バンドリ!~オプション付き5人と少女達の物語~   作:akiresu

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音は聴こえる

 

 利久「おー!これは初代ドラクエにロックマン!FFにマリオ!それにファミコン本体にメガドライブまで!こんなにも旧型のゲームがあるなんて、ここはお宝の山です!」

 

 僕は放課後に流星堂に来ていました。何故来ていたかと言うと、今日帰り際、七菜さんに―――――――――

 

 

 

 七菜「利久君、ちょっといいかしら?」

 

 利久「七菜さん、どうかしたんですか?」

 

 七菜「実は今日の放課後に市ヶ谷さんの所に行ってあげてくれないかしら?」

 

 利久「有咲ちゃんの所に・・・ですか?」

 

 七菜「ええ、実は市ヶ谷さんにお願いされて時々キーボードを教えてあげているんだけど、今日急にできないかってお願いされちゃって・・・」

 

 そういえば確か今日は香澄ちゃん達との練習が無しになったとか言ってましたっけ。なるほど・・・

 

 利久「つまり七菜さんは自分の代わりに有咲ちゃんの特訓に付き合ってあげてほしいということですか?」

 

 七菜「ええ、話が早くて助かるわ。白金さんにお願いしようかとも思ったんだけど彼女かなり人見知りだし、それにテストも近いし・・・利久君ならその辺心配いらないでしょ?バイトの方も今オーナーにSPACE出禁を言い渡されてるし」

 

 利久「確かにそうですけど・・・まあ、いいですよ?もとより断る気はありませんでしたし」

 

 七菜「それじゃあお願いね。ついでに市ヶ谷さんとの仲も深められるといいんだけど…

 

 利久「え?」

 

 七菜「なんでもないわ。それじゃあ頼んだわよ」

 

 

 ―――――――――ということがありまして僕は流星堂に来ました。確かに有咲ちゃんは最初の頃に比べて心は開いてくれているみたいですけど、まだちょっと距離を取られているように感じます。なのでこういう機会を設けてもらえたのは凄くありがたいです。ついでに僕は質屋ということもあって何か中古のゲームがあるのではないかと思って中を見ていましたが・・・僕の読みはどうやら正しかったようです。ゲーム好きにはたまらない品がこんなに沢山あるなんて・・・此処は宝石箱です!

 

 有咲「で?買うのかよ?」

 

 利久「いえ、全部既に持っていますので不要です」

 

 有咲「なんだよ!じゃあ何でそんなにテンション上がってんだよ!」

 

 利久「だってこんなにも沢山初期のゲームがあるんですよ?こんなお宝に囲まれたらテンションも上がりますよ!」

 

 有咲「訳わかんねえ・・・つーかどんだけゲーム好きなんだよ?まあ大会で何度も優勝してるぐらいだから当然といえば当然なのか・・・」

 

 利久「え?どうしてその事を?」

 

 有咲「何でって・・・ネットニュースに載ってたんだよ。ゲーム世界大会優勝、将棋に囲碁のプロ棋士と対戦して圧勝、超有名ゲーム会社の若きプリンス、その他諸々・・・どんだけあるんだよ…」

 

 利久「あはは、なんかゲームやったりお父さんの会社の手伝いをしていたらなんか話が大きくなっちゃいまして・・・」

 

 実は僕のお父さんは有名なゲーム会社の社長で、あのNFOもお父さんの会社のゲームです。僕はそれが縁んで小さい頃からゲームが大好きでした。それで夢中になって遊んでいたらかなりの腕前になっていて、それに加えて生まれつきの耳の良さもあって僕は父さんの会社で作るゲームのテストプレイヤーや効果音・BGM製作にも係わってきました。

 

 有咲「これはもう大きくなるってレベルの話じゃねえよ・・・て、それよりも何でお前が来たんだよ?」

 

 利久「さっきも言った通り、僕が七菜さんの代理で来たんですけど・・・」

  

 は!も、もしかして・・・

 

 利久「僕が来るの・・・嫌でしたか?」

 

 有咲「な!?ば、ちげーよ!その、嫌とかじゃなくて・・・むしろ嬉しいつーか///・・・て、何言わせんだ~!///」

 

 え?え~!?なぜか急に怒りだしてしまいました。でもよくわかりませんけど、取り合えず嫌という訳ではないみたいなので一安心です。

 

 利久「ご、ごめんなさい」

 

 有咲「そうじゃなくて私が言いたいのは、テストが近いのに勉強しないで此処に来ていいのかってことだよ!」

 

 ああ、そいう事でしたか。  

 

 利久「それなら心配には及びません。テスト範囲の内容はすでに暗記済みです。というよりも教科書の中身は全部暗記してます」

 

 有咲「マジかよ・・・七菜さんからも聞いてたけどどんな頭してんだよ・・・ほんと羨ましい…」

 

 羨ましい・・・ですか…確かにこの暗記力のおかげで僕は学校でも高成績を取ることができています。けど、何もいいことばかりという訳じゃありません。だって、どうしても忘れたい嫌なことだって鮮明に覚えてしまうんですから…

 

 利久「・・・そ、そうです、それよりも地下に行きませんか?僕がここに来たのも特訓に付き合うためですから」 

  

 有咲「ああ、そうだな」

 

 僕は有咲ちゃんと一緒に蔵の地下に向かうと早速キーボードを準備して1曲弾いてもらうことにしました。

 

 利久「それじゃあまずは試しに『私の心はチョココロネ』を1回お願いします」

 

 有咲「わかった」

 

 有咲ちゃんはキーボードをアンプとつなぐとセッティングをして弾きました。そして弾き終えると僕に感想を求めてきました。

 

 有咲「で、どうだった?」

 

 利久「ええ、とてもよかったです。前に此処でライブした時よりもよくなってました。じゃあ次はこの曲をお願いします」

 

 そう言うと僕は鞄からカバー曲のスコアを取り出して有咲ちゃんに渡しました。渡した曲は・・・

 

 有咲「『Be somewhere』?」

 

 利久「はい、まずは僕がお手本で引いてみますね?」

 

 僕は有咲ちゃんのキーボードを借りると再びセッティングをしてお手本として一通り弾きました。

 

 利久「こんな感じです」

 

 有咲「スゲーな・・・生徒会長が何でお前をよこしたのか少しわかった気がする」

 

 利久「え?」

 

 有咲「聞いててわかる、スゲー上手い。私よりもずっと」

 

 突然有咲ちゃんに褒められました。こう、女の子から面と向かってこういう事言われると・・・なんかちょっと照れますね…でもきっと、それだけが理由じゃない気がします・・・

 

 利久「はは、お褒めに預かり光栄です。でも多分それだけじゃないと思いますよ?」 

 

 有咲「それだけじゃない?じゃあなんでだよ?」

 

 利久「きっと、似た者同士だったから・・・だと思いますよ?」

 

 有咲「はあ?どういう意味だよ!?言っとくけど私はお前みたいにゲーム好きじゃねーぞ!?」

 

 利久「ち、違いますよ!そうじゃなくて、実は・・・僕も元不登校だったんです…」

 

 有咲「・・・は?」

 

 利久「不登校になり始めたのは小学生の頃からでした。まあ、その時は半不登校みたいな感じでしたけど」

 

 有咲「おいちょっと待て、人が困惑してるうちに話し進めるな!なんで不登校だったんだよ!?」

 

 利久「あ、すいません。まぁ、僕が不登校だったのは・・・逃げたかったからです。現実から…」

 

 そう、あの時の僕は唯ひたすら逃げていました。この耳のせいで知りたくもないのに知ってしまった、人の本性から。そして、それら全てを忘れたくても忘れることができず、鮮明に覚えてしまうトラウマから・・・

 

 有咲「どういうことだよ・・・」

 

 利久「・・・少し長い話になりますけど、それでも聞きますか?」

 

 有咲「ああ…」

 

 有咲ちゃんの了承も得ましたし、それじゃあ話すとしましょう。全てに恐怖し、拒絶し・・・大切な人を亡くした悲しみに迷走していたあの頃のこと。そして、僕に手を差し伸べて、世界の見方を変えさせてくれた仲間との出会いを―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 たくさんの人が足繁く動く中、僕はヘッドホンを付けながら1人ある場所に向けて歩を進めていました。一度街に出ると、僕には普通の人には聴こえないような色んな音が聴こえました。至る所に潜む生き物の音、建物の中でおこる機械音、そして・・・道行く人の心の音と声。心の音、感情を持つ物は心の中にそれぞれの音を持っています。それは人の呼吸や心臓の鼓動の音、はたまた血の廻る音などが組み合わさることによって一種のメロディーとなり、それを聴くことで僕はその人が今何を思っているのか、何を感じているのかがわかりました。けど、それだけじゃありませんでした。それと一緒に僕はその人の声が聴こえてくるんです。けどそれは・・・地獄以外の何物でもありませんでした…何故かというと――――――――

 

 『あの上司うぜ~・・・早くくたばんねーかな…』

 

 『アイツほんと何なの?いつも猫ばっか被って・・・男の前で本性出して痛い目見ればいいのに」

 

 『もう何もかも嫌だ・・・幸せそうにしてる奴らが恨めしい!全部ぶっ壊してやりたい!』

 

 『こいつ金持ってるし、遊びのつもりで付き合ってたけど一緒にいても詰まんないし寧ろ超ウザい。まあ私には本命の人が居るし、適当に理由つけて別れよ・・・』

  

 『はぁ~・・・う〇こしたい…』

 

 こんな感じで人の心の声が聴こえてくるんです。それと同時にノイズの様な雑音も…聴きたくもないのに聴こえてしまう、この状況は学校でも一緒でした。教室に入るとみんなの会話が聞こえてきます。それに紛れてさっきの様な声も・・・そんな空間にいるのが嫌で僕は学校をさぼることが多くなり、現実の世界から逃れるためにゲームばかりに熱中するようになってしまいました。なので僕は本来なら外に出るのも嫌でしたが、ここ最近はある場所に足繁く通っていました。外出する際には少しでも音を聞こえなくするためにヘッドホンを装着して少し大きめに音楽をかけながら歩を進めていました。僕は目的の場所に着くとそこには白一色の大きな建物があり、入り口の自動ドアには総合病院の文字がありました。そう、此処は病院。僕は中に入るとある病室まで行きました。そしてその病室で入院する患者のネームプレートにはこう書かれていました。

 

 

 『石美登 花菜』

 

 

 

 ―――ガラッ―――

 

 

 

 扉を開けると、そこには白い空間に長い黒髪と翡翠の瞳をもった1人の女性がいました。その人はベッドの上で体を起こしながら窓の外を見ていましたが、僕が入ってきたことに気づくとこちらに視線を向け、慈愛に満ちた笑顔で向かい入れてくれました。この人こそが僕の母、石美登 花菜そのひとです。

 

 花菜「あら利久、今日も来てくれたの?」

 

 利久「はい、お母さんは体の方は大丈夫ですか?」

 

 花菜「全然元気よ、ホントなんで入院してるんだろうってくらいに。それよりも今日は平日だけど学校はどうしたの?」  

 

 利久「・・・・・」

 

 花菜「そう、今日も休んだの」 

 

 利久「ごめんなさい…」

 

 花菜「いいのよ、あなたにも思うところがあるんでしょう?それにお母さんは利久がそんな辛い思いをしてまで学校に行ってほしくないわ」

 

 利久「お母さん・・・」

 

 僕は学校をサボってしまっているのに、お母さんは優しく僕の頭を撫でながらその事を許してくれました。その時のお母さんからはハープやピアノ等の楽器でとても穏やかに、聴いていて癒されるような奇麗な音が聴こえてきました。僕は今まで色んな人の心の音を聴いてきましたが、こんなにも奇麗な楽器の音を出す人はお母さんだけでした。だから僕はお母さんといるととても安心して、今まで僕が耐える事ができたのもお母さんのお陰と言っても過言ではないかもしれません。

 

 花菜「それじゃあ今日も一緒にやりましょう」

 

 そう言うとお母さんはベッドの脇に設置されている机から譜面の書かれた紙とヘッドホンの繋がったノートパソコンを取るとベッドに取り付けられているテーブルの上に置きました。お母さんがやろうとしていること、それはお父さんの会社で作っているゲームのBGM作りでした。お母さんは小さい頃から作曲家になることが夢だったらしく、音楽学校を首席で卒業したのですが・・・卒業後に何故か昔馴染みというだけで当時出来たばかりだった僕のお父さん、「石美登 柊哉」のゲーム会社に就職して、紆余曲折を経て結婚して僕を産んだ今もお父さんの会社で専属の作曲家をしているのですが・・・

 

 利久「大丈夫なんですか?ここ毎日続けてやっているじゃないですか。あまり無理してほしくはないです」

 

見ての通り母さんは入院しています。しかし、お母さんは作曲作業が大好きでお父さんに入院中も作曲作業をやらせてほしいと頼み込んでやらせてもらっています。もちろんお父さんも最初は母さんは入院中の身で、そんな状態でいるときに仕事をさせてなるものかと反対していました。しかしお母さんに・・・

 

 花菜「別に私は新作のゲーム作りが心配で言っている訳ではなく、曲作りが好きだからやりたいと言っているだけです。それにずっとベッドの中に居るだけだと退屈すぎて逆に体調が悪化します。貴方は私に早死にしろというんですか?」

 

 ――――――と言われてしまい渋々了承しました。お父さん曰く、昔からお母さんは普段は淑やかなのですが時折意固地になってしまうことがあり、こうなってしまうとお父さんでも頭が上がらないそうです。そういう訳でお母さんは病室で作曲をしていて、僕も曲作りのイロハを教えてもらいながら一緒にやらせてもらっています。

 

 花菜「大丈夫、何度も言ってるけどこれはやりたくてやっているのよ。それに私はこうして利久と一緒に曲を作っている時間が何よりも好きなの。だから心配しなくても大丈夫よ?」

 

 利久「・・・はい、わかりました」

 

 その後僕はお母さんのゲームの曲作りを手伝ったり、ゲームで遊んだりして一緒の時間を過ごしました。しかし楽しい時間というものはあっという間に過ぎてしまうもので、気が付けば面会終了の時間になっていました。

 

 利久「それじゃあ僕は帰りますけど・・・無理だけは絶対にしないでくださいね?」

 

 花菜「はぁ~、あなたもお父さんと同じことを言うのね?本当に親子なんだから・・・大丈夫、利久も気を付けて帰ってね」

 

 

 大丈夫・・・おそらくお母さんはこの時この言葉を無理して言っていたんでしょう。けど僕には気づけませんでした。いや、気づいていたのに気づかない振りをしてしまっていたんでしょう…お母さんの身に起きていることを知りたくなかったから、お母さんと一緒にいる、一緒に曲作りをしているこの時間が大きな心の支えだったから…その事実を突きつけられたのはそれから1月もたたないうちでした。病院から連絡を受け、急いでお父さんと一緒にお母さんのいる病室に向かいました。中に入るとそこに写ったのは、お母さんが使っていたベッドを医師と数名の看護師さんが囲むように立ち、そのベッドの上で目を閉じた状態で全く動かないお母さんの姿でした。

 

 柊哉「花菜・・・そんな…」

 

 利久「おかあ・・・さん?」 

 

 その時、病室内には悲壮感と絶望感の漂う音が聴こえてきました。これはお父さんの心の音なのか、お医者さんや看護師さんの物なのか、はたまた僕自身の物なのか・・・けどその時の僕はただ目の前のことが信じられませんでした。いや、信じたくなかったといった方が正しいでしょう。その時の僕はただ目の前のことから目を背けたくて、お父さんやお医者さんにあることを聞いてしまいました。  

 

 利久「・・・お母さんは・・・・何処にいるんですか?」 

 

 『!?』

 

 利久「僕はお母さんに会いに来たんです。お母さんに合わせてください」

 

 柊哉「利久…」

 

 僕がお母さんの居場所を聞くと、お父さんが僕のことを抱きしめて泣いていました。違う・・・本当は分かってました。こんなことを聞きたくなんかありませんでした。でも、僕は思考を完全に失ってしまいこんなことを聞くことしかできませんでした。後から聞いた話ですが、どうやらお母さんは末期癌だったらしく、長くは生きられなかったそうです。それからしばらくした後お母さんの葬儀が執り行われて、そこでようやく僕は理解しました。お母さんが亡くなったことを、僕の祐逸の心の支えを失ったことを…

 

 利久「お母さん…」

 

 そんな僕に待っていたのは大きな絶望でした。僕はお母さんを失った悲しみに暮れて、四六時中部屋で塞ぎ込むようになりました。僕ははひたすら泣き続け、目の前が見えなくなり、声も枯れてしまうほど涙を流しました。そうして泣いていると、何処からか声が聴こえてきました・・・

 

 

 

 『死にたい・・・こんなに辛いならいっそ死んでしまいたい…』

 

 『アイツ殺す・・・絶対に殺す!』

 

 『気持ち悪い・・・話し掛けてくんじゃねえよ!』

 

 

 

 いやだいやだいやだ!こんな声聴きたくない!僕は力強く耳を塞ぎました。しかしそれでも声は聴こえ続ける。

 

 利久「うるさいうるさいうるさい!僕は・・・うわぁーーーーーー!」

 

 ついに我慢の限界を迎えた僕は大声で発狂して、そしてそこで目の前が暗闇に包まれました。次に目を覚ました時、僕は見覚えのある白一色の部屋で白いベッドに寝かされ、手には点滴が繋がれていました。僕は体を起こそうとしましたが上手く力が入らず動かすことができませんでした。ふと手に違和感を感じて、首だけ辛うじて動かすことができたので横に視線を向けました。するとそこには僕の手を握りながらベッドに伏せたお父さんの姿がありました。 

 

 利久「お父さん?」

 

 僕が呼びかけるとお父さんは目を見開いて驚きと安堵の混じった表情になり、あの時と同じように僕のことを抱きしめてくれました。その時お父さんは涙を流しながら何かを言っていました。けど・・・それを僕は聞き取ることができませんでした。僕が呼びかけても何も反応しない僕に困惑し、お医者さんを呼びました。その後僕は物音だけは聞くことができたのですがなぜか人の声だけが聴くことができず、筆談で何とか状況を知ることができました。

 

 利久『僕はどうしたんですか?』

 

 柊哉『部屋からいきなり叫び声が聞こえて行ってみたらお前が倒れてたんだ。急いで救急車を呼んでそれから丸3日寝たきりだったんだぞ?』

 

 利久『そうだったんですか・・・ごめんなさいお父さん、心配をおかけしてしまい』

 

 柊哉『本当に心配したんだからな?花菜が亡くなって、お前まで俺の前からいなくなったらと思うと肝を冷やした・・・けど、無事に目が覚めてよかった。どこか体に変なところはないか?』

 

 利久『聴こえません・・・お父さんとお医者さんの声が。他の音は聴こえるのに人の声だけが聴こえないんです。いったいどうしてですか?』

 

 柊哉『先生の話によるとどうも極度のストレスによるものらしい。脳が自動的に人の声だけを聞こえないようにして、お前自身を守ろうとしているんじゃないかって』

 

 利久『治るんですか?』

 

 僕が聞くとお父さんは少し悩むような仕草をした後ボードに筆を走らせました。

 

 柊哉『治ることには治らしいが・・・病院じゃ治療は出来ないそうだ』

 

 利久『どういうことですか?』

 

 柊哉『これはお前の心の問題。こればっかりは病院で如何こうできる事じゃないんだ。日々の生活の中でお前自身で直していくしかないんだ』

 

 利久『そうですか・・・わかりました。ところで僕は後どれくらい入院してなきゃいけないんですか?』

 

 柊哉『色々と検査をするから今日1日は入院してもらうことになる。検査の結果が良ければ明日には退院できるそうだ』

 

 それを知って僕は安心しました。その後お父さんは仕事があるので病室を出て、僕は独り病院に泊まることになりました。そして翌日、僕は迎えに来た父さんに連れられて病院を後にしました。そして外に出た時、僕の目の前に広がっていたのは天国でした。いつものように普通の人のは聴こえないような町中の音は聴こえましたが、それだけでした。人の声は一切聴こえず、今まで聞こえてきたあの雑音や負の感情の詰まった声も例外ではなく、その時世界はとても輝いて見えました。でもそれは・・・たったひと時でしかありませんでした。僕は学校に再び通いだしましたが、周りから僕に対する反応は全く変わりませんでした。話し掛けようにも筆談しかできず、そんな僕は居ないかの様に扱われ続け、孤独感がさらに強まった僕は再び不登校になりました。

 

 利久「(寂しい、僕はどうしていつも1人されるんですか?辛いです・・・)」

 

 僕は1人でいる事に対する悲しみに暮れていました。そんな悲しみを紛らわせるために僕はゲームに熱中して、学校に行かない日々を送っていたらいつの間にか僕は中学生になっていました。流石に卒業式や入学式、テストの日には学校に行っていましたがそれ以外の日は家かゲームセンターでゲームに明け暮れる生活を続けていた僕でしたが・・・そんなある日、僕は出会いました。僕を変えてくれる、最高の仲間と…それは僕がゲームセンターに来て格闘ゲームをしていた時のことでした。

 

 利久「(・・・?なんでしょう、先程一瞬何か聴こえたような…)」 

 

 一瞬ではありましたが、ゲームの機械音やBGMに紛れて何か別の音が聴こえた気がして、辺りを見渡し音の発生源を探しました。するとドラムの演奏ゲームの前に立つ僕が在籍している中学校の制服に身を包んだ赤髪の人と青髪の人に目がとまりました。何故目に留まったのか、その理由はすぐにわかりました。

 

 利久「・・・!」

 

 ほんの僅かではありましたがあの2人から聴こえたんです。赤い髪の人の方からはボーボーと劫火の音と歪みかかったギターの音が。そして青髪の人の方からはザーザーと波の潺の音と体に響くようなドラムの音が。この電子音ばかりの空間に不釣り合いな自然の音と楽器の音があの2人から聞こえてきたんです。この音は・・・間違いありません。あの日からずっと聴こえなくなっていた、僕が聴きたくないと思っていた、人の心の音…  

 

 利久「(久しぶりに聴きました。それに、楽器の音を出す人なんてお母さん以外では初めてです…そういえばあの制服、僕の学校と同じ・・・)」

 

 僕はあの2人のこと見つめてしまいましたが、すぐにゲーム機に向き直りゲームを再開しました。しかし少しすると、誰かが近づいてくる気配がしました。僕は振り返るとそこには先程の赤髪の人がキラキラした目で僕を見て何か言いながら立っていました。

 

 利久「(え?な、何ですかこの人・・・)」

 

 とりあえず何を言っているのか分からなかったので僕はホワイトボードにペンを走らせて筆談でしか会話できないことを伝えてホワイトボードを渡しました。すると向こうもペンを走らせて答えてくれました。

 

 レン『俺の名前は赤城 レン。俺達と一緒にバンドやろうぜ!』

 

 利久「(・・・はい?)」  

 

 この人はいったい何を言っているのか僕は理解できませんでした。バンド?あの楽器を演奏する?何で見ず知らずの僕に?僕は色々と疑問符を浮かべていると隣に立っていた青い髪の人が溜息をついてホワイトボードを差し出してきました。 

 

 碧斗『いきなりこのバカがすまない。俺は海原 碧斗、一応こいつとバンドを組んでて一緒に他のメンバーを探している真っ最中なんだ。それよりもお前もしかして石美登か?』

 

 利久『僕をご存じなんですか?』

 

 碧斗『ああ、一応俺とこのバカはお前とクラスメイトだ』

 

 驚きました。数える程度しか学校に行っていないのに覚えていてくれる人がいただなんて・・・ところで先ほどバンドと言っていましたがどういう事でしょうか?

 

 利久『そうなんですか。ところでお2人ともバンドを組んでいるんですか?』

 

 碧斗『まあな、と言っても今の所メンバーは俺とレンの2人だけどな。絶賛メンバーを探している真っ最中だ』

 

 なるほど、それで僕に声を掛けてきたという訳ですか。けど何で見ず知らずの僕に?

 

 利久『なんで僕を誘ったんですか?』

 

 レン『お前がほしいからだ!』

 

 ・・・はい?どういうことですか?言ってる意味がさっぱり理解できません…

 

 レン『お前がゲームしてる時の指の動き、凄かった。お前には俺のバンドのキーボードをやってもらう!』

 

 うん?なんかやる事確定していませんか?そう思っていると赤城さんのことを海原さんが小突いて言い争いを始めました。けどその姿は仲のいい友達同士が唯じゃれあっているようなものでとても微笑ましかったです。僕もこの2人の仲には入れたら・・・僕は一瞬だけですけどそう思いました。けど、すぐに学校での出来事や何時も聞こえてきていた人の本心の声のことが頭をよぎりその考えを払拭されました。

 

 利久『とても素敵なお誘いですけど・・・ごめんなさい』

 

 そして僕は逃げるようにゲームセンタ-を後にしました。この2人はそんな人ではないと分かっていました。でも人とかかわるとまたさっきの事が頭をよぎりどうしても人と関わることに恐怖してしまう。だから僕は差し伸べてくれた2人の手を拒絶してしまいました。けれども翌日、僕がゲームセンターに行くと・・・

 

 利久「・・・!」

 

 レン『よう利久!』

 

 碧斗『・・・・・』

 

 また2人がいました。何故ここに?その疑問は赤城さんの次の言葉で晴れました。

 

 レン『利久、俺達と一緒にバンドやろうぜ!』

 

 そう、懲りずに僕の勧誘に来たんです。

 

 利久『どうしてまた誘いに来たんですか?僕は断ったはずですよね?』

 

 レン『ああ、けど俺はお前とバンドがやりたい!だから誘いに来た!』

 

 なんでしょう・・・これってあれですよね?ストーカー宣告と受け取っていいんですよね?僕はちょっと引いてしまいその日はすぐに帰ることにしました。僕がゲームセンターから出ると昨日と同じような2人の小競り合いが聴こえたような気がしました。それからというもの、ゲームセンターに行く度2人が待ち構えていて赤城さんからしつこく勧誘をされましたがその都度断っていました。けどその代わりに対戦型ゲームで一緒に遊ぶようになり、楽しい毎日を送っていました。そんな日が続いていたある日のことでした。僕がゲームセンターに向かおうとしていた道中、僕は今日もあの2人と一緒にゲームで遊べることを楽しみにしながら歩いていました。しかしその時でした。

 

 

 

 ―――ドンッ!―――

 

 

 

 利久「・・・!」

 

 僕はついつい気を緩めてしまい目の前を歩いていた人にぶつかってしまいました。僕が顔を上げるとそこには僕よりも背が高く、着崩した制服に染めた髪にピアスを身に付けた明らかにガラの悪い高校生人6人が僕を睨みつけてきていました。その人達は何か僕に対して言ってきましたが僕は何を言っているのかわからず困惑しているとそのうちの2人に両腕を拘束され、気が付くと僕は何も抵抗することができずに路地裏まで連れてこられていました。僕は恐怖で身動きが取れずにいると、目の前の人達はニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながら壁際まで追いつめてきました。マズイ、下手したら殺される!そう思ったその直後、1人が拳を思いっきり振り上げ僕に振り下ろしてきました。殴られる。僕が目を瞑り、次に来る衝撃に備えようとしたその時でした・・・

 

 ?「ちょっと待て――――――――――!」

 

 どこからともなく人の声が聴こえてきました。この機に及んで幻聴?いえ、はっきりと聴こえる人の声。恐る恐る僕が目を開けると、そこには僕を守るかのように1人の人物が、特徴的な真っ赤な髪をした炎の様に暑苦しい彼、赤城 レンが6人の不良の前に立ちはだかっていました。

 

 レン「俺、惨状!」 

 

 しかもキメポーズしてキメ台詞を言いながら。けどそれよりも驚いたことが僕にはありました。

 

 レン「利久、大丈夫か!?て言っても聞こえないか・・・おいお前ら!俺のバンドメンバーに何しようとしてた!?」

 

 声が・・・聴こえたんです。今までずっと聴こえなかった人の声が。けどそれは向こうの不良グループも例外ではありませんでした。

 

 「なんだてめえ?」

  

 「1人で俺らとやり合おうってのか?」

 

 向こうは明らかにやる気満々、しかも高校生6人いてに対して赤城さんは1人で僕を守りながら応戦しなくてはならない。どちらが有利かは明らかでした。けれど・・・

 

 レン「ああやってやるよ!こいつはうちのキーボードだ!こいつには絶対指一本触れさせねえ!」

 

 彼は臆することなく立ち向かっていき、複数の高校生相手に見事な格闘術で応戦していました。その姿はまさに日曜の朝にテレビで見るヒーローのようでした。けど、やっぱり戦況は多勢に無勢。赤城さんは防戦一方となってしまい、ついにはボロボロになってしまいました。

 

 利久「赤城さん!」

 

 レン「へ・・・大丈夫、かすり傷だ…心配するな利久、お前は絶対に守り抜いてやる!」

 

 利久「どうして・・・」

 

 レン「ん?」

 

 利久「どうして僕の為にそこまでするんですか!?赤の他人でしかない僕の為にそこまで傷つくんですか!?」

 

 レン「そんなもん決まってるだろ!お前は俺の友達でバンドメンバーだからだ!」

 

 利久「え・・・」

 

 レン「それにヒーローは絶対目の前に困ったり、助けを求めてる存在があったら絶対に見捨てない!」

 

 友達・・・そんな事、生れてはじめて言われました…上辺なんかじゃない心からの言葉、それに対して言いようのない嬉しさを僕は感じました。

 

 「は!なんだよそれ?」

 

 「こいついかれてやがるぜ!」 

 

 けどそれに対して不良達はそれをあざ笑ってバカにしてきました。その時、僕の脳裏には1つの言葉が浮かびました。

 

 花菜『いい利久、今は逃げてもいいわ。でもね、いつかは向き合わなきゃいけないの。ゲームもそう、いつも逃げてばっかりだと大事なところで経験値が足りなくて敵が倒せない。そうなってくるとストーリーも全然進まなくてクリアできないわ…だからその時は、勇気を出して立ち向かって』

 

 利久「・・・うな・・・」

 

 「ああん?」

 

 利久「笑うな!僕の友達をバカにすることは絶対に許しません!」

 

 レン「利久・・・」

 

 僕は、生れて初めて怒りを覚えました。それにレンは僕の為にここまでしてくれたんです。そんなレンを笑うこの人達が許せなかった。その怒りは恐怖を消し去り、立ち向かう勇気に変えてくれました。僕はもう逃げない!

 

 「はっ!さっきまでビビってたやつがなにいきがって「とりゃ―――!」ぐはっ!」

 

 僕は1人に思いっきりアッパーをくらわせました。それはもうストリートファイターの昇竜拳の様に・・・僕は引き籠っていましたが、運動不足を解消する為に今までやってきた色んな格闘ゲームのキャラの動きを真似したりして鍛えてきたので対人戦に関しては少し自信がありました。

 

 利久「僕のことをひ弱なんて思っているのでしたら大間違いですよ!」

 

 レン「利久!」

 

 利久「赤城さん!いや、レン!やりましょう!」

 

 レン「ああ!このステージ・・・」

 

 レ・利「「俺(僕)達の超強力プレイでクリアしてやるぜ!(みせます!)」」

 

 それからの僕達は一方的でした。不良6人を相手に圧勝し、気が付くと6人は気絶していました。

 

 利久「・・・勝ちましたね?」

 

 レン「ああ・・・ありがとな、お前を助けるどころかこっちが助けられて…」

 

 利久「いえ、むしろお礼を言うのはこっちの方です。それに僕は当然のことをしたまでです。だって僕達は友達で・・・同じバンドのメンバーなんですから」

 

 レン「・・・!利久、じゃあ・・・」

 

 利久「はい!これからもよろしくお願いします!」

 

 レン「ああ!よーしこれでようやく3Pバンドができる!それじゃあいつも通りゲーセンにいくか!」

 

 利久「はい!」

 

 お母さん見てますか?僕に初めて友達ができました!でも、たぶん最後にはこうなっていたと思います。だってレンは、目の前に辛い思いをしている人がいたらその人に手を伸ばして、拒まれても掴んでで離さない、そんなヒーローだから!

 

 レン「ん?そういえば利久、お前普通に話せてるし俺の言ってることが聴こえるようになったのか!?」

 

 ・・・今更気づいたんですか…

 

 

 

     ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 碧斗「全く、やっぱりあいつは底知れないほどのバカだな。まあこんな風にお節介している俺も相当なのかもな…」

 

 そう呟く俺の周りにはさっきよりも大人数の不良が倒れていた。どうやらあの2人が相手していたやつらのうちの1人が仲間を呼んでいたらしい。けどその様子を見ていた俺はそいつらを全員相手していた。けど相手するにあたって俺は手で人傷付ける事だけは絶対にしないと決めているためすべて足技だけ使っていたが・・・案外行けるもんなんだな。と言うよりもこいつらが雑魚過ぎただけか・・・

 

 碧斗「まあそれよりも石美登・・・いや、利久の耳も元に戻ってメンバーになったことだし、これで万々歳だな」

 

 それに、これで条件は満たした訳だ。これでの人も例の頼みを受け入れてくれる筈だ。けどレンのことだ、まだメンバーを探すんだろうな・・・

 

 碧斗「まあ別にそれは今すぐする事じゃないか。とりあえず俺もゲーセンに行くか・・・」

 

 とりあえず俺は2人の待つゲーセンに向けて歩を進めた。その前に俺は薬局によって傷薬にガーゼ、シップに包帯を買うことも忘れなかった。アイツ結構ボロボロにされてたからな…そういえば俺も何かとこういうお節介をするようになったな・・・俺も利久もレンの影響を受けたか・・・けど、この時の俺は知る有もなかった。あと2人、レンのお節介に影響を受ける奴がいるなんて…

 


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