Fate/Silverio answer   作:いろはす(*´Д`*)

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(*ノ・ω・)ノ⌒七話


神へ捧げよ、汝らの血肉──楽園(エデン)の創世を此処に《7》

 小鳥の囀りに沈んでいた意識が刺激され、窓から差し込む陽の光が覚醒を促す。目を開くと先ず見えたのが天井、材質から見ると大型のテントのようだ。戦時中、野営の際によく見た物に似ていた。軋む体を動かして、そっと上体を起こした。

 

「ここは……」

 

 辺りを見渡す。自分が寝ている簡素なベッド、あとは木箱に置かれたランタンが幾つかにテーブルと椅子が一つしかなかった。

 体に目を移すと包帯が幾重にも重なっており、治療された形跡が確認出来る。さらに、拘束されてない事から敵対関係ではないのだろうという事が察せられた。

 

「ッ、まだ、痛みますね……」

 

 身体中に走る痛みに顔を顰める。まあ、あれだけ派手にやられたのだ、これは当たり前だろう。命があるだけマシだ。

 

「お礼を、言わなくては……」

 

 ベッドから出ようと足を地面につけるが、バランスを崩して前のめりになって倒れてしまった。咄嗟に手を出そうとするも、思うようには動かず、そしてそのまま地面に激突──すると思われたが、彼女の体は柔らかく受け止められた。

 

「っ、大丈夫か」

「は、はいっ、すみません……ありがとうこざいます」

「礼はいらない。大人しくしてるといい、まだ傷は癒えてはいないだろう?」

 

 そう言って彼女をベッドに下ろし、数歩離れた位置でシエルは告げる。その言葉に彼女は目を瞬かせ、自分の体に巻かれた包帯などを見て目の前の少年へと尋ねた。

 

「貴方が治療を?」

「いや、俺は手を貸しただけだ。貴女を治療したのはゲオルギウスだよ」

「そうなんですか……ですが、ありがとうございます。それとゲオルギウス……それは彼の聖人ですか?」

「ああ、本人だよ。サーヴァントとして召喚されたようだな……貴女もだろう?」

「えっと、その、そうなんですが、あの……」

「歯切れが悪いな、何か問題があっただろうか?」

 

 言いづらそうに口籠る彼女、それを見てシエルは尋ねる。その言葉に彼女──もとい、聖女ジャンヌ・ダルクは「その、ですね……」とか細い声音で答えた。

 

「私、実は……召喚されたのはいいのですが、聖杯から与えられる知識の大部分が無く……」

「……それは」

「貴方方には情報が必要な様ですが、私では協力出来そうもありません……申し訳ない限りです」

「いや、気にしなくてもいいさ。情報ならある程度は得られた、現状では貴女を救出出来ただけで上出来だよ」

「それなら、よかった……。その、他の方々は?」

「今は食事中だな、俺は貴女がそろそろ起きる頃だと思って来たんだ。──待っていてくれ、食事を持ってくる」

 

 シエルはそう言ってテントを出て行く。ジャンヌはそれを茫然と見送ると、再びベッドに体を倒した。そして、静寂が訪れる──と同時にもう一人の自分の姿が思い浮かんだ。復讐の焔を燃やし、憎悪で目を染めた黒い自分を……。

 

「……もう一度、会わなくては」

 

 その為にも一刻も早く、霊基を修復させないといけない。ジャンヌはテントに近づいてくる足音に耳を傾けながら小さく呟いた。

 

 

 

 

 〜γ〜

 

 

 

 

「さて、早速だが始めよう」

 

 シエルは集まった面々に目を向けながら口を開く。因みに集まった場所はジャンヌが居るテントだ。彼女は未だ動けない為、自然と集まる場所はそうなった。

 

「シエルくん、シエルくん」

 

 立香はアリアに髪を櫛で梳かされながら、その場で挙手してシエルに声を掛けた。シエルは「どうした?」と首を傾げる。そんな様子の彼に立香は苦笑しつつ言う。

 

「初めての人もいるんだし、簡単な自己紹介ぐらいはしよう? 名前も分からずに作戦会議も何もないでしょ?」

 

 そうだね、と通信機越しにロマンの声が聞こえてくる。確かに自己紹介も未だしていなかった、共に戦うのに互いの名前も知らないままでは駄目だろう。シエルは立香に頭を下げる。

 

「……そうだな、すまない。急ぎ過ぎたようだ」

「ううん、気にしないで。シエルくんが凄く頑張ってくれているのは分かってるから。えっと、じゃあ、言い出しっぺの私からだね!」

 

 立香はシエルに対してそう告げると、快活な笑みを浮かべて自己紹介を始めた。

 

「私は藤丸立香、カルデアのマスターやってます! これからよろしくお願いします!」

「私はマシュ・キリエライト。藤丸立香のサーヴァントです、皆さんよろしくお願いします」

「フォウ! フォーウ!」

「俺もこの嬢ちゃんのサーヴァントだ。クラスはランサー、真名はクー・フーリン。まっ、気楽にいこうや」

『僕はロマニ・アーキマン。彼らのサポートを担当しています。心強い仲間と出会えて良かった……彼ら共々よろしくお願いしますね』

「シエル・エンプティ、カルデアのマスター……ではないな、今は。とりあえず、戦闘要員と覚えて貰えればいい。以後よろしく頼む」

 

 そうやってカルデア組の自己紹介が終わると、立香の後ろに立つアリアに目が向けられた。アリアは一礼をすると、帽子を外して自らの名を告げる。銀の髪が揺れて、光を浴びて輝いた。

 

「私は、アリア。ただのアリア、この地で狩人をしている。貴方達には及ばないが、戦闘も問題ない。よろしくお願いするよ」

 

 彼女の自己紹介が終わり、次に口を開いたのはゲオルギウスとジャンヌだ。

 

「私はゲオルギウス、クラスはライダーです。この拠点で指揮を執っています。改めてよろしくお願いしますね、カルデアの方々。そして、アリア殿」

「真名、ジャンヌ・ダルク。クラスはルーラーです、助けてくださり本当にありがとうございます。すぐに動けるようにするので、皆さん、よろしくお願いします」

 

 ジャンヌはベッドに腰掛けながら、頭を深く下げて感謝を告げた。まだ体は痛むようだが、少しずつ動けるようになっているようだ。短時間でここまで回復出来るのは、ゲオルギウスの治療がよく効いたのだろう。

 そして、面々の前に姿を見せたのは偉丈夫の男だ。大剣を背中の鞘に納め、軽装の鎧に身を包んだ彼はシエルらに一礼。

 

「セイバー、ジークフリートだ。未だに未熟な身だが、全霊を賭して戦おう。よろしく頼む」

 

 見た目に合わない、少し下からの言葉に驚き──次いで、それを上回る彼の正体に目を見開いた。彼が言い放った真名に驚愕するカルデア面々の中で唯一、立香は「何処で聞いたような、ないような……?」と首を傾げる。そんな立香にロマンが通信機器越しに興奮気味に説明をした。

 

『ジークフリートと言えば大英雄だよ! 邪竜ファブニールを討ち倒し、その血を浴びて不死身となった者! 叙事詩“ニーベルンゲンの歌”の主人公その人さ! これは凄い、特異点に来てから散々だったけれど、ここに来て漸く風が吹いて来たぞぅ!』

「おー、つまり凄い人なんですね! 分かりました!」

 

 ヒャッホーウ、と歓声を上げるロマン。立香は彼からの説明に大体把握したようで、ジークフリートをキラキラとした眼差しで見つめていた。その純粋な眼差しにジークフリートは少したじろいでるようで、目線が泳いでいた。

 

 こほん、と咳払いを一つ。少々脱線しそうな雰囲気を断ち切り、シエルは改めてジークフリートに向き直る。

 

「大英雄と呼ばれる貴方と共に戦えるとは、光栄だ。よろしく頼む、ジークフリート」

「ああ、こちらこそ。微弱ながら力になろう」

 

 力強く握手を交わし、二人は互いに頷く。

 

『さて、これで紹介は終わったかな?』

「そのようだな……これが全戦力でいいのか? ゲオルギウス」

「ええ、この場にいる者が今の全戦力です」

「今の、という事は他にも何かあるのか?」

「はい。はぐれサーヴァントを数人確認しています。私達の味方になるのかは分かりませんが……」

「……接触する価値はあるか。仮に敵になるならば、その場で斬り捨てれば問題ないだろう」

「じゃあ、とりあえずはぐれサーヴァントに接触する感じでいいのかな、シエルくん?」

「ああ、それでいいと思うが……藤丸はどう思う?」

「ん、そうだなぁ……私もそれで大丈夫だと思うよ。話が分かる人だといいんだけど」

『うぅん、今までの経験からだと……不安だなぁ』

「そうだよねぇ……」

「あ、安心してください先輩! 何があろうと、私が守ります! こう、盾でドカンと! はい!」

「私もいる。大丈夫だよ、立香さん」

「マシュ! アリアさん! 好き!」

 

 立香がマシュとアリアに抱きつく。それを苦笑しつつ見ながら、シエルは周囲を見渡して、

 

「では、第一目標ははぐれサーヴァントに接触し、仲間にする事。敵対するならば──その場で斬り捨てる事、でいいだろうか?」

 

 その確認の言葉にそれぞれが頷き、一先ず第一の目標が決定した。一番は聖杯の確保、特異点の修復だが、今のままでは厳しい状況だろう。相手の戦力は無数にして強力、こちらもそれに対応する為により戦力の補強が必要になる。シエルとしては今のままでも勝ちを譲る気はあらず、負ける事など考えてはいないが──勝利を揺るぎないものにする為にも準備はするに越した事は無い。

 

「さて、はぐれサーヴァントに接触する人員は……俺達が担った方がいいだろうな」

「まあ、こっちには嬢ちゃんって言うマスターもいるし、その方が色々と分かりやすいだろ」

「そうですね……では、カルデアの皆さんに任せてもよろしいですか?」

「ああ、任せてくれ。藤丸、キリエライトもそれでいいか?」

「うん、任せて!」

「はい、大丈夫です!」

「そうか、ありがとう。それで、アリアだが……どうする?」

 

 付いてくるのか、それとも別行動をとるのか、それを尋ねる。アリアはその問いかけに立香をちらりと見た後に答えた。

 

「私も同行していいだろうか」

「勿論ですよ! アリアさんがいれば百人力です!」

「ふふ、ありがとう。足手まといにはならないよう、私も頑張るよ」

「わ、わ、頭撫で……」

「ああ、すまない。嫌だったかな」

「い、いえ、嫌だなんてそんな! た、ただ、お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかなぁ、って思って……ご、ごめんなさい」

「───」

「アリアさん?」

 

 視界が霞んだ。

 目の前で首を傾げる少女に、赤髪の少女の輪郭が重なる。太陽のような笑みを浮かべた彼女は───。

 

「ど、どうしようマシュ!? アリアさんが固まっちゃったよ! 私変なこと言ったかな!?」

「お、落ち着いてください先輩! えっと、こういう時は何を……!」

「く、ぶっ、はははっ」

「もう、何で笑ってるのさランサー!」

「いんや? な、何でもねぇよマスター……くくっ」

「もーっ!!」

 

 ──在りし日の光景が、頭を過ぎった。もう手に入らない、ささやかで暖かな世界。………悍ましい血の怪物が破壊した世界。

 

「アリアさん? だ、大丈夫ですか?」

「っ、あ、ああ。私は平気だよ、さあ出発の準備をしようか」

「アリア、さん……?」

 

 軋む心、増す憎悪、復讐の鎖に囚われた狩人(アリア)は立香の頭を去り際にひと撫でし、テントから出て行った。立香は撫でられていた頭を触り、眉を顰める。

 

「また、あの目……」

 

 嫌な感情だ。仄暗い、何かに囚われた者の目。感受性豊かな立香はアリアから放たれる激情をしっかりと感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私と、同じ……」

 

 ──ぼそり、と小さな呟き。それが誰かに聞こえる事は無かった。

 




遅れてすまない・・・

今回は顔合わせ回というか、説明回というか、場繋ぎというか・・・まあ、大して動きはないです。はい。なんで、文量もいつもより少ないです。

キャラが増えたお陰で書きづらくなっていくぅー!WHO!

なんか、俺のジャンヌ褐色なんだけど・・・読み聞かせのお姉さんなんだけど・・・・・あるぇー?

次回は未定です。なるべく早くお届けしたいですが、まあ気長に待っていてください。調子良ければすぐ書き終わるんですがねぇ・・・。

それでは、また次回で会いましょう。
感想、アドバイス、誤字脱字などがあれば是非どうぞ。

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