カンピオーネ 吸血公   作:ノムリ

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狼害と戦闘狂

 イザナミから簒奪した権能《霊魂召喚(ソウル・サモンズ)》。

 黄泉の国から霊魂を呼び骸骨に宿らせるという単純なものだ。数には上限がなく、圧倒的な物量戦において最大の効果を発揮する。

 

 目の前では、狼の群れと骸骨との軍勢が入り乱れている。

 骸骨は狼の数より多く。牙や爪で体を砕かれようと勝手にくっつき元に戻り、五体の骸骨が合体して大型の一体になって狼たちを薙ぎ払っているのもいる。

 

「本体は霊魂だから砕かれても元に戻るし、くっついてデカくなるのか」

 自分の知らない権能の効果を知れたことは、良かった部分だ。

 そうこうしているうちに、狼の群れは骸骨によって全滅させられ、役目を終えた骸骨に宿っていた霊魂は黄泉へと戻る。残された骸骨は塵となって消えた。

 

「王よ。生贄にされていた全員を集めました」

 声を掛けて来たリリアナの方を振り向くと、一人残らず集められていた。

「んじゃ、お前も入れ、始めるから【開け、狭間へ続く道。全ての獣に癒しを与えし安らぎの森よ。いかなる傷も、いかなる死も遠ざけよ。ここは、全ての獣が安らぎを得られる森】」

 聖句を唱えると、少女たちを包むように透けた緑色のドームが生まれた。

 ケルヌンノスから簒奪して権能《静寂たる狭間の森(フォレスト・サイレント)》。

 ケルヌンノスの所持していたアストラル界にある森の一部を此方側の世界に移動させ、いかなる生物の傷も治癒させる。森はアストラル界と繋がっており此方側からは一部の権能以外から攻撃も受け付けない。

 攻撃性は一切ない代わりに防御と回復に重点を置いた権能。

 

「こ、これは…森。アストラル界の一部を此方側に召喚しているのか!」

 魔女であるリリアナにはこの権能がどれほどの物か理解しながら驚愕した。

「回復するまで俺は暇に……ならないみたいだな」

 

 後ろに感じる気配。

「ほう、放った狼共が消えたと思えば、まさか新たな王が来ていたとは」

 立っていたのは、この大事の原因であるヴォバン侯爵だった。

「てっきり、召喚したまつろわぬ神と戦ってると思ったけどもう戦い終わったのか?」

「嫌な事を思い出させてくれるな小僧!」

 なんか、地雷を踏んだっポイ…。

「折角の獲物を奪われた分は新人の王で埋めるとしよう!」

「それ、ただの八つ当たりだろ!」

 応して、暴君の埋め合わせなのか八つ当たりに付き合う羽目になった。

 

 

@@@

 

 

「私を退屈させてくれるなよ小僧!」

 その声と共にヴォバン侯爵の足元の影が広がる。影から這い出て来たのは、権能によって魂を繋ぎ留められた、無数の死者たちだった。

 ヴォバン侯爵の手によって殺された戦士や呪術師は権能『死せる従僕の檻』によって縛られ、死した後も安らぎを手に入れることはできない。

「生前は私を楽しませてくれた者たちだ!まずは、これを乗り越えてみせよ!」

「数には数だ【この声に応じ来たれ黄泉の軍勢。死者の女王たる我が命でる】」

 従僕たちの対抗策として骸骨を再び召喚する。

 剣や杖、鎧を装備したヴォバン侯爵の呼んだ従僕とは違って、俺の呼ぶ骸骨は武装は一切なく生前の技なども使えない、故に数。質より量で押し切る。骸骨を従僕の約三倍の数を召喚した。

 

「私と似た効果の権能を持っているようだが、貴様の権能は死者を呼び出すだけか」

 従僕たちは剣を構え、杖を掲げて攻撃を始めた。骸骨は簡単に剣で砕かれ、魔術で吹っ飛ばされていく。それこそ面白いほどに。

 それでも骸骨は上半身だけで匍匐前進で進み従僕の足にしがみ付き動きを止めると、他の骸骨と協力し合い一人の従僕を地面に倒し、滅多打ちにしている。倒された骸骨の背骨と脇腹、頭蓋骨を繋げ、槍にようにして戦っているものや、狼の群れと対峙した時のように合体して薙ぎ払っている姿もある。

 若干、B級映画のようだが、呪力の消費も少なく済むので良しとしよう。

 

 従僕も骸骨も同じく命を持たない死者。その決着が着くことはない。

「従僕どもでは数に負けるか。ならば!」

 顔を顰めたと思えば、新しい権能を使うことを決めたらしい。

 

 ―――グゥオオオオオオオオオオオオオオ!

 遠吠えのような声を上げながら着ていたコートを引き裂き、ヴォバン侯爵は巨大な人狼へと変貌を遂げた。

 全身を包む灰色の毛皮、爛々と光るエメラルドの瞳、大口から覗ける牙と人の頭を握りつぶせそうなほど大きな手と鋭い爪。

 人らしさの一切ない怪物。

「おいおい、マジかよ」

 流石にこれは想像してなかった。

 頬が引き攣るのを感じながら権能《鮮血の威光》に意識を集中させる。

「それが貴様が最初に手に入れたという権能か。吸血鬼だと聞いていたが、目が黒から赤に変わっている辺り掌握が進んでいるようだな」

「自分の目の色なんて知らねえよ!」

 拳を握り力一杯脚に力を入れて踏み出した。

 強化された怪力と身体能力に任せた力任せの戦闘法―――至近距離での殴り合い(インファイト)

 

 

 自分の数十センチは超える背丈の人狼の懐に潜り込み、とにかく殴る。

「優雅さの欠片もない戦術だな!」

「勝ちさえすれば泥臭くてもいいんだよ!とっとと、くたばれ!」

 

 肩や脇腹に掠る人狼の爪が肉を抉るが、吸血鬼の再生力で傷はなくなる。

「忌々しい。私と同様の自分を変身させる権能か」

 グシャと背中にヴォバン侯爵の五指が食い込んだ。

 皮膚を突き破り、肉に食い込む鋭い爪。

「っく!はぁぁぁ!」

 背中に感じる激痛を意地で無視して拳を振るう。動けば動くほど強く感じる痛みに顔が歪むが、離れるわけにはいかない。一度ヴォバン侯爵から離れてしまえば、もう懐に潜るチャンスは手に入らないだろう。

 拳を鳩尾に向かってぶつける。手の感触からすれば、恐らく肋骨の何本かはいったはずだ。

 

「うぐ!離れろ小僧!」

 大きな顎に生えそろう牙の間から血が垂れた。異常な怪力からなる拳をニ十発も食らったヴォバン侯爵の巨体には、着実にダメージが蓄積していっている。

 背中に突き立てている手と反対の腕を振り上げ、振り下ろそうとした時、

 

「僕は、僕に斬れぬ物の存在を許さない――――」

 僅かに聞き取れる程の声だったが、カンピオーネの感覚にははっきりと聞き取れた。

 それは聖句であることも、そしてその声の主がヴォバン侯爵にとってどれだけ忌々しい存在であるかもヴォバン侯爵の瞳を見れば理解できた。

 

「この剣は地上の全てを斬り裂く無敵の刃だと」

 聖句を唱え終えると、修斗とヴォバン侯爵目掛けて飛んできた人影。

 修斗はヴォバン侯爵を前蹴りで蹴りつけ、反動を利用してその場を離れる。地面を転がり膝立ちの状態で元居た場所に目を向けると、アロハシャツを着て頭にサングラスをつけた男が立っていた。肩に担いだ剣と剣を持つ右手は銀色に輝いている。

 

「カンピオーネか……」

「グォォォォオオオオオオオオオオオッッッ!!!よくも私の前に姿を見せることが出来たな、サルバトーレの小僧!」 

 

 修斗とヴォバン侯爵の間に割って入った男の名は、サルバトーレ・ドニ。まつろわぬヌアダを殺したカンピオーネだった。

 

「だって、近くで王同士が戦っているとなれば行くしかないじゃないか」  

 行かないだろ、と心の中で思いながらも、ヴォバン侯爵だけでも手一杯なのに増えた敵をどうやって相手するか解決法を頭をフル回転させて考える。

 

「さぁ!続きをしようじゃないか!」

 人狼と剣士と吸血鬼。

 狼王と剣王と吸血公。

 三つ巴の王同士の戦いが始まった。


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