■■■■たちが異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】 作:白結雪羽
「あ、飛鳥……意外、と……体力があるのだな」
「そういうレティシアは何でそんなにバテてるの?」
「………。小脇に抱えられた状態で走られる身にもなってくれ……」
「まさかその程度で参ったの? 箱庭の騎士と謳われた吸血鬼が?」
うぐっ…と飛鳥の辛辣な言葉に詰まるレティシア。少々上からの物言いに一瞬憤りを感じたが、飛鳥の泰然自若とした様子と今の自分を比較すると言い返す言葉も無かった。同時に、こんな自分の腑抜けさに嫌気が差してきた。
そんな、落ち込むレティシアを余所に、飛鳥は手の平の上にチョコンと座る女の子と向き合う。レティシア曰く、群大精霊という精霊の一種らしい。群大なのに一人だけというのも気になるところだが、先ずは挨拶からだろうと左人差し指を彼女に伸ばした。
「っ……?」
「ふふ、そう怯えないで。折角こうして会えたのだから、初めは挨拶が礼節ってものでしょう?」
コテン? と首を傾げる彼女。だが、飛鳥に邪気が無いのが分かったからか、ゆっくりと、彼女の指と握手擬きをする。警戒を解いて貰って、飛鳥の顔が少しは綻ぶ。彼女にしては珍しいかもしれない表情だった。
「私は飛鳥。久遠飛鳥よ」
「あ……すかー……?」
「あ・す・か、よ。ちょっとぎこちないから、もう一度言ってみなさい?」
「あ、あす……か。……あす、か?」
「うんうん。そう、アスカよ。ふふっ♪」
見るからに飛鳥の機嫌が良い。彼女の琴線は一体如何なっているのだろうか? 漸く立ち直ったレティシアはそう疑問に思うのだった。
「それで、今度は貴女の名前を教えて貰えるかしら?」
「ふみゅ? らってんふぇんがー!」
「…………ラッテンフェンガー?」
飛鳥は随分と胡散臭い名前が出てきたなぁと少し顔を顰めた。
──ラッテンフェンガー──。その意味する事を飛鳥は
何ともこの愛くるしい精霊にはそぐわない名前だ。そのため飛鳥は〝ラッテンフェンガー〟とはコミュニティの名前じゃないのか? と推測した。
「ねぇレティシア。〝ラッテンフェンガー〟って、あのラッテンフェンガーよね?」
「ん? んー…………いや────」
「はぁ、使えないわねぇ箱庭の騎士って。知能も実力も偏れば良いって物じゃないでしょうに」
「…………飛鳥。そこまで愚弄されては、私も流石に黙ってはいないぞ……?」
「アハハ、怖い怖い。冗談に決まってるでしょう? ………あら? これは私、レティシアに目を付けられちゃった? いけない、今日からおちおちと眠れもしないわ」
「…………はぁ」
あまりにも憮然として怒るのも億劫になったレティシア。正直、飛鳥の言動は将来要らぬ敵を増やしてしまう危険がある。故に、今の内に直しておいた方が良いと思っているのだが………きっとこの考えも彼女には筒抜けなのだろうと、考えるのを諦めた。〝読心〟とまだ断定できた訳ではない。だが、彼女の全てを見透かすような軽薄な笑みが、隠匿など放棄していると物語っている。
「レティシア、ごめんなさいね? 私ったら、昔から少し意地悪な性格なのよ」
「もう加虐趣味とも差し支えないな。……いつか絶対に、身を滅ぼすぞ?」
「アハハ、それもその時は僥倖よ。生きる時も死ぬ時も、詰まらない終わり方なんてしたくないわ。派手に滅してくれるなら大歓迎よっ…………それともレティシア。今、やってみない? ふふ、安心しなさい。責任は私だけにあるの、貴女が気負う事はあるにせよ、罪の意識なんて────」
「ふざけるのも大概にするのだな飛鳥。次にそのような馬鹿げた事を口走ってみろ、喉を潰してでも黙らせるぞッ……!」
鋭い眼光が、憤怒の情念を募らせた瞳が、飛鳥を射抜く。冗談でも今のは笑えない。例え飛鳥がおふざけでか、それともその場のノリで言ってしまったのだとしても。
飛鳥の肩の精霊は、二人の剣呑な雰囲気にひぅ……と縮こまる。対し飛鳥は、レティシアの紅の瞳を綽然と見返す。
「ふふ、ふふふ…………やっぱり私
「えっ……?」
笑う飛鳥が最後に何かを呟いた。だが、レティシアは生憎とそれを聞き取る事ができなかった。それに、一瞬だが、彼女の表情に憂いが差した気がした……
この辛気臭い話は此処まで。飛鳥は精霊を建前に強引に話を切った。レティシアは最後の彼女に若干の蟠りを覚えてしまっているが、きっと彼女は聞いても答えてくれないだろうと、渦巻く感情を心の奥に仕舞い込んだ。
三人は気付けば境界壁の麓の展示会場へとやってきていた。そのまま彼女らは、飛鳥の提案で折角だからと会場へ足を運んだ。気分転換には持って来い……か如何かは彼女ら次第。
「へぇー……結構レベルの高い出展ばかりねえ」
「…………」
「? ちょっと、レティシア。何時までさっきの事引き摺ってるの?」
「……納得、行くはず無いだr────んむっ!?」
飛鳥はどうにも強情なレティシアを抱き寄せて、子供をあやす様に頭を撫でる。
唐突な事に慌てるレティシアは、途端我に返って抵抗した。
「あ、飛鳥……! 急に何をする……?!」
一応、声を殺して叫ぶレティシア。
「我が儘な子供の鎮静作業?」
「なっ……わ、私はもうそんな齢では、んんッ!?」
「ふふふ……さ、もっと奥に行ってみましょう。レティシアちゃん♪」
「ぷはっ……だから子ども扱いはっ、あぷっ!?」
さて、徐々にだが調子が戻ってきた所で二人は更に会場の奥へと進んでいく。途中、すっかり子ども扱いされたレティシアは気分がやや晴れると同時に拗ねてしまった。そんな彼女を愉しそうに観つつ、飛鳥は最奥までやってきた。
境界壁の横穴に設けられたであろうこの展示会場。明かりは殆どが様々なペンダントランプ等の仄かに温かみを感じる橙で彩られていた。そして此処、最奥は開けた場所で、天井をステンドグラスで飾り周りには相変わらず精巧で緻密な細工が並んでいる。
だが飛鳥達は、それよりも何よりも、部屋の中心へと目が行っていた。
太陽を模したような黄金の紋様が刻まれた美しい紅い鋼の体躯。簡単に言って鉄人形だが(ブリキではない)、その巨体所以か存在感が半端では無い。
「ほぅ……これ程精巧な作品は久し振りに見たな。しかも、そこらの鉄ではなく神珍鉄を用いているのか」
「神珍鉄?」
飛鳥もその名前には聞き覚えが無かった。名前からして稀少金属なのだろうか? そう問うてみると、
「まあ適当な認識はそれで間違いではないな。その特性に伸縮自在を備えた純血の龍種のみが錬成できる天上の稀少鉱物――それがこの巨人の素材だな」
「何だか大層な単語が二つ入ってたわね。ふーん…………って、ラッテンフェンガー?」
今日は〝ラッテンフェンガー〟に縁でもあるのか? 奇しくも先程肩に座る精霊からそのコミュニティ? の名を聞いたばかりだった。
「らってんふぇんがー! あすか、あすか! ……すごい?」
鉄の巨人を前にして、精霊が跳ね回る。もう確定だろう。この子のコミュニティがこの壮大な逸品を作ったのだ。
「……えぇ。ふふ、貴女のコミュニティ〝ラッテンフェンガー〟って本当に素敵なのね」
「ひゃー!」
頭を撫でられて嬉しそうに声を上げる彼女。誉められてとてもご機嫌になったようだ。
「あー……この子、欲しいわねェ」
「飛鳥、誘拐は犯罪だからな? 間違っても勝手に拐わないでくれよ……!?」
「えー………………」
駄々っ子のような反応をする飛鳥………不意に、その顔から表情が消えた。あまりにも突然な彼女の変化に、レティシアはビビった。また面倒な琴線に触れてしまったのか、と。
しかし飛鳥は、翳りを差した瞳でレティシアではなく会場の通路奥を睥睨した――――次の瞬間、
「
叫びともとれる威光の言の葉が、会場に響き渡った。その効力は絶大に発揮され、静かに観覧していた者達は呆気に取られる間もなく、統率された動きで出口の方へと走り去っていく。威光が届いていない者も居るには居るが、この異変に乗じて逃げ出す事だろう。
………。レティシアはハッ!? として飛鳥に詰め寄った。
「ちょ、飛鳥!? 行き成り何をして――――っ!」
「気付いた通り、この場にそぐわないお客様が来たみたいよ」
言い終わるとほぼ同時、会場を照らすランプが奇妙な風に撫でられていき、辺りは漆黒の暗闇に包まれた。それに、飛鳥は此方へと放たれる殺気を感じた。撒き散らしてる訳でも何でもなく、正真正銘自分達を狙う殺気だ。彼女としてはこんな場所で殺気に晒される覚えは全く………無い訳ではないが、今の所は思い付かない。
「うーん……私、誰かに恨みを買うような事したかしら?」
「……飛鳥の言動を省みれば、不思議でも何でもないな」
取り敢えずレティシアの首元に、ガルドとのギフトゲームで拝借した十字剣を突き付けつつ、飛鳥は殺気の元を静かに見据える。
『ミツケタ……ヨウヤクミツケタ…………!』
「いや、主語を入れなさいよ」
全く空気を読まない飛鳥のツッコミが入った。だが、そもそも伝わっていないのか相手側は無視をした。
『――嗚呼、見ツケタ……! 〝ラッテンフェンガー〟ノヲ騙ル不埒者ッ!!』
「……狙いはこの子、ね。レティシア如何しましょう? アチラさんとってもご立腹のようだけど」
「一先ず私達も逃げておいた方が良いんじゃないか? 向こうの意図が掴めないとはいえ、大衆の中でまで事を大きくするメリットなど普通は無いからな」
「そうね。じゃあ────徹底的に絞めましょうか」
「だと思ったよっ。そのつもりなら最初から聞かないでくれ……」
飛鳥は精霊の女の子を落ち着かせ、危険だからと着物の懐に押し込む。そして、向こうは動き出したようだ。ざわ…ざわ…じゃなくて、ザワザワと近付いてくる影の群れ。真っ暗闇に光る夥しい数の紅い双眸が彼女達に迫る。
「……鼠?」
「ああ、鼠だな。それにしても……多いな」
「……良く落ち着いてられるわね?」
「それはお互い様だろう? まあ何にせよ、あの程度の畜生如きに後れを取る事は無いな」
「私って、物量戦で来られるととても面倒なのだけど……」
「飛鳥には〝威光〟のギフトがあるじゃないか。数など関係ない」
余裕を引っ提げる二人。その間にも鼠の大群はあと少しまで迫ってきているのだが、全く焦りが見られない。ま、片や恐れ知らずの支配系ドS少女、片や数百年百戦錬磨と戦場を越えて来た吸血姫。逆に敗因が見付からないと思う。
「はぁあ、面倒ねェ~。
おそらく今までで一番投げやりなギフト行使だった。…………、
「ねえレティシア、止まらないのだけど?」
「はっ? って、私に聞かれても────ッ! えぇいッ、飛鳥!! 下がってろ!!」
何故か威光が効かなかったネズミ達に、飛鳥は呆けた。そんな彼女へ目前まで来た鼠からレティシアは庇い立ち、リボンの結び目を早々に解いた。すると如何した事だろうか、レティシアの体躯が幼女体系から目麗しい大人の女性の体躯、ソレとまで一気に成長したのだ。
パチクリと目を丸くする飛鳥を後ろに、レティシアの影が蠢く。それは最強種の力を模すとされる龍影の牙。会場全体を覆うように唸り奔る影牙は、数千と居た鼠共をほんの一瞬で屠っていく。その場景は宛ら猛り狂う嵐の如き勢いであった。
「うわぉ……」
飛鳥の口から驚嘆が洩れる。レティシアは意外と出来る子なのねェ、と。そして次にこう思った……面白い、と。
レティシアの怒号を心地良い響きと捉え、飛鳥は笑みを浮かべるであった…………だけで済む筈がない。彼女はソッとレティシアの背後に近付いて……、
「…………逃げたか。全く、往来を気にしない度胸は有りながらも逃げ足も負けず劣らずか……────ひゃッ!?」
「あら? 偽物じゃない、本物ねこれ…………何だか無性に腹立たしいわっ♪」
「や、あッ! ちょ、ちょっと待ッ……!!?」
艶かしいレティシアの嬌声。飛鳥がしたことは至って簡単。大人になった彼女の触診? だ。しかも何故か重点的に胸だけを……。口にする言葉とは裏腹に物凄く楽しんでいる。
レティシアはムズ痒い感覚に体を悶え捩り、咄嗟の隙を付いて何とか飛鳥の魔の手から脱出した。一応彼女とて女性だ。卒然に胸を揉まれれば相応の羞恥を見せる。
「な、何をするんだ飛鳥!?」
「何って、幼女が封印解いたらおっきくなったー、の典型例を見せ付けてくれたレティシアへのご褒美?」
「意味が分からないぞ!?」
「意味なんて要らないわ。私は只、レティシアの羞恥心に悶える姿が見たいの! そこに意味なんて寧ろ邪魔だわ!」
「無茶苦茶だな!? 「いいから
威光に結構簡単に捕まったレティシア。それから2、3分くらい、彼女は飛鳥に良い様に至る所を弄られ、終わる頃には戦ってもいないのに満身創痍の状態だったとさ……。