雷の速度で移動する八つの神。その形は球体状の雷の塊。
いくらカンピオーネが人間の限界を越えていたとしても、目で追うにも限度がある。
加えて肌の近く通る度に、服を焦がし肌を焼いていく。
「速すぎて、杭が当たらねぇ!」地面から間髪を容れずに生み出し続ける杭を掠りもしなければ、障害物にもなっていない。
「やはり、雷速には対応できないか」
嬉しそうに笑うイザナミの声に、イラッとしながらも反論する余裕さえない。避けるのが精一杯の状態だ。
あと、あと少しで、使えるのに!
あと少しで、沈みきる太陽に僅かに目を向けた瞬間。
バチッ!と八つの雷が胸を貫いて行った。
「ガァアアアアア!」
全身に流れる電流。
地面に膝から崩れ落ち、服は焦げ体のあちこちから湯気がでている。
地面を黒く染める血だまり、僅かに聞こえる呼吸の音。
「神殺しとはいえ、子供か」
つまらぬ、と吐き捨てて地面に倒れている修斗に目も向けずに歩いていくイザナミ。その周りを護衛するようについて行く八つの雷塊。
修斗は歩いて行くイザナミにも付き従う
それは太陽。
山影に沈み、残り数秒で全てが沈みゆく太陽を見つめていた。
太陽が沈めば必ずやってくるもの、それを修斗は待っている。《鮮血の威光》のもう一つの能力、太陽が沈み
ヴラドは確かに”串刺し公”という異名がある。だが、もう一つ。世界的に有名な異名を持つ。
吸血公、ヴラド・ツェペシュ。
「残酷」で有名だったヴラドは、後世で存在していた吸血鬼の伝承と合体。
《鮮血の威光》の効果は二つある。
日中は、ワラキアの為に戦い抜いた領主としての”串刺し公、ヴラド・ツェペシュ”。
月夜は、作品によって人々の記憶に残ったフィクションとしての”吸血公、ヴラド・ツェペシュ”。
太陽が沈みきったことできたる夜。
吸血鬼は夜に蠢く魔の物。
そして、吸血鬼には多くの能力が備わっている。
姿を霧や獣に変え、尋常ならざる怪力を誇り、異常な治癒力を持ち、獣を従える力を持ち、目を見た相手を操る魅了の力を操り、銀、十字架、聖水、日光を弱点としている。
修斗が文字通り変身する吸血鬼は、伝承の
人間の体から全身が吸血鬼へと変身を遂げた修斗の体は、自動で傷の治癒を開始した。
数秒で開いていた穴は塞がり、目は血のような赤色になっていた。
体を起こし立ち上がる。
「もう一戦、行こうか」
「ほう、傷が消えているな」
振り返ったイザナミを驚いているというよりは、嬉しそうに笑っていた。
「先ほどとは違い、本物の妖怪になってるようじゃな」
嬉しそうに笑うイザナミの目は人間を見ていた目から、異形の化け物を見る目であり、同族を見る目でもあった。
行け、という指示に従い、漂っていて炎雷大神たちは一斉に向かってきた。
雷速で移動して迫ってくる炎雷大神を躱し、軽く足に力を入れて無防備になったイザナミに向かって突き進んだ。
人間だった時では、絶対に出すことの出来ない速度を出して。一撃で倒す気概を籠めて振るった拳だったが、イザナミの手の中に出現した剣によって防がれて。
「イザナミが剣とかありかよ!」
「何を言うか。童が生んだ加具土命は、イザナギの持つ十束剣によって殺されたからな。関節的にせよ産み落とし殺したのは童じゃ」
イザナミが剣を使って戦えるなんて予想してなかった。
コンパクトに振る拳をイザナミは剣で防ぐ。拳は刃に当たる度に皮膚が切れ、血が飛び散るが傷すぐに癒えて再び殴る。
後ろではバチバチッ!という音と共に影から生み出した黒い狼や鴉と炎雷大神との戦いが行われている
「さあ、折角の戦いじゃ!楽しまなくてはな!」
着物を優雅に振り乱し、十束剣を構えてイザナミ。
「ああ、とことんやろうか」
握っていた手を解き、手刀へと変えて両手を剣の如く構えを取る。
刃を片手で弾き、爪先を剣先の如く鋭く突き出す。だが、空いていた腕を動かし爪先はイザナミの体に触れることなく、着物特有の長い袖丈を貫通しただけだった。
弾かれて十束剣を片手で器用に戻し、片手を袖丈に絡まれて身動きの取れない修斗に向かって十束剣を突きだした。
「これで
見事に十束剣は修斗の心臓を貫いた。だが、血を流したのは修斗とイザナミだった。
「見事じゃ。まさか、先に剣を弾いて手の爪を伸ばすとは」
十束剣を弾いて片手では、心臓を狙っている十束剣を防ぐことはできない。ならば、十束剣を防がずに、イザナミの心臓を狙って爪を伸ばす。それが修斗のだした結論だった。
本来なら両者とも死亡していた。だが、修斗は吸血鬼の治癒の力がある、だからこそ博打打ちに売ってでた。
「童の遠い子孫が神殺しになってるとは、誇らしいことじゃのぅ」
一人事なのか、それとも対峙した時から思っていことなのか、それだけを口にして心臓に刺さっていた十束剣も、後ろで戦っていた炎雷大神も、そしてイザナミ自身も粒子となって消えて行った。