現金124万6千円700円、収入印紙18万4千円、収入証紙11万7千50円、切手9万2千64円、ボールペン30本、朱肉3個、鉛筆20本、修正液5個、セロハンテープ10個、ハサミ5個、ステックのり3本、でんぷんのり1個、たばこ2箱、マッチ箱1個、膨らませてない風船20個、リスのマスコットの人形2個、鉛筆削り1個、消印他印鑑10本程、食器皿2枚(小包)、図書券2万円(郵送品)、カップ麺8個、高級玉露入り緑茶葉500グラム、缶コーヒー3本、プリン1個。これが、義男が持ち帰ったものの全てである。
200万近いものを持って帰ってきた義男に対して、おろく婆のように非難するもの、権太のように手を叩いて讃えるもの、鶴亀和尚のように眉は顰めつつも言葉にしないもの等、反応は様々であった。
「義男!!私は平和的にと言ったはず!なのにこれはどういうことだ!!」
おろく婆は郵便局の窃盗事件を流すTVを指さす。
「おいおい、おろく婆。義男の何が悪いってんだ!?義男は俺たちにさんざん煮え湯を飲ませた人間たちに一矢報いただけじゃねえか!?」
「権太!義男を甘やかすんじゃない!!義男はやりすぎた!あまりに目に余る行為は人間たちの敵愾心を呼び起こす。義男を長老に就任させたのは早計であったか。」
「それが何だってんだ!!この程度当然の報いだ!!あいつらは俺たちの森を奪ったんだ!!義男の何が悪い!?」
おろく婆と鷹ヶ森の権太は、馬引沢の義男の処遇を巡り激しく対立した。
「(ズズ…)おろく婆、少なくても死人は出てないんだ。わしが思うに十分平和的だと思うが?(ズゾゾ…)」
義男の持ち帰ったカップ麺をすすりながら、発言したのは馬の背山の熊太郎であった。
「違反はあったが、それを踏まえても十分大きな功績だ。」
「うむ、抜け駆け先討ちは戦の花…。俺も義男はおとがめなしでいいと思う。」
青左衛門の言葉を皮切りに、鶴牧山の黒兵衛、一之宮の伊右衛門などの強硬派長老たちが支持を表明。
もともと、人間たちとの対決を意識していた族長衆はその度合いこそ強弱があったが義男に対しては好意的な考えを持っていた。
「まぁまぁ、皆の衆。火の玉のの言う様に規律と言うものは大切じゃ。義男にも何かの仕置きは必要じゃろう。しかしながら、義男の功績はおそらく最大のものじゃろう。ゆえに義男の長老位は一時停止し…そうじゃな。権太の補佐にでも回ってもらおうかの。義男も権太を慕っておったしの。」
今回の出来事で、強硬派と慎重派の溝が見えたのであった。
そして、後日に起きる事柄は義男の超強硬派としての片鱗を見せるものであった。
義男の謹慎期間中、義男の派閥に属する狸たちは権太の鷹ヶ森派閥に組み込まれた。
義男自体も、化学の修行に関してはすでに卒業レベルに達したとして教える側に回された。
しかし、本部付き講師補佐などと言う役職は、ほぼ名誉職で暇を持て余すことが増えていた。
ゆえに、義男は影が住まいにしている万福寺のそばにある廃屋に入り浸ることが増えていた。
「サイキンは、よくこっちにクルのね。ヨシオ?」
「あぁ、少々派閥抗争に巻き込まれてね。閑職だよ。」
影に玉露のお茶を入れてもらい。
義男はそれを受け取り、岩に腰掛ける。
茶を飲む。
「しかし、お前。なに犬なんだろうな?」
「さぁ?自分でもワカンナイ。」
「そもそも、犬なのに化学もそれなりに身に着けて、もう言葉も流暢だしなぁ。そういえば、影。お前、鶴亀和尚から苗字、もらってたよな。」
「えぇ、今泉ね。わたし、この多摩にクルマエは入間にイタノヨ。入間の今泉。」
「ふ~ん」
反応が自分の思っていたよりも薄い義男に影は少々不満げにする。
「自分からキイテオイテキョウミなさそうなのね…。それに、あなたもだいぶ変わったように見えるわ。ムカシはもっと、びくびくしてかわいらしかったわ。」
「いろいろあったからな。変わるさ…。」
「いろいろねぇ…。」
影は義男の隣に腰を下ろす。
影も、以前のような片言言葉から、徐々に流暢に話すようになった。
しばらくふたりで物思いにふけっていると、権太の部下の狸がやってきた。
「義男さん!!権太さんがお呼びです!!すぐに万福寺に来てください!長老会議が招集されました!!」
僕の中で、何かが決定的に変わったあの事件が起きようとしていた。