狸たちが化け学復興と人間研究に時間を費やしている一方で、人間たちの開発と造成は続き整地されていった。狸たちはそれを怒りと悲しみを込めてのっぺら丘と呼んだ
そして、化学の講義が進んでいき実践、いわゆる人間の町での実習が行われた。
この実習では、狸たちの中で人間の町で暮らしたことがある義男が模範生として教師役の狸たちの補佐に回った。
の狸たちの補佐に回った。
義男は長老衆の中では若年であり末席にあったが、人間社会を知る狸として教える側に回ることも多々あった。
「佐助、車を見るとすぐに背筋が凍り付くみたいだね。でも、車の通る道で立ち止まったらだめだ。車にひかれてしまうよ。」
「すいません、義男さん。」
義男は、横断歩道の真ん中で腰が引けている佐助の襟首を引っ張り渡る。
佐助はこの鈴ヶ森に住む、眼鏡をかけたインテリ風の変化狸だ。
そんな、佐助を抱き寄せながら無事を喜ぶ鶴亀和尚。
「義男、よく佐助を助けてくれた。礼を言いますぞ、ありがとう。」
「いえ、そんなことは…」
また、インテリ寄りではあったが行動力もあり、権太の側近的な立ち位置でもあった義男は若手狸たちの信望も篤く、めきめきと頭角を現していた。
そして、そんな義男であるが長老衆の中で良くも悪くも一目置かれるきっかけとなったのが、この街頭実習の最終試験、各自独力で1週間から1ヶ月で最低千円を平和的に集めてくるというものであった。
最終試験自体、義男はルール違反を犯し失格となるはずであったが特例扱いとされた。
義男の持ってきたお金の額は124万6千700円、断トツのトップであった。
義男はいかにしてこの金を手に入れたかと言えば以下のとおりである。
義男は当初からまっとうなやり方で金を手に入れるつもりはなかった。
義男はテレビなどで、比較的簡単な方法でお金を手に入れることができることを知っていた。
例えば、強盗。
銀行や商店に凶器を持って押し入り現金などを奪い取る方法。
ただこれは、実行後にオマワリの相手をしなければならなくなり面倒ごとが付いて回る。
一人で実行するとなるといろいろ準備がかかるのである。
そこで、義男が実行したのは窃盗であった。
義男は大胆にも、人間に化けて郵便局に侵入。
2時ごろの比較的混んでいる郵便局で、トイレに入りそこで掃除用具に化けシャッターが閉まるのを待つ。閉店後に事務所の方に移動して、観葉植物に化けた。
待合室の方から、事務所側を見る。
義男は郵便局の業務を、一日中眺め観察する。
5人程度の局員が、ゆったりと仕事をしている。
混んでなくても、とりあえず客を待たす。
他の仕事に比べると郵便局の業務はゆったりしている。
見るからに、抜けた連中だ。
そして、シャッターが閉まる時間になると、今度は事務所の奥の方にあるめったに使われることのない少し刃のさびた古い裁断機に化けた。
数日間をかけ事務所側から人間を観察する。
この郵便局では、日の終わりにユウビンキョクチョウがフクキョクチョウを伴って鍵の確認を行う。
この位置は扉を開けた瞬間、金庫室が見える。
キョクチョウが自分の席にあるカギを取り出し、扉の鍵を開ける。
キョクチョウがトイレから戻ってきたフクキョクチョウに声をかけ金庫室に向かう。
「どうです?今日の帰りに一杯?」
「いいですね。では、バス停の隣の店で。」
キョクチョウは金庫の番号ダイヤルを合わせて、鍵を開け中を確認して再び閉める。
そして、全ての業務が終了して局員はみな帰っていった。
そして、その翌日義男は行動を起こす。
義男は今度はトイレに潜む。
シャッターを下ろした後に用足しに現れるフクキョクチョウを待つためだ。
半日待つこと、遂にフクキョクチョウが現れる。
個室トイレに入ったのを確認し、壁つたいにフクキョクチョウの入った個室の真上に移動する。
義男は玉金袋を思いっきり膨らます。
「な、なんだ!?ぐぇえええ!?」
気絶したフクキョクチョウをそのままに、何食わぬ顔をして戻る。
「寺田くん、いつもの。」
「あ、はい。」
フクキョクチョウに化けた義男はキョクチョウについて金庫室に入る。
「最近は多摩丘陵の開発が進みましたね。」
「えぇ、そうですね。」
キョクチョウがダイヤルを合わす。
「私のように、昔から住んでいる者にとっては寺や地蔵を壊したりする今の行政のやり方は、祟りや罰がないか。少々恐ろしく思いますが、今の者たちにとっては何でもないのでしょうね。」
金庫の番号は0831。
「……今の人間は随分無遠慮になったのではと思います。ですが、奪われた者たちの恨み辛みとは恐ろしいものです。いつかきっと、後悔することになるかもしれませんね。」
「寺田君?」
「いえ、別に…」
キョクチョウは一瞬、怪訝な表情を浮かべたがすぐに扉を閉めてダイヤルを崩す。
キョクチョウは金庫を閉め、金庫室の扉にカギをする。義男もそれに続き、再びトイレに戻る。
義男はフクキョクチョウに少量の水をかけてその場に隠れる。
フクキョクチョウは、混乱しつつも慌てて事務所に戻ると、すでに業務が済んでおり不思議そうにしていた。
その日の夜、義男はキョクチョウの机から鍵を出す。
出した鍵を使って、金庫室の扉を開ける。金庫のカチリとダイヤルを合わせる。
空いた金庫から見える札束を掴む。
金庫から出した金を一度、受付窓口に置いておく。
義男は、事務所を物色して紙袋を探す。
見つけ出した紙袋を二重三重にして袋を入れる。
さらに義男は物色を続け、事務所から小銭を見つける。
フィルムに包まれた円柱状小銭を紙袋に入れる。
義男は給湯室に移動し、やかんをコンロにおいて火を入れる。
冷蔵庫も開けてみる。
その途中にある休憩室のテレビをつける。
音楽番組がクラシックを流していた。
「ちゃ~♪ら~ららら~♪たったん♪たったん♪」
鼻歌を歌いつつ、事務所に戻り物色を続ける。職員のロッカーも漁っておく。
レターケースに収納された様々な金額の印紙や証紙に切手を紙袋に入れていく。
受付窓口のリスの人形ももらっておこう。
後、郵便受け取りの預かり品のダンボールを開封して中を確認していく。
「ちゃらららら~♪たったん♪たったん♪」
ピー!!
給湯室のやかんが鳴る。
少し慌てて、火を止める。
ガス代の下の棚からカップ麺を出す。
日清カップーヌードルにお湯を注ぐ。
休憩室で胡坐を組んでカップ麺をすする。
うまい。これも土産にもらっておこう。
給湯室に戻り、棚から収納されている8個のカップ麺を回収する。
テレビを持って帰ろうと思ったが、重かったのであきらめる。
代わりにポットを持っていこうと思ったが、紙袋に入らないので玉露茶葉をもらっておく。
「ちゃらららら~♪ららら~ら♪」
キョクチョウの机を物色し、通用口のカギを見つける。
そして、悠々と義男は紙袋を両手に持ち通用口から外に出る。
一応鍵は閉めてから、裏口のカギをその場で投げ捨てる。
「ちゃんたったたん♪」