■■■■たちが異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】 作:白結雪羽
十六夜はあまり代わり映えしない(精々会話が増えて穏やかに派手にやらかすだけ)ので飛ばすつもり。
さて、如何するか……。飛鳥を抱え舞台の上に降り立った十六夜は逸る気持ちを内心抑え現状分析をする。
会場は魔王襲来とあって阿鼻叫喚のもよう。〝ノーネーム〟は全員舞台側、〝サラマンドラ〟は観客席へとゲーム開始直後に謎の黒い旋風に吹き飛ばされており、白夜叉はその風の障壁のようなものに囚われてしまった。間違いなく、彼女は封じられたと見ていいだろう。
「黒ウサギ。これは彼の魔王とやらが来たって事でいいんだよな」
「はい」
「ふーん……派手な演出ね。ふふっ、良いじゃい。最高ね魔王さんとやらわ」
「…………」
魔王の胸囲を知る箱庭組みに対し、問題児三人は緊張感の欠片もない。
彼ら三人はふと、視線を数度合わせ、含み笑いを零す。
「んじゃまあ、俺はチョイと魔王に挨拶でもいこうかね」
「ちょっと、一人だけズルいわよ……って言いたい所だけど。こっちもこっちで何かありそうだから任せるわ。あまり動くのは面倒だしね」
「では私は十六夜さんに付いて行きますね……」
「おう、了解」
淡々と行動を予定を決めていく三人。
このままでは今直ぐに勝手に飛び出しかねないと、黒ウサギは慌てて制止した。
「ちょ、ちょっとお待ちを皆さん! 今考えも無しに散ってしまっては危険です! ここはちゃんと、」
「分かってる分かってる。黒ウサギはサンドラと合流、御チビは飛鳥と白夜叉に指示を仰いで貰え。レティシアは…………」
「ふむ、私は耀に付いて行った方が良────」
「よし、以上か。そうそう御チビ。白夜叉には〝契約書類〟の内容が如何ゲームに関わってくるかを聞いといてくれ」
「分かりました」
「…………」
憐れなレティシアはさて置き、十六夜は確認を終わるや颯爽と境界壁側に見えた四つの影へと飛び出していってしまった。
黒ウサギが再確認を取る間もなかったが、彼の指示が的確と判断できた為、その場の全員に(途中アーシャとジャックも加わった)補足を告げると解散した。
「……レティシアさん。非常事態ですから、不貞腐れてないで私と行きましょう……?」
「…………うん」
何ともしおらしい返事。これで何度目の可哀想が出てきただろうか……。
耀と涙を拭くレティシアは十六夜が向かっていった白黒の二人のもう一方、大小の二人の方へ飛んでいく事にした。
バルコニーへとジンと共に走る飛鳥は考える。ギフトゲーム名は〝ハーメルンの笛吹き〟を示している。そして、懐に潜ませた精霊のコミュニティの名は〝ラッテンフェンガー〟で、丁度昨日彼女は急襲を受けた……
「(関係ない……とは言い切れない。寧ろ色濃いかしら? いずれにしても、直に分かるでしょうね)ジン君、急ぐわよ!」
「はいっ!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「…………来た。シュトロム」
「BRUUUM!」
斑模様のワンピースを着た少女は、傍に控えるシュトロムと呼ばれた巨大な陶器人形に交戦態勢を促す。
別方向に、警戒注意にあった少年が一人向かっていくのが見えたが、こちらには少女二人……少年と同じく警戒注意にあった少女と純血の吸血鬼の少女が向かってきていた。両者実力は未知数ゆえ、斑少女は決して油断はしない。
シュトロムは全身の孔から大気を吸い込むと、二人の少女へと乱気流を放出した。
「っ、ハァッ……!!」
突然の大気の暴力。飛翔してきた少女……耀は、咄嗟に風を操り、一瞬だけ拮抗させる。その隙に耀と追随していたレティシアは気流を回避するため距離を取った。
しかし、シュトロムの乱気流は収まる事は無く、そのまま大気を二人ごと更に吸収していこうとする。耀は辛うじて自身の周りだけ風を操り体勢を整えるが、翼で飛翔と制御えをするレティシアは彼女の支え無しでは儘成らない状態だ。
「くっ……すまない耀」
「気にしないで下さい………っ! ぅ、流石にこのレベルになると限界が出てきますね……!」
シュトロムの気流は激しさを増す。耀の風操作でも、まだ慣れの時間が浅いため嵐を押し返すのは限度があった。
「…………本当に、申し訳ない……フフ、これでは十六夜の扱いも当然なのかもしれないな……」
「ちょ、ちょっとレティシアさん……? 今卑屈にならないでください。十六夜君も本気で言った訳では………………」
「間が長い上にフォローもなしか?! 耀も私は使えない子と言いたいのだな?!」
「い、いえ。そこまでは言って……────ッ! カフッ!!?」
「悠長にお話し、そんなに余裕? 随分甘く見られたものね」
ドゴンッ! と肋に途轍もない衝撃を叩き込まれた耀。気付けば斑少女が耀の目の前に肉迫していた。その瞳は幼い見た目に反して酷く冷徹で、殴打の躊躇の無さが露骨にマジなんだと実感させる。
寸の所で逃されたレティシアは、弾き飛ばされた耀を心配する最中、切り替え早くギフトカードから取り出した長槍を以って斑少女を貫こうとした。吸血鬼の腕力に、腰の捻りを加えた一撃。並みの者ならば零距離でとも生じる衝撃波に大きな風穴が開く事になるだろう……
……あくまで並の相手ならばだが。
「やった、か……?」
「…………弱い」
感情の籠もってない、失望にも似た声が囁かれた。途端、レティシアは弾かれるように少女との距離を取ろうと後方へ飛翔、
「逃がさない」
する事は叶わず、斑少女の袖から溢れ出た黒い風に捕縛されてしまった。意識を徐々に蝕んでいく不気味な風にレティシアの頭で警鐘が響き、何とか脱出を試みる。だが、彼女の一撃を無傷で凌いだ少女がそんなに甘いはずが無い事を瞬時に思考した彼女は、口内を軽く出血する程度噛む事で意識を無理矢理引き戻し、せめてもの抵抗と少女の腕を無茶と分かりながら掴んだ。
斑少女は呆れたと言わんばかりの視線を向ける。こんな事をして……握力で腕を潰そうにも、彼女程度の握力……まして風に意識を侵されている状態で────
「────ッ!! ぐッ……!?」
斑少女は風の放出を続け、レティシアの腕を振り解こうとする。しかし如何した事かレティシアの腕は放されること無く、寧ろ膂力がどんどん強くなってきている。そして意識も明確に立ち直ってきた。
このこと誰より驚いているのはレティシアだ。彼女は突然と湧き上がる心地の良い力に従っているだけで、これは彼女の隠し種でも何でもない。
「はぁ……はぁ……!ぅぐっ……レ、レティシア、さん。大丈夫です、か……?」
「耀! 無事だったか!? っ……もしかして、これは君が?」
先程地上に叩き落された耀は、脇腹を押さえ血を滴らせながらもレティシアの許へ飛んできた。
彼女はただ満身創痍で飛んできた訳ではなく、ライトグリーンの光の膜に包まれた右手をレティシアに向けていた。恐らくだが、その光がレティシアの力を底上げしているのだろう。
「ッ(くっ……! あの時沈め切れないなんて、加減したつもりはないのだけど……!)シュトロム……!!」
「BRUUUUUUUUUM!!」
主の命に従い大気の砲弾を耀へと射出させるシュトロム。
だが、耀は痛む体に鞭打って砲弾の嵐を掻い潜る。その間にレティシアは、斑少女の力を物ともしなくなるほどに底上げされた力で彼女をその場に留め、左手に現した鋼の杭でその身を穿とうとする。
無論、斑少女も黙って穿たれようなどと被虐主義者ではない。奥歯を噛み締め、ありったけの黒い風を展開してレティシアを突き放そうとする。
禍々しい尖頭と黒の障壁が激しく衝撃を拡散させながらぶつかり合った。
「ぐぅッ………ぁぁぁぁあああああああッ!!」
「ま、まだ……!! (ここまで耐えるか! これで沈んで貰えるのなら良し。そうでなくとも致命傷を負わせられれば僥倖なのだがッ)」
────その時。ズガン! とシュトロムの方から強烈な破砕音と、総毛立つような熔解音が聞こえた。
乱気流と砲弾の嵐を回避していた耀は、シュトロムに閃光放つ炎弾が着弾するのを見ていた。荒い呼吸を繰り返しながら閃光の飛来した方向へ視線を向けると、黒ウサギが合流を図っていた筈のサンドラが龍炎を纏いながら飛来した。きっと黒ウサギから事の詳細は預かっているのだろう。
レティシアは斥力に掛かったように斑少女から耀の元へ下がった。そこへ間髪入れずにサンドラの炎が叩き込まれる。
「ふんっ……!」
黒い風の障壁は顕在。火龍の炎は先程同様凄まじい衝撃波を生み出し、辺りの街並みを破砕していく。
「サンドラ殿、尽力助かった」
「いえ、こちらの不手際で同士の方が負傷を……」
「……気にし、ないで下さい。自業自得、ですから……」
確かに、ふざけていた事は否めないのでこの重症は特にサンドラが気に病む必要は無いと思われる。
それを知らないサンドラは「そうですか……?」と心配をしつつも、直ぐに一変。一人の〝階層支配者〟として、斑少女を睨み付けた。
「漸くお出ましね……〈う、うるさい! あの二人が手駒に打ってつけか如何か診断したのッ! …………ええ。捨て置くのは惜しいもの。出
来れば今ご到着した幼い頭領様も欲しい所ね〉」
「…………目的はなんですか、ハーメルンの魔王」
「残念、ソレは間違いね。私のギフトネームの正式名称は────〝
ブラック・パーチャー……? 耀は少しばかりその単語を頭の中で反芻する。直接ではないだろうが、確か関係するような知識があった筈だと……
「………。二十四代目〝火龍〟、サンドラ」
「自己紹介ありがと。目的なら……承知してるでしょう? 太陽の主権者である白夜叉の身柄、それと星海龍王の遺骨────詰まり、貴女が付けてる龍角が欲しいの」
「(これは……随分とふてぶてしく出たものだな。交渉としては今一だが、先の接戦で見合う実力は兼ね備えている…………魔王であれば当然か)」
「(………。あの子、意外と喋るんですね……)」
真面目なレティシアとは対照的に、変な所に関心が向いた耀だった。
子供が玩具を強請る様な軽い口調、勿論サンドラがその様な戯言を取りあう筈が無い。
そして両者は再びぶつかり合う。〝黒死斑の魔王〟とサンドラ、レティシア。重傷所以に後方支援へ回った耀。
空間を震わせ歪めるほどの力が、再び上空で激突した。