平成狸合戦ぽんぽこ(ガチ)   作:公家麻呂

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19話 進軍

 

 

横浜市定例会見

 

『元来、我々の計画したニュータウンは、昨今問題視されるような無秩序な乱開発の様なものではなく。いわゆるスプロール現象を防止するための物でありまして、先ごろの議会におきまして、本来の想定にない不必要な開発が見受けられたとの報告を受け、議会で精査を重ね検討した結果。計画の一部を削除、もしくは凍結を決定したものであります。』

『この件は、この前の市役所放火事件や連続議員襲撃事件と関係があるのでしょうか?反対派の襲撃と噂されていますが?』

『そのような事実はありません。会見を終了します。』

 

横浜の港北ニュータウン計画を始めとする神奈川の開発計画が大幅に見直される流れが生まれた。彼ら、狸たちの勝利であった。この会見を聞いたたっつきたちは宴会を開き勝利を祝した。

 

「「ばんざーい!」」「「ばんざーい!」」

 

 

 

 

 

当時狸たちは、横浜市役所放火を皮切りに議員宅襲撃、関係施設への破壊行動を繰り返した。

それこそ多摩丘陵のそれを上回る勢いであった。

 

無論、警察も対処に動いた。

しかしながら、狸たちは変化した姿で襲撃し、警察その他の追跡には別の姿への変化や変化を解くことで追跡を撒いた。

警察の捜査は遅々として進まず、関係各所への被害は広がる一方であった。

報道各社も連日報道を繰り返した。

 

市長を始めとする関係者たちは、日に日に増える被害に対して見栄よりも自らの安全を優先する結果であった。

この功績を横取りするような存在もなかった。

 

義男がまとめ上げた狸たちの抵抗勢力の連合体は、神奈川の土地開発を挫く結果となり、抵抗勢力の諸氏たちは大いに盛り上がった。

 

関東、特に深刻化していた南関東の開発地域の一つである神奈川横浜の開発が止まったことは妖狐理たちにも人間たちにも大きな影響を与えた。

 

この勢いに乗じて、他の開発計画も中止に持っていこうと妖狐理たちは動くわけである。北関東他の開発地は宅地開発や学術都市設立を目的としたものが多く、鋭角の縮小の余地が多いものであった。しかし、東京や千葉の開発は違う経済や行政と言ったものが多く絡むものであったのだ。

 

千葉県や東京都は警察に対して強硬措置も場合によっては容認すると強気な対応をするように示唆し、義男らとの対立は決定的であった。

 

一方で、四国の軍隊狸や刑部家の眷属である八百八狸、関東における反人間の妖狐狸他の諸氏、他地域からの有志達を統一し妖獣連合を創設し指揮系統の一本化を行った。

 

その時は近い…。

人間以外の誰もが予感していた。

 

 

 

 

 

 

この日、多摩丘陵と言った多くの動物たちは屋島の禿狸主導の下、大移動が開始された。

変化のできるものたちが人間の車両レンタル会社よりバスやトラックと言った大型車を数台レンタルし、乗せられるだけ彼らを詰め込んだ。

それこそ、人間の朝の通勤ラッシュの様であった。

 

「あんた~」

一組の番いの雌が、つがいの雄と別れを惜しむ。

 

「安心しろ!次に会うときは、この辺全部元通りだ!」

 

つがいの雄はそう言って雌を安心させようとしていた。

 

 

この光景は各所で見られた。

妖狐狸たちは人間との戦いにおいて、力の弱い子供や雌、そして老獣たちを安全なところへ送る決断をした。

 

レミリア・スカーレットの庇護下に入り、幻想郷へ疎開移住する決断であった。

 

 

疎開組を見送る義男たち。

義男は自分の横で、仲間たちを見送る影に話しかける。

 

「影、君は一緒に行かなくて良かったのか?聞くところによれば、幻想郷にはこちらで滅んだ生き物がたくさんいると聞くぞ。お前の仲間の狼だって大勢…。」

 

「義男…。確かにあたしと同じ狼がたくさんいるんだと思うよ。でも、あの地獄を生き延びて今日の今日まで苦楽を共にしてきたのは、あなたたちなんだよ。そんな連れないこと言わないでよ。」

 

「だけど、この戦いはきっと勝てない。俺はお前に死んでほしくはない。」

「何言ってんのよ。ちょっと前まで、あたしより弱かったのに。もう、大妖怪面して~。」

 

影は義男に笑いかける。

 

「…お前、かわいいじゃないか。」

「今更気が付いたの?」

「くはははは。」

 

義男からも笑いがこぼれ、すぐにまじめな表情に変わる。

 

「やはり、お前は幻想郷に行くべきだ。俺はお前に死んでほしくない…大切だからだ。」

「義男…、私も同じだよ。好きな人の最期くらい見届けさせてよ…。それが済んだら、ちゃんと私も幻想郷に行くよ。たしか、諏訪の八坂様と諏訪様も幻想郷への移住を計画してるって…。で、スカーレット卿の移住からあぶれたのは後日、守矢神社の移住の時に同行させくれるんでしょ?なら、平気でしょ?お願い…。」

「影…、すまない。」

 

義男は、影の目を見て答えたがすぐに視線を疎開組に戻した。

 

ここに残っているのは、人間が憎くて仕方がない連中か。意地でも故郷から離れたくないという連中だ。自分だって、影と言う存在があっても人間憎し、土地離れ難しだ。

 

 

妄執に囚われている。わかっているからと言ってどうすることもできない。

この胸にある黒いものは…

 

 

疎開組が去っていったのを確認する。

義男は、幹部達に号令をかける。

 

「聞け!!我がもとに集まった勇士たちよ!!己が家族は安全な地に送った!!もはや、思い残すことはない!!ここに残ったもの達よ!!怒りを!!憎しみを!!恨みを!!我らのすべてを!!人間にぶつけよ!!戦の始まりだぁあああ!!!」

 

「「「「「「「「「「おぉおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

俺の下に、部下である武彦が駆け寄って来て報告を上げる。

 

「刑部様、千葉の同志が決起。三里塚にて戦端が開かれました。東京のオマワリ…じゃなかった。警察だった…東京の警察の機動隊が敵援軍に向かったとのことです。」

 

「予定通りだ。空港施設は好きに破壊しろと言っておけ。それと、千葉の同志に三里塚へ集結するように命令を、北関東方面は南下を始めさせろ。神奈川の同志を北上させ、我らの後詰とする。」

 

「っは。」

 

義男は再び号令をかける。先ほどより大声で…。

 

「目指すは!!首都東京の主要拠点の破壊及び占領である!!行くぞ!!!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「おぉおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」

 


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