平成狸合戦ぽんぽこ(ガチ)   作:公家麻呂

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02話 殺処分場

 

沢の奥へと逃げ込んだ僕たち。僕たち以外の狸たちも多くが、ここに逃げ込んできていた。

辰吉や長老たちを中心とした会議が開かれたが、彼らの会議の結果が出る前に、人間たちは木々を切り倒し、沢を埋め立てながらやってきた。

 

「馬引沢を出て、無事な地域に移住するしかないか。」

 

1匹の長老狸の言葉に、その場にいた他の狸たちも従い馬引沢の狸たちの大移動が始まった。

街の中を30を超える狸の集団が通過するのはさすがに無理があったのだ。

 

僕たちは街に出ると、オマワリとかヤクバショクインとかリョウユウカイとか言う人間たちに包囲されてしまった。

 

「ネット!ネット張れ!!」

「逃げたぞ!!追え!追え!!」

「ようし!このまま追い込め!!」

 

人間たちが僕たちを追いかけまわしてくる。

 

「うわわわわわ!!」

「ちくしょー!俺たちが何したってんだ!!」

 

僕たちは逃げ回った。ゴミバケツを倒したり、形が整った茂みに隠れてみたり、木に登ったりもした。

 

「なんなんだよー!!」

 

「お前ら待て!!」

 

辰吉が叫んだ。

開けた場所に逃げ出した作助たちだった。

作助と他数匹の狸たちが逃げた先は車道と言って、作助を殺したのは車と言うのだと知ったのはだいぶ先の話だった。

 

開けたところに出た作助は、鉄の箱に体当たりをされて死んでしまった。

一瞬だった。叫び声をあげることも、最後の言葉を聞くこともできなかった。

本当に数回、口をパクパクさせて死んだ。何を言っていたかはわからなかった。

体の中身が飛び出して、悲惨な状態だった。

 

長老たちは、腰を抜かしてその場にへたり込み。

辰吉達は、暴れていたけどヤクバショクインの刺又で抑え込まれていた。

 

 

そして、僕も人間たちに掴まって袋の中に閉じ込められてしまった。

 

 

次に目を覚ました場所は、檻の中だった。

 

 

「な、なんだここは?」

「俺たちどうなっちまうんだ?」

「おっ母ぁ、こぇええよぉ。助けてくれ~」

 

周りの仲間たちは恐怖で泣き叫んでいた。

少し離れたところで、辰吉と長老たちが向かい側の猫たちが閉じ込められている檻の方に向かって何やらはしているのが見えた。

確か猫の中には、少ないけど僕らのように化け学に通じ、言葉を話せる者たちもいるって言いう話を聞いたことがあった。

 

向こうに、猫又がいるのかな?

 

そう聞こうと思って、辰吉たちの方に向かって歩き出した。

だが、その前に辰吉たちが、がっくりとその場に崩れ落ちた。

 

「辰吉!長老!?」

 

僕の声に反応した、仲間たちは長老や辰吉の周りに駆け寄る。

僕は辰吉に寄り添う。

 

「辰吉、いったい何があったんだい?光夫は?それに他のみんなは!?ここにいる仲間以外にもいっぱいいただろ?」

 

「たぶん……死んだ。」

 

僕の問いに、辰吉は力なく答える。

 

「そ、そんな。」

 

「ここは、処刑場なんだってよ。あっちの猫に聞いた。」

 

「ね、猫のやつが嘘ついてるんだよ!?嘘ついて僕らをからかってるんだ!」

 

僕は一抹の希望を抱いてそう言い放ったが、周りを見て一抹の希望も消え失せる。

 

向かいの猫の檻も、隣の犬の檻も辰吉のようにすべてをあきらめて茫然自失とするもの、狂ったように泣き叫ぶものたちしかいなかった。

解ってたんだ、予感はしてたんだ。周りの雰囲気で、ここがどんな場所で、僕たちがどうなるかは…。ただただ、怖かった。今も怖い。

 

「気持ちはわかるけど、もうどうにもならないんだよ。」

 

向かいの、猫の檻からそんな声が聞こえる。

 

親しかった作助の惨い死を目の当たりにし、親友の光夫の死を知り、僕は気力を失った。

立つことをやめて、その場に寝そべった。

 

次の日、辰吉と長老たちが連れていかれた。

帰ってこなかった。

 

その次の日、仲間たちの何匹かが連れていかれた。

帰ってこなかった。

その日の午後、向かいの猫が連れて行かれた。

僕たちと話した猫だった。

帰ってこなかった。

 

その次の日は、犬たちが連れていかれていった。

いやだいやだと泣きながら吠えていた。可哀そうだと思ったけれど、明日は我が身と思ったら、怖くなった。

彼らも帰ってこなかった。

 

次の日も、また次の日も誰かが連れて行かれた。

やっぱり誰も帰ってこなかった。

 

そして、数えることをやめて何日経ったかわからないけど。

遂に僕の番が来た。

僕らが最後狸らしい。

僕たちと犬たちと猫たちが同じ部屋に放りこまれる。

 

何もかもをあきらめて静かに座り込むもの、恐怖におびえ泣き叫ぶもの。

 

僕は、前者に近かった諦めの境地とでもいうのだろうか。自分が自分じゃないような、僕を誰かが離れたところから見ているようで、その誰かが僕なような不思議な感じだ。自分の事とは思えない、そんな感じだ。

 

良くはわからない。でも、一匹また一匹と泣き叫ぶ声が減っていく。

 

犬も猫も狸も、みんな静かになっていく。

 

目の前で倒れたあの狸は、たまに野ネズミの狩場が重なって光夫たちとよくケンカした奴だった。

 

そのそばに倒れてる猫は、しゃべれる猫じゃなかったけど、僕らより前に死んだしゃべれる猫の番いだったらしい。よく目が合った。

 

後その隣の狸は、最初に埋められた池で初めて会って、代わりの魚の狩場を教えてくれたいい奴だった。名前を聞くのを忘れてたなぁ。

 

僕の体に寄りかかってくる奴がいる。

どこの誰かは知らないけど。背中が少し黒い茶色い毛並みをした子犬だった。

 

僕は最後に顔を上げる。

人間が透明な壁の向こうにいた。

あいつらは楽しんで僕らを殺しているのだろうか?笑ってない、違うか。

じゃあ、命を奪うことに悲しんでる?泣いてない、これも違う。

何か恨まれることを僕らはしたのだろうか?怒ってる顔でもない。

 

 

じゃあ、なんで…。僕らは殺されなきゃいけないんだ。

 

なんで、僕らは死ななきゃならない。

ぼくらは、死にたくない。死にたくないよ!

そりゃたまには、農家のところから作物を盗んだりしたこともあるよ!

でも、殺されるほどの事か!あいつら、たまに余った野菜を小さな鉄の荷車で潰してたじゃないか!捨てるほどあるものを盗ったからって、そこまでされるほどの事かよ!!

 

お前たちは!お前たちは!!僕らから住むところも、食べるものも全部奪ったじゃないか!!それでも足りないのかよ!!僕らの命まで欲しいのかよ!!

 

なんで!どうして!そこまで欲しがる!お前たちは何が欲しいんだ!!

森を切り刻んで…、山を削って……、川を埋めて何が欲しいんだ!!

 

 

 


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