞬間、息を呑む。ある人に
この少女が酷似していたからだ。
何度かファンレター日記を渡しに行くうちに
教師のほうから、少女を誘惑しはじめる。
少女は戸惑いながらも、数学教師の憂いを帯びた表情が気になり
次第に惹かれ始め、やがて関係を持ってしまう。
教師が外国出張から帰ると少女は教師に会いに行くが
けんもほろろにそっけなくされる。
少女はショックを受けるが、その時、明るく
奔放でお気楽なある男子生徒が声をかける。
文化祭のダンスで一緒に踊ったこの男子生徒は
少女に一目惚れをしたのだった。
少女に交際を申し込む男子生徒。それを拒む少女。
なぜなら、少女は数学教師の事が気になっていたから。
ある日、少女は自分の体に新しい命が宿っていることを
知る。それを教師に告げたところ、ふしだらな女がやったことだ、
父親がだれかはわからないだろうと、予想外な言葉を浴びせられたことに
落胆する。
少女は交際を申し込んできた男子高校生のやさしさに触れるたびに
彼と寄り添いたいと思い始める。
だが、彼女は悪魔の子供を宿してしまった。そのことが
少女を苦しめていた。
ずっと男子生徒のそばにいたい。彼と幸せになりたい。
そう思えば思うほど追いつめられ、最後には
自らの命を絶つ決断をしてしまう。
男子生徒は、自分の目の前からいなくなった少女を血眼になって探していた時
ビルの上から人が降ってくるのを目撃する。
それは、他でもない自分が初めて心から愛した女だった。
男子生徒は衝撃のあまり、地面にたたきつけられた
少女を抱いたまま数時間その場に座り込む。
少女は即死だった。
後に、少女がつけた日記が発見される。
数学教師がなぜこの少女をいたぶっていたのか。
悪魔のようなこの男は、自分の妻に酷似した少女を、妻の身代わりにしたのだった。
教師は妻を愛していたが、権力のある父の前ではなにもできず
妻の機嫌をとりながらの生活にいやけがさしていた。
こんな人でなし男の憂さ晴らしに身も心もボロボロにされた哀れな少女。
そして、この悪魔教師とは兄弟のように親密だった男子生徒。
男子生徒は事実を知ったとき、すべてを憎みながら生きることを誓う。
苦しみもがき、自分を痛めつける毎日。
そんなある日、朦朧としながら、空港に足を向ける。
そこで気を失ったところを、聖哉に助けられる。
事の経緯を知った聖哉は、この哀れな男子高校生
小早川央を助けたいと思ってしまう。
あと少しだけ早く小早川が少女に出会っていれば、
少女が命を絶つ事はなかっただろうに。
しかし、タイムトリップには回数に制限がある。
無駄遣いはできない。
ジレンマに苦しむ聖哉。
絶望にうちひしがれたこの青年を救う手だてはないのか・・・
たった一人を救うために
人類救済計画を後回しにする訳にもいかない。
聖哉はとりあえずこの青年をT大学付属病院に
入院させることにした。
実は小早川央は聖哉の計画成功への大きな鍵を
握っていた。