平成狸合戦ぽんぽこ(ガチ)   作:公家麻呂

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11話 藤野狸連携

慎重なやり方に対して懐疑的な意見が上がるようになる。

 

「江戸時代は、狸の全盛時代であった。作家や文術家は挙って、おらたちを題材にした。」

 

そんな中で、おろく婆は図書館の一角で講義を行った。

 

「しかし、狸は目立ちすぎた。人間の反感を買った。文明開化以来、人間たちは狸を大量に殺して毛皮や歯ブラシにした。人間たちの復讐心を満足させたのじゃ…。」

 

おろく婆としては、今のやり方から過激なやり方に目を向けるようになった若手狸や、それを主導する権太や義男の様な過激派への歯止めにしようとしていたようだった。

 

「皆の衆、おらたちがこの手痛い経験を活かし、変化を慎んできた数十年。狸にとって、もっとも平和な時代を過ごしてきたことを忘れてはいけませんぞ。化学を軽々しく使って、人間の復讐心を煽るようなことは厳に慎んでもらいたい。」

 

だが、おろく婆の考えとは逆に作用することになってしまう。

 

多くの狸たちが冬に備えて、栄養を蓄えている頃。

 

 

義男や権太と言った過激派たちは、集会を開いていた。

 

「要するに、江戸時代までは化学を使っていたってことだろう?」

「逆を言えば、江戸時代まで戦い続けてたから今を維持できたってことじゃないのか?」

 

過激派狸たちは自分たちの意見を口々に言いあう。

 

「文明開化の時に不利になったからって、逃げに徹したから今みたいに人間に住処を追いやられたってことだ!」

「腑抜けたせいでこうなった。」「戦い続けるべきだった!」「んだんだ!」

 

権太の言葉に賛意を示す狸たち。

過激派の狸たちは、おろく婆の言葉を違う形で解釈していたのだ。

 

 

そんな、ある日の事。多摩丘陵に疲れ果てた1匹の狸が、造成現場にたどり着いた。

 

この狸は、造成現場近くの茂みに身を隠した。

そんなとき、造成現場の偵察に来ていた義男ら狸に保護されたのであった。

 

 

 

狸は、万福寺に運ばれ。

鶴亀和尚やおろく婆の尋問を受けることに、とは言え同じ狸であって尋問とは名ばかりの穏やかなものであった。

 

「随分、お疲れの様じゃが?どこから来なさった?」

 

「藤野の山々からです。」

 

「そこは、四国ですか?佐渡ですか?」

 

鶴亀和尚の問いに答えた彼に対し、正吉は勢いよく尋ねた。

 

「いえ、この隣の神奈川県の藤野町からです。」

「神奈川県…、なんだ…四国からではないんですか。」

 

正吉は、それを聞いて落胆した。

 

「なんだか、期待を裏切ったようですね。」

 

彼は、申し訳なさそうに鶴亀和尚たちに尋ねる。

 

「いや、ちょっと待ち人があったもんだから。」

「それはそうと、いったい何の御用件で?」

 

鶴亀和尚の問いを聞いた彼は目に力を入れ声を出す。

 

「やっと突き止めたんです!私たちの藤野の山をめちゃめちゃにした土がどこから来たのかを!」

 

林と言うこの狸によれば、藤野の山々に最近大量の土砂や瓦礫が捨てられるようになって、川の水が汚れ、土砂崩れが頻発し、狸や他の動物たちが大変な目にあっているという。

開発残土が、どこから運び込まれているかを調べるために林さんは人間に化け、不法投棄をしたトラックの荷台に潜伏した。しかし、林さんは変化術が得意ではなくトラックに揺られているうちに眠ってしまい元の狸に戻ってしまったのだ。

 

「藤野町だけじゃないんです!隣町もそうです!それに、ゴミ処理場やゴルフ場もあちこちに!」

 

「山々が削られて、おらたちが迷惑。削られた土が捨てられて藤野町が迷惑。どんだけ業が深いんじゃろ。」

 

おろく婆はあきれて宙を向く。

鶴亀和尚も頷いて応じた。

 

「わたしも、ここについてみて驚きました。残土は大都会のど真ん中から運ばれてきたと思っていたのに、ここも山じゃないですか!山を削って、別の山に捨てる。いったい何の意味があるんですか!!まったく理解できません。」

 

林さんの言葉に、正吉が胸を張って喋る。

 

「じゃあ、僕らが開発を止めたら藤野町も助けられるんですね!」

 

それ聞いた林さんは気合に目を輝かす。

 

「なんて、素晴らしい青年でしょう!皆さんには藤野町の仲間のためにも是非とも頑張ってもらいたいです!」

 

林の視線と言葉に、おろく婆や鶴亀和尚は目線をそらす。

 

「それが、そのなんとも…。」

 

多摩丘陵の狸たちが、何とも言えない態度をとって状況を察した林も肩を落とした。

 

 

林はその日のうちに藤野町へ帰ろうとしたが、義男は林を呼び止めた。

 

義男は、権太の住処に林を招き入れ、二人を引き合わせたのだ。

 

林を自分の住処に連れてきた義男に対して、権太は冬の蓄えの時期であったゆえに最初は歓迎しなかった。

しかし、林から伝えられた藤野町の窮状を聞くや否や、権太は人間に対する怒りをあらわにした。その怒りをあらわにした権太に対し林も人間に対する不満を爆発させ、二人は意気投合した。

 

「確かに付近の港北や緑区からも逃げてきた者たちが多くいます。やはり、人間たちの横暴は目に余ります!」

「まったくだ!!」

 

「林さん、正直に言えば、多摩丘陵の狸たちだけでは勝ち目が見えません。無論、藤野町の被害も拡大するでしょう。林さん、多摩丘陵・藤野の山々の存続のために私たちは共闘すべきだ。」

 

「これは、それぞれが独自に何かをするという段階ではないような気がします。私も藤野に戻ったら周辺の仲間たちに呼びかけようと思います。」

 

林は、義男や権太ら過激派の行動が一時的でも開発を止めた事実を重く見て、多摩丘陵の狸たちと共に立ち上がる決意をしたのであった。

 

 

 


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