カンピオーネ 吸血公   作:ノムリ

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出世払い

 空に三日月が輝く中、雲の上を蝙蝠のような翼を背中から生やして飛んでいく。

 夜の冷えた空気を頬で感じるが、それも心地よく思える。

 

「頼まれた仕事はこなさないとな」

 まつろわぬイザナミとの戦いが終わって数日後に、皿木さん経由である依頼をされた。内容はカンピオーネの一人、サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン侯爵に連れて行かれた、万理谷祐里を連れ戻して欲しいというものだ。

 なんでヴォバン侯爵がそんなことをしているかといえば、簡単だ『まつわぬ神招来の儀』をするため。

 儀式は魔女や媛巫女たちを生贄にすることでまつろわぬ神を地上に召喚するという単純なものだが、仮にヴォバン侯爵が倒されれば他の王が代わりに戦うことになるし、生贄となった魔女や媛巫女たちへの精神と肉体の負担は計り知れない。

  それ故に、『正史編纂委員会』という組織として取り返しに行けば、組織ごと敵として認識されるかもしれないが、王である俺が動いたとしても最悪戦って話がつく可能性がある。

 その一点に賭けたいらしい。

 

「博打ちにも程があると思うけど」

 翼を傾け風を斬り降下しながら、雲の中を進む。

 視界は白一色となり、下に降下するに増して肌に感じるまつろわぬ神とカンピオーネの存在感。

 

「もう、まつろわぬ神が居んのか。急ぐか」

 翼をより傾けることで空気抵抗を減らし、より加速して急降下する。

 雲を抜け、雲の下に出るとそこは荒れ果てた大地だった。

 人が住んで居る気配など微塵もなく。あるものと言えば、何十年も人の手が加えられていない捨てられた神殿がある位だ。

 問題はその神殿の中に簡易な服を着た人がいることだ。

 恐らく生贄として集められた魔女や媛巫女たちだろう。僅に歩いている者や這いながら倒れている子に声を掛けている者もいる。

 

 地上に降り、歩きながら万理谷祐里を探し始める。

「正史編纂委員会所属の万理谷祐里って居るか~!」

 大声を出したことで、その場に居た少女たちが一斉に此方を見た。

 

「は、はい!万理谷祐里は私です」

 僅か数分で目的の少女は見つかり、傍らには俺を警戒している銀髪のポニーテールの少女が立っていた。

「あの、貴方は?」

「俺は七人目のカンピオーネ、矢吹修斗だ。正史編纂委員会からの依頼でな、お前を連れて帰って来て欲しい、とのことだ」

「待ってください。お前を、ってことは助けるのは私だけなのですか!?」

「当たり前だろ、俺がボランティアで助けに来たとでも思ったのかよ」

「俺はここにきたのは万理谷祐里を連れて帰るっていう正史編纂委員会の依頼を完了する為に来たんだ。勿論、他のカンピオーネを見てみたいって言うのもあるけど、他の子は別の組織に所属してるんだろ。それは組織の問題、管轄違いだな」

 そんな!と周りに今だ意識を失っている子や肩を支え合っている子を見る万理谷。

 

「なら…なら私が!貴方様に依頼をするというのはどうですか!」

 万理谷の横に立っていた子がそういった。

「…本気か?依頼の報酬は金だぞ、それも相当な額の」

「……い、いくらほどでしょうか」

「大体、円で250万くらいじゃないか。他のカンピオーネと戦闘が有った場合は上乗せが発生するからもう少し高くなるかもな」

 万理谷と銀髪の子は二人揃って後ろを向いてヒソヒソと会話を始めた。

 

「リリアナさん、払えますか?」

「万理谷祐里よ。流石に私もそこまで動かせるお金はないぞ!」

「…他の子たちを置いて行くわけには……」

 正直、後ろを向いた程度じゃカンピオーネの強化された感覚で会話が聞こえてしまうのだが、切羽詰まっている二人にはそれを気にする余裕はないらしく。

 しかたないと言って、腹をくくった銀髪の少女は俺の目をしっかりと見て

「出世払いでお願いします!」

 ……は?…出世払い。

「っぷ!ハッハハ!ハハハハ!カンピオーネ、相手に出世払いか!」

 カンピオーネはまつろわむ神が地上に現れた時に戦うという代わりに何をしても許されるという暗黙のルールがある。ヴォバン侯爵が世界中から生贄を集めても反撃されないのもこれが一部の理由だ。勿論、戦っても勝てるわけがないというわけもあるが。

 その相手に、一切の保証のない出世払い。

 これは笑わずにいられない。

 

「面白い!けど、命を賭けて戦うカンピオーネに保証のない口約束が使えるとでも」

「うぅ…」

 銀髪の少女は狼狽えた。

「まあ、その話は後にした方がいいらしいな」

 銀髪の少女から目を離し、ある方角を見ると本来の大きさとは比較にならないサイズの大型の狼の群れがこっちに向かって走ってきている姿があった。

 

「そういえば、君、名前は」

「は、はい!『青銅黒十字』に所属しているリリアナ・クラニチャールです」

「じゃあ、リリアナ。生贄にされた子たち全員を一ヶ所に集めてくれる、バラバラだと権能が使えないから」

「権能ですか?」

「ああ、ケルヌンノスから簒奪した権能。攻撃性は一切ないけど守りと治癒の効果があるから。狼は俺の方で足止めしておくよ」

 

「はい!任せてください!」

 任されたことが嬉しいのか、今までで一番元気な声を出して走っていくリリアナ。その後ろを手伝います、と言って後を追う万理谷。

 

「さて、時間稼ぎと行きますか」

 

 

 

 

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