バンドリ!~オプション付き5人と少女達の物語~ 作:akiresu
生まれた時から、僕の人生は決まっていた。いや、決められていたと言った方が正しいかもしれない。桃瀬家は平安時代から続く芸能の一族。最初は舞踊を披露する家系だったらしいけど、時代が進むにつれて様々な芸事を嗜むようになって、歌舞伎や能の役者、大道芸氏になった人もいたらしい。その家訓は今でも続いていて、桃瀬家には代々続く3つの決まりごとがあった。
1つ、桃瀬家の人間は将来芸事を生業とする事。
2つ、桃瀬家の当主は芸事を生業とする人を嫁、または婿とすること。
そして3つ、桃瀬家の人間でありながら芸の道を進まない者は例外なく勘当すること。
だから僕も幼いころから芸の道を進む為に、小役をすることを両親から言いつけられて、お爺ちゃんとお婆ちゃんからは桃瀬家として、そして名家の人間としての教養で、華道に書道、柔道や弓道などの様々な習い事を教わってきた。だからこそ・・・僕には自由がなかった…
物心がついた時にはもう芸の道を進むことを決めていて、僕自身もその道を進むことに何の疑いも持っていなかった。僕がいい結果を出せば周りの大人達や、学校や他の小役の友達に褒めてもらえたし、そして何より・・・両親や姉さんと一緒のことをやれるのが嬉しかった。だからこそ僕は芸能活動をすることが楽しかった。けど・・・両親はそうじゃなかった…僕がいい結果を出しても両親は僕を褒めてはくれなかった。けどもっと結果を出せば両親も僕のことを褒めてくれる。そう信じて更に芸能活動を頑張った。けど・・・現実は非常だった…僕が努力して得たのは、友達と思っていた人達の裏切りと僕の心を砕く心無い言葉だった。その中でも1番傷つけた言葉が、1つ上の先輩から言われた―――――
『ほんと気楽でいいわね。桃瀬家の人間ってだけで仕事が貰えて、周りからもチヤホヤされて!何の努力もしてない親の七光りのくせに!』
それを聞いた瞬間に悟った。そうか・・・今まで周りが僕を褒めてくれてたのも、僕が結果を出せてたのも、両親が僕を褒めてくれなかったのも・・・全部、僕が桃瀬家の人間だったからなんだ…それなら周りのあの反応も納得がいく。それもそうだ、本当に努力をして浮かばれなかった人からして見れば、親の名前だけで此処まで来れた僕は嫌われて当然だ。今まで努力してきたけど・・・それは所詮した心算でしかなかったんだ。両親も、それを分かっていたから僕のこと褒めることはしなかったんだ。周りが可愛い、奇麗だって言ってくれるこの見た目だって両親が美男美女だから得られたもの。そう思った途端、何もかもが嫌いになった。芸事も、自分自身が桃瀬家であるということも、僕自身のことも。けど、その時はまだやめようとは思わなかった。なぜかというと、さっきも言った桃瀬家の決まりごとがあったからだ。
桃瀬家の人間でありながら芸の道を進まない者は例外なく勘当すること。
小さい頃から両親に強く言い聞かされてた僕は、それが嫌で芸能活動を続けた。確かに僕は自分が桃瀬家の人間であることも、芸事をする事も嫌だった。
けど・・・それ以上に家族との縁を切られて、本当に1人になってしまうことが嫌だった。だからこそ僕はそんな自分を偽って、芸事が好きな自分を演じて日々を過ごしてきた。けれど、流石芸能一族の人間なだけあってすぐにお爺ちゃんとお婆ちゃん、そして姉さんにこのことが見破られてしまい、無気力になっていた僕は僕の身に起きた事、僕の胸の内を全てを話してしまった。僕が小役をやめたいと思っていることも・・・そして僕の話を聞いた3人はこのことを両親にも伝えた。このことを知ったらお父さんはきっと僕を勘当するだろう。けど、その考えとは裏腹にお父さんは僕が小役をやめる事を許してくれて、学生の間の残り10年間は僕の好きにしていいと言ってくれた。
そして僕は小学校を卒業するのと同時に小役をやめて、中学も僕が通っていた小中高エスカレーター式の学校から、公立の学校に通うことにした。引退に関してもお父さんやお爺ちゃんの力で大事にならないようにしてくれて、テレビなんかでも報道されず、世間に騒がれることなく穏便に引退することができた。
もう僕を縛るものは何もない、嫌な事をしなくて済む、もう傷付けられることはない、そう思っていた。けれど、そんな僕に残っていたのは、やりがいを失ったことから来る虚無感と傷付けられることへの恐怖から来る疑心感だった。中学に上ると、小役時代の影響があって僕を知っていた人達が話しかけてきた。けどその時に言われた第一声のほとんどが・・・
「君ってあの小役の桃瀬 明日香なんでしょ」
「君テレビに出てたよね」
「君って芸能人なんでしょ?」
こんな感じで誰も今の僕じゃなくて、過去の小役だった時の桃瀬 明日香としてしか見てくれなかった。だから僕が芸能界を引退している旨を教えると・・・みんな僕から興味を無くして話しかけてこなくなり、僕の疑心感がさらに強まるだけとなった。もう何も縛られるものはないと思っていた。けど・・・ここでも僕は桃瀬家という家の名に縛られ、そして僕は他人を信じる事が出来なくなってしまった。
そんな僕が逃げ込んだのは、文学作品の世界だった。本はドラマや舞台と違って登場人物を演じている人の姿を見る事もなく、声を聴くこともない。本を読んでいる時だけ僕は誰にも邪魔されることなく、僕のだけの世界に浸りこんで、本当の僕でいられた気がした。だから僕は文芸部に入り、僕1人だけの平和で自由な世界へと翼を広げていた。
けど、僕だけのその世界はある人物との出会いで終わりを告げた。僕が2年生になってからしばらくの時間が流れたある日のこと、僕は何時ものように教室で1人小説を読んでいたその時だった。急に教室内が騒めき始めて入り口から足音が聞こえてきて、それは僕の目の前で止まり、赤い髪をした人物が僕の目の前に立っていた。当然のことながら僕は突然の出来事にかなり驚かされていた。それもそのはず、僕の知り合いにこんな人はいないしましてや僕はこの学校内に友達と言えるような存在はいないんだ。それなのにいきなり僕の前に現れた彼は親しげに話し掛けてきた。
レン「なあ、えーと・・・」
けれどその人は僕に話しかけてきたはいいけど何か言い淀んでいた。どうやら僕の名前を知らないみたいだった。え?名前も知らない人にいきなり話し掛けてきたのこの人は?
明日香「明日香」
レン「え?」
明日香「僕の名前です」
とりあえずこのままだと話が進まないから僕は名前を教えておくことにした。けれども警戒心を解くことはしなかった。名前を知らないのにいきなり話し掛けてくるなんて明らかに怪しすぎる。けれどもその警戒心は次の彼の一言で変わることになった。敵意という名の憎悪へと・・・
レン「おお、明日香か。俺は赤城 レン!それじゃあ明日香、俺達と一緒にバンドやろうぜ!」
明日香「は?」
レン「丁度ベースやるヤツ探しててさ、そしたらある人からお前のことを薦められてな。だから俺達のベースをやってくれ!」
明日香「・・・はあ?」
この人は今なんて言った?自分達と一緒にバンド?僕にベースをやってほしい?フザケルナ!
明日香「悪いけど、他をあたって」
僕はレンからの勧誘を突き放すように言って断った。気分を害した僕は席を立つと1人本を読みなおすために教室を出ていった。けれども放課後、僕が文芸部の部室に行くと・・・
明日香「お疲れ様です・・・って、え?」
「あ、明日香君」
そこには部長の他に昼休みに教室に来ていた赤城 レンと教室に来た時に彼に付き添っていた青髪の男子と緑髪の男子の姿があった。確か青髪の方が海原 碧斗、緑髪の方が石美登 利久だったはず。碧斗は料理コンテストのジュニア部門で連続優勝していることで、利久は少し前まで幽霊生徒だったけどテストでの成績順位がいつも1桁なことで2人とも学年内では有名だった。
明日香「すいません部長、ちょっと体調がすぐれないので今日は帰ります」
僕は3人の存在を認識するとすぐに部室を出て帰路に着いた。3人が僕をバンドに勧誘するために部室に来ているのは明白だった。だから僕はその場をすぐに去りたかった。また勧誘の話を口にされたくなかったから…何でバンドでベースなんだ・・・よりによって僕が特に嫌っていることを・・・翌日から、3人は僕を勧誘しに来るようになって、その度に僕は突き放すような言い方で断っていた。けれども何度も何度も僕に話しかけに来る、その事が気になった僕はレンに何で僕を誘うのか聞いてみることにした。そして返ってきた答えが・・・
レン「うーん・・・なんかうまく言えないけど・・・教室でお前のこと見た時に何か感じたんだ。俺達のバンドのベースはコイツだって…」
なんていう訳が分からない曖昧なものだった。
明日香「・・・なにそれ?」
レン「あまり深く追求しないでくれ・・・俺も自分で言って訳分かんなくなってんだから…」
自分でも分かってないって・・・なら既にメンバーになっている他の2人はそれを受け入れたってこと?僕は碧斗と利久にそのことを聞いてみた。
明日香「ふーん・・・それじゃあ後ろにいる凄腕料理人と大手ゲーム会社の御曹司の2人はそんなふんわりとした理由を承知してメンバーになったの?」
碧斗「別に承知してはいない。俺は勝負に負けたからメンバーになった」
利久「僕はただ友達の頼みだったからっていうのと、助けたもらった恩があったからです」
うん、どうやら受け入れていなかったみたいだ。そりゃそうだ。言った本人すら理解できてない理由を受け入れるなんてやっぱり無理がある。
レン「ええ!?お前らそれでメンバーになるの受け入れたってのかよ!?」
碧斗「何をいまさら」
利久「というよりもそれ以外の理由がいりますか?」
レン「そんな・・・」
2人から理由を聞いたレンは落ち込み、地に膝を付けて項垂れてしまった。いやこれが当然の反応だと思うんだけど・・・
明日香「はぁ~、それじゃ好きでやってるわけじゃないんでしょ?何でやめないの?そんなのに付き合ったって、迷惑かけられるだけで何のメリットもないのに」
碧斗「確かにお前の言うことも一理ある。けどな、こいつと一緒にバンドやるのも悪くないって思ってる。上手く言えないけど・・・俺もレンとバンドがやりたいんだ」
利久「僕もそうです。レンと碧斗は、僕にできた初めての友達だから・・・一緒にバンドをやれることが嬉しいんです!」
レン「碧斗・・・利久・・・」
明日香「やりたい・・・嬉しい・・・か…」
そういえば僕も芸能活動をしていた時はそんな思いで頑張っていたっけ・・・この3人と一緒なら、もしかしたら僕ももう1度あの時みたいに楽しく過ごせるかも・・・この3人となら、一緒にバンドをやってみてもいいかも・・・この3人のことは、信じても良いかもしれない・・・そんな考えが僕の頭をよぎった。けど、それは次に放たれた一言で一瞬にして消え失せた。
利久「明日香、僕達は明日香に何があったのかも全部華美さんから聞きました!けれども、明日香の中にまだ心残りがあるなら僕達と一緒にバンドやりましょう!また昔みたいに芸事を楽しむ明日香に戻ってほしいって華美さんも言ってました。だから!」
・・・はあ?イマナンテイッタ?ドウシテ今姉サンノ名前ガデテキタンダ?
明日香「ねえ、今のどういう意味?」
レン「いや今のはその「僕に何があったのか姉さんから聞いたってどういう事?それに何で姉さんの名前が出てきたの?」ヒッ!」
僕は3人のことを問い詰めた。するとレンは顔を青ざめて全部話した。
レン「ベースやる人探してた時に華美さんから明日香のことを薦められて、その後に小役時代の時の事も聞きました!華美さんは俺の兄さんを通じて知り合いました!」
明日香「ッ!あの人は・・・!」
なんで・・・なんで余計なことをしてくるんだ!この3人が姉さんの差し金だと分かった途端、僕は3人と言葉を交わすのも嫌になりその場を去ろうとした。
レン「あ、待ってくれ明日香!」
するとレンが僕の肩に手を置き止めようとしてきた。やめろ・・・僕に、僕にさわるな!
―――ガシッ!―――
レン「へ?」
―――ブンッ!―――
レン「うわぁぁぁぁ!」
僕はレンの腕をつかむとそのまま背負い投げをして床に叩きつけた。そして仰向けで倒れているレンを思いっきり睨みつけると拒絶の言葉を放った。
明日香「もう二度と僕に話しかけてこないで!」
そのまま僕は走り去った。まただ、また裏切られた!友達になれるって・・・信じても良いって思ったのに!僕は走った。ただひたすらに走った。そして息が切れて立ち止まると、思いっきり声をあげて泣いた…
明日香「う・・・あぁぁ~~~~!」
どうして・・・なんで僕は何時も裏切られるんだ・・・その後、一頻り泣いて落ち着いた僕は家へと帰った。
明日香「ただいま帰りました…」
僕は家に上がるとそのまま自分の部屋へと向かいました。今日は姉さんは何時も道理撮影の仕事でお婆ちゃんとお爺ちゃんが帰りが遅いと言っていたから帰ってくる声はない。そう思っていたら・・・
華美「あ、明日香お帰りー」
突然横の襖が開き、今一番見たくなかった顔が目の前に現れた。
明日香「・・・」
華美「ちょっとー、無視しないでよー」
明日香「・・・なんでここにいるの?ドラマの撮影は?」
華美「いやー、出演する俳優さんが連絡ミスでダブルブッキングしちゃってて急遽中止になっちゃったんだよねー」
明日香「そう・・・」
華美「ねえ、なんだか何時にも増して冷たすぎない?私何かしちゃった?」
何かした?この人は自分が何をしたのか分かってないの?。僕のことを謀っておいて・・・今の僕はこの人の声を聴くだけで沸々と怒りが募っていく。
明日香「何かした・・・だって…僕に嫌な事をさせようとしておいて・・・」
華美「・・・!な、何のことかなー」
しらを切ろうとする姉さんを見て僕の怒りは限界点を迎え、溢れ出た怒りは言葉となって僕の口から吐き出された。
明日香「とぼけないで!あの3人から聞いたよ・・・僕にバンドをやらせるために、姉さんが3人を嗾けてきたってこと!」
華美「な!?えーと、それはそのー・・・」
明日香「なんで・・・なんで余計なことしたんだ!僕はやっと・・・本当に信じられる友達ができると思ったのに…なのにどうして!?」
華美「明日香・・・私はただあなたに・・・」
明日香「僕になに!?もう1度芸の道に進んでほしいの!?」
華美「違う・・・私は・・・」
明日香「違わないでしょ!?姉さんは・・・自分の為に僕に芸能界に戻ってほしいだけでしょ!?」
華美「・・・どういう意味よ?」
そう言った瞬間、姉さんの声色が変わり、冷たいものになった。けれども怒りで思考力を失っていた僕はその事に気づかず言葉をぶつけ続けた。
明日香「赤城 晴緋さん・・・だっけ?レンから聞いた時に思い出したよ・・・この人姉さんのバンドのリーダーで彼氏でしょ?」
華美「・・・だからどうしたのよ?」
明日香「もし僕が芸能界に戻らなかったらあと8年後に僕はこの家を勘当される。そうなれば姉さんは桃瀬家の当主として芸能界の人から誰かを婿に取らなきゃいけなくなる」
聞けばあの人は日本代表する大企業の御曹子で長男、将来は会社を継がなきゃいけない筈だ。そうなると晴緋さんは芸能界に入ることは決してなく、家の決まりごとに厳しいお父さんに姉さんと晴緋さんの仲は決して認めてもらえない。とどのつまりは・・・
明日香「姉さんはただ、晴緋さんとのお付き合いをお父さんに認めさせるために・・・僕に桃瀬家の当主になってもらう為に・・・僕に芸能界に戻ってもらいたいだけで・・・その為に自分の弟と恋人の弟までも利用したんだ!」
―――パシンッ!―――
僕が言い切った瞬間、乾いた音が響き、僕の頬に一瞬痛みがはしった。
明日香「なにするんだ!」
華美「そっちこそ何言ってんのよ!?私がそんな事の為にあなた達を利用するなんてことするわけないでしょ!?私とレン君達がどんな思いでいたか・・・あなたにそれが分かるの?分かりもしない癖にそんな知ったようなこと言わないで!」
そう吐き捨てると姉さんは襖を閉じて部屋に籠ってしまい、僕はその場に立ち尽くしてしまった。しばらくすると中から姉さんのすすり泣く声が聴こえてきて、それと同時に今になって打たれた頬がヒリヒリと痛み出した。
明日香「人をだまして裏切るような人の気持ちなんて・・・わかりたくもない…」
僕は自分の部屋に向かうと部屋着に着替え、気分直しに本棚にあるお気に入りの小説を手に取ると畳に寝っ転がり、そのまま黙読をした。けれども・・・一向に気分は晴れない。その時だった、何処からか渋みのある低い音が聴こえてきた。けどこの音の正体と発生源はすぐに分かった。その時の僕は何を思ったのか部屋を出るとその音の場所へと向けて歩を進め、そして僕は姉さんの部屋の前へと来ていた。
明日香「・・・姉さん、入るよ…」
僕は襖越しに中へと呼びかけると短く「どうぞ」と、一言だけ帰ってきてそれを聴いた僕は中へと入った。するとそこにはミニサイズのアンプに繋がった薄紅色に桜の花びらが彩られたベースを抱えた姉さんの姿があった。
華美「どうかしたの?」
明日香「えーと・・・」
どうしよう・・・ここにはただ魔が差して無意識のうちに来ただけだし、それにさっきのこともあって凄く気まずい…姉さんの問い掛けに僕は何と言おうか言い淀んでいた。
華美「・・・明日香、弾いてみる?」
しかし姉さんはケロッとしていて、僕に自分のベースを差し出してきてそんなことを聞いてきた。普段の僕なら嫌だと言って拒否していた。けどその時だけはなぜか僕は首を縦に振り、気が付いた時にはベースを受け取ってズシリとした重さを両腕で感じ、僕は姉さんに教えてもらいながらベースを弾いた。
華美「・・・ねえ明日香、あなたもベースをやってみたらどう?」
しばらく弾いていたら不意に姉さんはそんなことを聞いてきた。
明日香「姉さん・・・でも僕がベースを始めたところでバンドを組むことなんて・・・」
ギターとキーボードはシンガーの人が用いる事はあるけど、ベースはバンドのリズム隊の1つで、他の楽器と一緒に演奏して初めて意味を成す楽器だ。だけどバンドを組んだ所で人を信じる事の出来ない僕と組んでくれる人なんて・・・
華美「レン君達がいるじゃない?」
明日香「・・・・・」
確かにあの3人は組んでくれるかもしれない。でも結局のところあの3人は姉さんに言われて僕を誘いに来ただけで本当に僕を仲間にしたい訳じゃないし、それに僕はあの3人のことを拒絶した。そしてなにより・・・
明日香「無理だよ・・・だって僕がメンバーになったって・・・迷惑かけてがっかりさせるだけだから…」
華美「どういうこと・・・?」
明日香「才能もない、努力したって何も身に着けることもできない、あるのは桃瀬家の肩書だけ…そんな大した実力もない僕がメンバーにいても、またあの時みたいに周りを不快にさせて終わるだけだよ…」
仲良くなって、また突き放されて傷付けられるくらいなら・・・最初から僕の方から突き放していた方がいい…
華美「明日香・・・」
明日香「ベース貸してくれてありがとう・・・それとさっきはごめんね・・・あんな感情的になちゃって…」
僕はそう言うと部屋を出て自室に戻った。そして翌日、僕は学校に登校するとレン達と鉢合わせた。けれども僕は昨日のことがあって顔を合わせても無視を決め込み、それ以降も3人のことは避けるようになった。けれどそんな日が続いていたある日、家に帰ろうとしていたら校門前に例の3人が待ち伏せしていて僕は捕まってしまった。
レン「待ってたぞ明日香、ちょっと話がある」
明日香「そう、僕は無いからそこを退けてもらえる?」
僕は3人を避けて校門から出ようとした。しかしその時だった・・・
利久「ま、待ってください!」
―――ガシッ!―――
利久に抱き着かれて無理やり止められた。
明日香「・・・離してもらえる?」
利久「離しません!」
明日香「いいから離して」
利久「嫌です!話を聞いてもらうまでこの手は絶対に離しません!」
明日香「・・・手を離して」
利久「どうしてそんなに冷たくするんですか?もしかして僕嫌われちゃったんですか?あの事なら謝ります。だから・・・話だけでも聞いてもらえませんか?お願いします!」
そうじゃないよ・・・さっきから利久が僕に抱き着きながらそんな事を言うもんだから周りから・・・
「ねえあの人抱き着きながらあんなこと言ってるけど・・・」
「ま、まさかのそういう関係なの?確かに片方の見た目女の子だし・・・」
「き、禁断の恋ですわ~~~!」
「男の娘とイケメン男子のこじれた関係・・・ハァハァ・・・いいわ~!」
周りの女子からあらぬ誤解を受けている!違うからね!?僕はノーマルだからね!?普通に中身男だからね!?
おいそこの赤と青!変に気使って僕達を2人きりにしようとしないで!?
明日香「あー!もうわかった!聞くから!話聞くから離してー!」
そして僕は利久から手を放してもらい、今のことで周りの視線もあったから場所を変えて話を聞くことにした。
明日香「それで、今度は何の用?また姉さんに何か・・・って訳じゃなさそうだね?」
レン「ああ、まずはその・・・わるかった!お前に華美さんのこと黙ってて・・・」
明日香「別にその事はもう怒ってない」
レン「そうか・・・じゃあ改めて言わせてもらう。明日香、俺達のバンドのベースをやってくれ!」
そう言うとレンは前と同じように頭を下げてお願いしてきた。けれど・・・
明日香「わるいけど、僕の答えは変わらないよ」
レン「明日香・・・確かに華美さんのことを黙っていたのはわるかった。けど、俺は華美さんに頼まれたからお前を誘ってるわけじゃない。心の底からお前と一緒にバンドをやりたいと思っている。これだけは本当だ」
明日香「・・・わかったよ、それは信じてあげる」
レン「明日香、それじゃあ」
明日香「けど、それは僕が桃瀬家だからなんじゃないの?」
レン「え・・・」
明日香「桃瀬家の人間である僕がメンバーになればバンドの名前もそこそこ世間に知れ渡る。それに僕の姉さんは君のお兄さんのバンドのベースをやっている。その弟である僕ならベースもかなり上手いはず。それで僕とバンドをやりたいんじゃないの?」
レン「違う、そんなことはない!」
明日香「どうだか・・・口では何とでもいえる。僕はそんな口先だけの言葉なんて信じない」
違う、本当はこんなこと言いたくない筈なのに・・・なのに、僕の口からは自然と流れるように3人への拒絶の言葉が紡がれた。
レン「明日香・・・」
明日香「話は終わり?それじゃあ僕は帰るね」
僕は3人をしり目にその場を去ろうとして背を向けた。これでいいんだ、こうやって突き放せば3人は何時か諦めてくれる。そうすれば3人に迷惑がかかることも、また辛い思いをする事も無くて済む。これでいいんだ…僕は僕自身にそう言い聞かせた。けど、その時の僕は自分でその事に納得することができず胸がとても苦しかった。その時だった・・・
レン「明日香!」
僕はレンに呼び止められた。振り返るとレンは真っ直ぐに僕を見つめていた。
レン「約束する!俺は絶対に裏切らないし、絶対に友達はやめない!俺はお前とバンドがやりたいんだ!桃瀬家だとか華美さんの弟だとかそんなの関係ない!」
その言葉を聞いた瞬間、何故か解らないけど僕には感じ取れた。この言葉は嘘偽りない、レンの心からの言葉だということが。けれど僕はそれに対して何も答えることなく、無言でその場を立ち去った。そんな僕の頭の中ではさっきレンに言われた言葉が帰宅した後も離れなかった。初めてだった。あんな風に真直ぐ面と向かって友達だって言われたのは・・・
華美「明日香ー?帰ってるの?」
不意に僕を呼ぶ声が聴こえてきて、気が付くと姉さんが帰ってくる時間になっていた。
華美「あ、明日香帰ってたんなら返事してよ・・・ってどうしたの?」
明日香「姉さん・・・」
華美「はぁ~・・・その顔、もしかしてまたレン君達の事で悩んでるの?」
流石に2度目となると顔を見ただけで分かったらしい。
明日香「・・・うん…」
華美「そんなに悩むくらいなら一緒にバンドやればいいのに。本当は貴方だってやりたいんでしょ?それに、自分でも思ってるんでしょ?あんなに他人のことを信じないってたけど、あの3人の事は信じる事ができるって」
明日香「・・・姉さんの言う通りだよ。あの3人は信じられる。けど!だからこそ・・・僕はあの3人とはバンドを出来ない…だって僕は碌な努力のやり方も知らない、どんなに頑張っても実力を身につける事が出来ない僕がいたら、ただ迷惑かけて、3人をがっかりさせちゃうだけだから…」
華美「明日香・・・ねえ明日香、まだあの子に言われたことを気にしているのは分かるわ。でもね明日香、そんなのは出鱈目よ!」
明日香「え?」
華美「確かに最初の頃は親の七光りで仕事をもらえてたりもしてた。でもそれを言わせない程の実力を身に着けて、その為にあなたは一生懸命努力してた。できてた!」
明日香「そんなことないよ・・・だって、父さんと母さんは僕のことを1度も褒めてくれなかった。それが何よりの証拠だよ…」
華美「ッ!そういう事かー…」
そう言うと姉さんは額を押さえながら大きくため息をついて、呆れ顔で僕に語った。
華美「あのね明日香、確かに2人とも明日香をあまり褒めたりしなかった。と言うか褒めてるところ見たことないわね…でもそれは別に明日香は嫌いだったからだとか、努力が身についてなかったからって訳じゃないのよ」
明日香「じゃあ、どうして・・・」
華美「あー・・・それはね、桃瀬家の言い伝えが理由なの。桃瀬家にはね、時折凄く芸の才に恵まれている女の子みたいな奇麗な容姿をした男が生まれる事があるの。そういう子を桃瀬家では昔から天女の生まれ変わりって呼んでるの」
明日香「それが、どう関係してるの?」
華美「わからないの?あなたがそうだってことよ」
僕が?確かに見た目が女の子みたいだってことに自覚はあるし、何ならそれが理由で誰かさんに着せ替え人形にされてよく女の子物の服を着せられてた。けど、絶対に違う。だって僕に芸の才脳なんてないんだから。
明日香「そんなことないよ・・・僕に才能なんて「ある!」ッ!?」
華美「いい明日香、あなたには才能が有った。だからこそ2人はあなたを褒めたりしなかったのよ。あなたが自分に才能がると分かって自惚れて天狗になって、努力することを知らない人間になってほしくなかったから。あなたに立派な桃瀬家の跡取りになってほしかったから厳しく育てようとしたの」
明日香「そうだったんだ・・・だから2人は僕のことを・・・けど、やっぱり僕に才能なんてないよ…」
華美「はぁ・・・ねえ明日香、才能ってそんなに大事?言っとくけど物事をやるのに才能なんて必要ないの!それよりももっと大事な物があるの!」
明日香「才能よりも・・・大事なもの?」
華美「それはね・・・やりたいと思う本人の気持ちよ!この気持ちがなくちゃどんなことに挑戦しても、どんなに才能が有ったとしても上手くいかない。中途半端に終わってやり切ることなんてできない。やりたい、大好きって気持ちが大事なの!」
姉さんの言葉を聞いて僕は思い出した。あの3人も最初からそう言ってたじゃないか。レンはプロを目指してるからバンドをやろうとしてたわけじゃなく、やりたいからやろうとしている。その気持ちは・・・小役をやっていた時の僕も同じだった!
明日香「姉さん・・・」
華美「それにね明日香、何かをやるうえで1番いけないことは中途半端で終わる事じゃない。何かをやりたくても勇気が無くて1歩踏み出せなかったり、才能がないから自分には無理だって諦めたりしてチャンスを無駄にすることなの。ねえ明日香、あなたはどうしたいの?」
僕がどうしたいかだって?そんなの・・・もう答えは決まってる!
明日香「やりたい・・・レン達と一緒にバンドがやりたい!レンたちのバンドのベースは僕がやりたい!」
華美「明日香…」
僕が自分の気持ちを声に出して言うと、それを聴いた姉さんは笑って頷いてくれた。
華美「よし!なら明日香、明日の休みにこの場所に行きなさい。レン君達はそこであなたのことを待ってる」
そう言うと姉さんは僕に行先の住所が書かれた紙を差し出してきた。その場所の名は・・・
明日香「ライブハウスSPACE…」
そうか、バンドをやるってことはいつかは僕ステージに立ってライブすることになるのか…
明日香「でも姉さん、僕にベースが上手くできるのかな?」
僕は未だに胸の中に残っている不安を漏らした。けれど姉さんは・・・
華美「大丈夫、明日その場所に行けばその不安は万事解決するわ。それに私もいろいろと教えてあげるから。だって私はあなたの・・・お姉ちゃんなんだから」
僕の背中を押して不安を消し去ってくれた。そして翌日、僕は姉さんに言われた場所に向かおうとしていた。
明日香「それじゃあ行ってきます」
そして僕が玄関を出ようとしていたその時だった。
華美「ちょっと待って明日香」
急に姉さんに呼び止められた。しかも手に長方形の大きな箱を抱えていた。え?何その箱?
華美「開けてみて」
明日香「うん・・・」
言われるがまま僕はその箱を開いた。その中には楽器のケースが入っていて、そのファスナーをさらに開けると中にあったのは白と桃色のベースだった。
華美「お父様の伝であなたのイメージに合わせてオーダーメイドしてもらってたの。気に入った?」
明日香「オーダーメイドって・・・高かったんじゃ!?」
華美「大丈夫よ結構稼いでるから。それに、バンドやるなら必要でしょ?今日はそれを持って行って。私からのお祝いよ」
明日香「ッ!うん!行ってきます!」
僕はそれを背負うと3人の待つライブハウスSPACEへと駆けだした。そして僕は目的地に到着すると扉を開けて中に入った。すると中には若干不機嫌そうな表情をしながらカウンター席に座る高齢の女性と、それに頭を下げるレンの姿がった。
レン「お願いします!俺達に指導をしてください!」
オーナー「だから何度も言ってるだろう。ベースをやるヤツを連れてきなって。それともまだ見つからないのかい?」
レン「いいえ!そんなことはありません!俺達のバンドのベースをやるヤツはもう決まってます!そいつ以外ベースはあり得ません!」
オーナー「だったらそいつを此処に連れてきな。そしたらすぐにでも指導してやる」
明日香「じゃあ、今すぐ始めてもらってもいいですか?」
レン「え!?あ、明日香!?」
碧斗「いつの間に・・・」
利久「どうしてここに!?」
僕が話しかけるとレンと利久は凄く驚いていた。それよりも僕がここにいる理由?そんなの・・・
明日香「そんなの決まってるでしょ?僕はこのバンドのベースだからだよ」
そう言うと僕は背負っていた楽器ケースを見せた。
レン「明日香・・・それじゃあ!」
明日香「うん・・・僕もやってみたくなっちゃった。芸事は嫌いだった。けど、もう1度楽しかった時のあの気持ちを、あの感覚を感じたい!あんな事を3人に言っちゃったのに都合がいいことを言っているのも分かってる。けど、もし僕を許してくれるなら・・・僕を、このバンドのベースにください!お願いします!」
僕は頭を下げてお願いした。けれども3人からの返事は返ってこない。僕は恐る恐る顔を上げた。すると3人は困惑した顔をしていた。
レン「明日香なに言ってるんだ?」
利久「さっき自分で言ってたじゃないですか?僕はこのバンドのベースだって」
碧斗「自分がこのバンドのベースだって言った後でベースをやらせてくれって・・・明らかに言ってることが矛盾しているぞ?それにさっきレンも言ってただろ、このバンドのベースはお前以外あり得ないって」
明日香「そっか・・・そうだよね。ごめんね、いきなり変なこと言っちゃって。さてと・・・」
僕はカウンター席に座っている高齢の女性の方に視線を向けた。
明日香「都築 詩船さんですよね?僕は桃瀬 明日香と言います」
オーナー「桃瀬・・・ああ、華美の弟かい。そうかい、あんたがこいつらのベースを・・・わかった、けどその前に1つ確認させてもらうよ。あんた達、バンドをやる以上半端な気持ちでやるのは許さない。最後までやり切る、その覚悟はあるかい?」
オーナーの問い掛けに僕達4人は顔を見合わせると互いに頷き合い再びオーナーに視線を戻し、その答えを口にした。
レ碧利明「「「「はい!最後までやり切ります!」」」」
俺達の返答を聞いたオーナーは薄く笑みを浮かべ、僕達をステージへと通した。
オーナー「言っておくけど、指導は手加減しない。ビシバシしごいてやる。弱音を吐くんじゃないよ!」
「「「「はい!よろしくお願いします!師匠!」」」」
この日、僕はバンドのベースになって、僕達4人はオーナーの弟子になった。ちなみに僕はこの後とあることがきっかけでバンドのボーカルも務めることになるんだけど・・・その話はまた別の機会に。
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明日香「これが僕がベースをやることになったときの出来事だよ」
碧斗「そうか・・・あの時華美さんはそうやって明日香を説得してたのか…」
明日香「うん、あの頃の僕は人を信じるのが怖かった。けどレンがきっかけをくれて、姉さんが背中を押してくれたから今の僕がある。2人には感謝してもしきれないよ」
香澄「すっごく優しいお姉さんだったね!あれ?そういえばあっ君のお姉さんって女優なんだよね?最近のテレビでそんな人見たことないけど今どうしてるの?」
沙綾「留学してるっては聞いてたけど・・・どこに行ったの?」
明日香「あー・・・イギリスの演劇学校だよ…」
香澄「へー、イギリスかー・・・うん?」
沙綾「え?イギリス?そういえば・・・」
りみ「晴緋さんもイギリスだったよね?」
そう・・・バンドが解散した後急に言い出したからあの時はほんと驚いたよ。しかも理由が・・・
明日香「うん・・・晴緋さんが留学するってなった時、自分も一緒に付いて行くって言いだして・・・まさかの恋人を追いかける為だけに留学したんだ…」
ほんと、ぶっ飛んだ人だったよ…けど、きっとそれほどまで姉さんは晴緋さんに一途だったんだ。
明日香「ほんと、あれだけ誰かのことを一途に思えるのは凄いと思うよ。うちには筋金入りの鈍感と特別天然記念物と堅物とアホしかいないからね…」
碧斗「おい、誰が堅物だ誰が」
沙綾「まあまあ碧斗が堅物だってことは置いといて」
碧斗「おい」
沙綾「それで?最後の1人のアホはどうやってメンバーになったの?」
ああ、そういえばまだ碧斗は話してなかったんだっけ。けど・・・
碧斗「その話は今日はもう遅い。その話は明日花園も交えて学校で話す。それに・・・アイツの過去に関することを聞くなら本人の口から話した方がいい」
確かに、来人の過去はそう簡単に他人に話していいものじゃないしね…こうしてこの日は解散となり、僕達の始まりの話の続きは翌日に持ち越しとなった。