■■■■たちが異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】   作:白結雪羽

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別れた二人は……

 十六夜と黒ウサギは建ち並ぶ建造物の屋根にて対峙していた。眼下には、騒ぎを聞きつけて集まってきた観衆が騒がしいが、二人はさして気にする事も無く………と言うよりは一瞬でも目を逸らせばこのゲームも終了。だから余計な事は構う必要などないのだ。

 ここで彼らの何時の間にか始まっていたゲームについて軽く言っておこう。

 発端は勿論、十六夜達がリリに預けた手紙。その詳細は────24時間以内に十六夜、飛鳥、耀の三人を捕まえられなければコミュニティを退きますというもの。無論冗談だが、冗談にしてもふざけが過ぎたのか黒ウサギはカンカンである。

 残りは十六夜只一人。最後の最後の局面で、二人は箱庭らしくケリを付けようとしていた。

 

 

──ギフトネーム 〝月の兎と十六夜の月〟──

 

・ルール

 ・ゲーム開始のコールはコイントス

 ・参加者がもう一人の参加者を〝手の平で〟捕まえたら決着

 ・敗者は一度だけ勝者の命令を一度だけ強制される

 

 

 二人の手元にそれぞれ現れた契約書類。コミュニティ間のものとはまた違った様式のそれを十六夜は不思議そうに見つめた。

 

 

「これはコミュニティ間の決闘ではなく、個人で取引される〝契約書類〟です。決着と同時に勝者への命令権へと変換され、敗者の紙は燃える仕組みとなっております」

「成る程………ハハ、理解した。こういったものも有りなのか……ご教授一つ、ありがとよ」

 

 

 十六夜の笑みに軽く背筋がゾッとした黒ウサギ。意地でも負けてなるものか、そう思った彼女であった。

 

 

「そんじゃ、始めっか」

「Yes。トスは譲るのですよ」

「ほぅ? 随分と余裕そうだな」

「Yes。このゲームは、どう転んでも黒ウサギに有利でこざいますから」

「………そうか」

 

 

 奢っている訳ではなく事実、黒ウサギにはそれだけの実力がある。たった一ヶ月の期間だが、十六夜は漠然とそれは解っている。

 彼は笑った。面白い、軽快で、痛快だと。こうでなきゃ詰まらないと。

 このゲームは開始から大勝負。如何に自分にとって愉快で有利なゲームメイクが存在するか、瞬時に十六夜は思考を巡らせた。

 

――――チンッ………

 

 十六夜の指がコインを宙へと弾く。そして彼は………瞳を閉じた。その行動に黒ウサギは怪訝な顔をする。

 こちらを揺さぶるつもりなのか……それとも彼なりの余裕の表れか………何にせよ。十六夜が視覚情報のアドバンテージを欠いた今、黒ウサギはこれを契機と見た。

 

――――……キンッ!

 

 ドンッ! と爆発音と共に、黒ウサギの姿が掻き消えた。衆人観衆に響動めきが走る。そして、後方へと大きく跳躍し十六夜を背に駆け出す黒ウサギ。発見した。

 対して十六夜は………未だ目を閉ざしたままその場から微動だにしていなかった。

 

 

「(っ? 何故です……! 十六夜さんなら万が一にも………いえ、これチャンスです。今のうちに身を隠して好機を――――)」

 

 

 巻き添えを喰らわせないように、なるべく往来の少ない歩廊を駆ける黒ウサギ。………だが、

 

 

「――――ッ!?」

 

 

 黒ウサギは直感的に急停止した……瞬間、彼女の目の前に歩廊を天井を越えて塞ぐほどの()()が顕れた。幸い、周りに人はいなかったため被害は歩廊のみだ。

 

 

「なっ……こ、これは――――!?」

 

 

 しかし、驚愕している暇は彼女にはなかった。

 次いで、彼女の足元が()()()()()()のだ。

 黒ウサギは謎に浮き上がる岩盤の揺れに思わず手を付く。

 

 

「くっ……!」

「――ハハハっ! よお黒ウサギ。まさか、身を隠せば完全に逃げられるとでも思ったか? それとも俺が自ら視覚を絶ってチャンスとでも思ったか? 甘い、熟々甘いぞっ!」

 

 

 黒ウサギの対面には自分と同じく浮遊する岩盤に立つ十六夜が居た。その軽薄な笑みや、してやったりと彼女に知らしめる。

 そして、黒ウサギはふと、周りに意識を向ける。そこには…………幾多もの石巌が漂っているという明らかに現実離れした光景が……、

 

 

「ま、まさか……これを全部……十六夜さんが?」

「おう。ゲームメイクならぬステージメイクってなっ。ところで――――呆けている暇がお前にあるのか?」

「!」

 

 

 黒ウサギは急いで思考を切り換え、後方の石巌へと跳躍する。刹那、彼女の居た石巌は十六夜の蹴りによって粉々に砕け散り、地上へと第三宇宙速度で降り注いだ。

 

 

「ちょっ!? 十六夜さん! 何て危険なことを仕出かしてるのですか?!」

「安心しろ、場所は選んでっから」

「そういう問題じゃないのですよ!?」

 

 

 二人は浮き岩を縦横無尽に駆ける。黒ウサギは再び歩廊へ逃げ隠れようと模索もしてみたが、先のように道を塞がれてしまってはかんぜんな袋小路に陥ってしまう。故、彼のゲームメイクに従うしかない。

 手が届きそうになれば甲で弾く。そして逆に掴み掛かる。弾かれる。流石は〝貴種・月の兎〟、過酷な状況下でも十六夜に引けを取らない。

 

 

「……クク、やんじゃねえか黒ウサギ! 貴種様は伊達じゃなかったてか!?」

「当然です! 帝釈天の眷属の肩書きはお飾りなんかではないのです! ご理解頂けているなら、」

「言っとくが降参なんてつまらねえ芸は無しだ! お互いな。――――そろそろ締めんぞ!!」

 

 

 十六夜は牽制も何も無しに、駆け出した。と同時に、浮遊していた石巌が彼の進行方向、黒ウサギの上空に集まる。それを彼は………全力で粉砕した。この間、凡そ一秒――――

 

 

「ってぇ!? だから十六夜さんは御馬鹿ですかああああぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 黒ウサギは非難の悲鳴を上げた。その間にも〝手加減〟された瓦礫が、銃弾(<砲弾)の如き速さで地上を(観衆が居ない事は確認済み)蹂躙していく。これで黒ウサギにギリギリの回避ルートを残しているのだからある意味彼は凄いと思う。

 

 瓦礫の散弾を往なす黒ウサギ……その視界外の瓦礫の影より十六夜は彼女の腕めがけて手を伸ばした。

 

 

「っ、十六夜さん……!」

 

 

 寸の所で気付いた黒ウサギは咄嗟で手を弾き、その反動でもう片方の手を十六夜の左手へ。しかし、十六夜もここまで来て易々と掴まる訳にはいかないと、霞む勢いで弾き伸ばす。その攻防を空中で僅か数秒間に十手、百手と繰り返す二人。

 

 その時、一際大きな、砕き損ねた石巌が二人へと迫ってきた。だが、それを同時に拳で吹き飛ばし、彼らは勢いで離れ合い、荒れ果てた歩廊に着地して最初と同じく対峙する。

 

 

「ヤハハ、参ったな。これじゃあ振り出しじゃねえか」

「十六夜さん………流石にこれ以上の戯れは他の参加者の方々の迷惑になってしまうので、出来れば遠慮願いたいですけど……」

「断固拒否」

「ですよねー」

 

 

 諦めたように黒ウサギは溜め息を吐き、キッ! と真剣な表情に戻り立ち構えた。十六夜も俄然ヤる気に満ち溢れ、ニッと笑みを浮かべ構える。

 お互い、何か切欠があれば動き出すが、読みを間違えれば直敗北の道へと招かれる。緊迫する空気が二人の間には渦を巻いて────

 

 

「そこまでだ貴様ら!!」

「あ゛?」

 

 

────きたという所で、厳しい怒声が二人を押し止めた。揃って其方を向くと、炎の龍紋〝サラマンドラ〟の御旗を掲げた集団が集っていた。

 あっ…と声が漏れる黒ウサギと、此処一番の勝負に水を差されて不機嫌に顔を顰める十六夜。

 この後、騒ぎを起した彼らが本陣営に半ば連行されたのは………まぁ然るべき事であっただろう。その際、勝負はドロー……もとい中断となってしまい、十六夜がかなぁーり不機嫌だった事を此処に記しておこう。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 十六夜達が鬼ごっこの最終局面を迎える少し前の頃。十六夜と分かれた飛鳥とレティシアは売店で買った特製イチゴソースが売りのクレープを両手に往来の中を適当に歩いていた。

 

 

「はむっ………ん~。甘いわね、もう最高ォ♪」

「…………」

 

 

 幸せそうな顔でクレープを一応令嬢らしくお淑やかに頂く飛鳥。そんな彼女をレティシアは唖然と見つめていた。

 彼女が時代的に見慣れない食べ物に適応しているのはこの際いい。問題は、彼女が今食べているクレープが()()()だと言う事だ。それでいて、まだ両手には食べかけと食べているクレープが一つずつ……合計で六つ。

 レティシア自身、六つでも普通に食べれるは食べれるが、あくまで可能なだけ。食べようとするのとは大違いなのだ。

 

 

「飛鳥、そんなに食べてしまって……大丈夫なのか?」

「大丈夫よ大丈夫っ。前に居たところではこんなに美味しい物は無かったんだから、ちゃんと味わえる時に満足しておかないと損だわ。ところでレティシア、あまり食べ進んでないけど……嫌いなのこれ?」

「いや、寧ろ好きだぞ? この温かくて柔らかい皮も、それを噛み破いた時に溢れてくるこの赤いソースも。これが口の中で広がる感触は思わず癖になってしまう」

「そう……」

「待て飛鳥。何故私から離れる?」

 

 

 レティシアのクレープに対する評価を聞いた途端、飛鳥は彼女から距離を取る。

 レティシアに自覚は無いようだが、「薄皮」「噛み破く」「溢れる赤」、この三単語を聞いて尚且つ彼女が吸血鬼だと知っていれば身の危険を感じるのも当然だ。嫌に生々しくて背筋の凍る様な表現だった。

 

 

「あら怖い。私、もしかしたら食べられちゃうのかしら────」

「……いや、何故そうなる? 私は確かに吸血鬼(ヴァンパイア)だが、そんな無闇矢鱈に、」

「────性的に」

「ブッ!? こ、こら! 年頃の娘が何はしたない事を言ってるんだ!? まして飛鳥は気品を重んじる家柄のご令嬢、」

「だったけれどそれが何か? ん?」

「あ、い、いや…………すまない」

 

 

 何故レティシアが謝っているのか甚だ謎でしかないが、まあいいだろう。飛鳥も二重の意味でご満悦の様子だ。

 着物少女と金髪レザー幼女(レティシアは当初の格好のまま)……何とも奇妙な二人組みはそんな感じで祭りを堪能する。

 ────と、

 

 

「ん?」

 

 

 飛鳥はふと視界の端に小さな影を捉えた。それは細工類の出展屋台の商品棚の下に居た。黄色のトンガリ帽子とワンピースを着たやけに小さい女の子。

 

 

「レティシア。あれは………何?」

「ん? ………あれは、精霊か? あのサイズが一人で居るとは珍しいな……ハグレか?」

「ふぅーん。郡体精霊、ね。あんな可愛らしいのも北側には居るのねェ」

「………。飛鳥、やはり君のギフトは読心系統と見て良いのか?」

「またその質問? 何度も言うけど、ノーコメントよ。結論なら確りと自分で裏付け含めて勝手にする事ね」

「む、むぅ……」

 

 

 飛鳥は残り一つだったクレープを口に入れ、そしてゆっくりとその精霊の元へと歩み寄った。

 その時、不意に精霊がコテンと此方に視線を向けてきた。目前には珍しそうに己を観察する飛鳥の双眸が……

 

 

「「…………」」

 

 

 暫しの沈黙…………などは無く、精霊は飛鳥の存在に「ひゃっ!」と可愛らしい悲鳴をあげて逃げ出した。

 必然、飛鳥もそれを追った、レティシアを抱き抱えて。

 唐突に抱えあげられ驚く彼女だったが、もう今日だけでも計三回目。最早文句も愚痴も洩らす事は無く為されるままに、好奇心満面の笑みを浮かべる飛鳥の顔を見上げて深い深い溜め息を吐く事を吐く。

 

 それから半刻程、飛鳥と精霊の追い駆けっこは精霊の女の子が疲れきる境界壁下まで続いたのだった。因みに、飛鳥はずーっとレティシアを抱えて走っていたのだが、息切れどころか汗一つ掻いていなかったとか……

 

 

 

 

 

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