新幹線変形ロボシンカリオン ふたりのはやぶさ 作:小田急ロマンスカー
謎の巨大怪物体と戦うべく、超進化研究所が日本の夢と技術の詰まった新幹線をベースに開発したシンカリオン
そのシンカリオンに乗り込み戦う運転士たちは今
「それっ!」
「なんの!俺の好きな四文字熟語は一球入魂だ!」
リゾートを楽しんでいた
事の始まりは運転士の交流を図るべく出水指令長が慰安旅行をすると言い出したこと
運転士たちは超進化研究所の職員たちと共に静岡県へとやってきていた
この場所は東海道新幹線の沿線であり万一に備え清州リュウジのN700Aは浜松工場に停留しているほか残るシンカリオンも出撃できるよう十分な備えはしてある
もっとも、N700A以外は東京駅にて待機状態ではあるが
「なんで東京駅なのかしら」
そんな疑問を口にしたのはあまり鉄道関係に詳しくない運転士の紅一点、発音ミクだった
「東海道新幹線と東北新幹線じゃ電流の周波数が違うからこっちまでこれないんだ」
線路幅は共通なため通れないこともないだろうが日中の時間帯である
万一目撃されようものなら大騒ぎだ
「何もないのが一番だがな、いざとなったら全員でN700Aに乗り込んで東京駅へ行ってから東京湾から海を通って捕縛フィールドに入るしかないだろう」
「面倒そうね」
アキタの説明をばっさり切り捨てるミク
もっとも、その方法を用いる場合東京駅に行くだけで一時間前後かかる計算であり
海を経由するとなると最低でも2時間かかるであろうことは推測される
「俺一人で十分だ」
「そうもいかねぇぜ、格闘戦の得意なN700Aだと戦いにくい相手とかあんだろ」
「んだ、こんあたりならタコさ使って墨さ吐く敵出てもおかしくねだ」
ツラヌキとシノブの言葉に考え込むリュウジ
基本的に近距離戦闘を得意とするN700Aの特性を考えると墨で牽制してくる相手はどうしても戦いにくくなってしまう
飛び道具がないわけではないが奥の手のドラゴンナックルをそう何度も使ってられないだろう
「………」
「ほ、ほら、そう毎日出てこられても困るし、今は楽しもうよ」
タコを相手にした場合の攻略法を真剣に考え始めてしまったリュウジの様子に慌てて宥めるハヤト
偶然話を聞いた三原指導長代理からも釘を刺されたため今は巨大怪物体のことは忘れて楽しもうということになり
ひとまず皆で夏の海を楽しもうという結論に落ち着いた
「俺の好きな四文字熟語は全身全霊だー!」
その時々によって異なる座右の銘を叫びながらビーチボールを打つツラヌキ
現在はペアを組んでビーチバレーの真っ最中
「うわっ!」
鉄道一筋でスポーツも学校の授業程度にしかやらないハヤトはツラヌキの打球を受け止めると勢いに負け転倒してしまう
「詰めが甘いです」
そのまま空中に投げ出されたボールをミクが叩き込む
正確にツラヌキとリュウジの間を狙い撃たれそのままボールは地面を転がった
「んだよ、発音の一人勝ちじゃねえか」
「俺もまだまだだな」
悔しそうに砂浜に座り込むツラヌキと頭を抱えため息を零すリュウジ
空手経験者であり年長者でもあるリュウジだが今回はミクに軍配が上がったようだ
「よし、俺達と交代だな」
「こういうのは得意だ」
アキタのビームライフル競技で鍛えた洞察力と忍者として鍛えたシノブの機動力
ミクも健闘したが元々気の合う二人が相手とあって一歩及ばなかった
二戦連続で体力を消耗していたのもあるだろうが
「ごめん、俺足引っ張っちゃったよね」
「気にしてないです」
口ではそう言いながらも汗を拭っていない利き手と逆の手を強く握っているのが見えたハヤトはその心中を察した
「(本当は悔しいんだなぁ………俺ももっと頑張らなくちゃ)」
「気にしないでください、遊びですから」
そんなハヤトの心中を察して表情を崩さないままフォローするミク
自分にも他人にも厳しい彼女だがこうしてみると最初と比べればかなり打ち解けてきているのが分かる
その日の晩、出水指令長の提案で肝試しをすることになった運転士たち
昼間ビーチバレーに興じたペアで十分安全に考慮したうえでの開催となった
ツラヌキとリュウジは最初にスタートし順調に進んでいた
が、残る二組は思いのほか苦戦を強いられることになった
シノブとアキタは終始会話のないまま進んでいた
元々冷静な二人だ、会話がないのは不思議ではなかったが
シノブは気になっていた、アキタがやけに周囲の音に敏感になっていることに
「………アキタ」
「うおっ!?な、なんだ?」
ただ声をかけただけなのに異様に驚かれた
その理由に一つだけ心当たりがあったシノブは思い切って口を開いた
「おめ、怖いだか?」
「………」
シノブの問いかけにしばしその場で黙り込んだアキタ
マタギの祖父を持ち山になれたアキタが夜の森の中でこれほど警戒する理由はそれしかない
「おめ、山さ好きなのに霊が怖いだか?」
「好きんんだどもら怖いんだ」
シノブの問いかけにアキタは青い顔で口を開いた
「霊に脅かされるのは山の怒りどご買ってるってことだ」
「なっほどな、かんげぇかたさ色々だ」
怯えるアキタに対して納得しながらも歩みを進めるシノブ
「置いてかねでくれ!頼む、こっちゃある事は内密に、他の奴には知られたくね、おめどんんだどもら話したんだ」
「心配すんな、言わねから」
そして霊におびえているのはアキタだけではなかった
多くの山や森が残る北海道には霊の話が多い
故に北海道在住の少女は霊の脅威におびえていた
それでも同い年の少年に悟られないよう青い顔を見られないようにしながら歩みを進めていた
「っ!?」
風で葉がそよぐ音に思わず後退るミク
「大丈夫だよ、出水指令長が安全に十分注意しているって言ってたし、新幹線の安全神話並みに心配いらないって」
「その例えはよくわからないけど言いたいことは何となく伝わります」
青い顔のままため息を零すミク
なんとか肝試しを終えるとスタート地点では三原指導長代理が待っていた
「お疲れ様、さあ、帰りましょう」
三原指導長代理がこちらに手を伸ばしたことで一安心するミク
だが諸君らは気づいているだろうか
いつもならハヤトの傍にいる存在が今はこの場にいないことに
「宿に戻ってみんなと合流するであります」
背後にいきなり現れたシャショットの声に驚いたミク
普段冷静な彼女からは信じられないほどの大きな悲鳴が周囲に響いた
「み、耳が~」
「あわわ」
突然の悲鳴を至近距離で浴びたハヤトと三原はその場で立ちすくんでいたが
「わ!発音さん!?」
悲鳴を上げた張本人、発音ミクがその場で気絶して倒れていることに気付いて慌てて駆け寄る
翌朝、漆黒の新幹線の目撃情報を受けN700Aで東京駅へとたどり着いた運転士たち
そんな一行の気掛かりはと言えば肝試しの後から発音ミクが何やらご立腹な様子であること
そしてそんなミクをひたすら宥めるハヤトの姿
気になってツラヌキが声をかけてみた
「ハヤト、おめえ肝試しの時になんかやったのか」
「いや、俺じゃなくてシャショットなんだけど………」
そういえばいつもはよく喋るシャショットが今日は何やらおとなしい
他の運転士たちもシャショットが彼なりに反省している様子はわかった
「いったい何やったんだ?」
「あ、実は………」
ハヤトが言葉を繋ぐより前に運転士たちはミクに睨まれその場で恐怖に竦んだ
同世代の少女とは思えない鋭い眼差しが言葉にせずとも告げている
喋ったら許さないと
港区青山に現れた巨大怪物体
変形したシンカリオンが勢ぞろいで並び立ちその姿を見据え
「「うっ!」」
アキタとミクが青ざめた
石のような黒いモノリス状の形状
そしてその背に背負っているのは文字のようなものが書かれた薄い木製の細い板のようなもの
その姿から見える敵の正体は
「コードネーム、グレイブゴースト、全長20メートル」
「グレイブ………」
「ゴースト………」
通信で届いた怪物体の名称を聞き更に青ざめるアキタとミク
更にグレイブゴーストが背負った板を掲げると白い靄のようなものが無数に現れシンカリオンに襲い掛かる
「や!やめろ!来るなぁ!」
とうとうパニックを引き起こしたE6がその靄にフキミリガンを乱射する
H5も必死になってカイサツソードを振り回して靄を追い払おうともがいていた
そんな二人のフォローをするためE5とE3は傍に駆け寄った
結局グレイブゴーストの体を構成しているのが石材ということもありN700Aが衝撃を加えてE7のシャリンドリルで正面から破壊する形でグレイブゴーストとの決着はついた
だが
「ううっ」
大宮の超進化研究所の医務室のベッドで横になりながら青い顔で呻き声を上げるミクの傍にはハヤトがついていた
別の部屋では同じようにダウンしたアキタにシノブがついているそうだ
「その………誰にも言わないでくださいね、私がお化けが苦手だってこと」
「(もうバレてると思うけど)」
「それから………ありがとう」
戦闘中恐怖におびえるミクを必死に守ろうとしてくれたハヤト
ミクの眼にはその背中がいつもより大きく見えた
お礼の言葉を告げるとわずかに赤くなりながら布団を深くかぶって丸くなるミクだった