バンドリ!~オプション付き5人と少女達の物語~ 作:akiresu
ヒーロー、それは多くの人を助け、悪を倒す正義の味方。俺はヒーローになりたかった。たとえどんな逆境に晒されようとも、その度に立ち上がり立ち向かっていくその姿がかっこよくて・・・そんな存在になりたかった。ヒーローと聞くと物語や伝説に登場する英雄しかり、ウルトラマンや戦隊にライダーの様な特撮もの、アニメや漫画の主人公等個々それぞれに理想のヒーロー像を思い浮かべるだろう。けど、俺にとっての1番のヒーローはもっと身近にいた、掛け替えのない5人の存在だった…
1人は普段から表情をあまり見せず、口数も少なく暗い雰囲気を醸し出しているが、一度スティックを握れば様変わりして、嵐の様に激しく雷の様に力強い音を出しステージ上でピカリと輝く雷神と謳われたドラマー、稲神 時雨。
1人は極地の様に冷えきり、冷静沈着な性格をしているが、キーボードを弾けばまるで極寒の夜空を彩るオーロラの様に美しくステージで煌めくピアニスト、京極 光莉。
1人は何事にも捕らわれずに在るがままに自分の好きなように生き、常に派手さを求めてステージ上でも虹色の7弦ギターを巧みに扱い派手な演奏を心掛けたギタリスト、名護 虹太。
1人はぶっ飛んだ発想と性格をしており、それに劣らぬ儚げな美しさを持ち合わせたまるで夜空に上がる打ち上げ花火のようにステージに華を添えるベーシスト、桃瀬 華美。
そして最後の1人は、その胸の内には常に熱い思いに燃え、明るく、温かく、優しい笑顔と歌で人の心を照らす太陽で、そしてそれと同時に常に俺にとっての憧れの№1ヒーローだったギタリスト、赤城 晴緋。
そしてこの5人によって結成されたバンドを見る人はこう呼んだ。ステージという名の空で輝き、観る者を照らす5つの光、「Skyine」と・・・そんな5人の姿に焦がれを抱く人も多くいた。かく言う俺もそんな人の内の1人だった。けど、その憧れの存在は今はもういない。他でもない俺のせいで…
レン「・・・・・」
夕暮れ時、普段なら5人で歩くはずの道を今日は1人で進んでいた。昨日の出来事がしこりの様に頭から離れず、こんなモヤモヤした状態で一緒にいたらあいつ等に対しても変に当たり散らしてしまいそうになって怖かった。だから1人になり、そのモヤモヤを少しでも晴らす為にある場所へと向かっていた。
レン「やっと着いた・・・あれ?」
俺が来た場所、それは町の中にあるなんてことない高台だった。楽器を背負いながらそこを登るのは一苦労だ。けど此処を登れば俺が住んでいる町が一望でき、この場所から見える景色はとても奇麗で心が洗われ、それに滅多に人が来ないため1人で心を落ち着けるには打って付けの場所だった。だから俺はこの場所に来たのだが・・・目的の場所につくとそこには先客がいた。珍しい、この場所のことを知っている人はあまりいないのに…
レン「こんにちは・・・って、え?…」
香澄「あ!レン君!」
レン「香澄!?何でここに!?」
先客の正体は何と香澄だった。なんで香澄がここを知っているんだ!?
香澄「私レン君ともう一度話したくて・・・それで碧斗君達に聞いたら此処にいるはずだって・・・」
アイツ等か・・・余計な事喋りやがって…けどまあこのお陰でするべき事が出来るかな…
レン「そうか・・・なあ香澄、その・・・昨日和すまなかった。昨日お前に八つ当たりみたいなことして…」
香澄「ううん、いいよ気にしてないから」
レン「そうか・・・ならよかった…」
香澄「それよりもここの景色、すっごく綺麗だね!私こんな場所があったなんて知らなかった」
レン「まあな、ここは隠れた名所で知ってる人は少ないからな。俺が今までに見た中で2番目に好きな風景だ…」
香澄「2番目?それじゃあ1番は?」
レン「・・・・・小さい頃に家族4人でキャンプに行ったことがあってな、その時に兄さんと一緒に流星群を見たんだ。それが俺が今まで見た中で1番好きな風景…」
香澄「え・・・」
あの時の事はよく覚えてる。なにせ多忙な父さんと母さんと4人で一緒に出掛けた事なんて数えるくらいしかなかったのだから。だからこそ、あの時に出会った2人の姉妹のことも・・・
レン「その時、そこで出会った同い年の女の子と仲良くなって一緒に天体観測をしたんだ」
あの時姉の方が星に告げた願いと以前聴いた香澄の口癖の言葉、そしてこの話をした時の香澄の驚いたような反応。他にも色々と材料はあったが俺の疑問は確信に変わった。
レン「香澄と明日香ちゃんなんだろ?あの時、一緒に星を見た女の子・・・」
香澄「レン君・・・覚えてくれてたんだ…」
レン「ああ、改めて言うのも変だけど・・・久しぶり香澄、また会えて嬉しい」
香澄「レン君・・・レンく~ん!」
レン「ぐふっ!ちょ、いきなり抱き着くな!」
俺は不意に感極まった香澄にいきなり抱き着かれた。いつも抱き着いているポピパの面子ならつゆ知らず、男の俺に行き成り抱き着くな!やばい!柔らかい物が俺に当たってるし!あ、こいつ意外とあるな・・・て、何考えてんだ俺は!?なんかいい匂いもしてくるしまずい!
レン「ちょ、香澄落ち着け!1回離れろ!」
香澄「あ、ごめん嬉しくてつい…」
レン「はぁ・・・あんまり男に抱きつくな…」
俺じゃなかったら変に勘違いしてただろうが…けどまあ、それくらい嬉しかったんだろう。数年の時を経て奇跡の再会をしたんだから。
香澄「だって嬉しかったんだもん。レン君が約束を守ってくれたから」
約束か・・・確かにしたけど、あの時俺達はまた会う事を星にも願った。きっと・・・
レン「それはきっと、星が叶えてくれたからかもしれないな。だってあの時したもう1つの願いを、お前は叶えたから」
香澄「もう1つの願い?」
レン「ああ、あの時星に願っただろ?キラキラしドキドキしたい。それをお前は叶えた」
香澄はランダムスターと出会って、バンドに出会い、そして有咲にりみちゃん、おたえに沙綾の5人でバンドを組みライブをしてキラキラ輝き、沢山のドキドキを感じていた。
香澄「ッ!それならレン君だってそうだよ」
レン「え?」
香澄「あの時レン君も一緒にお願いしてた。誰かを助けれるヒーローになるって。レン君もそのお願い叶えれてるよ」
俺が願いを?いや、そんな筈は無い。だって俺はそんなヒーローになる事なんて出来ていない。寧ろ今の俺は人の夢を奪い、傷付けるようなヒーローとは程遠い存在になってしまっている…
レン「いや、俺は叶えれてなんかいない。俺は兄さんと、兄さんのバンドの夢を奪った…それに俺は香澄が師匠に厳しいこと言われて、それで無理してることだって気付いてたのに香澄の声が出なくなるまで何もしなかった!昨日だって、香澄が俺の背中を押そうとしてくれてたのに・・・なのに俺はそれに八つ当たりして、2度もお前を傷付けた!そんな俺はヒーローなんかじゃ無い!」
香澄「そんなことない!だって碧斗君達が言ってたもん!」
レン「え・・・」
碧斗達が・・・?アイツら香澄に他に何話したんだ?まさか・・・!
香澄「全部教えてくれたよ!レン君がバンドを始めようとした時のこと、レン君が碧斗君、リッ君、あっ君、ライ君をバンドのメンバーにした時のこと・・・レン君は気付いてないかもしれないけど、皆レン君に助けられてるんだよ!」
レン「俺が・・・アイツらを?」
香澄「うん、それに碧斗君達だけじゃないよ。前にグリグリがライブに間に合わなくなりそうになった時だってレン君達が出てくれたからあの後もグリグリはSPACEでのライブに出られた!私だって声が出なくなった時レン君が相談に乗ってくれたから答えを見つける事が出来てまた歌えるようになったんだよ!レン君は自分のこと酷い事した人だって言っているけど・・・でもレン君はそれ以上に沢山の人を助けてる!だからレン君は最高にかっこいいヒーローだよ!」
レン「・・・!」
最高にかっこいいヒーロー・・・そんなこと面と向かって初めていわれた。けど、今の俺にとってはその言葉が救いだった…今まで俺は誰かに夢と希望を与えられるヒーローになりたいと願い、それを目標として今まで生きてきた。悲しんでいる人、困っている人がいたら必ず手を差し伸べ、そんな人達の心を救いたいと思ってバンドを始めて最高の仲間とも出会う事が出来た。けれども俺にはその中でただ1つだけ不安なことがあった・・・それはこんな俺が本当に人を救う事が出来ていたのか?俺がやっていた事は唯の余計なお世話だったんじゃないのか?けれどその不安はたった今払拭された。香澄の言葉のおかげで俺はちゃんと人を助けられていた事が確信できた。
レン「そっか・・・香澄、ありがとう。お前のおかげで少し気が楽になった」
香澄「そっか・・・それならよかっ「けど!」え?」
レン「けど・・・やっぱり俺は、自分の事がまだ許せない…俺が悪いわけじゃないってのは分かってる。でも、こうでも思ってないと兄さんがバンドも、ギターもやめなきゃならなかった事を受け入れられないんだ!それに俺はあの時した兄さんとの約束を果たすことだって出来ないんだ!」
誰が悪いわけでもないのは頭の中では分かり切っている。けど人というものはそれがサガなのか、悪い出来事に対しては責任を負う対象を見つけ出そうとし、そしてその時の俺がその対象としたのは他でもない俺自身だった…
レン「それで俺は決めたんだ、俺や兄さん達にとって1番思い入れのあるSPACEでのライブはもうしない、近づくこともしない、それが俺が受けるべき罰なんだって・・・」
まあ、やむを得ない事情があったとは言えど結局のところそれすら破ってしまったけどな…
レン「次のSPACEのラストライブだって俺は出たいさ。だからこそ、出るわけには行かないんだ!兄さん達はでられなくなったのに、俺だけ楽しくライブに出るなんてことしたくないんだ!」
そうだ、このまま俺はライブに出られなかったことを後悔し続けるしかないんだ。自分自身にそう言い聞かせる俺の目からは涙が流れ落ちてきた。ダメだ、本当は泣くことだって許されないのに・・・なのに涙があふれて止まらない。その時だった・・・
「何生意気なこと言ってんだい!」
突然その場所に第3の声が響いた。けどその声はとても聞き馴染みのある声で、普段の厳しさがよく伝わるものだった。俺と香澄は声のした方に目をやるとカツカツと杖を付く音と共に階段を上がってくる人物が姿を現した。けどその人物の登場に俺は驚きを隠せなかった。なんで・・・如何して貴方が此処に居るんですか…
香澄「オーナー!?」
レン「師匠!?」
師匠は階段を登りきると真っ直ぐ俺の目の前へと来て胸倉に掴み掛かり、そしてそのまま俺へと怒りの声を浴びせてきた。
オーナー「レン、その顔はなんだい!その目はなんだい!その涙はなんだい!SPACEのラストライブに出るわけにはいかない?ふざけんじゃないよ!そんなセリフ、オーディションに受かってから言いな!今のお前みたいに自分の勝手で悩んで、それから逃げているようなやつはオーディションを受ける資格すらないよ!」
レン「そ、それは・・・」
返す言葉が無かった。そうだ、俺はただ単に叶える覚悟も度胸も無くて、逃げていただけだったんだ。兄さんから託された夢と、その重荷から・・・
オーナー「まったくお前は何時までくよくよしてんじゃないよ!Skyineはもうない!いない奴らの背中ばっか見てたってどうにもならない!今のお前には何が残ってるんだい!」
レン「・・・・・」
俺に残っているもの・・・そう聞かれ思い浮かんだのは他でもない、俺と一緒にステージに立つあの4人の姿だった。けど俺の脳内に浮かんだ光景はそれだけにと止まらず、他にも多数の少女の顔が思い浮かんだ。友希那さん達Roselia、蘭達Afterglow、彩さん達Pastel*Palettes、こころ達ハロー、ハッピーワールド、ゆりさん達Glitter*Green、そして、香澄達Poppin'Party。同じバンドを通して仲良くなった複数のガールズバンドの姿が・・・それと同時に俺の背中にズシリと重い感覚が走り、俺を現実世界へと引き戻した。その重さはいつも感じていたなれたものだったが、今この瞬間はそれがいつもより重く感じられた。そうだ、答えは単純明快だった…
レン「俺には、仲間がいる…ギターがある…夢がある…俺には・・・まだバンドがある!」
俺がそう口にすると師匠は俺から手を離した。そして師匠はその答えを待っていたと言うかのように口元にニヤリと笑みを浮かべていた。
オーナー「そうかい・・・だったらこんな所で黄昏てんじゃないよ!お前には、やるべき事があるんだろう?」
そうだ、師匠の言う通り俺にはやんなきゃならない事がある!
レン「はい!俺は・・・いや、俺達は絶対SPACEのラストライブに出ます!」
オーナー「だったらまずはオーディションに合格しな。半端な演奏をする奴は、うちのライブには出させないよ」
レン「わかってます。だから、今度のオーディション絶対にに行くからまってて下さいよ?俺達と・・・」
そこまで言うと俺は近くにいた香澄の手を掴み引き寄せた。
レン「香澄達のこと」
香澄「レン君・・・あ、そうだ!レン君、碧斗君達からレン君に伝えてってお願いされてた事があるの。『初めて5人で一緒に演奏したあの場所で待ってる』って」
レン「ッ!そうか・・・ありがとな香澄。ならまずはアイツらの所に行かなきゃな!」
丁度俺も弾きたくてうずうずしてたところだ。オーディションの前にひと暴れしに行くか!
レン「師匠、ありがとうございます。お陰で色々と吹っ切れました!」
オーナー「フッ・・・別に、アタシはただお前の事が見てられなかったから説教しに来ただけだ。アタシの弟子を名乗るならこの程度のことでヘコタレてんじゃないよ!」
う・・・相変わらず厳しい…こういう時くらい素直に礼を受け取って欲しい…まあそれが師匠らしいっちゃらしいけど。取り敢えずこれ以上アイツ等待たせるわけにもいかないしさっさといくか。俺は2人に背を向けて階段へ歩を進た。すると・・・
オーナー「レン」
師匠に呼び止められた。まだ何かあるのか?
オーナー「最後までやり切るんだよ」
レン「・・・はい、勿論です!」
俺は師匠から最高のエールを受けて、4人の待つ路上ライブの場所へと向かった。
レンが去った後、残されたオーナーと香澄は暫くその場に立ち尽くし沈黙の間が続いていた。しかしそれもオーナーの一声によりすぐに破られた。
オーナー「それじゃあ、アタシは帰るよ。アンタも早く帰りな」
そう言い残してその場を去ろうとした。しかしそれを香澄が呼び止めた。
香澄「あの、オーナー!ありがとうございます。レン君の事説得してくれて」
オーナー「別に大した事は何もしてないよ。ただアタシはアイツの師匠としての務めと晴緋との約束を果たしただけだ」
香澄「え?レン君のお兄さんの?」
オーナー「ああ、アイツが
そういうオーナーの脳裏には晴緋との最後の会話が思い浮かんでいた。
―――オーナー『本当にいいのかい、レンのやつを1人残して?アイツがどれだけお前の事慕っているのか、分からない訳じゃないだろう』
晴緋『ええ、それは勿論。けど、きっとレンなら大丈夫ですよ。それに、もうアイツに俺とSkyineは必要ないから…』
オーナー『なんでそう言い切れはるんだい』
晴緋『今のアイツが見るべきなのは俺の背中じゃない。前に広がっているのはアイツのバンドの演奏を待つ観客、そしてアイツの隣と後ろには頼れる最高の仲間がいる。アイツは俺の後を追いかけてきた時とは違う、もう別の道を進んでいるんです。もし挫けるような事があっても、その時は彼等が支えてくれますよ』
オーナー『・・・そうかい』
晴緋『でも、やっぱり少し心配なんです。もしかしたら今のアイツは俺という目標をなくして周りが見えなくなっているかもしれない。そうなったら仲間から差し伸ばされた手にも気付けないんじゃないかって…もしそうなった時はオーナー、師匠としてレンの事を助けてあげてください。お願いします』
―――オーナー「アイツ等はバンドとしてはまだまだ半人前いや、1/3人前だ。けど、仲間を思い合ったり互いに支え合ったりする誰かを思う心は1人前だよ。2年間その成長を見れただけでアタシはアイツ等の師匠としての務めも・・・やり切った…」
香澄「オーナー・・・」
オーナー「言っとくけどこの事はアイツ等には他言無用だよ!」
香澄「は、はい!」
オーナーは香澄にそれだけ言い残してその場を後にした。その場に1人残された香澄は思い出したように「あっ」と声を上げると直ぐにある場所へ向かって駆け出した。
明日香「ありがとうございました~!それじゃ次の曲・・・と言いたいところだけど少し疲れちゃったので小休憩を挟みます」
駅前広場に来ていた僕達4人は来人が仲間になった時みたいに路上ライブをしていた。けどあの時と違うのは今回僕達が待っているのは来人じゃなくて僕達のリーダ-だってことだった。
碧斗「おい明日香、2時間以上ぶっ通しで歌ってベース弾くなんて流石に無理しすぎじゃないのか?」
明日香「別にこれくらいどうってことないよ。碧斗の方こそずっと激しくドラム叩いてたけど腕は大丈夫なの?」
碧斗「別に平気だ」
碧斗はそう言いながら余裕そうな表情を見せるけど、利久がこっそりと腕を指で突いた瞬間・・・
ーーーツンッーーー
碧斗「いっ痛〜・・・」
表情を歪ませて滅茶苦茶痛がった。さっきの余裕な表情は何処へやら…
利久「やっぱり無理してるじゃないですか」
碧斗「うっ、そういうお前はどうなんだ?手見せてみろ」
利久「え・・・いや、えーと黙秘します」
碧斗「それは何か喋る時だ。いいから見せろ!」
今度は碧斗が反撃とばかりに利久の手を掴んで掌を見ると、案の定利久の指には幾つもの豆ができて潰れていた。
碧斗「やっぱりな」
利久「そ、それなら来人だってそうですよ!」
来人「ちょっ!今度は俺に振るのかよ!?」
いきなり振られて焦る来人。実は来人、演奏の途中でピックが割れてしまい、替えのピックも切らしていたからそこからずっと指弾きでギターを弾いていた。その手の指には案の定、皮が捲れたりと小さな傷がいくつもできていた。
明日香「まったく・・・ほら3人とも、手出して」
僕は鞄から絆創膏と湿布を取り出すと碧斗の腕に湿布、利久と来人の指に絆創膏を貼った。
碧斗「いっ・・・もう少し優しく貼ってくれ…」
明日香「文句言わない、これくらい男なら黙って耐える」
利久「痛た・・・ありがとうございます…」
来人「・・・・・」
明日香「なに来人?さっきからジッと僕のこと見つめたりして・・・」
来人の指に絆創膏を貼っているとなぜか来人が僕の事を見つめてきた。なに?ぶっちゃけなんかちょっと気持ち悪い…
来人「いや、こうやって明日香が手当てしてるとこ見てるとなんか女の子にしか見えないなーって・・・けど男にされてるって分かってるからちょっと虚しくなる…」
複雑そうな表情をしながら溜息を吐く来人。僕はそんな来人の右手を両手で優しく包み込み、とびっきりの笑顔を浮かべた。そして・・・
来人「え、なに?気持ち悪いんだけど」
明日香「・・・・・バルス!」
―――メキメキメキ!―――
来人「ぎゃぁぁぁぁぁ~!手が!手がぁぁぁ!」
握っていた来人の手を思いっきり握りつぶしてやった。
来人「なんだよ今の呪文!?滅びよってことか!?この手は男に握りつぶされる為じゃなくて女の子の柔らかい手を包み込む為にあるんだ!」
碧斗「いや、他にも色々とあるだろ…」
利久「そうですよ。手を包み込む以外にも頭を撫でてあげたり、抱きしめてあげたり、女の子に手を使ってしてあげられる事は沢山ありますよ」
碧斗「いや、そういう事じゃねえよ」
若干論点がズレてる利久の発言は兎も角。これ以上続けるとなると4人とも負担がかなり大きい。けど、ここで止めるわけにはいかない。レンが来るまで、このライブを続けなくちゃ…
明日香「よし、休憩終わり!早いとこ演奏を再開させないと観客が待ちくたびれちゃう」
僕の掛け声をあげると、3人も再び楽器を構え直して演奏の準備を整えた。
明日香「あ〜あ〜・・・あ〜・・・」
喉の調子を確認する為に軽く声出しをしたけど・・・若干声が引っかかるような感覚があった。どうやら利久も気づいたみたいだ。
利久「明日香「大丈夫」でもそのまま歌い続けたら最悪・・・」
明日香「心配しないで、そんなヘマはしないよ・・・お待たせしました!演奏を再開させたいと思います!次はこの曲、聞いてください。『REASON』!」
僕は深く息を吸うと、それをそっと吐き出すように歌い出した。
明日香「いるよ傍に一番近く 今はただそれだけでいいから いつかそっと言いかけた 夢の続きを 聞かせてよ〜 』
けどAメロに入った直後、喉にちくりと痛みが走った。突然の事に咄嗟の判断が出来なかった。まずい、このままだと咳き込んでしまう!なんとか必死に耐えてAメロは歌い切っけど、サビの入りがしっかりと歌うことが出来ずに演奏が崩れる!ああ・・・もう限界だ…
明日香「ゲホッ!ゲホッ!」
僕が咳を出したその時・・・演奏は乱れることなく続き、さらに不思議なことに歌も続いていた。僕以外の誰かが曲の続きを歌っていた。来人?いや違う、利久でも碧斗でもない。いったい誰が?いや、そんな答えはもうその歌声を聞いた瞬間からわかっていた。だってこの歌声は僕達4人が嫌というほど聴いた、大好きな歌声だっんだから。
レン「向かい風と知っていながら〜 それでも進む理由がある〜 だから友よ 老いてく為だけに生きるのは〜まだ早いだろう 」
僕達が待ち続けたヒーローが僕の隣に立って、歌を紡いでいた。まったく、来るのが遅いよ・・・レンの姿を見た僕はすぐに喉を整えると一緒にその続きを歌った。
「「身につけたもの〜 抱え込んだもの〜 手放した時〜 始まる何か〜 上手く生きてく〜 レシピを破り捨てて感じる〜 reason そう僕らのやり方で〜」」
そして全部歌い切ると安堵の息を漏らし、僕はレンの方を向くと丁度目が合った。
レン「明日香、待たせたな!」
そう言いながら飛びっきりの笑顔を浮かべた。そして・・・
明日香「レン・・・」
ーーーグイッ!ーーー
レン「いたたたたたた!」
その顔にムカついた僕は両頬を思いっきり引っ張ってやった。
明日香「なにが『待たせたな!』だよ!」
レン「いや、でもほら!ヒーローは遅れてやってくるもんだろ?」
明日香「うるさい!レンの場合その台詞は遅刻した時の言い訳でしょ!?だいたいなにあのタイミングで僕をフォローする様に颯爽と現れてボーカルに加わってるのさ!格好よ過ぎるんだよー!」
レン「いや理不尽!?」
碧斗「明日香、その辺にしておいてやれ。一応人前だしな」
そうだった…取り敢えず色々と当たり散らしてやったけど、碧斗にも止められたし今回はこれくらいしておいてあげる。本当は全然当たり足りないけど…
明日香「そうだね、まだライブは終わってない・・・レン、主役が来たからには最後しっかりと締めてよ?」
来人「ギターも交代だ。俺もそろそろ指がやべえ」
レン「ああ、分かってる」
そう言って頷くとレンはケースからギターを、来人はエレキバイオリンを取り出してチューニングをやり、シールドで小型アンプと繋いだ。
レン「なあ明日香、まだ少し歌えるか?」
レンは僕に心配そうに聞いてきた。確かにさっきの事もあったし、これ以上僕の喉に負担を掛けさせるのは良くない。けどーーー
明日香「大丈夫だよ。だってレンが一緒だから!」
レン「っ!よし!お待たせしました!次で今日のライブ最後の曲になります!と、その前によければ俺の身の上話を聞いてください。俺には憧れの人がいました。勉強ができて、沢山の人に好かれて、ギターも凄く上手くて、それでいつもキラキラ輝いてた、そんな人でした。けどその人は今は声の届かないほど遠い所に行ってしまい、離れ離れになって時々寂しいと思う事もあります。でも、ギターを弾いていると何故かその人がすぐ近くに一緒にいるような気持ちになれるんです。だからその人に俺の・・・いや、俺達の思いが届くようにこの曲を歌います。聴いてください!『TWO AS ONE』!」
レンが曲名を告げると、何時ものようにそれを合図にイントロの音と共に碧斗、利久、来人のコーラスが流れた。
碧・利・来「「「oh oh oh〜 oh oh oh〜 oh oh oh〜oh〜」」」
レン「眩しい太陽も 穏やかな月の夜も こんなに綺麗に見え〜る〜の〜は」
明日香「僕の中の君と 君の中の僕が どの瞬間も一緒にいるから」
レン「触れる Your touch 聞こえ〜る Voice 側にいる誰よりも近くで」
明日香「繋がってるような 特別な感覚 届く気持ち」
レン「たとえ今は〜離れてても〜 空と海の〜続く限りWe're TWO AS ONE 」
明日香「君を支える〜存在でいた〜い Just like you are mine 僕らだけのサイン」
そして僕とレンは、今は遠くにいる兄姉に僕達の思いが届くように。たとえ離れていても心はいつも側にある。そんな願いと思いを込めて僕達2人はこの曲を歌った。
レン「Can't break us apart 何より強〜い Feeling TWO AS ONE 僕らだけのサイン」
ーーーパチパチパチパチーーー
レン「ありがとうございました〜!」
周りから拍手と歓声が鳴り響き、無事にライブを終ることが出来た。そして俺達の演奏を聴き終えた観客の人達は満足そうな顔で散り散りに去っていく中、そこから1人見知った人が駆け寄ってきた。
香澄「レン君!」
レン「香澄!?お前帰ったんじゃなかったのか!?」
香澄「だってレン君達がライブするの見たかったんだもん。だからみんなで見に来たんだよ」
レン「みんなって・・・まさか!」
香澄の後ろに視線を向けると案の定他のポピパのメンバー4人の姿もあった。
有咲「よ、よお・・・」
りみ「えへへ、来ちゃった」
たえ「やっほー」
沙綾「その様子だと、ちゃんと香澄と仲直りしたんだね?」
レン「お前ら・・・どうして此処に…」
碧斗「俺達が誘った」
利久「観客は1人でも多い方がいいですからね」
来人「可愛い女の子が見に来てくれればより一層気合が入るしな?」
やっぱりお前らか・・・まあ俺らも前にクライブ誘ってもらったから誘うのは当然か…
レン「そうか・・・それでどうだった?俺達のライブは?」
香澄「うん、すっごく良かった!特にレン君の表情、文化祭のライブの時よりキラキラしてた!」
レン「え、そうか?俺そんな顔してたかな・・・」
沙綾「してたよ。なんて言うかレン、前みたいに思いっきり楽しく笑ってた」
りみ「うん、あんな風にレン君が楽しそうに歌ってる顔、半年ぶりに見たかも」
半年・・・ああ、兄さん達のバンドの解散が決まる前だな。あの頃までは、ただ純粋に楽しかった。ギターを弾くことが、5人でバンドをやることが・・・けど俺は兄さんとSkyineという憧れの存在を見失い、それ以降は何のためにバンドをしているのか迷走していた。けど、俺は見つけた。いや、思い出した。俺がバンドをやる理由を、俺自身が叶えたい夢を・・・
レン「まあ、色々と吹っ切れたからな・・・」
沙綾「そっか。それでレンがまたバンドを楽しめるようになったなら良かった。それはさて置き・・・」
レン「へ?」
沙綾はニヤリと笑み浮かべると俺に近づいてきた。けど何故だろう、その笑顔に恐怖を感じる。え、なに沙綾さん?ちょっと黒いオーラ的なものが出ててますよ。ウルトラ怖いんですけど!?恐怖で硬直していると、沙綾は俺の耳元に顔を近づけてボソリと呟いた。
沙綾「レン、今度また香澄を泣かせるようなことしたら・・・タダジャオカナイカラ…」
ヤ、ヤベーイ・・・今日今この瞬間、俺の怒らせてはいけない人リストに、沙綾の名前が加わった。
碧斗「おいレン、そろそろずらかるぞ。ここも早く避けないと迷惑になる」
レン「あ、ああ、わかった。じゃあそういう事だから。5人ともわざわざライブ観に来てくれてありがとな。また明日学校で」
香澄「うん、また明日」
碧斗に呼ばれて沙綾の威圧から解放されると香澄達が帰るのを見送り、俺もギターと周辺機器を片付けはじめた。
碧斗「なあレン、さっき沙綾になに言われてたんだ?」
すると碧斗が不意にさっきの事を聞いてきた。けどさっきの事をストレートに言ったら、後々沙綾にバレて麺棒でシバかれる未来しか見えない。だから俺は必要最低限の事だけを伝えて強く言い聞かせた。
レン「あー、碧斗・・・絶対に沙綾は怒らせるな。いいな?」
碧斗「は?あー、なるべく気をつける」
いきなりの事に若干、困惑しながら返事をしたが大体は伝わったみたいだ。
碧斗「あ、それとレンにもう1つ聞きたい事がある」
レン「な、なんだ?」
碧斗「レン、お前戸山と昔どこかで会った事あるんだろ?」
レン「は?なんで碧斗がその事知ってるんだ?」
碧斗「やっぱりそうなのか。いや、今日の昼休みに戸山がもう1度お前と話しをしに行くって言いだした時にこうも言ってたんだ。思い出した・・・てな。それでもしかしてと思ってな」
レン「あー・・・じつはなーーー」
俺はさっきの高台での事を4人に話した。小さい頃に1度香澄と会っていた事、そして再会を約束した事を全部。
碧斗「お前・・・その時から既にもう…」
利久「なんだか凄くロマンチックですね」
明日香「けどその話を聞く限りじゃあ香澄ちゃんって・・・はぁ~、蘭ちゃんと彩さんが気の毒でならないよ…」
来人「どこのラブコメ漫画の主人公だよコイツ…」
レン「おいそこの3人、なんだその目は?」
なんか碧斗と明日香と来人から冷ややかな目線を送られた。てか明日香、なんでそこで蘭と彩さんが出てくるんだよ…
明日香「レン、そういう所だよ」
碧斗「俺も、流石にここまで来るとどうかと思う」
来人「まあ、刺されないよう気を付けろよ」
利久「・・・?よくわかりませんけど、とりあえずレンが悪いということで」
レン「いやなんでだよ!?」
なんかスゲー理不尽を受けた。利久に至ってはなに何となくで俺を悪者にしてんだよ!?けどまあ、この5人での下らないやり取りもなんか悪くないなって思える。今この瞬間、俺の傍にいてくれる掛け替えのないこの4人の存在が、今日はいつも以上に愛おしく思える・・・そんな気がした…