平成狸合戦ぽんぽこ(ガチ)   作:公家麻呂

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03話 別れと出会い

 

僕は静かにこの光景を目に焼き付けて、静かに死んでいった。

そう、死んだと思ったんだ。

 

でも、僕はまた目を覚ますことが出来たんだ。

 

真っ暗だ。

ひんやりとした冷たいものとぶつかる。

とにかく出なきゃ、ここから出なきゃ。

とにかく暴れまわると、外に出ることができた。

 

僕は振り返る。

黒い袋が無造作に山積みにされている。

この黒い袋は人間がいらなくなったものや食べ残しが入っている袋だ。

馬引沢で見たことがあるぞ。

人間にとってはゴミかもしれないけど、エビの尻尾やあんこカスがあったりして僕らにとってはごちそうだ。ちょっと、おなかも減ったし取り合えずなにか…。

 

おや、僕のほかにも出れた奴がいるみたいだ。

 

「ねぇ、起き…て…、冷たい死んでる。」

 

じゃあ、その隣のやつも…。

やっぱり、死んでる。

 

ゴミの袋の山。

僕と一緒に出てきた亡骸。

 

 

 

 

僕はどこから出てきた?

身の毛がよだつゾワリとした感覚。

考えたくなかった。見るべきではなかった。

でも、僕は、僕の体は勝手に動いた。僕の歯が近くにあった袋を破る。

仲間の死体があった。

 

じゃあ、この山は…。

そんな、悍ましいことを考えちゃいけない!あっちゃいけないんだ!!

 

僕は、狂ったように袋を開けていく。

 

嘘だ!嘘だ!これは夢だ!こんなことあっちゃいけない!!

こんな、こんな馬鹿なこと!!こんな、こんなことって…。

 

「い、いやだ。うそだぁああああああああ!!!」

 

気が付けば、半化けの状態だった。

 

僕の周りには死体死体死体死体死体。幼い死体、若い死体、壮年の死体、年老いた死体。

知ってる奴の死体、知らない奴の死体。辰吉の死体、光夫の死体、長老の死体。

狸の死体、犬の死体、猫の死体。

 

「ああああ!!ああああ!!ああああああああああああ!!!」

ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!

 

 

「な、なんで。なんで、あの中にみ、光夫や辰吉が!?」

 

僕は頭の中が真っ白になる。真っ白の頭の中で必死に考える。

 

「だ、だって。あ、あの袋はゴミを入れる袋だぞ!?」

 

なんで、あの中に入ってるんだ俺たちは!?ゴミを入れる袋に!?

ゴミ、ゴミ、ゴミ!?

 

 

 

 

俺たちは、俺たちはゴミなのか!?俺たちはゴミなのか!!俺たちはゴミなのか!!!

辰吉の若親分が、親友の光夫がゴミなのか!?

あの物知りな長老がゴミなのか!?食い意地が張ってたけど、根はやさしい作助はゴミなのか!?長老たちが殺されて、落ち込んだ僕に気を使って声をかけてきたあの猫又もゴミなのか!?狸も犬も猫もゴミなのか!?ゴミなのか!?ゴミなのか!?ゴミなのか!?

 

違う。

違う、違う。

違う、違う、違う。

「違う!!違う!!!違う!!!ゴミじゃない!!ご、ゴミじゃない!!ゴミじゃない!!俺たちはゴミじゃない!!ゴミじゃあないんだ!!!!!」

 

 

「うるさいぞ!!今、何時だと!?おも…って…。」

 

扉の向こうから人間が出てくる。人間、人間、にんげん、ニンゲン…!!

お前たちはいったい何様のつもりなんだ!!俺たちは、俺たちは!!

僕の胸の中で抑えきれない何かが突き動かす。

 

「俺たちは狸だ!!俺たちは生き物なんだよぉおおおおおおお!!!」

 

僕は大きな石を片手に人間に向かって走り出す。

 

「俺たちはゴミじゃない!!生き物なんだ!!くそ!!ふざけやがって!!ちくしょう!!」

 

僕の手に持った大きな石が人間の頭に吸い込まれる。

何度も、何度も。

 

僕が冷静になって手を止めたのは、人間の頭が無くなるほどに殴りつけた頃だった。

 

「お前たちの方が、よっぽどゴミじゃないか…。」

 

僕は、馬乗りになった人間から降りる。

 

「どこか、森のある所に帰ろう。ここにはいたくない。」

 

僕は、ふらりと一歩踏み出す。

 

「ケホッ」

 

誰かがむせこむ声がした。

 

振り返ると、よたよたとおぼつかない足取りで、僕の方によって来る子犬がいた。

よく見ると、子犬はあの部屋で僕に寄りかかってきた子犬だった。

 

「君は、あの時の僕の影に入って助かったのかな?それにしてもこんなに近くにいたのに気が付かなかったなんて…。影の方にいたのかな?」

 

僕は子犬を一瞥から再び死体の山に目を向ける。

 

 

子犬は僕の足元にすり寄って来た。

 

「君も一緒に来るかい?そうだな、鈴ヶ森の方にでも行こうかなあそこは山の奥の方だし安全だからね。あぁ、そうだった。光夫や辰吉の若親分たちに、他のみんなも連れて行ってあげあきゃ…。」

 

僕は辰吉の若親分や光夫たちを抱えようとする。背負う形で連れて行こうとしたが一歩歩くたびに誰かが落ちてしまう。

 

「おいおい。みんなしっかり捕まってくれよ。これじゃあ…連れて…いけないよ。」

 

鈴ヶ森にはみんなで行くって言ったじゃないか。

それに、ここで世話になった猫たちや知り合った犬たちにも鈴ヶ森で一緒に楽しく暮らしたかったんだ。

 

「どうして、どうして、みんな死んじまったんだよぉおお。馬引沢の狸が俺一人になっちまったよぉおお!!寂しいじゃないか!一人にしないでくれよ!!俺を独りにしないでくれよ!!光夫!お前に引っ張ってもらわなきゃ、俺は飯の場所すらわかんねぇんだよ!!辰吉!!長老!!あんたたちがいなきゃ、俺たち馬引沢の狸はどうすればいいかわかんねんだよ!!うぅうううううう…。み、みんなぁ…。」

 

 

 

涙を流す僕の顔を子犬が舐めてくる。

わかってる。わかってるんだ。死んだ奴をどうにかできるわけがないことぐらい。

 

「慰めてくれるのかい。お前はやさしいな……。そうか、お前も独りぼっちだな、俺より小さいくせに…。お前も俺と一緒に鈴ヶ森に行くか。」

「くぅうん。」

 

子犬は弱々しい声で鳴き声を出す。

僕にはそれが肯定の意に感じられた。

 

僕は、子犬を抱き上げる。

同じ、処刑場にいて同じく生き残ったこいつに僕は親近感を感じたんだ。

だから、こいつも一緒に…。

 

「一緒に行くなら名前が欲しいな。そうだなぁ、影の方にいたから影。お前の名前は影だ!」

 

 


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