平成狸合戦ぽんぽこ(ガチ)   作:公家麻呂

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17話 二代目陰神刑部継承

 

「皆の活躍は遠く佐渡まで届いた。妖怪大作戦はまさに我々狸の団結の力だった。主らの大作戦は人間どもを感嘆させ圧倒させた。だが、理不尽にもそれは、人間離れした人間の仕業とされてしまった。」

 

「…………ならば!我々は人間離れした人間として人間社会で暮らしていけばよいのだ!」

 

マミゾウと金長の提案は、一考する価値はあったが、多くの狸たちはこの提案にノーを示した。

 

義男と権太は、病床の身とは言え人間との抗戦の継続を明言している刑部を旗頭に独自の勢力を形成し始め。

 

力のないものを見捨てる二人の提案は、慎重派ではあったが正吉率いる若手グループの慎重派離脱を促してしまう結果となった。

 

また、保守中道ともいえる鶴亀和尚も変化者のプライドを捨てた二人の言葉を聞いて、黙ってその場を後にしたのであった。

 

また、その場に残ったものも難しい顔をしたまま、二人に言葉を返すこともしなかった。

 

禿狸は、変化できない狸たちを集め、踊念仏の教祖となっていた。

 

 

 

それからしばらく、刑部狸の容体が急変した。

 

権太の妻お玉や影と言った女性陣の必死の看護も虚しく、刑部の容体は次第に悪化していった。

自分の死期を悟った刑部狸は、自身の重臣にあたる伊予の喜左衛門を呼び寄せた。

 

金長やマミゾウが独自の行動に入っており、牡丹餅山を離れていたため刑部は屋島の禿を見届け人とし、自身の後継者を指名した。

 

ほとんど声にならない、かすれた声で喜左衛門に耳打ちする。

それを聞いた喜左衛門が声に出して周りに伝える。

 

「大地から木々をへし折り、山を削り、川を汚し埋めた人間どもの増長は目に余るものあり。これを捨ておくことは、日本中の山林の死滅を意味するものであり、そこに住まうもの達の死滅を意味するものであることに気が付いた。ここにいたり、我、陰神刑部は人間たちに対し徹底抗戦することを望む。しかしながら、我が命、長くないことを悟るに至り。わが心を理解し、妖としての力を持っている馬引沢の義男に、この陰神刑部の名を継ぐことを望むものである。」

 

刑部の跡目の指名であった。

本来であれば、存命する血縁者がいない陰神刑部において、順当にいけば筆頭重臣である伊予の喜左衛門が継ぐのが普通であったが、刑部は義男の妖怪としての才覚と、指導者としての能力を評価しており、喜左衛門も義男の妖気を感じ取り即座に忠誠を誓った。

 

また、その日の夜。つまるところの刑部が天に旅立つ直前、屋島の禿と刑部の話し合いの席が持たれた。刑部としては金長やマミゾウの人間への迎合案はなんとしても阻止したかった。禿はこの時、念仏踊りの教祖としての活動のみを行っており、四国の長老の仕事を実質上放棄していた。当の本人もすでに失意にあり気力もなかった。

刑部としては、マミゾウや金長に対抗するために、義男には自身の持つすべての地盤を引き継がせるつもりであり、義男も多摩丘陵の強硬派第二位の実力者であり、関東圏の対人間強硬派の纏め役であったが、これを足しても二人の力に今一歩及ばないことを危惧して、禿に対し自身の地盤を義男に継承させることを迫ったのであった。

これに対し、禿はすでに権力争いから身を引いており権力の継承は滞りなく行われることとなる。

 

翌日、刑部は天へと召された。

 

その後、多摩丘陵においてある程度の緑地を残すことに成功した馬の背山の神社にて、執り行われた刑部の葬儀は粛々と執り行われた。喪主は馬引沢の義男である。

そのあとに執り行われた二代目陰神刑部継承の儀は、関東圏の主要な強硬派が集まっていた。また、義男の支持を表明していた竜太郎狐と縁のあるにある高位の狐たち、関東圏以外の日本の有力狸たちも自身の縁者や重臣を派遣した。

また、化け猫の総大将に当たる猫鬼肖(ネコショウ)を中心に、狒々と言った動物妖怪の残党たちの姿もあった。

 

陰神刑部の名を継いだ義男は、関東圏の狸たちの前で陰神刑部継承を宣言し、ここに関東における抵抗運動を二代目陰神刑部狸義男の名を持って掌握したのであった。

 

「先代刑部様はお亡くなり、屋島の禿様も隠居なされた。残る金長様や二つ岩様も、全てをあきらめたかの様な策を示すのみ。もはやこれまでなのか?一切の希望を捨てるしかないのか?滅びは避けられないのか?私の答えは否!!断固として否である!!なにがあろうとも、我々の抵抗の炎は消えない!!消してはならないのである!!」

 

義男のそばには影が狼としての姿を見せて横に控え、権太や熊太郎と言った初期からの盟友と先代刑部や屋島の禿の配下であった四国狸の有力者たちが並んでいた。

その姿は妖怪、それも大妖怪と並んでも遜色のない妖気を放ち、もはや神々しさまで感じられるほどであった。

 

「ここにお集まりの皆々、なぜ何もしないのか?ここにいる皆々は何をお望みか?このまま何もせずに、全てを奪われるのか。種族の誇りを捨て、全てをあきらめ絶望し、まるで鎖につながれた家畜のように隷属し、人間としてあの狂った世界で生きていくと言うのか…。これほどまでの犠牲を払っても失いたくないものがあると言うのか?仮に人間に紛れて生きるとして、自分の子供たちに種の誇りを捨て惨めに生きろと代々伝え続けるつもりなのか?」

 

狸や狐たちは拳を握り、歯を食いしばった。

「嫌だ!!」「悔しい!!」

ぽつりぽつりと言葉が返ってくる。

 

義男は参加者を見渡してから口を開く。

 

「ここに集まった皆々が、どのような決断をするかはわからない。だが、私はこの場を借りてこう申し上げたい。」

 

義男が拳を振り上げる。

 

「我らには緑豊かな大地と美しい水が流れる川や泉が必要だ!!人間よ自然を返せ!!さもなくば死を!!」

 

義男の言葉に参加者たちが拳を上げ呼応する。

 

「「「「「「自然を返せ!!さもなくば死を!!」」」」」」」

 

さらに勢いが増す。

 

「「「「「「「「「自然を返せ!!さもなくば死を!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 


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