バンドリ!~オプション付き5人と少女達の物語~   作:akiresu

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姉は薦める

 

 香澄「リッ君・・・そんな事があったんだ…」

 

 沙綾「私も初めて聞いたけど・・・利久はお母さんを・・・」

 

 利久の過去、俺達と利久の出会いを聞いた2人は少し重苦しい表情をしていた。

 

 碧斗「けど、アイツはそれを乗り越えた。あの一件の後アイツは心の音のON・OFFができるようになったらしい。それ以来利久は学校にもしっかり行くようになって、俺達のバンドの作曲をする為に、父親の会社で曲作りを教えてもらう代わりにテストプレイヤーにもなって、その為にゲームの世界大会でも優勝した」

 

 まさかあんなに世間を怖がっていた人間がここまで世の中に出てくるようになるなんて・・・まあ利久の場合そんな話で済むレベルじゃないけどな…

 

 碧斗「そして何より利久は・・・大切な友達を得た。だからこそアイツは前に進めたんだ」

 

 香澄「リッ君・・・」

 

 碧斗「けど、もしかしたら利久はまだましな方だったのかもしれない・・・」

 

 香澄「え?」

 

 沙綾「どういう事・・・?」

 

 碧斗「アイツ以上に、人に傷付けられた奴がいるってことだ・・・」

 

 そう、利久は人の心の声が聴こえたからこそ人間不信に陥り、人と関わることを拒んでいた。けど・・・

 

 碧斗「そいつは利久とは逆だった。一生懸命努力してもそれを認められずに、人からも直接心無い言葉を投げかけられて、誰も信じる事が出来なくなった。そのせいで自分が好きだった、情熱を注いでいたものも・・・嫌いになった」

 

 沙綾「自分の好きなことを・・・」

 

 りみ「それってもしかして・・・明日香君のこと?」

 

 沙綾「え!?」

 

 香澄「り、りみりん!?」

 

 俺が再びメンバーの1人との出会いを語ろうとして沙綾がさらに表情を暗くしたその時、3人だけだった空間に新たな人物の声が響いた。それは戸山と沙綾のバンドメンバーの牛込だった。いきなりの牛込の登場についさっきまで浮かない表情をしていた2人も驚きの表情に変わっていた。ほんといつの間にいたんだ?というよりも牛込は明日香の過去を知っているのか?

 

 香澄「い、何時からいたの?」

 

 りみ「ついさっき。チョココロネを買いに来たんだけど、そしたら碧斗君の話が聴こえて・・・」

 

 沙綾「そ、そうだったんだ…」

 

 りみ「ご、ごめんね・・・驚かせちゃって…」

 

 碧斗「いや、こっちこそすまない。話しに夢中になって来た事にも気づかなくて・・・それよりも牛込は明日香の過去を知ってるのか?」

 

 りみ「う、うん・・・ちょっとだけ前に明日香君から教えてもらったから…」

 

 碧斗「明日香から?」

 

 アイツが自分から直接話すなんて珍しい・・・それだけ牛込に対して心を開いているってことか。

 

 りみ「明日香君言ってた・・・小役だった時、最初の頃は楽しかったけど、遊ぶ時間も作らないで芸能活動と習い事を頑張ってたら人気が出るにつれて学校でも浮くようになって、他の小役の子達からも酷く当たられて芸能活動と芸事が嫌になって、小役もやめたって…」

 

  確かに・・・自分の自由な時間すらも投げ打ってまで辛いことでもやり遂げてきたのに、周りからその努力すら認めてもらえず、見返りとして帰ってきたのはその努力を全否定するような言葉の数々。そんな目に遭ったら好きだったことが嫌になって、人を信じられなくなるのは無理もない。

 

 りみ「けど、こうも言ってた。レン君と出会って、レン君のおかげで変わることができて、もう一度人を信じれるようになったって…」

 

 沙綾「またレンなんだ・・・どうせまた学校とかで見かけて仲間にしたいと思って、色々と首を突っ込んでメンバーにしたんでしょ?」

 

 碧斗「いや、まあ大体合ってはいるが今回はちょっと違う」

 

 香澄「え?違うの?」

 

 碧斗「ああ、今回はちょっとした諸事情と仲介人がいたんだ」

 

 香・沙「「仲介人?」」

 

 碧斗「あー、またちょっと長い話になるけどな・・・」

 

 こうして、俺はまた長い話を今度は牛込を交えてすることになった。天女の生まれ変わりとも言われたベーシストとの出会いと、俺達があの人に弟子入りした時の出来事を―――――――――――

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 レン「オーナー、此奴がキーボードをやることになった利久です!約束通りメンバーは3人になりました。お願いします!弟子にしてください!」

 

 利久がメンバーになった翌日、レンに連れられて俺と利久はSPACEへと来ていたが・・・着いてすぐにレンはカウンターの椅子に座る此処のオーナーの都築 詩船に頭を下げ、利久はその様を見て困惑していた。分かるぞ利久、俺も前同じ目に遭った。実は俺がレンとバンドを組んですぐ、俺達は自主練のおかげで多少は楽器が弾けるようにはなった。しかし初心者である俺達には自分達だけで出来る事には限界があり、このままでは技術レベルが全く上がらない。そこで俺達はレンの提案で此処のオーナーに弟子入りを頼んだが・・・もちろんあっさりと断られ、その後レンが熱心に頼んだ末にメンバーをあと1人連れてくることを条件に弟子入りを許されたらしいのだが・・・

 

 オーナー「ダメだ!」

 

 レン「えー!?何でですか!?ちゃんと3人になったじゃないですか!」 

 

 なぜか断られた。なんでだ?メンバーが3人になったら良いんじゃないのか?俺と利久が頭に疑問符を浮かべているとオーナーは呆れ交じりにため息をついて口を開いた。

 

 オーナー「確かにあと1人メンバーを連れてくれば弟子にするとは言った。けど、私はベースをやるやつを連れてこいと言ったはずだよ?」

 

 碧斗「・・・はあ?」

 

 ベース?どういうことだ?俺はレンのことを思いっきり睨みつけた。するとレンは思い出したかのように口を開いた。

 

 レン「あー・・・そういえばそんな事を言っていたような…」

 

 碧斗「おい、それかなり大事なことなんじゃないのか?」

 

 そういえば3人組のロックバンドっていうのはギター、ドラム、ベースが基本だったか。まあベースがいないバンドもあることにはあるらしいが・・・残念なことに俺らは楽器初心者、変則的なバンドをやろうとするとまず演奏が成り立たないし、変な癖がついたりするかもしれない。だからこそベースは必要不可欠。なのにこいつはそんな大事なことを聞き逃していただと?

 

 オーナー「はぁー・・・」

 

 オーナーは再び呆れ交じりの溜息をこぼすと椅子から立ち上がり自室へと入って行ってしまった。

 

 オーナー「出直してきな!」

 

 しっかりと捨て台詞も添えて・・・その後俺達3人はロビーにある椅子に座りレンは項垂れ、利久は困惑していた。無理もない、キーボードをやってほしいと頼まれたのに、ほしいのはベースだと言われて追い返されたんだ。

 

 利久「えーと・・・なんかごめんなさい…」

 

 碧斗「別にお前が謝ることじゃないだろ。元はと言えばこのバカが大事な所を聞き逃していたのが原因だ」

 

 レン「誰がバカだ誰が。にしてもベースかー・・・」

 

 利久「あの、ベースをやる人がほしいのでしたら僕がやればいい話なんじゃ「それはダメだ!」え!?」

 

 レン「利久はこのバンドのキーボード担当だ。ギターでもボーカルでもましてやベースでもない、キーボードなんだ。それが1番似合ってる」

  

 碧斗「ならどうするんだ?」

 

 レン「決まってる、また探せばいい!」

 

 言うと思った・・・けどそう簡単に見つかるものか?そう思ったその時だった。

 

 ?「うーん、ずいぶんと悩んでるみたいだねー?」

 

 レ・碧・利「「「え?」」」

 

 突然のほほんとした声の女の人から話し掛けられた。しかもその声は聞き覚えのあるもので、俺達は声のした方を見るとそこには長いピンク色の髪をした俺等より年上の女の人がいて、その姿に俺は見覚えがあった。そう、あれは確かレンに連れられて初めて此処のライブを観に来た時・・・そうだ、レンのお兄さんのバンドのベースをやっていた人だ。けどそれ以外にもどこかで見たことがあるような・・・

 

 レン「華美さん!」

 

 俺は目の前の女性に対する既視感に首を傾げていると、レンはその女性の名前を呼びそれで俺はピンときた。華美?まさか・・・

 

 碧斗「もしかして・・・女優の桃瀬 華美か!?」

 

 利久「え?どなたですか?」

 

 碧斗「お前知らないのか!?芸能人だぞ!?」

 

 利久「すいません・・・テレビをあまり見ないものですから」

 

 碧斗「そうか、なら仕方ないか」 

      

 華美「お、もしかして君は私のこと知ってくれてるの?嬉しいね~!」

 

 知ってるも何も超有名人だ。テレビを中心に活躍し、もはやテレビで見ない日は無いといっても過言ではない大人気高校生女優。そんな超有名人が今目の前にいる。

 

 碧斗「何で芸能人の貴方がこんな所に!?」  

 

 華美「う~ん、何でって言われても私もバンドやってるから?」

 

 碧斗「あ、それもそうか・・・て、そういえば何でバンドを?」

 

 さっきも言ったがこの人は大人気女優。かなり多忙なはずなのに何でバンドを?

 

 華美「それはね~・・・晴緋の力になってあげたかったからかな?」  

 

 碧斗「レンのお兄さんの?」

 

 華美「うん・・・私が出会ったばかりの時、晴緋は明るさこそはあったけど持病のせいで何もできなくて、何時退屈そうにして心の底から笑えてなかった」

 

 持病、俺と利久は華美さんのその言葉を聞いた瞬間にレンの方にも視線を向けていた。

 

 レン「兄さんは小さい頃から心臓が弱かったんだ。だから激しい運動とか心臓に負担がかかることは禁止されてて何もできなかったんだ」

 

 華美「けどある日何があったのか突然バンドの勧誘のチラシを学校で配っててね、その時から晴緋は生き生きして心の底から笑ようになってた。そんな晴緋見てたら・・・応援したくなっちゃったの」

 

 そう言いながら華美さんはうっとりとした笑みを浮かべていた。その顔はとても愛おしそうで、まるで恋する乙女だった。それを見た俺は大体わかった。そうか、この人はレンのお兄さんのことを・・・

 

 華美「まあ私の話はさておき、それよりも話は聞かせてもらったわよ。レン君はベースをやる人を探しているんだよね?」

 

 レン「あ、はい」

 

 華美「ならちょうどいい人を知ってるわ。それも君達の同級生で」

 

 レン「本当ですか!?」

 

 驚いた、けど正直少しだけ疑わしい。こんなにも都合よくいい話が舞い込んでくるなんて・・・けどその疑いは次の利久の一言でなくなった。

 

 利久「別に嘘をついてはないみたいですよ?」

 

 碧斗「は?あ、まさか利久心の音を?」

 

 華美「え?なになに?どういうこと?」

 

 碧斗「あ・・・」

 

 俺は華美さんに利久のことを説明した。

 

 華美「ふーん、心の音をねー」

 

 利久「すいません、勝手に聴いちゃって・・・」

 

 華美「いいよいいよ、いきなりこんな美味しい話されたって信じられないのも無理はないしね」

 

 レン「それで、それって誰なんですか?」

 

 そうだ、俺達にとっての1番の疑問をまだ聞いていなかった。俺達のバンドのベースになれる人物、それはいったい誰なんだ?すると華美さんは俺達に1人の人物が写る、1枚の写真を見せてきた。そこに写っていたのは・・・

 

 レン「女の子?」

 

 利久「凄く可愛いですね」 

 

 ピンクの髪の美少女だった。けどこの見た目、どことなく華美さんに似ているような・・・それにちょっと見覚えがある気がするが・・・

 

 華美「・・・プククク・・・アッハッハッハ!」

 

 レ・碧・利「「「!?」」」

 

 俺達が写真に写る人物の感想を口にしていたら急に華美さんが笑いだした。気でも狂ったのか!? 

 

 華美「アッハッハッハ!・・・イヤーごめんね?3人とも見事に引っ搔かったから」 

 

 レ・碧・利「「「え?」」」

 

 華美「その子、女の子じゃなくて男よ?」

 

 レン「・・・え?お・・と・・・こ・・・?」

 

 華美「うん、男」

 

 『え――――――――――!?』

 

 嘘だろ!?この華奢な見た目で男なのか!?ほんと人は見かけによらない・・・あれ?でもそういえばコイツ・・・

 

 碧斗「そういえば隣のクラスにこんなやつがいたような・・・」

 

 レン「なに!?」

 

 利久「本当ですか!?」

 

 碧斗「ああ、確か文芸部に所属してたはずだ」

 

 前にちょっと本を借りに文芸部の部室に行ったときに見かけたくらいだが・・・

 

 華美「じゃあ、後のことは大丈夫そうだね?」

 

 レン「え?」

 

 華美「あとは君達に任せた!あ、それとその子に会った時私の名前はなるべく伏せておいてね。じゃあね~」

 

 そう言うと華美さんは嵐の様に去っていった。

 

 レン「ちょっ!華美さん!?行っちゃった・・・」

 

 碧斗「で、どうするんだ?そいつのこと誘うのか?」

 

 レン「あー・・・まあ折角の厚意を無碍にもできないし、それに他に宛ても無いし・・・兎に角、ジーとしててもドーにもならねえ!明日そいつに会いに行ってみよう」

  

 その後残された俺達は他に宛ても無かったから、華美さんの提案を受け入れて例の人物を勧誘してみることにした。そして翌日の昼休み―――――――――

 

 レン「よし行くか!」

 

 碧斗「ああ」

 

 利久「ええ」

 

 俺達は昼休みに隣の教室に行くと、突然の俺達の登場に教室内が騒めきだした。それもそうか、前にやった俺とレンの料理対決はかなり話題になっていたからその当人がいきなり教室に来たらそりゃ騒ぎにもなるか…けど俺達はそんなこと気にも留めず、教室内を見渡して例の人物を探した。しかしそれはすぐに見つける事が出来た。唯一人異色的な美しさを感じさせる雰囲気を醸し出し、窓際の席に1人でいる華奢なその姿は男とは解っていても女神と体現せずにはいられなかった。レンは目的の人物を見つけるとその席までまっすぐ向かっていった。当人はいきなりが自分の元までレンが来たことに一瞬かなり驚いていた。

 

 レン「なあ、えーと・・・」

 

 明日香「明日香」

 

 レン「え?」

 

 明日香「僕の名前です」

 

 レン「おお、明日香か。俺は赤城 レン!それじゃあ明日香、俺達と一緒にバンドやろうぜ!」

 

 明日香「は?」

 

 レン「丁度ベースやるヤツ探しててさ、そしたらある人からお前のことを進められてな。だから俺達のベースをやってくれ!」

 

 明日香「・・・はあ?」

 

 しかし、レンが勧誘のセリフを言った途端にその表情は一変した。普通こんなことをいきなり言われたら困惑するものだ、現に俺と利久がそうだったように。けど明日香のその表情はそうではなかった。それはまるで憎悪を含んでいるかのような、明らかに敵意をむき出しにしているもので、声も少しドスが効いていた。

 

 明日香「悪いけど、他をあたって」

 

 そう言うと明日香は立ち上がり、教室から出て行ってしまった。けど俺はその明日香のあの反応が何か引っ掛かった。まるで、バンドのことを・・・いや、音楽そのものを毛嫌いしているように見えて仕方なかった。けど今はそんな事を考えても仕方ない、とりあえず俺達は放課後にまた勧誘しに行くことにした。

 

 レン「失礼します」

 

 碧斗「失礼します」

 

 利久「お邪魔します」

 

 そして放課後に俺達は文芸部の部室へと来ていた。しかしそこに明日香はまだ来ておらず、女子部員が1人いるだけだった。確かこの人は・・・そうだ文芸部の部長だ。

 

 「え?えっと・・・君達は?」

 

 レン「あ、のー俺達明日香に話があって・・・」 

 

 「明日香?君達明日香君に何か―――ガラッ!―――「お疲れ様です・・・って、え?」あ、明日香君」

 

 部長さんが俺達に用件を聞こうとしたその時、丁度明日香が部室に入ってきた。しかし俺達の存在に気が付くと教室の時と同じ表情に変わっていた。

 

 レン「よう、明日香!俺達と一緒に「すいません部長、ちょっと体調がすぐれないので今日は帰ります」え、ちょっと待って―――バタン!―――あ・・・」

 

 そしてすぐさま部室から出て行ってしまった。俺達は唖然としてしまい、その様子を見て状況が理解できない部長さんが俺達に何があったのか聞いてきた。

 

 「えっと、君達明日香君と何かあったのですか?」

 

 碧斗「あ、実は―――――」

 

 俺は俺達がバンドをやろうとしている事、ベースをやる人を探していて明日香を薦められたこと、昼休みに勧誘をしに行って断られたことを説明した。華美さんの名前は伏せて。部長さんは俺の話を聞き、全て話し終えるとちょっと気難しそうにした。

 

 「残念だけど・・・明日香君は首を縦にはふらないと思う…」

 

 レン「え!?なんでですか!?」

 

 「だって明日香君は、芸事を嫌っていますから・・・特にバンドは尚更・・・」  

 

 芸事を嫌う?特にバンドは?いったいどういうことだ?

 

 利久「どういうことですか?」

 

 「その反応から見るに君達は知らないみたいですね。彼が桃瀬家の人間だということは・・・」    

 

 ・・・桃瀬家?明日香が!?

 

 利久「え!?そうなんですか!?」

 

 レン「ということは明日香は・・・」 

 

 そうか、俺は昨日の写真を見せられた時の違和感の謎が解けた。どこかでか見たことがるとは思っていたが・・・

 

 碧斗「レン「行くぞ2人とも」あ、おい待て!失礼しました」

 

 利久「レン?あ、あの、お邪魔しました」

 

 レンは部長さんから理由を聞かずに文芸部の部室から出ていき、そのまま学校を出てしまい、俺らはレンに促されるまま後をついていき、気が付くと駅前へと来ていた。しかしそこには普段見ない沢山の人だかりができていて、その隙間から僅かにのぞくことができたがどうやらドラマの撮影をやっているようだ。そしてその出演者の中には、華美さんの姿もあった。すると華美さんはこちらに気が付いたのか俺達に薄らと笑みを向けてきた。そしてしばらくすると監督の人から撮影終了の声が上がり、俺達は華美さんの元に向かった。

 

 華美「おー、3人も見に来てくれてたんだ。それでそれで、勧誘の方はうまくいったの?」

 

 レン「それ、分かってて聞いてますよね?」

 

 華美「・・・はぁ~、そりゃそう簡単にはいかないか…」

 

 レン「どうして・・・黙ってたんですか?明日香が、華美さんの弟だってこと…」

 

 華美「聞かれなかったから・・・て言う訳にはいかないよね…明日香はね、嫌っているの・・・芸事に関すること全て、自分が桃瀬家の人間であるってこともね…」

 

 利久「嫌っている?」

 

 碧斗「・・・それは、アイツが芸能活動をやめたことと何か関係あるんですか?」

 

 レン「え!?」

 

 利久「芸能活動!?」

 

 華美「知ってたんだ?」

 

 碧斗「アイツのことどこかで見たことあるって思って・・・思い出したんです。大人気小役、桃瀬 明日香。去年少しだけ騒ぎになってたから」

 

 レン「そういえばクラスが違かったからあんまり話は入ってこなかったけど、そんな話を小耳にはさんだな。それが明日香ってことか…」

 

 華美「ええ・・・レン君達には薦めた手前話さなきゃいけないよね・・・明日香はね―――――」 

 

 

 そして華美さんは俺達に話してくれた。明日香が何故芸能活動をやめて芸事を嫌うようになったのか、それを聞いて俺達はただ茫然としてしまった。

 

 レン「虐め・・・か…」

 

 碧斗「ありきたりと言えばありきたりだが・・・」

 

 利久「周りの友達全員から、それもただ自分が好きなことをやっていただけ・・・そんなの辛すぎます…」

 

 華美「そうね・・・あんなに楽しんで、一生懸命努力してたのに・・・待っていたのは友達の裏切りと心無い言葉の数々。まだ幼いあの子には、人を信じられなくなるには十分だったわ。そしてあの子は心を閉ざして、あんなにも楽しんでた芸事を嫌いになって、桃瀬家である自分自身のことも・・・」

 

 悲痛な趣でポツリポツリと明日香に起こったことを語る華美さん。その姿からは姉として何もしてあげられなかった悔しさや悲しさが犇々と伝わってきた。

 

 華美「でもね・・・もしかしたらまだ明日香は未練があるのかもしれない…」

 

 利久「え?どうしてそんな事がわかるんですか?」

 

 華美「だって明日香はあれ以来小説をたくさん読むようになって、どれもドラマ化された時に自分やお父様、お母様が出演してた作品だったから。それに、家でも時々置いてある楽器を名残惜しそうに眺めてる時がるし・・・そしてなにより、明日香が1番嫌っているのは他でもない私だから…」

 

 レン「華美さんを?いったいどうして?」

 

 華美「明日香はあんなにも辛い思いをして、芸事が嫌いになるまで至った。なのに私は今でもこうして芸能活動をしていて、さらにバンドまで初めてこうして芸事を楽しんでいる。だから私は・・・」

 

 そう言いながら、華美さんは涙を流し始め、さっきよりも悲壮感がより一層強まっていた。

 

 利久「は、華美さん!?」

 

 華美「グスッ・・・ごめんなさい、取り乱しちゃったわね…だから私には、何もしてげあれない・・・あの子を救ってあげる事は出来ない…だからレン君がバンド始めてメンバーを探してるって聞いた時、チャンスだって思ったの。きっとレン君なら明日香の心を開いて、また前みたいに芸事が好きで、私にも笑顔を向けてくれる明日香に戻ってくれるって。だからレン君に明日香のことを薦めたの」

 

 そうか、だからあの時華美さんは俺達に都合よく明日香を薦めたのか。

 

 華美「だからレン君、お願い!明日香を・・・レン君のバンドのメンバーにして、そして救ってあげて。いいように利用しようとしてるのも、ただ都合の良いことを言ってるだけだってのもわかってる。けど、私にはできないから・・・だから!」

 

 そう言い華美さんは涙目で俺達に頭を下げて懇願してきた。弟の為にここまでするなんて・・・相当弟思いなんだな…ここまでお願いされたら普通断るわけにはいかない。レンはそんな華美さんをしばらく見つめた後、その返答を口にした。

 

 レン「お断りします」

 

 ・・・はあ?今こいつは何と言った?断る?人気女優がましてや自分の兄のバンドのメンバーが涙を流しながら頭を下げているのに断るだと?俺はレンの口から出た予想外の返答に数秒固まってしまった。

 

 碧斗「はあ!?」  

 

 利久「ちょ、ちょっとレン何言っているんですか!?」

 

 華美「・・・そうだよね、レン君にもメンバーを選ぶ権利はあるもんね…無理言ってごめんね?」

 

 レン「華美さん、ちょっと勘違いしてませんか?俺は華美さんに頼まれたから明日香をメンバーにするんじゃありません」

 

 華美「え・・・」

 

 レン「俺はアイツを、明日香をメンバーにしたいと思ったから勧誘するんです。今日教室でアイツのこと初めて見ましたけど、その時思ったんです。俺達のバンドのベースはアイツだって・・・だから俺は明日香のことを絶対メンバーにします!助けを必要としてたら助けます!桃瀬家の人間だからとか、華美さんに頼まれたからとかじゃなく俺の意思で!」

 

 華美「・・・!」

 

 レンの言葉を聞いた瞬間、華美さんは俯かせてた顔を上げた。そしてレンをしばらく見つめた後、昨日の様にまた笑い出した。

 

 華美「・・・アッハッハッハ!」

 

 レン「は、華美さん・・・?俺なにか可笑しなこと言いました?」

 

 華美「ううん・・・ただ、やっぱりレン君は晴緋の弟なんだなーて」

 

 レン「え?どういう意味ですか?」

 

 華美「なーんでもない。それじゃあレン君、碧斗君、利久君、明日香のこと・・・よろしくね?」

 

 レ・碧・利「「「はい!」」」

 

 その後、俺達はそこで別れてそれぞれの帰路についた。そして翌日、俺達はまた明日香に勧誘を持ち掛けた。

 

 レン「よう明日香!」

 

 明日香「あ、昨日の・・・なんのよう?」

 

 レン「決まってるだろ?お前を誘いにきた!」

 

 明日香「また?昨日も言ったよね?他をあたってって」  

 

 レン「ああ、言ってたな!けど俺は他の人じゃなくてお前にやってもらいたいんだ!」

 

 明日香「・・・じゃあ言い方を変えさせてもらうよ。嫌だね!絶対にやらない!」

 

 まあ・・・結果は言うまでもなく撃沈に終わったが…けどその後もレンは何度も何度も明日香に話しかけた。

 

 明日香「また来たの?ほんと懲りないね・・・」

 

 レン「ああ、お前が良いというまで何度だって話し掛ける!」

 

 明日香「じゃあ聞くけどさ・・・なんでそんなに僕をメンバーにしたいの?探せばベースできる人なんていくらでもいるし、ましてや僕はベースなんてやったことないのに」

 

 レン「うーん、なんかうまく言えないけど・・・教室でお前のこと見た時に何か感じたんだ。俺達のバンドのベースはコイツだって…」

 

 明日香「・・・なにそれ?」

 

 レン「あまり深く追求しないでくれ・・・俺も自分で言って訳分かんなくなってんだから…」

 

 明日香「ふーん・・・それじゃあ後ろにる凄腕料理人と大手ゲーム会社の御曹子の2人はそんなふんわりとした理由を承知してメンバーになったの?」

 

 そう言うと明日香は俺と利久を指さして聞いてきた。いやそれはまあ・・・

 

 碧斗「別に承知してはいない。俺は勝負に負けたからメンバーになった」

 

 利久「僕はただ友達の頼みだったからっていうのと、助けてもらった恩があったからです」

 

 レン「ええ!?お前らそれでメンバーになるの受け入れたってのかよ!?」

 

 レンは項垂れているが普通そんなふんわりとした理由、受け入れろって方が無理だ。

 

 碧斗「何をいまさら」

 

 利久「というよりもそれ以外の理由がいりますか?」

 

 レン「そんな・・・」

 

 あ、レンがさらに落ち込んだ。どうやら今の出レンの戦意が喪失してしまったみたいだ。

 

 明日香「はぁ~、それじゃあ好きでやってるわけじゃないんでしょ?何でやめないの?そんなのに付き合ってたって、迷惑かけられるだけで何のメリットもないのに」

 

 メリットがない、か・・・確かにごもっともな意見だ。けどな・・・

 

 碧斗「確かにお前の言うことも一理ある。けどな、こいつと一緒にバンドやるのも悪くないって思ってる。上手く言えないけど・・・俺もレンとバンドがやりたいんだ」 

 

 利久「僕もそうです。レンと碧斗は、僕にできた初めての友達だから・・・一緒にバンドをやれることが嬉しいんです!」

 

 レン「碧斗・・・利久・・・」

 

 明日香「やりたい・・・嬉しい・・・か…」 

 

 俺と利久の答えを聞いた明日香は懐かしむようにそう小さく呟いた。この反応、やっぱり華美さんの言う通り明日香にはまだ芸事に対して心残りが・・・このまま俺達2人も説得に加われば押し切れるか?そう思ったその時、利久のやつが爆弾を放り込んできやがった…

 

 利久「明日香、僕達は明日香に何があったのかも全部華美さんから聞きました!けれども、明日香の中にまだ心残りがあるなら僕達と一緒にバンドやりましょう!また昔みたいに芸事を楽しむ明日香に戻ってほしいって華美さんも言ってました。だから!」 

 

 利久の訴えを聞いた瞬間、場が静まり返り俺とレンは頭を押さえた。このバカ・・・華美さんに名前は出すなって言われてただろうが!俺達の反応に対して、利久は自分の言ったことに気づかずに首を傾げていた。

 

 碧斗「おいバカ!その事は「ねえ、今のどういう意味?」ッ!」

 

 俺が利久に怒鳴ろうとしたら明日香がそれを遮り、俺達に今利久が言ったことの意味を聞いてきた。しかしその声は平常だったが明らかに怒気を孕んでいることが伝わってきて、俺達は一瞬ビクッとした。

 

 レン「いや今のはその「僕に何があったのか姉さんから聞いたってどういう事?それに何で姉さんの名前が出てきたの?」ヒッ!」

 

 明日香は俺達にそう聞いてきたがその怒気はさらに増し、顔にもそれが現れてまるで般若の様な形相を浮かべていて、それを見た俺達はめちゃくちゃビビった。人ってこんなに怖い顔できるものなのか…レンに至っては・・・

 

 レン「ベースやる人探してた時に華美さんから明日香のことを薦められて、その後に小役時代の時の事も聞きました!華美さんは俺の兄さんを通じて知り合いました!」

 

 恐怖のあまり全部ゲロッた。コイツもコイツで薄情だな…

 

 明日香「ッ!あの人は・・・!」

 

 レンがゲロッた事を聞いた明日香は下を向いて一言呟くと俺達を睨みつけて、そのまま背を向けた。

 

 レン「あ、待ってくれ明日香!」

 

 それをレンは肩に手を置き止めようとした。しかし・・・

 

 ―――ガシッ!―――

 

 レン「・・・へ?」

 

 ―――ブンッ!―――

 

 レン「うわぁぁぁぁ!」

 

 明日香に腕をつかまれたと思いきや、次の瞬間には見事に投げられていた。

 

 レン「いてぇー・・・」

 

 そして明日香は床に仰向けで倒れるレンを睨みつけながら突き放すように拒絶の言葉を言い放ってきた。 

 

 明日香「もう二度と僕に話しかけてこないで!」

 

 俺達はそれに対して何も言うことができず、ただ呆然とその場に立ち尽くしてしまった。そして俺達の前から去る明日香の後姿とさっき拒絶の言葉を言い放った時に一瞬見せた悲しみに満ちた表情、それを見て俺達は悟った。明日香の笑顔を取り戻すどころか、余計に気づ付けてしまったのだと…

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 香澄「その後どうなっちゃったの!?」

 

 俺は明日香との出会いを語り一息入れると、話の続きが気になって仕方のない戸山が続きを急かしてきた。ちょっと待て、俺も話し疲れたんだから少し休ませろ…

 

 碧斗「その後、俺達はまた明日香に話しかけに行った。けど・・・明日香からの反応は最初の頃よりも最悪になった。けれど何があったのか・・・急に心変わりして俺達とバンドをやることを承諾してくれた」

 

 沙綾「え?急に?何があったの?」

 

 碧斗「さあな、本人に聞いてもみたがはぐらかされて教えてくれなかった」

 

 ほんと何があったんだか・・・そう思ったその時だった・・・

 

 明日香「別に・・・大した理由はないよ」

 

 碧斗「・・・!?」

 

 香澄「あっ君!?」

 

 りみ「明日香君!?」

 

 沙綾「あ、明日香!?何時からいたの!?」

 

 話しの張本人である明日香が店の中にいた。いつの間に・・・ほんと、噂をすればなんとやらとはよく言ったものだ…

 

 明日香「ちょっと小腹がすいておやつのパンを買いに来たら、人様の過去を勝手にベラベラ喋る人が見えたからね」

 

 う・・・それは絶対俺のことを言ってるだろ…

 

 碧斗「わるかった・・・」

 

 明日香「ほんと、来人だったらシバいてたよ?まあいいけど、別に聴かれて困るようなことでもないし」

 

 なら言うなよ・・・けど明日香が来たならちょうどいい。ここから先は本人に話してもらうとしよう。

 

 碧斗「なら明日香、続きはお前の口から話してくれ。俺はもう2人分話して疲れた」

 

 明日香「・・・はぁ~、碧斗にはデリカシーってものが無いの?まあいいや、ここからは僕が話すよ」

 

 そいうと明日香は語り始めた。俺達も知らない、あの時自分に起こった自身の心境に変化となった出来事を…

 


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