■■■■たちが異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】 作:白結雪羽
三人が急いで店の外に出ると、其処は景観をガラリと変貌させていた。展望台から望める赤煉瓦に優しく煌々と街並みを彩るペンダントランプ。そして広大な都市を囲うように聳え立つ境界壁………彼らが招待された〝火龍誕生祭〟の催される北側の都市であった。この都市は、境界壁の外側を銀幕の雪原に囲まれており、その極寒の悪環境中、結界と灯火でこうして発展出来ている。
ここで訂正しておこう。変貌したではなく、移動したが正しいか。白夜叉は、一瞬にして地球数十個分の距離を移動させたのだ。流石は白夜の星霊、為せる御技も人の思想範疇を大きく外してくれる。
しかしながら、十六夜達の興味はそんな事より目の前の〝遊び場〟に向いていた。まるで子供のように瞳を輝かせている。
「なんだこれ……! 東側より面白そうだなおい!」
「む、それは聞き捨てならんぞ。東側とて良いものはごまんとあるっ。おんしらの住む外門が特別寂れておるだけだわいっ」
「ふふ、拗ねないでよ白夜叉。ちゃんと戻ったら東側の良い所も見て回るつもりよ」
口を尖らせる白夜叉に飛鳥はフォローを入れる。といっても、今現在の評価は彼女も北側に軍配が上がっている。それぞれの良さがあると言っても、それを覆せるか如何かは分からない。
「そんじゃ、さっさと行くか………と。白夜叉、春日部、後は頼んだ」
「……分かりました」
「う、うむ…………ん? 何を任せたと……?」
白夜叉は十六夜の謎の頼み事に首を傾げるが、彼はそれに答えず飛鳥とレティシアを小脇に抱えて展望台から駆け足で飛び降りた。
「い、十六夜!? 何故私までっ……――――!」
レティシアの抗議の声が遠退いていく………と反対に、今度は怒気を孕んだ底冷えするような声が耀達の元に届いてきた。
「見ィつけた────のですよ大おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
チュド……ではなくズドォオン!! と彼らの元にウサ耳の仁王が爆着。感情が高ぶった時に髪が緋色に染まるそんな彼女────黒ウサギは壊れたように笑いながら不気味な眼光を耀達へと向けた。
「ふ、ふふ、フフフ………! ようぉぉぉやく見つけたのですよ………!」
「はい、見つかりました。流石黒ウサギさん、〝箱庭の貴族〟の名前は伊達じゃないですね」
「はいな、分かってくれて黒ウサギも嬉しいです。ですので………大人シク他ノオ二人ノ居場所ヲ教エテ黒ウサギノオ説教ヲ受ケテ下サイナ……!」
「ふぁー……ぁ……ふぅ。白夜叉さん、事情ならお店の中で話しましょうか」
「あ、あぁ……そうだの。宜しく頼む」
「聞いてください!!」
耀は「ん、」と街の……十六夜達が向かった方とは反対方向を指差した。
黒ウサギはすぐさま、展望台から跳び立ちあっという間に往来の中へと姿を消していった。
残った耀達は、取り敢えず一連の流れを話すために〝サウザンドアイズ〟の旧支店へと戻っていくのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「…………二人とも、大人しく戻る気は────」
「「ない」」
「だろうな………はぁ」
逸早く黒ウサギの接近に気付き街の雑踏に紛れ込んだ十六夜達は、悠々自適に硝子と朱色橙色にて飾られた歩廊を観光していた。
何かの童話を模したようなステンドグラスに歩くキャンドル、食器。北側特有の衣装類に骨董類。あとはご当地グルメ。基本、祭典と言う事もあって造形作品の展示が多いようだ。
「それにしても、新鮮ねェ……。私の居た時代とは何もかも違うわ」
「そういえば、俺達はそれぞれ別の時間軸から呼び出されたんだったな……立体交差並行世界論とか言ったか?」
「あぁ。実際は在り得た可能性の別世界────パラレルワールドと言った方が分かりやすいかな?」
「可能性、ね。だとしたら、十六夜君と私の居た世界は違うのかも………。ねえ十六夜君、戦後の日本に久遠財閥って名前を聞き覚えは?」
「無いな。それ以前も見知った覚えは無い。俺が来たのは2000年代初頭、あらかた歴史上の有力財閥は知っているつもりだが、久遠財閥なんて名前は噂にすら聞いた事がない」
「そ。という事は私達は高確率で別の世界からの招待者ってことなのね」
「ま、それが分かった所で今は関係ないだろ。今を楽しむのに過去の辛気臭い世界の話は必要ねえ」
「それは失礼。今後気を付けるわ………フフフ」
二人は元の世界に殆ど柵を感じて居ないのか、早々に話を区切り観光に戻る。
そんな二人を見たレティシアは、彼らは本当にあかの他人だったのか? と不思議に思うのだった。やけに話が合うというか、まるで旧知の仲を見ているような気分にさせられたのだ。が、気のせいかとその疑問は頭の片隅においておく事にした。
それから数時間。時刻はお昼時……だが、街の景観故に夕刻と間違えそうだ。
三人はとことん街の往来、細道問わずに散策をし続けた。ただ、金銭は生憎と持ち合わせていなかったので売店〝は〟堪能できなかったが……
「あぁー……少し考えなしだったな。やっぱ金銭くらいは携帯しとくべきか。あまり習慣じゃねえからすっかり忘れてた」
「それ、直しておいた方がいいわよ? 私も人の事言えた義理じゃないけど……」
「だなぁ………なぁレティシア。そっちの懐事情はどうだ?」
「一応軽い出店程度の余裕ならあるが……」
「えーっと……おっ、結構あんのな」
「は? ……え、ちょ、何時の間に!?」
十六夜はレティシアの知らぬ間に財布を掠め取っていた。と、ここで飛鳥が訂正。
「何を驚いてるのレティシア? 貴女が渡してくれたんじゃない」
「何を言ってるんだっ、私はその様な覚え────」
「フフフ……
「あ、飛鳥ぁ……」
もう反応からして誰の仕業か分かったレティシアだった。だがまぁ、此処で意地になって取り返そうものなら後が怖い。だからレティシアは「……あまり使いすぎないでくれよ?」と妥協した。何と大人なレティシアなのであった。
「にしても、この都市はあれだな。そこら辺を闊歩してるキャンドルとかも含めて、まるでハロウィンの気分だな」
「ハロウィン、ね。私はあまり馴染みが無かったからそういう実感は湧かないわ。はぁあ……私も十六夜君と同じくらいの時代に生まれたかった……」
「そうか? あんまハロウィンなんて大層な催しもんでもないだろ。元は収穫祭が起源って言われてるが、人間ってのは時代を追う毎に本来の意味を履き違えてくんもんだ。あんなただの浮かれ祭に楽しみなんて望めなかったぜ?」
「価値観の相違ね、それは。良いじゃない〝Trick or Treat!〟この響きは好きだわぁ」
「飛鳥が言うと不穏当な気配しかしないのは私の気のせいか……?」
「なにレティシア、貴女は〝torture〟を御所望かしら?」
「そんな恐ろしい選択肢は無かったはずだが!? というか何故?!」
「レティシア、そろそろ学んどけ。飛鳥に余計な事は考え無い方が良い……」
黒ウサギと若干立ち位置が逆転しつつあるレティシアに、十六夜のなけなしの親切は少し心に沁みた。
このままでは、嘗て〝箱庭の騎士〟と呼ばれていた純血のヴァンパイアとしての誇りが────
「十六夜君、この調子でレティシアを教い………矯正していきましょうね」
「焦るなよ飛鳥……何事もちゃんとした手順をだな────」
「…………」
これから先、自分は無事なのだろうかと、心内で涙を流すレティシアだった。彼女の受難はまだまだ続く…………と、おふざけは此処まで。
「それじゃ十六夜君。後は宜しくね?」
「おう、そろそろ飽きてきたしな。盛り上がりはゲームには必要不可欠だろ?」
「Yes♪ 言い得て正論ですっ。と、言う訳でチャッチャト黒ウサギノオ縄ニにツキヤガレデス問題児様方アアァァァアア!!」
「お断りだっ!」
漸く十六夜達を見つけ出した黒ウサギ。〝負ければ帝釈天の眷属の説法フルコース〟の鬼ごっこは再度ピークを迎え、十六夜と黒ウサギは霞の如き速さで歩廊の向こう側へと消えていってしまった。その背中に飛鳥は「頑張ってねェ」と暢気な声援を送り、レティシアと一緒に観光を続ける事にした。
よりにもよって、飛鳥とレティシアの二人。レティシアは………あとどれくらいで悟りの境地に辿り着けるのか、とても見物だ。
北側都市を一望できる境界壁の上。其処に一人の少女が黄昏に賑わう街を静かに俯瞰していた。
「…………うん。ええ、そうね……」
不意に目を閉じた少女がポツリと呟く。
「大丈夫よ………………うん、平気。…………ラッテンとウェーザーも居るもの……………」
少女の周りには人の影は無い。口から名前を発せられた者達も、今、此処には居ない。
「……
急にまるで恥かしんでるかの様に少女は怒鳴る。心なしか頬が赤い。
「…………ふ、ふんっ。分かってるわよ……それくらい……………………う、ぅん……その時は、お願い……」
転じて照れたようにしをらしくなる少女。やはり、傍には誰も居ない。
「皆の──に応える義務は私にある。だから、絶対に失敗なんて出来ない………必ず、必ずっ、今回のゲームは成功させるわ……………………フフ、そうね。手段は問わないわ。ゲームは最後まで、その一手まで結末は決まらない………!」
決意の固まった表情。途端に彼女の周りに
「…………なっ……!? だから
冷静沈着かと思えば、見た目相応に取り乱す少女は、最後に自棄気味に叫び、そこから姿を消したのだった。一体彼女は何者なのか…………? 一つ言える事は──────傍から見たら情緒不安定な危ない子だったくらいだろう。