バンドリ!~オプション付き5人と少女達の物語~   作:akiresu

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ドラムは叩けない

 文化祭3日前、俺らは着々と準備を進めていた。そして俺は今教室でカフェのシフトの入り時間を話し合っていた。ちなみに実行委員である香澄は体育館に4人でステージの下見に行っているため、俺と沙綾でクラスの人と話し合って決めていた。

 

 レン「俺ら3人はこの時間以外ならどこに入れてもいいから」

 

 「じゃあ、私はここで」

 

 沙綾「うん、ありがとう・・・うん、これで決定」

 

 「おつかれ」

 

 沙綾「あとは香澄だけかな」

 

 シフトの入り時間の希望を見てみると香澄はライブの時間以外、ほぼ全ての時間に入っていた。 

 

 レン「香澄の事だ、きっと俺らに殆ど任せっきりになってたから、その分こっちで頑張ろうとしているんじゃないのか?」

 

 「フフッ、働きすぎ」

 

 沙綾「どっかで休憩いれてあげなきゃね。まだ戻ってきてない?」

 

 「ステージ見に行ったまま」

 

 沙綾「そっか、じゃあちょっと様子見てくる」

 

 レン「あ、俺も行く。俺もステージの下見してきたいし、それにもし利久がまだステージのセッティングしてたら手伝わないといけないしな」

  

 沙綾「わかった、じゃあちょっと行ってくるね」

 

 「うん、いってらっしゃい」

 

 そして俺と沙綾は体育館へと向かった。

 

 

 

 

 

     ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 俺は今体育館に来て、利久の機材セッティングの手伝いをしていた。利久はSPACEでバイトしているから、それで七菜さんにセッティングを頼まれたらしい。そして体育館には俺と利久の他に戸山と市ヶ谷、牛込、花園も来ていた。

 

 利久「すいません、碧斗とおたえちゃんにまで手伝ってもらちゃって」

 

 たえ「ううん、別にいいよ」

 

 碧斗「手伝いって・・・俺に関してはお前が無理やり連れてきたんだろうが…」

 

 俺は少し溜息をついていると戸山がステージに上がってきた。

 

 香澄「ライブまであと3日!ふぅ~~!」

 

 戸山は突然叫び声をあげた。この姿、まんまひなこ先輩だな… 

 

 香澄「あ!ドラムだ!ドラムある!」

 

 りみ「他のバンドと共有で使うんだって」

 

 香澄「おお、私達は?」

 

 りみ「え?」

 

 有咲「誰がやんの?」

 

 香澄「うーん・・・あ、そうだ!」

 

 碧斗「戸山?」

 

 利久「香澄ちゃん?」

 

 戸山は何かひらめくとギターを取り出し、ドラムのスローンに座った。は?なにするつもりだ?まさかとは思うが・・・

 

 香澄「ドラムギターの戸山 香澄です!」

 

 案の定だった・・・俺の予想が間違いであってほしいとは思ったが、当たってしまった・・・ドラムか・・・けどアイツは・・・いや、やっぱりこのバンドにはアイツが必要だ。このバンドのドラムはアイツ以外いない。料理ではその食材にあった調味料と調理法があるように、バンドにもそれに合った音楽とメンバーが存在する。このバンドにとっては、きっとアイツがそうだ・・・

 

 有咲「ドラム叩きながらギター弾くわけ?」

 

 香澄「ダメ?」

 

 有咲「やれば」  

 

 そう言われると戸山はギターの先端でハイハットシンバルを打ち鳴らした。

 

 碧斗「やめておけ、ドラムはただ叩けばいいってもんじゃない。下手したらギターよりも難しい。それにそんなことしたらドラムとギターが余計に傷つく」

 

 りみ「同時には無理じゃないかな」

 

 たえ「阿修羅観音様ならできるかも」

 

 有咲「香澄観音には無理だろ、ライブは今回だけじゃねえし」

 

 利久「阿修羅・・・碧斗、できますか?」

 

 花園の言葉を聞いて利久は俺にギターとドラムを同時に出来るか聞いてきた。いや、俺の二つ名が阿修羅だからって流石に冗談だろ?

  

 碧斗「無理に決まってるだろ・・・そもそも俺はギターを弾けない」

 

 利久「え、できないんですか?料理は3品も4品も同時に作れるのにですか?」

 

 碧斗「それとこれとはわけが違うだろ・・・」

 

 利久「そうですか・・・うん?」

 

 突然利久が体育館の入り口に目を向けた。しかしそこは準備のために出入りしている人が時々出入りしているだけであとは特に何もなかった。

 

 碧斗「どうした?」

 

 利久「・・・いえ、何でもないです。そうです碧斗、折角ですから軽く叩いてもらえませんか?一応音の方も確認したいですし」

 

 碧斗「ああ、わかった。戸山そこをどけ」

 

 香澄「あ、うん」

 

 戸山と入れ替わりスローンに座ると常備されていたスティックを手に持ち、俺はカウントを取るためスティックを打ち鳴らそうとしたら不意に利久が俺だけに聞こえる大きさの小声で一言言ってきた。   

 

 利久「あ、折角香澄ちゃん達も見ているんですから本気でお願いします」

 

 まったく、仕方ない・・・わかった、やってやるよ。俺は今度こそスティックを打ち鳴らしカウントを取った。

 

 碧斗「one、two・・・one!two!three!」

 

 俺は激しく、必死にドラムを打ち鳴らした。その時の俺は爽快感に駆られていた。そして俺が打ち終わると、体育館にいた人全員が拍手をしていた。

 

 碧斗「どうだった?」

 

 利久「ええ、問題ありません」

 

 香澄「すごい!碧斗君すごかった!凄いドンドン!バーン!てなってた!」

 

 有咲「やべー・・・マジで震えた…」

 

 りみ「私も碧斗君がソロで叩くところ久しぶりに見たけど、凄かった!」

 

 たえ「凄い・・・さすが蒼海の阿修羅」

 

 有咲「なんだそれ?」

 

 利久「碧斗の二つ名ですよ。時に穏やかに、時に荒々しい、海の様なドラムの音を醸し出し、激しく叩く姿が複数の腕を持つ阿修羅の様だからそう呼ばれているんです」

 

 碧斗「おい…」

 

 利久は丁寧に説明しているが、俺はその二つ名は正直嫌いだ。幾つもの武器を手にする戦いの神なんて・・・俺も料理人である以上誰かを傷付けて、その手を血に汚すなんてことはあってはならない。だからこそ、そんな神が二つ名なんて嫌気がさす…

 

 レン「おーい!」  

 

 その時、レンが体育館に入ってきた。大方、ステージの様子見にでも来たのか。 

 

 利久「あ、レン!丁度機材の確認が終わりました。特に問題はありませんでした」

 

 レン「そうか、それならよかった。それと香澄、りみちゃん、おたえ。シフトの入り時間がだいたいまとまったから、これでいいか確認してくれ」

 

 香澄「えーと・・・うん、私はこれでいいよ」

 

 りみ「私もこれで大丈夫だよ」

 

 たえ「うん、私もこれでいいよ」

 

 レン「ならよかった、それじゃあ確認が終わったら早く戻って来いよ。色々と準備しなくちゃならないんだから」 

 

 香澄「あ、そうだった・・・それじゃあ戻ろう」

 

 りみ「そうだね」

 

 たえ「うん、わかった」

 

 利久「それじゃあ僕達も戻りましょうか?」

 

 有咲「そうだな」

 

 碧斗「ああ、そうする」

 

 そう言うと戸山達3人はレンに、俺と市ヶ谷は利久にについて教室に戻ることにした。その時、レンはすれ違いざまに小声で一言言ってきた。

 

 レン「ありがとな、本気で叩いてくれて・・・」

 

 碧斗「・・・ふん、俺は何時でも本気だ…」

 

 俺はその言葉に言い返すように一言そう呟いた。この後俺達は文化祭準備を進めて、放課後を迎えた。俺は学校が終わると、ある場所へと直行した。実はつい最近俺もバイトを始めた。そして俺はバイト先に向かった。

 

 

 

 

 

      ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

  

 

 

 リィ「了解、それじゃあ終わるまで店の中で時間つぶしてて」

 

 レン「はい、いつもありがとうございます」

 

 放課後、俺は文化祭ライブに向けてギターの点検をしてもらうために、この町にある楽器屋の江戸川楽器店へと来ていた。本当は今日も5人で集まろうと思っていたけど、碧斗が今日からバイトを始めたらしく結局自主練となった。俺はリィさんにギターを渡すと点検が終わるまでの間、店の中を見て回ることにした。そうしていると2人の知人と鉢合わせた。

 

 ひなこ「ヤッホー!レン君元気ー!?」

 

 夏希「あ、レン」

 

 レン「ひなこさん、それに夏希も」

 

 1人はグリグリのドラムの二十騎 ひなこさん、もう1人は俺は碧斗と利久のクラスメイトの海野 夏希だった。俺は夏希に目をやると彼女はギターケースを背負っていた。実は彼女も『CHiSPA』とゆうバンドをやっていて、俺と同じでギターボーカルを担当している。

 

 レン「夏希もギターの点検か?」

 

 夏希「うん」

 

 俺達が他愛もない会話をしていたその時だった。突然店の扉が勢いよく開き、香澄達4人が入店してきた。  

 

 たえ「1ば~ん!」

 

 香澄「2番だ~」

 

 有咲「いきなり走んなよ!」 

 

 香澄「えー、いい運動になったでしょ?」

 

 たえ「うん、有咲の為だよ」

 

 有咲「どうゆう意味だてめえ・・・」

 

 有咲は息を整えておたえを睨みつけていた。何やってんだよ…

 

 レン「なんだ、4人も来たのか」

 

 香澄「あ、レン君!レン君も来てたんだ!」

 

 レン「ああ、ちょっとギターの点検にな」 

 

 夏希「市ヶ谷さん?」

 

 有咲「うん?」

 

 有咲「は・・・!」

 

 香澄「有咲?」

 

 有咲は夏希に名前を呼ばれ、こちらの存在に気づくと香澄の背に姿を隠し、咳払いをした。そして次に顔をのぞかせると一瞬でさっきとは打って変わったにこやかな笑顔を夏希に向けてきた。え?なにコイツ・・・そういえば利久が言ってたっけ、有咲は教室では丁寧な言葉づかいで素を隠してるって。けど今さら遅い気がする。さっき俺らの真ん前で素をさらけ出してたし…

 

 有咲「ごきげんよう」

 

 有咲はにこやかな笑顔のまま上品に挨拶してきた。しかし・・・

 

 たえ「ごきげんよう」

 

 おたえがスカートの裾を持って、お嬢様風に挨拶を返した。いや、アンタに挨拶したわけじゃねえよ。てかお嬢様言葉を使ってる人初めて見たぞ。一応本物のお嬢様の幼馴染がいるけどアイツに至ってはこんな言葉遣いしないし、寧ろ年上に対してまで呼び捨て&ため語で話してお嬢様感を全く感じさせないしな…

 

 有咲「お前じゃねえ!はっ!」

 

 おっと、有咲がおたえに突っ込みをいれた。完全に夏希に素をさらけ出したな。その姿を見て夏希は笑い出した。

 

 夏希「アッハッハッハ・・・・ちょっと意外、バンドやるんだ」

 

 有咲「成り行きで・・・」

 

 香澄「有咲のクラスメイト?」

 

 有咲「うん、まあ・・・」

 

 有咲は香澄の問いに頷きながら夏希に視線を戻すとその後ろに隠れていたひなこさんと目が合った。

 

 りみ「あ、ひなちゃん」

 

 香澄「わぁ~先輩だ」

 

 ひなこさんは夏希の後ろから前に出ると無言で香澄達に近づいてきた。まずい、あれが来る!俺はとっさに耳を塞いだ。そしてひなこさんが立ち止まり、ニコリと笑みを浮かべると・・・

 

 ひなこ「集え少女よ!大志を抱け!ふぅ~~~~~!

 

 両出を掲げ何時ものハイテンションで大声を上げた。マジでうるさい。一方突然のひなこさんの豹変ぶりに香澄と有咲と花園さんは一瞬困惑したが、つられて香澄も声を上げた。いやそこは乗るな!

 

 香澄「え?え!?ふぅー抱けー!」

 

 ひなこ「声が小さい!

 

 香澄「う・・・抱け~~~~!

 

 ひなこ「お店に迷惑だ~~~~~!」    

 

 香澄「ええ!?」

 

 レン「いやいや、アンタが叫ばせたんでしょうが!しかもその発言完全にブーメランですから!ほら、有咲も引いてるじゃないですか!」

 

 有咲「や、やべーりみ!やべーよこの人!」

 

 りみ「いい人だよ」

 

 夏希「バンドの相談とか乗ってくれるし」

 

 りみちゃんと夏希は苦笑いでフォローをいれた。まあ確かに、悪い人ではないんだよな…

 

 ひなこ「えーと・・・キラキラ星の香澄ちゃん!花園ミステリアスたえちゃん!蔵弁慶の有咲ちゃん!」

 

 有咲「蔵弁慶!?」

 

 レン「はは、かなりピッタリじゃん」

 

 有咲「うっせえ!笑うな!」

 

 ひなこ「そしてマイシスターりみちゃん!」 

 

 りみ「違うよ」

 

 ひなこ「可愛い少女達は~、全部ひなちゃんワールドにご招た~~~い!」

 

 有咲「ヤバすぎだろ・・・」

 

 ひなこ「リィちゃーん、新しい少女たちをお迎えできたよー!ありがとハッピー!」

 

 リィ「うるせえ!仕事中だ!」

 

 ひなこ「怒られちゃった。ごめんねパーティー!てへ☆」 

 

 たえ「ライブ中は全然喋らないから静かな人かと思ってた」

 

 香澄「うんうん」

 

 確かに、俺もひなこさんの普段の状態を初めてみたときはめっちゃくちゃ驚いた。真面目に多重人格なんじゃって思った。

 

 りみ「リィちゃんに止められてるんだよね」

 

 ひなこ「うーん、なんかね、イメージ壊れるから黙っとけって。なんでだろうねー?なんでかなー?あ!有咲ちゃんツインテ可愛い!」

 

 有咲「うわぁ~!?なに~!?助けてりみ~!」 

 

 ひなこさんは秒で興味が有咲のツインテールに移り、有咲に頬ずりをした。突然の激しいスキンシップに困惑しりみに助けを求めた。しかし香澄はその様子を見て何かをひらめいた。

 

 香澄「お!先輩だ!先輩、ドラムやってください!」

 

 ドラム?もしかして香澄達のバンドのか?

 

 ひなこ「はい!喜んで!」

 

 レン「決断はや!」

 

 有咲「即決!?」

 

 ひなこ「うーん・・・でも~、君たちの近くにはひなこちゃんよりばっちりな子がいるぜ~。ね?レン君、なっちゃん」 

   

 レン「…!」

 

 夏希「・・・」

 

 ひなこさんの発言に俺と夏希は一瞬黙り込んでしまった。そして少しの間の後に、夏希はその人物の名を口にした。

 

 夏希「沙綾の・・・ことですか?」

 

 香澄「・・・え?」

 

 りみ「沙綾ちゃんが?」

 

 レン「実はな・・・」

 

 夏希「ちょっと待ってレン!話すの!?」 

 

 俺は4人の疑問に答えようとしたが夏希に止められた。けど俺はやっぱり話すべきだと思う。沙綾の為にも…

 

 レン「お前の言いたいことはわかる。けどこのことは話すべきだと俺は思う…」

 

 夏希「わかった…」

 

 ひなこ「じゃあ後の説明は2人に任せた~」

 

 そう言うとひなこさんは空気を呼んでくれたのか俺達から離れてバイト中のリィさんのもとに駆け寄っていった。そして俺と夏希は、沙綾の過去の事を4人に話した――――――――――――――

 

 

 

 りみ「沙綾ちゃん、バンドやってたんだ…」

 

 俺と夏希は4人にスマホに映し出されていた沙綾とバンドを組んでいたころの写真を見せながら説明していた。

 

 たえ「中学の頃から・・・凄いね」 

 

 夏希「結局・・・一緒にライブはやれなかったけどね…」

 

 有咲「なんで?」

 

 夏希「理由は・・・色々あると思うけど・・・」 

 

 レン「多分ファーストライブの時の事だろうな・・・」

 

 たえ「なにがあったの?」

 

 レン「街のお祭でな、ちょっとしたステージが設けられて近くの学校のダンス部とかがライブをしていて、それに沙綾を含めた当時のCHiSPAも出ることになっていたんだ…」

 

 夏希「けどもうすぐ私たちの出番って時だった。必ず観に来るって言ってた沙綾のお母さんと弟と妹が観客の中にいなくて、家に電話したら・・・お母さんが倒れて救急車で運ばれたって…」

 

 香澄「え…」

 

 りみ「そんな…」

 

 有咲「マジかよ…」

 

 たえ「大丈夫だったの?」

 

 夏希「うん、命に別状はなかったって。元々体が弱かったらしくて…」

 

 香澄「そっか、よかったー…」

 

 有咲「じゃあライブは?」

 

 レン「丁度そのステージには俺らも上がる予定だったから、沙綾の代打で碧斗が入ってその場は何とかなった。けど・・・沙綾はライブに出ることが出来なくて、その後すぐにバンドを抜けて、結局沙綾は1回もステージに立つことはなかった…」   

 

 たえ「そんなことがあったんだ…」

 

 夏希「でも・・・それだけじゃない気がする・・・1人で悩んで全部1人で決めちゃって・・・何も言ってくれなくて・・・だから戸山さん達のチラシ見て嬉しかったんだ…」

 

 夏希がすべてを話し終えるとその場は静まり返ってしまい、リィさんが俺のギターの点検が終わったことを知らせてくれたことでその沈黙は破られた。

 

 レン「リィさん、ありがとうございました。またお願いします」

 

 リィ「うん、またね」

 

 俺はリィさんにお礼を言い店を出た。そして俺は、この場にいないある人物に願いを託すかのようにポツリと一言呟いた。

 

 レン「そっちは任せたぞ・・・碧斗…」

 

 その呟きは夜の街の中に溶け込み消えていった。

 

 

 

 

 

     ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 

 

 

 

 

 

 ―――一方その頃、やまぶきベーカリーでは・・・―――

 

 俺はバイト先であるやまぶきベーカリーで焼き立てのパンを補充していた。けどその姿を沙綾がずっと見てきているから気になってしょうがない。いったいどうしたんだ?

 

 沙綾「・・・ねえ碧斗」

 

 碧斗「なんだ?」

 

 沙綾「どうして碧斗がここにいるの?」

 

 碧斗「見て分かるだろ?バイトだ」

 

 沙綾「うん、じゃあもう1つ質問いい?」

 

 碧斗「どうぞ」

 

 沙綾「なんで家でバイトしてるの?」 

 

 碧斗「別に・・・ただの小遣い稼ぎついでにパンの作り方教えてもらってるだけだ」

 

 沙綾「いやいやいや、何度も料理コンテストで優勝して手に入れた2000万位の賞金があるでしょ?なのにどうして?」

 

 碧斗「待て、なんでお前が俺の預金の額を知ってる?」

 

 沙綾「え、いやー・・・ちょっと前に利久が私たちの前で言ってて…」

 

 碧斗「チッ、あの天然・・・まあいい、それならちょっとデカい買い物をして全部使った」

 

 沙綾「全部使った!?なにに!?」

 

 碧斗「そんなことはどうでもいいだろ。それよりもこっちは俺がいるから千紘さんを手伝ってきたらどうだ?」

 

 沙綾「うん・・・ありがとう」

 

 沙綾は一言そう言う店の奥に入っていった。しかしそのすぐ後に沙綾の大声が聞こえてきた。

 

 沙綾「お父さん!お母さんが!」

 

 亘史「どうした!?すまない碧斗君、今日はもう店を閉めるから入り口を閉めたら後はもう帰っていいよ」

  

 碧斗「はい、分かりました」

 

 俺は亘史さんに頼まれ、店の入り口に掛かっていたプレートを裏返しcloseにすると入口の鍵を掛けると俺もこっそりと様子見をした。盗み見をするのはちょっと気が引けたが如何やらただの貧血だったようだ。俺は一安心するとふと台所に目が移り、見てみると作りかけのカレーがあった。

 

 碧斗「まだジャガイモとルーは入れてないか・・・」

 

 俺は包丁を手に持つとまな板の上に置いてあったじゃぎもの皮を剥くと包丁の角で目を取り、ひと口大の大きさに切、火にかけた鍋の中に入れて煮込んだ。ジャガイモに火が通るまで少し時間がかかるから残った玉葱やあり合せの野菜を刻み、皿に盛りつけてサラダを作った。そして俺が持っていたスナック菓子を細かく砕き、酢、オリーブ油、塩コショウ、細かく刻んだパセリなどの香味野菜と混ぜてお手軽なドレッシングも作り作った。それらを作り終えると鍋に入れたジャガイモに串をさし、火が通っていることを確認した。

 

 碧斗「そろそろいいか」

 

 ―――パキッ!パキッ!―――

 

 俺はルーを割って鍋に入れると摩り下ろしたジャガイモ、味噌も加えて鍋の中をかき混ぜ、ルーが解けてとろみがつくとインスタントコーヒーを少し入れて、鍋をかき混ぜると火を止めてカレーが完成した。

 

 碧斗「こんなものか・・・」

 

 俺は一仕事終えて俺はこの場を去ろうとした。しかし・・・

 

 沙綾「碧斗?」

 

 碧斗「・・・最悪だ…」

 

 こっそり帰ろうとしたら沙綾と千紘さんと鉢合わせた。向こうも既に帰ったと思った俺がここにいることに心底驚いているみたいだ。

 

 千紘「どうしてここに・・・あれ?」

 

 千紘さんの視線が俺の後ろにある作り立てのカレーとサラダに気が付いた。まずい・・バレたなこれは…

 

 沙綾「碧斗、これ「おじゃましました」え!?」

 

 俺は何か言われる前に足早にその場を立ち去り帰宅した。けど、明日学校で会うから結局なんか言われるんだよな。まったく・・・余計なことするんじゃなかった…しかし、俺の勘に反して沙綾は何も言わず、いつも通り話し掛けてきた。どうやら余計な心配だったみたいだ。そして放課後、今日は文化祭前日だから俺らは明日のライブに向けて、来人の家で練習をしていた。

 

 利久「うん、とても良かったです。これなら明日のライブは何も問題はないと思いますよ」 

 

 来人「よっし!この調子ならライブも大成功間違いなしだな!」

 

 明日香「うん!」

 

 利久「ただ・・・」

 

 来人「うん?」

 

 利久「レン、何かあったんですか?いつもの覇気が感じられませんでしたよ?」 

 

 レン「・・・わり…」

 

 碧斗「・・・」

 

 レンが?いったい何があった?

 

 明日香「確かに・・・ミスこそなかったけど、さっきの演奏はちょっと違和感があったかも…」

 

 来人「いったいどうしたんだ?」

 

 レン「・・・実は―――――」

 

 レンの言葉を聞いた瞬間、俺は来人の家を飛び出していた。そして全力疾走でやまぶきベーカリーへと向かった。

 

 碧斗「あの馬鹿!戸山達に話したのか!」 

 

 俺は目的地に着くと自宅側の入り口にあるインターホンを鳴らした。すると中から千紘さんが出てきた。

 

 千紘「碧斗君?」

 

 碧斗「あの、戸山来てますか?」

 

 千紘「香澄ちゃん?それなら沙綾の部屋にいるけど」

 

 碧斗「一足遅かったか…」 

 

 千紘「えーと、よく分からないけど・・・よかったら上がっていって」

 

 碧斗「はい、おじゃまします」

 

 俺は千紘さんの言葉に甘えて家に上げてもらった。するとそこには市ヶ谷と牛込と花園の姿があった。

 

 りみ「碧斗君」

 

 有咲「なんでお前が来たんだよ…」

 

 たえ「やっほー」

 

 碧斗「お前らも来てたのか…」

 

 大方、戸山のやつを追いかけてきたんだろうな。そう思ったその時だった…

 

 沙綾『そんなわけないじゃん!香澄にはわかんない!』

 

 突然上から沙綾の怒号が聞こえてきた。その声に驚いて、近くからこっちを覗いていた純は泣きながら店の方に走り去ってしまった。その後も沙綾の怒号は聞こえてきた。さらに今度は戸山の声も聞こえてきた。

 

 沙綾『私だけ楽しんでいいの!?いいわけないじゃん!』

 

 香澄『何でも1人で決めちゃうのズルい!ズルい!ズルい!』   

 

 会話の内容からして、如何やら言い争ってるみたいだ。やっぱりこうなったか…

 

 碧斗「純の所に行ってくる、2人のことは頼む…」

 

 りみ「うん・・・」

 

 有咲「了解…」 

 

 たえ「うん・・・まかせて…」 

   

 俺は店の方に行くと純が千紘さんに抱き着いて泣いていた。

 

 純「ヒッ・・・グスッ・・・碧斗・・・兄ちゃん・・・」

 

 碧斗「純、そんなに泣くな・・・男だろ?」

 

 俺は泣いている純の頭を優しくなでて、少し落ち着かせた。

 

 千紘「碧斗君、なにかあったの?」

 

 碧斗「沙綾が戸山と喧嘩したみたいで・・・」

 

 千紘「そう・・・」

 

 千紘さんはある程度のことは察したらしく、とてもつらそうな表情をしていた。しばらくすると沙綾が店の方に来た。きっと純に謝りに来たんだろう…

 

 沙綾「碧斗…」

 

 碧斗「沙綾、お前には3つ言いたいことがある」

 

 沙綾「え・・・」

 

 碧斗「まず1つ目、お前は我慢し過ぎだ。少しは自分に正直になれ。次に2つ目、仲間ってのはな迷惑かけてなんぼだ。仲間に迷惑がかかるからバンドしちゃいけないなんてことはない。俺らのバンドを見てみろ、迷惑ばっかかけてるような奴が居るのにちゃんと成り立ってる」

 

 沙綾「・・・」

 

 碧斗「そして3つ目・・・あんまり家族と周りに心配かけさせるな」

 

 沙綾「え…」

 

 碧斗「じゃあな」

 

 俺はそう言うとやまぶきベーカリーを後にした。俺が出来るのはここまでだ。明日は文化祭当日、後のことは戸山達と沙綾次第だ… 

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