■■■■たちが異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】 作:白結雪羽
「あの光………ゴーゴンの威光!? まずい、見つかった!」
突如として射し込む褐色の光。その正体を悟ったレティシアは途端に焦りを見せ十六夜達を庇う様に立ち塞ぐ。
「ゴーゴンの首を掲げた旗印……!? ダ、ダメです! 避けてくださいレティシア様!」
同じく光の正体を知る黒ウサギは悲痛に叫ぶ。だが、目前と迫る光を避ける間など今のレティシアには無く、それでなくとも後ろの三人を巻き込む訳にはいかない。
しかし、そんな彼女の意思は……その庇うべき一人の少年・十六夜がいとも簡単に砕いてしまった。
「な……い、十六夜!? よせッ────!?」
十六夜は愉快に軽薄な笑みを零し、愕くレティシアの肩を寄せそして…………二人共に褐色の光に包まれた。
〝ゴーゴンの威光〟は、星団の名を冠した神話〝ペルセウス〟が討伐したとされるゴーゴンに起因したギフト。その特性は────光を受けた対象に石化の恩恵を与えると言うもの。
十六夜とレティシアは瞬く間にその身を石像へと変貌させてしまった。その上、威光が射してきた方角から、空を舞う集団が飛来してきた。彼らこそ、〝ゴーゴンの威光〟を所有するコミュニティ〝ペルセウス〟の者達なのだ。
「レティシア様! 十六夜さん!」
「黒ウサギ、取り敢えず離れておきましょう? イチャモンなんて付けられたら面倒だわ」
「ですが……!」
二人を置いていけない、そう考える黒ウサギだったが、このままペルセウスといざこざを起すのも賢明とは言えないと判断し、急いで本拠の方へと引き下がった。
その間に石化した二人の元へと降り立ったペルセウスの者達は、十六夜を乱雑に放り、レティシアに拘束縄を掛ける。
そして彼らの口から取引についての内容が発せられる。それは、レティシアを箱庭の外へと売りつけると言うものだった。それを聞いた黒ウサギは思わず叫んだ。
「は、箱庭の外ですって!?」
彼女の叫びに、ペルセウスの一行は敵意に満ちた視線を向けた。飛鳥は肩を竦め苦笑しながら、一団の前に飛び出していった黒ウサギの後に続く。
「一体如何いう事です! 彼らヴァンパイアは……〝箱庭の騎士〟は箱庭の中でしか太陽の光を受けられないのですよ!? そのヴァンパイアを箱庭の外へ連れ出すなんてッ…………、」
「我らの首領が決めた交渉。部外者は黙っていろ」
「あら。不当に進入して此方に危害も加えておいて、その言い草は組織の者として如何なの? コミュニティは違えど礼節は欠いてはいけないわ」
「ふん。こんな下層のコミュニティ……その上〝名無し〟礼など尽くしは、我らの御旗に傷が付くわ」
「なっ……何ですって………!!」
これ以上ない位の侮辱に、黒ウサギの沸点は振り切れた。憤怒の眼差しで一団を睨みつける彼女は、今までの丁寧な彼女とは全くの別人に見えた。
そんな今にも突撃しかねない彼女を、飛鳥はウサ耳を掴んで引き止めた。
「ふぎゃっ!? な、何をするのですか飛鳥さん!」
「落ち着きなさい。貴女が今此処で怒っても商談が無くなる訳でもないし、私達のコミュニティが元に戻る訳でもないわ。──貴女達、命が惜しいのならさっさと行きなさい。目障りよ」
「ハッ、言われなくてもそのつもりだ。頭に乗るなよ〝名無し〟の小娘がッ」
彼らは最後まで見下した態度で吐き捨てる。そして、レティシアを引っ提げ宙に浮かび、瞬間姿を消した。ペルセウスには神話上、姿を消す事の出来ると言われる兜……ハーデースの隠れ兜が存在する。恐らくだがそれを使用したのだろう。
「面白い人達ね。礼節に位なんて関係ないでしょうに、きっと育ちが悪いのねェ」
「………」
「ねえ黒ウサギ。〝サウザンドアイズ〟の傘下コミュニティはあんなにも程度が知れてるのかしら?」
「……仕方ないんです。この箱庭において〝名無し〟という称号は、敗者の証。名と旗を持つコミュニティなら全てとは言いませんが見下すべき腫れ物です」
「そう」
飛鳥は絶えず笑みを浮かべたまま。今までとうに感じ得なかった苦節苦難、それを思うと言い知れぬ快感を感じることが出来た。
「それで、黒ウサギ? 貴女はこのまま彼らを赦し置くの?」
「そ、そんな訳ありません! あそこまで我がコミュニティと同士を侮辱されて黙ってなどいられません! 抗議に出ましょうっ、白夜叉様ならまだ支店にいらっしゃる筈です」
「ふふ、やはりそうよねェ……────
「当然────やられたら殺りかえす、一回は一回ってな」
え? と黒ウサギは振り返る。そこには…………石像と化していた筈の十六夜と、肩を寄せられながら呆然とする
唖然とする黒ウサギ。対して全然驚いていない飛鳥。様子からして、知っていたのか……それとも、
「飛鳥、感謝するぜ。うまく誤魔化してくれたみたいだな」
「当然でしょう? 私が居る限りは有効だから安心するといいわ。……フフフ、滑稽ね。只の無骨な石像を売りつけようなんて……想像するだけで愉快だわァ」
「ククク、だなっ。──如何だったあの石像? 咄嗟にしては良い出来だろ」
「そうねぇ………60点」
「ハッ、手厳しいこった」
軽快痛快に笑い合う二人。
と、そこで放心状態だった黒ウサギとレティシアはハッとなり、慌てて十六夜に追求した。
「い、十六夜さん! え……えっ? ど、如何して?! 石化はどうしたんですか?」
「そ、そのだな黒ウサギ………彼は────威光を直前に避けたんだ、私を抱えてな」
「え、えぇ? で、ですけど……レティシア様と十六夜さんは確かに………」
表情を困惑に染める黒ウサギ。しかし、レティシアも気持ちは同じだった。あの時、十六夜に突然抱き寄せられたかと思えば、彼らは何時の間にか出現していた自分に似た石造の方に目を向け悠然と構える十六夜とレティシアには目もくれなかったのだから。そして今さっきまで黒ウサギにさえその存在を悟らせなかった。もう色々と状況が掴めず混乱の極みと言った所か……
「ああ、黒ウサギが見たのはこれだろ?」
十六夜は彼女が十六夜と思っていた〝ソレ〟を立たせた。それは、確かに十六夜に見えなくも無い不恰好な只の石像であった。だが、お世辞にも見間違えるなど有り得ない程度である。
「……まさか、レティシア様も?」
「そうよ。どちらも十六夜君お手製……即興にしては中々だと思わない?」
「………十六夜、これが……君のギフトなのか?」
「ん、まあな。概要は企業秘密だ。自分達で判断するこったな」
ヤハハと笑い、十六夜はギフトの追及を前もって断っておく。
納得のいってない二人だが、今はソレよりも危惧すべき問題があった。レティシアはこうして彼らの元に残っている訳だが、それが〝ペルセウス〟に明るみに出てしまえば不利なのは〝ノーネーム〟なのだから。と言うのも、レティシアは現時点ではまだ〝ペルセウス〟の所有物扱いなのだ。ギフトゲームの仲介も無しに所有物を手中に入れてしまっては、いくら箱庭といえど犯罪、法に触れてしまう。
まあ、十六夜はソレも確りと理解してはいる。故に手は打つ。彼………彼らなりの流儀を以って。
「さて黒ウサギ。このままだと俺らは人の物を勝手に奪った犯罪者だ。最悪〝サウザンドアイズ〟と事を起さなきゃならねえ」
「そっ……それだけは何としても避けなければ……でも、」
「一番手っ取り早いのは、そのお姫様を大人しくアッチに返す事だが、」
「……それが最善だろう。所詮私は物だ。これ以上〝ノーネーム〟を陥れる様な醜態は犯したくない」
どこか諦めたように首を振るレティシア。そんな彼女に十六夜は挙骨を振り下ろした……大分、本気で。
「~~~ッ!!?」
「ちょっ! 十六夜さん!?」
下手をすれば頭が割れるのでは? 程の衝撃にレティシアは悶える。
「気に入らねえんだよなぁ……金髪吸血鬼美少女ロリをあんな程度の知れてる奴らが所有権握ってるとか。どうせ首領様も良い趣味をお持ちな低俗野郎だろ」
「安易に想像付くわね────それで十六夜君。結局は如何したいの?」
「さっきも言ったが、一回は一回、俺の座右の銘は〝やられたら殺りかえす〟。なに、大義名分は……そうだな──領地への無断侵入、及び
「いいと思うわよ? それと………私達ってまだ箱庭にあまり詳しくないのよねぇー(棒)」
「そうだなー(棒)」
「ククククク………」「フフフフフ………」
二人の瞳が鈍く輝く。その様子に黒ウサギは嫌な予感を感じた。止めろ、今すぐに! と警鐘が頭の中に鳴り響く。
「あ、あの……十六夜さん? 飛鳥さん?」
「よしっ。飛鳥、至急春日部を呼んで来い。今から殴り込みに行くぞ」
「もう来てる……」
「うひゃぁ!? よ、耀さん!?」
フッと振り向くと、耀が何時の間にかそこに居た。気のせいだろうか、口許が笑っているように見える。
「黒ウサギ。一つ聞きたいのだけど……あの星達ってコミュニティの旗印、象徴というのは本当なの?」
「え? え、えぇ……そうですけど、」
確かなのね、そう飛鳥は確認した。その横では耀が満天の星空へと手を翳す。
すると、虚空に紅い球が〝ペルセウス〟の星座を縮小した配置に現れた。一つ一つの球は小さく、彼女の掌に収まるサイズの物ばかり。
耀は準備は終わったと言わんばかりに半歩下がり、代わりに十六夜が、球の数と同じ個数の小石を持って前に歩み出た。今尚彼の浮かべる笑みは、非情に愉しそうで……冷たかった。
「あーあ、可哀想に。告別も出来ずに――――御自慢の旗印とお別れするなんてなァ」
「っ! ま、待つんだ十六夜………!!」
まさかと、有り得ないと。そんな荒唐無稽な事があってたまるかと……そう考えながらもレティシアは十六夜に制止を掛ける。だが、
「ハッ、やなこった!!! 」
十六夜の手から小石が熱線を描き弾かれ、寸分の狂いもなくペルセウス座(縮小版)を打ち砕いた。その刹那――――
――箱庭の空に数発の
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「………来たか」
〝サウザンドアイズ〟の支店。白夜叉は畏怖の籠った険しい表情でレティシアを含む〝ノーネーム〟一行を迎えた。そんな白夜叉に、十六夜はあくまで変わらない軽薄な笑みで対応する。
「よっ、白夜叉。如何だった、俺達の上げた花火は?」
「ああ、驚いた。思わず目を疑ったな」
「おっ? 東側最強に誉められちゃあこっちも遣り甲斐があったてもんだ」
「……はぁ。まあいい、取り敢えず付いてこい」
珍しく溜め息を吐く白夜叉。彼女の後に続き、一行は以前訪れた和室へとやって来た。そこには、見知らぬ人物……〝ペルセウス〟のリーダー・ルイオスが端正な顔を怒りに歪ませていた。まあ、自分のコミュニティの
「ん。飛鳥、俺達の推測は当たりだぜ。如何にも成り上がりの低俗坊っちゃんって感じだぞ」
「あらホント。フフフ、相当お怒りのようね」
「ッ!!」
初対面にも拘わらずに容赦のない二人の挑発に、ルイオスの自制は簡単に解かれた。彼はギフトカードから変型の鎌・ハルパーを取りだし二人に斬り掛かった。
「っ! 止めろルイオス!!」
「っ、グッ!?」
ルイオスは直前で刃を止めた。……いや違う、止められたのだ。白夜叉ではなく、目の前で悠然と嗤う少女に……
「アハハ――──
「なっ……!」
飛鳥の威光により強制的に座らせられたルイオス。
「落ち着きなさいよ。私達は話し合い………もとい交渉に来たの。交渉の場に武力は必要ないでしょ?」
「おいおい飛鳥。こいつは曲がりなりにも商業コミュニティ〝ペルセウス〟の頭だぜ? その位理解できてるだら」
「あらそうね。不躾な事を言ってごめんなさい。私の悪い癖なのよ」
態とらしく、相手の神経を逆撫でする二人。そんな彼らに黒ウサギとレティシアは得たいの知れない慄きを感じた。
白夜叉を仲介人として今回の騒動の交渉は始まった。けれど、それは一方的な交渉であった。
「おいボンボン。お前の所の誇りとやらの象徴を戻してやっから、レティシアをこちらに引き渡せ」
「! 旗を戻せるのか!?」
「ああ。お前が今後一切うちにちょっかい掛けずに大人しくレティシアをくれればな」
選択肢など……有って無い様なものだった。箱庭で活動するにおいて重要な旗印が返ってくるのだ。誰が断れようものか。
これにて交渉は終了。ルイオスはレティシアの所有権を
何とも呆気ない幕切れ。黒ウサギもレティシアが戻ってきたと喜びを感じる暇も実感も与えられない程だった。晴れて奴隷の立ち位置から解放されたレティシアも心境は同じてある。
――この時、その場に居合わせた全員が思った。あの三人は敵に回してはいけない。回したら最後、全てを失う気がする、と。
「――――フフ、まるで噂の魔王みたいねェ」
「――――ちとやり過ぎた感が否めないがな。というか、誘導したのは飛鳥、全部お前だろ? 結局、
「……恐い? 震えちゃった?」
「「いや、ちっとも」」
「あら、春日部さんまで。少しヘコむわね……」
「……胡散臭いですね」
「フフ、ありがとう」
「何で感謝するんですか……」