八幡のカントー地方 〜ぶらり一人旅(希望)〜 作:龍@pixivでも活動中
はちまん「さて、バッチ制覇できなくなったわけだが」
ポケモン達を回復させてカラカラ、ゴルバット、ロコンをボールから出して話し合う。今はバトル場のあるポケモンセンターの裏手の洞窟に来ている。
はちまん「ゆきの達には事情を話すけど、うーん、まあ別に支障はないからいいか」
雪乃達には悪いことをした。これで最初にかわした約束も果たせなくなる。
けどジム制覇をしなくたって別に問題はないのも事実。
はちまん「は〜、ゆきのからキレられそ」
シオン「………………………これからどうするの?」
一緒にいてくれているシオンが聞いてきた。
今までの旅の目的はバッチ集めだった。
けれどこれでもう8個全部集められなくなった。もちろんポケモンリーグにだって行けない。
はちまん「どうすっかな……ロケット団の件でタマムシに戻るってエリカと約束してるから、そっちを片付ける方向で行くか」
シオン「………………………じゃあ」
はちまん「お前と、アミーと一緒に行くってことになるかな」
シオン「………………………やった」
はちまん「ならアミーを帰す方法を考えるかー」
ごろん、と大の字になって床に転がる。実はこのバトル場がある場所は一度安全面を考えて封鎖されていたが、後々キョウが封鎖を解いた。
解かれたばかりなので俺ら2人とポケモン達しかいない。俺はカラカラの頭を撫でながら、洞窟の天井を仰ぎ見る。
はちまん「………なにしよう」
アミーを本部に戻す方法を考えてみた。でもそれはアミーがいないとどうしたって話は進まない。
だったらと頭の片隅にそれは置いておいたけど、そうすると何もすることがなくなった。
はちまん「ポケモンを鍛えるにも、街の横の12番道路、13番道路、14番道路、15番道路は長いからなぁ……行こうにもって感じだ」
アンズ「ふふ、そうはなりませんでござるよ」
はちまん「アンズ?」
いつのまにか俺のそばにアンズがいて、頭上から俺の顔を見下ろしていた。
アンズ「安心してくだされ、ピンクバッチならここにあるでござる」
そう言って手の中のハートの形をしたバッチを見せてきた。
はちまん「えっ⁉︎ な、なんでそれ持ってるんだ⁉︎」
アンズ「全く、人を試すのは父上の悪いくせでござるよ。しかしはちまん殿、拙者からこのバッチは差し上げるでござる」
アンズはからかうように俺の額にピンクバッチを乗っけてきた。
アンズ「父上は『ワシの持っているバッチはやらない』と言っていたはずでござる。なれば『拙者から』あげるバッチはそのひとつではないでござる」
はちまん「え……?」
額に乗っけられたピンクバッチを手に取って起き上がる。そしてアンズの方をみる。
いいのか?
しかしたしかにアンズの言う通りであるなら、キョウはバッチをくれる気だったってことか?
はちまん「なんであんな試すような……」
アンズ「全くでござる。娘の命もかかっていたのにもかかわらず、最初からあの人の仕業だとわかっていて、それでもなおはちまん殿の真意のほどを試したかったらしいでござるよ」
はちまん「それで……」
アンズ「それではちまん殿の自分の中の何物にも変えられない大切なものを守ろうとする行為に対して、バッチを授けるとのこと」
シオン「………………………」
はちまん「……は、はは、なんだそりゃ」
バッチ、貰えたって事でいいのか?
はちまん「あ、そうだアンズ、体の調子はいいのか?」
アンズ「うむっ! 半日も寝れば完全回復でござる」
腕をムキっとさせて自信満々に回復した身体を見せつけてくる。可愛い。
アミーの方はまだ完治とはいかないらしい。
はちまん「バッチ、手に入ったってことはもうここにいる意味もないのか」
シオン「………………………はち」
はちまん「安心しろシオン。アミーさんが帰ると言うまで一緒にいるから」
シオン「………………………わかった」
どこか嬉しそうに、どこか寂しそうにしてシオンは頷いた。
そんないじらしくするシオンを、俺は自分でもわからない内に抱きしめていた。
シオン「………………………はち?」
細い。
軽い。
そして、小さい。
力一杯抱きしめてしまうとすぐにでも折れてしまいそうな身体だ。そんなシオンを俺は抱きしめて、
はちまん「……よかった」
彼女の耳元で、訳もわからずそう呟いた。
自分でも何をやっているのかわからなった。ただシオンがこうしているだけで安心した自分がいる。
あの時、俺は3人のほかにシオンも心配していた。だから無事なのが嬉しいのか。だとしてもこんな大胆なこと俺らしくないなぁ、と思うと笑えてきた。
はちまん「はは……無事でよかったってとこか」
シオン「………………………」
アンズ「はちまん殿、はちまん殿」
はちまん「ん?」
アンズ「シオン殿、倒れそうなくらい照れてるでござるよ」
はちまん「へ?」
体を離してシオンの顔を見れば、真っ白な頬にうっすらと赤みがさしていた。
しかし表情は若干強張ってるってだけであまり変わらない。
はちまん「え、そこまでじゃないだろ」
アンズ「そうでござるか? ふふっ」
シオン「………………………ぱいなっぷる、あとでおしおき」
アンズ「おーおー、怖い怖い」
昼頃に追いかけ回されたお返しと言わんばかりにシオンをからかって布で覆われた口で小さく笑うと、アンズはどろんと姿を消した。
アンズがいなくなり、シオンの顔を見て本当に変わったのかどうか吟味するためにジックリと彼女の顔を見つめていると、ぐいっと顔を押しのけられた。その頃にアミーがやってきた。
アミー「ほんと仲良いわねアンタら」
はちまん「アミー? 起きてきて大丈夫なのか?」
アミー「大丈夫よ。それにやることが多いし寝てられないの」
はちまん「ああ、ロロットが現れたってことはどこかにロケット団が潜んでるだろうからな。街の住民に警戒してもらわないと……」
アミー「ロケット団はもう捕まった、そして警戒させるのももうやった。そして安全だと判断して警戒体制も解除されてるわよ」
はちまん「はやっ⁉︎ え、怪我して寝てる時にいつのまに……」
アミー「アンズがどうしてあんなにも父親の話をあなたにできたかわかる? それはね、私達の部屋にキョウさんが現れて、伝えにきたからよ」
街の警備やらなにやら何から何までキョウが全部後処理を済ませたらしい。そういえばここを一度封鎖して、それを解いたのもキョウだったな。
アミー「ふう〜〜〜………」
アミーは大きなため息をつくと、その巨大な胸の下で腕を組んだ。そして自虐的に笑うと、
アミー「まるで私いらないみたいじゃない?」
はちまん「…………」
アミー「ぜーんぶぜんぶキョウさんがやってさ、今までこの街を守ることにやっきになってたけど、私は怪我しただけで後のことはぜーんぶあの人が」
はちまん「アミー、それは」
アミー「慰めの言葉はいらないわよ。10歳児に元気付けられるほど子供じゃないし、わからないわけでもない」
いや、とアミーは続けた。
アミー「子供だったかもね、私は。この街守るって言ってロロットに勝てなかった。ロロットの街への侵入も許している。たしかにあの人なら私の警戒網の抜け道くらい知ってるとは思うけど……悔しい。悔しくて、自分が惨めでさ」
はちまん「…………アミー」
アミー「慰めはいらないって。それで、キョウさんの行動を見て踏ん切りがついたわ。帰るわ、本拠地に」
シオン「………………………あみーさん」
はちまん「やること多いって言ってたのはそのことか……でもいいのか?」
アミー「正直に言わせてもらうと、私らが集まったところでサカキやロロットに勝てる見込みは微塵も感じられない。でも話し合う時なんでしょうね。意固地になってばかりじゃいられないってこと」
さて、と自分の心も落ち着かせるように一息ついてから腰に手を当てると、
アミー「で、いつ戻るの? 私のオニドリルならすぐにでも本部に空飛んで戻れるけど」
シオン「………………………」
はちまん「シオン?」
シオン「………………………」
じーーーっとシオンは黙って俺の顔を見つめてくる。無表情で。
はちまん「なに」
シオン「………………………わからない?」
はちまん「言われないとわかんねーよ」
シオン「………………………そのこみたいにはいかないね」
シオンはカラカラの方を見た。カラカラは首を傾げる。
シオン「………………………はなれたくない」
はちまん「シオン」
シオン「………………………わかってる、でも」
スカートをぎゅっと掴むと、シオンは顔を伏せた。ゆっくり首を横に振ってから、すぐに顔を上げて、
シオン「………………………またあえるよね」
はちまん「おう。約束、あるからな」
シオン「………………………ん」
短く返事をすると、アミーの手を引いた。
シオン「………………………いこ」
アミー「いいの?」
シオン「………………………にんばかりかっこいいことさせられない」
アミー「へぇ……わかった。それじゃ行こっか」
シオンは最後に俺の方を見てから、
シオン「………………………うん」
2人でポケモンセンターから出て行った。アミーと手を繋いで出て行くシオンの後ろ姿を見ていると、なんとなく喪失感を覚えた。
そうか、シオンタウンからずっと一緒だったもんな。
けどナナシマに連れてく約束もあるからすぐに会えるだろ……と、ここまで思って自分がまた会えることに安心したのを自覚して思わず笑ってしまった。前までの俺ならもう会わなくて済むと思うところなのに、どうしたんだろーな。