平成狸合戦ぽんぽこ(ガチ)   作:公家麻呂

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15話 妖怪大作戦

 

 

決起集会の後、狸たちは直ちに特訓を開始した。

狸たちは血の滲むような訓練を経て、四国三長老をして化け学の集大成と言わせるほどのものを完成させたのであった。

 

その過程で屋島の禿が999歳の誕生日を迎え、宴会の余興に那須与一を披露した。

この余興で、那須与一を演じた禿は見事に扇に矢を当てて見せた。

 

「時…、来たれり。」

 

これを持って、妖怪大作戦は決行されることとなった。

 

「「「おぉおおおおおおお!!!」」」

「「「「「おぉおおおおおおおおお!!!」」」」」

「「「「「「「おぉおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」」」

 

この祝いの宴には関八州の狸勢力から特使が送られ、妖怪大作戦の成功を確信したのであった。

 

 

 

 

ついに、妖怪大作戦発動の時がやって来た。

天候は曇り風はなく、うすら寒く湿度65%、絶好の妖怪日和であった。

 

古来、化け物や妖怪の類に変化して人を驚かす事は、狸たちの最も得意とするところであり、四国三長老を筆頭に義男、権太、正吉、ぽん吉、青左衛門、熊太郎、そして鶴亀和尚におろく婆と老若男女問わず。多摩丘陵の狸たちの総力を結集したこの作戦は、狸たち一匹一匹に潜在する気や妖力のエネルギーはもちろんの事、自然界に混在する火力・電力・風力・水力・浮力と言った諸々の力をいかに引き出して、蓄積させて放出させるかにかかっていた。

 

 

そのために行った特訓の激しさは、とても筆舌に及ぶところではなかった。

老いも若いも、雄雌も、変化できるもできないも関係なく。さらには関東圏の有志狸たちも参加し、力を出し合ったのである。

 

狸たちの闘志は舞い飛ぶ炎となって、まだ見ぬ多摩丘陵周辺の人間たちへ見せつけるために全力投球してしまっているのだ。

 

 

 

 

夜、世間一般では夕食終わりの時間帯。

 

団地の建物の影に柳の霊の影が現れ、唐突に巨大な墓石が生えてくる。

住宅街の枯れた桜並木に灰をかけ「桜に花を咲かせましょう!」の掛け声で桜に花咲かせる変化狸たち。

 

「ん、なんだろう?」「なんのさわぎ?」

 

異常に気が付いて、敷地の外やベランダに立つ住人たちの目には驚きが目に飛び込んでくる。

 

「わっ!?なんだこれ!?」「わぁ…」

 

普段見慣れてモダンな街灯が、時代を感じさせるガス灯や篝火に姿を変える。

自分たちの足元を手のひら程度にしか見えない小人が駆け抜け、目の前の道を魑魅魍魎が闊歩する。

 

「おぉ…」「す、すごい…」

人間たちからは感嘆の声や拍手が送られる。

 

風人に雷神、唐傘お化けや歴史の偉人に虎や獅子などの動物に変化する狸たちに、人間たちも老若男女問わず目を輝かせていた。聴衆の中に混じり様子を見守っている鶴亀和尚はうまくっている様子に嬉しそうにしきりに頷いていた。

 

少々調子に乗った狸たちの一部に、テニスコートのフェンスや外壁の一部を壊してしまったものや、夕食時ゆえに人間様のお食事に手を出してしまったお調子者の存在は御愛嬌であろう。

 

 

そして、作戦の締である大津波を刑部らの狸たちが投影する。

刑部の横に並ぶ義男や他の狸の額にも血管が浮き出ており、額から血を流す者たちもいた。

 

押し寄せる津波に飲み込まれ、もがき暴れる人間たち、木や電柱にしがみつき、ベランダによじ登ろうとする人間たち。

 

得も知れない存在による天変地異に人間たちもこの時ばかりは、得体のしれない何かを恐ろしく思い恐怖した。

 

刑部が術の行使のし過ぎで倒れると、術のバランスが崩れ始める。

 

「まだだ!まだ終わらせない!!」

 

刑部の抜けた穴を埋めようと義男は必死で負担を引き受ける。

刑部の穴は、あまりにも大きく義男と一緒に術を行使していた狸たちは一匹、また一匹気を失い倒れていく。

義男の負担は、膨れ上がっていく。彼の頭から方が焼き切れんほどの力がかかり、まるで汗のように頭から血が流れ始める。

 

「ぐぅううう!!オン・キリキリ・バザラ・ウン・ハッタ!!!オン・キリキリ・バザラ・ウ゛ン・ハッタ!!ゲフッ!!オ゛ン゛・ギリ゛ギリ゛・バザラ゛・ゴボォ!ウ゛ン゛・バッダ!!!ガァアアアアアアア!!!!」

 

全身から血が流れ、真言を唱える口からも血が溢れ始める。

 

「い、いかん!!耐えるんじゃ!!」

 

金長は、若干焦りを交えて義男に訴えかける。

金長の声が聞こえているのかは、もはやわからなかった。

義男は白目をむいたまま、一心不乱に印を結びきり続けていた。

 

「義男が死んじゃう!!誰か!!やめさせて!!義男が死んじゃうよ!!」

 

義男の内縁の妻の地位を確立しつつある影の、悲痛な叫びが響く。

 

「あともう少しじゃ!!」

 

金長の言った通り、作戦は終わりに入っていた。住宅地の津波が引いていき、怪異一つ、また一つと収束していく。前座組や序盤組の狸たちが戻って来て、舞台裏の惨状を見て慌てて補佐に回る。

義男の術の負担が減り、なんとか一定に落ち着いたときであった。

義男の背負っていた短槍が輝きだす。

 

「あのものの槍が、あのものの力と共鳴しておる…。」

「ガァアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

屋島の禿の言葉と共に、義男の叫び声が響き渡る。

術に宿る、狸たちの思いが短槍を通りて義男に流れ込んでいるのだ。

 

義男の体から、血と共に光発せられる。

その光は多摩丘陵全体を包み込んでいた。

 

その光は、隣県の地域からも見えるほどであった。

 

義男の体に亀裂が走っているように見える。

 

刑部は目を覚まし、大凡の事態を察した。

刑部は、力の暴走が起こっていることを理解した。

詳細こそわからなかったが、目の前の若狸を死なせてはいけないということだけはわかった。

 

「やるぞ!!」

「うむ。」「相、わかった!!」

 

刑部の言葉に、禿と金長が呼応して義男に流れる力の奔流を分散させる。

漸く収まった時には、日付けがすでに変わっていた。

 

影が義男に駆け寄って、安否を確認する。

 

「よかった…生きてる。」

 

その様子を一瞥した四国三長老は、

 

「「「妖怪大作戦は成った!!」」」

 

「「「「「わぁあああああああああああああああああ!!!!」」」」」

 

狸たちの大歓声が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多摩丘陵の上空。

 

「随分と楽しそうね?レミィ?」

 

紫のネグリジェローブの少女、パチュリーがレミリアに話しかける。

 

「えぇ、軽い気持ちでやったことが思いのほか、素晴らしい方向に進んだからね。それに、これだけのことを今の時代にやり遂げるなんて、吸血鬼であるこの私を持ってもしても敬意を表するわ。」

 

「お嬢様?では?」

 

中華装束の女性、美鈴が話しかけレミリアはそれにこたえる。

 

「あの者に、もう一回会ってみたい。席を用意できるか?」

 

「すこし、時間をいただければ。」

 

美鈴は素早く、その場を離れ。

レミリアは赤い霧へと変わり、パチュリーは魔法で転移して、その場からいなくなった。

 

 

 

 


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