平成狸合戦ぽんぽこ(ガチ)   作:公家麻呂

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20話 燃焼

 

二代目陰神刑部義男による大号令によって、各地の変化者達が行動を開始した。

 

「自然保護団体の皆さん!!空港建設用地より、速やかに退去してください!!皆さんの行動は強盗罪、凶器準備集合罪、および不法占拠に当たります!!この勧告に立ち退かぬ場合は法に基づき皆さんを逮捕しなければなりません!!」

 

千葉県三里塚の空港建設予定地において、三里塚芝山を根倉にしていた与六狸を中心に近隣地域よりヘルメットや鉄パイプ等で武装した過激環境保護団体の人間に扮した変化者達300が集結。人間側100名の警官や空港職員や建設関係者とにらみ合いを開始。

 

「与六…。」

「イ組とロ組の連中を迂回させて後ろの野次馬の中に…。」

 

 

警官たちが強制排除に動こうと歩みだす。

与六たちも鉄パイプや角材を手に向かい合う。

警官たちは腰の警棒を抜きさらに前進する。

 

「イ組とロ組が配置についた。」

「よし…やれ。」

 

与六が首にかけたホイッスルを思いっきり吹き鳴らす。

 

そのすぐ、野次馬の居る方から悲鳴が上がる。

警戒線のカラーコーンを越えた30ほどの集団が火炎瓶を片手に突撃してくる。

 

「死ねぇ!!」

「わぁあああ!?」

 

変化者達の投擲した火炎瓶が警察車両や一部の人間に命中し燃え上がる。

 

「突撃!!」

「「「うぉおおおおお!!」」」

 

 

 

三里塚を皮切りに各地で諸勢力が決起。

 

 

川越の久太郎狐を中心とする集団は一般道より南下し東京へ侵入しようとしたところ。埼玉県警の阻止線に阻まれ、阻止線の強行突破を試みた久太郎狐は、付近の歩道の敷石を剥がしてこれを砕いて投石を行うとともに、棍棒や角材を用いて警官隊及び機動隊を襲撃した。

 

藤野の林狸を中心とした集団は相模湖インターチェンジより中央自動車道へ乱入した。

また、港北の新太郎狸を中心とした集団も鶴見産業道路へ侵入を果たした。

 

「やれ!!やっちまえ!!」「落とせ!!」「や、やめろー!?」

 

この神奈川で決起した二つの集団は投石や火炎瓶の投擲を行い周囲の一般車両を破壊しながら、神奈川県警の警察部隊を攻撃した。また、これらの集団には妖怪の狒々が参加しており殴り倒した機動隊員を高架から投げ落とすなどかなり過激な行動が目立った。

 

特に、二つの集団は鈴ヶ森出口より侵入した青左衛門の集団と合流することを目的としており、この青左衛門の集団は羽田空港の占拠及び破壊を目的とした集団であったため、刃物や刀剣類を装備している者も多くみられた。

 

「本部!!本部!!暴徒の数は2000を超えている!!至急応援を!!」

 

数時間後、この3つの集団は合流。一般道へ通りさらに馬の背山の熊太郎狸や海老取川の黒介猫と合流し穴守橋・稲荷橋・弁天橋で警視庁機動隊と激しく争ったのであった。

 

 

 

 

影の手に握られた、ラジオからはすべての番組が中断され臨時ニュースが流れていた。

 

『暴動は関東各地で発生しています!!特に東京千葉は、非常に大規模なものです!!住民の皆さんや付近にお勤めの皆さんは建物の中に避難し、扉や窓には一切近寄らないでください!!』

 

 

影は思い出す。昨日のことを…

 

「義男、やめようよ。勝てるわけないよ…。」

「わかっている。この前言った通り、俺たちの身勝手な意地だ。」

 

決起を決めた義男に、影の言葉は、思いは届かない。

 

「わたしの事、嫌いになったの…。そうじゃないなら、一緒にいてよぉ。ずっと、一緒にいてぇ…。」

 

気が付けば、嗚咽が混じっていることに気が付く。

義男は、黙ったまま私の頭に手を置いた。

初めて会ったときは同じくらいの背丈で、すぐに私が追い抜いた。

狸と狼だもの、普通よね。

でも、気が付いたら義男は私なんて軽く超える大妖怪になっていた。

背丈も妖気の影響か。私よりずっと大きくなった。

 

「ずっと、一緒だと思ってたのに…。」

 

あの時のまま、他のみんなと一緒に野山を駆け巡っていられると思ったのに、気が付いたらこんなことになっちゃった。

 

「義男、…わたし、あなたの事が好きよ。これからも、ずっとね。だから…思い出をちょうだい。」

 

私は、義男を抱きしめて押し倒した。

体格的に不可能なんだけども、義男は私を抱きしめて受け入れてくれた。

 

 

 

 

 

「影、お前はスカーレット卿と行け。」

「な、なんで?」 「お前にはせめて早く安全なところで暮らしてほしい。それに、惚れた女に自分の負ける姿なんて見せたくない。」

 

 

 

「奥方様は新宿御苑の魔法陣に入ったとの事です。」

武彦が、影の安全を知らせる。

 

「軍隊狸たちに敵主要拠点を制圧させてください。権太さん…」

「おう…。おまえ、刑部狸に襲名しても俺に対しての敬語は抜けなかったな。」

「権太さんは、ぼくの兄貴分ですから。」

 

義男は照れ臭そうに笑う。

 

「義男、すまねぇ…。おれが、あんなこと始めなきゃ、お前がこんなことをする羽目にはならなかった。」

「そんなことはないですよ。誰かが必ずやったでしょう。それに始めたのが権太さんでよかったですよ。権太さんじゃなきゃ、僕はここまでにはなれなかったし、こんなことは成し遂げられなかった。きっともっと早くに野垂れ死んでました。さぁ!始めましょう!大事な良い子を幻想郷に送り出しましょう!」

 

「あぁ、そうだったな。すまねぇ、かっこわりぃとこ見せちまったな。子分連れて先に行ってるぜ。」

「はい、ぼくも行きます。」

 

 

 

義男は、空を見上げる。見事な満月が浮かんでいた。

 

「時は来たれり…。いざ行かん…我が死地へ…。」

 

そして、遂に義男率いる本隊が進軍を開始したのであった。

日比谷公園に集結した精鋭八百八狸が前進を開始した。

 

 


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