Fate/Silverio answer 作:いろはす(*´Д`*)
今回も難産でした……後々加筆修正入るかもしれないです。
では、オルレアン編の六話です。
──端末の死亡を確認、
脳裏に走るノイズ混じりの音声、それにより閉じた瞼を開いた。レイズデッドは視界に宙吊りになった逆十字を捉え、血が滲む脇腹を抑えてくつくつと愉快そうに笑みを浮かべる。
「想像以上、予想外、まさにそれだ。アリア、君の飛躍的な成長には目を見張ったよ」
憎悪に染まった悪鬼の表情を浮かべて、彼女が振るった二刀流により体を刻まれた瞬間を思い出して身体中が歓喜で震える。あの脆弱な少女が、罪の意識に苛まれて涙していたか弱き少女が──まさかあれ程の力を手に入れてしまうなんて。ああ、やはり、私の目に狂いはなかった。
「そう……まさに、君は私の為に生まれてきたかのような少女だ」
──必ず、手に入れてみせようじゃないか。
「もとより君は、
無残にも
〜γ〜
オルレアンから離れた森林地帯、太古の森。未だ人の手が入らない未開の土地、数多の動植物が蔓延るその中に──木々を束ねて作成された柵、石や岩で重なった簡易的な砦が建設されていた。監視所の役割なのであろう高台にはバリスタらしき装置が置かれ、さらに投石機のようなものも目に入った。
シエルは未だに意識が戻らないジャンヌ・ダルクを腕に抱え、前方を歩く案内役に続いて砦の中へと足を踏み入れる。中に入ると同時に喧騒が聞こえ、正気を保った人間がこんなにもいた事に目を見開く。それは立香やマシュ、クー・フーリンも同じく驚き、そして、一際大きな衝撃を受けていたのは──アリアである。彼女は目を目一杯に見開きながら、口を開いたり閉じたりといった姿を見せていた。それもそうだろう、今まで彼女はシエル達と出会うまで正気を保った人間を真面に見たことが無かった。総じて出会うのは狂気に染まった
そして、それを見ていた案内役──ゲオルギウスは柔和な表情で住民達に挨拶をしながら、驚く様子を見せているシエル達へと説明をし始めた。
「彼らは私、いえ…私たちが保護した人々です。黒装束の狩人、狂気に染まった人々に殺されそうになっていたところを救出し、皆でこの森に避難して拠点を作ったんですよ。ここの周囲は森に囲まれ、入り組んでいる。隠れるには最適の場所ですから」
そう言って微笑む彼は聖ゲオルギウス、または聖ジョージと名高い聖人である。聖剣アスカロンを所有しており、ドラゴンを討伐した逸話が有名だ。彼はシエルが立香達に合流する前に出会い、事情を聞き入れてシエルに手を貸すために同行してくれた英霊の一人だ。後数人居たのだが、別件があるらしく今は居ない。
「凄いですね! 先輩! 正気を保った人がこんなにも……!」
「うん、ここに来てからずっと出会うのは狂人ばっかりだったから、生き残っている人がいるのには驚いたよ……よかった」
立香は走り回って遊ぶ子供達を眺めて笑みを浮かべる。ここに来て少しは緊張が解れたようで、ホッと息を吐いていた。
「これは、こんなにも……」
「アリアさん? 大丈夫ですか?」
茫然と住人達を眺めるアリア。信じられないといった様子の彼女に立香は心配そうに声を掛ける。アリアはその声掛けにハッと気を取り直して「大丈夫だよ」と、安心させるように笑みを見せる。そして、改めて辺りを見渡し「ああ」と漏らすと、
「よかった……本当によかった……! まだ、こんなにも
「アリアさん……」
昂ぶった感情を隠すように帽子を深く被り直し、顔を下に向けて熱を吐き出した。その姿に立香は胸を締め付けられる……どれだけ、どれだけの重圧が彼女に降りかかっていたのかを考えて。
「感謝を! 貴方達へ感謝を……!」
「気にしないでください、私は私がすべき事をしたまでですから。むしろ私達こそ、貴方に感謝を告げなければ」
「そんな、私は、何一つとして……」
「いいえ、違います。貴女のおかげで助かった者も大勢居るのです。貴女は気づいてはいなかったようですが……確かに、成したことはあるのですよ」
「──私が、助けを……?」
「はい。だから、あまり一人で抱え込まないように……今の貴女には手を差し伸べる者がいるのだから」
アリアは自分の手をそっと握りしめて笑う立香、マシュ。自分の頭をポンと軽く叩いてニヤリと笑うクー・フーリン。そして、力強い目を向けて頷くシエル。それぞれから共通して「任せろ」という想いが伝わってくる。
「大丈夫! って言っても私は頼りないかもしれないけど、こうやってアリアさんの手を取ることは出来るんですから! 絶対離しませんよ!」
「私もです。この盾で守ることができます!」
「んで、俺は矛だな。有象無象を蹴散らしてやんよ」
「仲間を守るのは当たり前だ。当然、アリアのことも守って見せよう」
「皆……ああ、私は……いや、違うな」
──醜い私などに、と口走りそうな口を閉じて言い直す。そう、この場合はきっと……。
「ありがとう」
ああ、これが正しい答えだろう。
満面の笑みで抱きついてくる立香を優しく受け止めて、頭を撫でながら、アリアは微笑んだ。
「さあ、こちらに寝かせてください」
「ああ」
拠点内に建てられたテントの一つに案内され、シエルは簡易的なベッドにジャンヌ・ダルクをそっと寝かせる。立香やマシュ達は別のテントにいるので、今この場に居るのはゲオルギウスとシエルだけだ。
ゲオルギウスは寝かされたジャンヌに目を向けて、外傷を確認。本格的な治療は出来ないが、呪いなどは別だ。彼女の傷からは呪いに近しい力を感じる。それが傷を広げ、自然治癒力を阻害していた。
「ふむ、強い呪いだ。憎悪、まるで燃え盛る炎のような……ここまでの呪いは久しく見ませんでしたね」
目を細め、顎に手を添える。シエルはその様子に首を傾げ、治すのは難しいのか? と尋ねる。その問いにゲオルギウスは「少し、難しいですね」と答えた。
「霊核にまで達しています。私一人では完全な治癒には時間がかかるでしょう。短縮方法もあるにはありますが……」
「それは?」
「……浄化までの間、呪いを肩代わりする者がいれば時間短縮が出来ます。ですが、これはあまりに危険だ。生半可ではない激痛に苛まれ、気を狂わしてもおかしくないのです。ですから、ここは安全に時間をかけて──」
──治療をしましょう、という言葉は続かず、なんでもない事のようにシエルが口を開いた。
「なんだ、そんなことか。ならば、俺が肩代わりしよう」
「……はい?」
絶句。彼が何を言っているのか理解出来ない、といった様子のゲオルギウスにシエルは首を傾げて再度言った。
「俺が呪いを肩代わりしよう、と言ったんだ。痛みなど気合いで耐えられる。死ぬわけじゃないんだ、軽いものだろう。それで彼女が治療出来るのならするべきだ」
「本気、ですか?」
「当然。ならば、口を開かんだろう」
「死ぬほど痛いですよ?」
「死なないなら問題無い」
「……貴方は」
「どうしたんだ?」
「いいえ、何でもありませんよ。もう一度聞きますが、本当によろしいんですね?」
「ああ、構わない」
「わかりました。では、準備をしますので少々お待ちを」
「了解した。外で刀を振っているので、準備が完了したら呼んでほしい」
「……ええ」
シエルは終始表情を変えずに言い切り、刀を手に持ってテントの外に出ていく。直ぐに風を斬る音が聞こえ出したので、素振りを始めたのだろう。ゲオルギウスは額に浮かぶ汗を拭い、ジャンヌの身を苛む呪いに目を向ける。
悍ましいまでの怨み、辛み、妬み、憎悪がこれでもかと詰まった呪い。燃え上がる炎が幻視出来る程だ。コレを肩代わりなどすれば、どのような目に合うかなど容易に想像出来る。のたうち回り、発狂し、死ぬほどの激痛と憎悪が身を襲うだろう。
──それを知りながらも尚、顔色一つ変えずに肩代わりするなどと言うとは。鋼の意志、揺るがない覚悟でしょうか。彼の目からはそれが感じられた。
「……だが、あまりにも」
そう、あまりにも──。
「
一人、青い槍兵が気づいているようだったが、どうやら干渉はせずに傍観に徹するようだ。彼自身に気づかせ、それを克服させる為だろう。もしくはただ楽しんでいるだけか、だ。
「……ふぅ、あの様子では言ったところで大して意味は無いでしょうね。傍観しているしかない、ですか。なんと歯痒い……前途ある少年に助言も出来ないとは、私もまだまだのようだ」
ゲオルギウスは治療の準備を進めながら、己の無力さに不甲斐ないと歯噛みする。この手の問題は確かに本人が気づかなければいけない事だ。他者が幾ら助言したとしても、本人の意識が変わらなければ完全な解決はしないのだから。
「さて、準備が終わりましたね……シエルくん! 準備が出来たので戻ってきてくれますか!」
外に呼びかける。すると風を斬る音が止み、刀を鞘に納める音が聞こえた。やがてテントの入り口が開かれると、そこから多量の汗をかいたシエルが現れた。この短時間でそんな量の汗を出す運動をしたのですか、と驚き、その状態で肩代わりして大丈夫なのだろうか? と悩む。
しかし、シエルは変わらず「初めてほしい」と告げた。それに、仕方ないと苦笑すると、ゲオルギウスは浄化のために口を開いて──。
「ぁぐ……ッ」
「くぅ……ッ」
前者の声はシエル、後者はジャンヌだ。互いの体には黒い炎が巻きついており、それが段々と横たわるジャンヌからシエルの側へと移されていく。体を締め付けるように燃える炎から尋常じゃない熱と痛みが持続しており、徐々に熱と痛みが増えていく。彼はのたうち回り、鳴き叫ぶようなソレを歯を食いしばり、堪える。
「耐えてください……! まだ重なりますよ……ッ!」
「ッ──!」
視界に紅蓮が燃ゆる──瞬間、ノイズ混じりの映像が脳裡に流れ出した。これは、ジャンヌ・ダルクの処刑時の記憶……俯瞰視点で全体を見ている感覚だ。
『魔女、卑しき魔女めッ!!』
『死んでしまえ!!』
『あんたなんて、ただの人殺しよ!!』
怒り、苛立ち、憎悪。それらを一緒くたに混ぜ込んだような表情で石を投げつける民衆。己の行為に間違いは無く、むしろ魔女を痛めつける快感に酔っているようだ。自分達が正義で、お前は悪だ、と。
『………』
その間もジャンヌ・ダルクは俯き、一言も口を開かない。小さな十字架を握りながら、ただ淡々と足を処刑台に運ぶだけである。
──『魔女』『死ね』『地獄へ堕ちろ』兵士達も揃って口汚く罵り、長い棒で彼女の体を打ちのめす。愉悦を感じているのか、口が三日月型に歪んでいた。
そして、映像が切り替わる。
焔が揺れていた。激しく、天まで焦がすような勢いの焔の柱。中心に縛り付けられているのはジャンヌ・ダルクだ。しかし、様子が違う、雰囲気が違う──金の瞳と視線が絡まる。
『アハ、アハハ──!』
「貴様……」
『何も知らない無知で愚かな民衆、上を信じて疑わない馬鹿な兵士、欲の為に救国の英雄を切り捨てる阿呆な国。どうしようもないわね、ええ、まったく。死んでしまえばいい、消えてしまえばいいんだわ! こんな国、こんな世界なんて跡形も無くね! ──貴方も、そうは思わないかしら?』
「──貴様の戯言には耳は貸さん」
『あらあら、生意気ね。思わず殺したくなったわ。というか、死んでちょうだいよ、死ね』
「幻影が、本物ではないソレに屈するとでも? 消えろ雑念」
『ムカつ──ッ!』
「二度は言わん──〝消えろ〟」
強固な意志、気合いを持って眼光一つで呪いによる幻影を斬り払う。同時に映像が途切れ、霧のように霧散していった。
取り戻した視界には寝台に横たわる落ち着いた様子のジャンヌ・ダルク、傍にはホッと息を吐くゲオルギウスが見える。体を締め付けていた呪詛の焔は消え失せ、服に染み付く多量の汗しか残っていない。どうやら、解呪に成功したようだ。
「無事に終了したようだな。ジャンヌ・ダルクの傷は?」
「ええ、ランサー……クー・フーリン殿に頂いたルーン石が効いたようだ。傷も魔力も徐々に回復していますよ、早ければ明日にでも意識が戻るでしょう。それまでは安静にさせておくといいでしょう」
「そう、か──了解した。改めてご助力感謝します、聖ゲオルギウス。貴方がいなければ解呪は難題だっただろう」
「私はするべき事をしたまでですよ。それに、貴方の強力無しでも出来なかった事です。私一人の成果ではありません」
「そう言って貰えるなら、此方も受けた甲斐がある。さて……眼が覚めるのは明日以降か、こればかりは待つしかないな」
「はい。ですので、今日は貴方も休みなさい。その様子だと鍛錬するつもりだったでしょう?」
「勿論」
「まったく……兎に角、今日はもう休みなさい。警備は私たちがしますので、ご安心を。彼女達にも私から説明をしておきます」
「……了解した。今日は貴方の言う通りに休もう。ただ、寝る前に少しだけ刀を振るいたいんだが、構わないな?」
「……それでもいいです。しかし、少し、少しですからね? 分かりましたか?」
「ああ。では、失礼する」
シエルはテントを後にして、数時間鍛錬に費やした後に就寝した。──ゲオルギウスの言葉が上手く伝わっていなかったようである。
【速報】ゲオル先生、主人公の異常に気づく。【二人目】
いやぁ、今回はあまり動きがないですね。というか、原作沿いにする筈が何故こんな流れに……? くそ、これも全部変態神父って言う奴のせいなんだ! 俺は悪くねぇ! 俺は悪くねぇ!
早くトンチキ合戦したい……具体的には第七特異点……プロットの段階でホモ……なんでもないです、はい。
では、また次回! 感想、アドバイスなどなど良ければお願いします!
今年の水着鯖は誰なのか今から戦々恐々としているこの頃。