■■■■たちが異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】 作:白結雪羽
────失敗した……。ペストは飛び交う雷撃と火球を捌きながらふと思う。
今こうして自分は〝箱庭の貴族〟と〝北の階層支配者〟を軽く相手取り、ラッテンとウェーザーには神格を与えて各自懸念事項の元に付かせた。これが戴けなかった。懸念事項……言わずもがな問題児3人のことだ。相対したウェーザーとラッテンから細かな詳細は聞いているため、神格を与えて対応に行かせたのだ……が、最悪のパターンを失念していた。此方が3人揃ってゲームを参加者を蹂躙する、これに対してあちらの主力勢を固まって対応する事に無理が生じると思っての作戦だったのだが、これは驕りかもしれない。万が一でも考えたくないが、もし二人が敗れたら? 最後はもう皆殺しの一手を取るしかない。
……いや、そもそも情報がある程度知れていた時点で最悪の一手を切るべきだったのだ。惜しい人材達ではあるが、此方の掛替えの無い同士を無下にするくらいならその手をとるべきだったのだ。〝彼〟も、そう言っていたのかもしれない。〝彼〟のことだ、分かっていながら伝えようとはしなかったのだろう。ただの気紛れなんかじゃない。私達、〝グリムグリモワール・ハーメルン〟の事を考えて、敢えて何も言わなかったのか……
今更こんな言い訳染みた事を考えて如何なる? 今から皆殺しにするか? その考えは早計か? いや、そんなこと余裕で誤魔化すのか。此処から、離れていても感じる。二人の同士の
────……本当、熟甘い。こんなゲームメイク、一週間前の反省が全く活かせていないではないか。
「……後悔なんて、してもし足りないわね……」
前後から襲う衝撃を受け止める。相手もそろそろ無駄だと分からない訳ではないだろうに。……時間稼ぎか? そう思ってしまえば疲弊覚悟でギフトを行使し続ける理由も納得出来る。
……何と言うか、一度達観してしまうと逆に冷静になれるものだとペストは思った。そして、そんな思考に成れたからこそ……取るべき判断も変わってきた。
「…………」
今までにない死の暴力が殺気の塊と共に渦巻く。
唐突な狂乱に、黒ウサギとサンドラは血相を変えて一度距離を取った。明らかに様子が変わっている。
額に嫌な汗が浮かぶ。そんな二人を冷たい視線が射抜き、ペストはソッと口を開いた。
「――――止め。もうお遊戯は止めましょ」
「っ……何を言ってる?」
「お遊びは飽きたって言ったの。目先に囚われすぎてたわ………いい? 本気で行くから。精々無様な死に顔には……ならないことねッ!」
「ッ! サンドラ様!」
黒ウサギが叫んだ刹那、ペストが暴風を越えた嵐を纏って姿を眩ました。
何処に?! そう視線を巡らそうとした二人。その内が、隙を見せてしまったサンドラの背後から横薙ぎに腕が振るわれた。
「カハッ……!!?」
「サンドラ様!? このッ……!!」
黒ウサギのギフト・〝
ボロボロの身体に鞭を打ちその場から二人は飛んだ。直後、足場の建物は周囲の家屋も巻き込んで粉砕した。もうそこに遊び、戯れ、手加減などと言うものは見受けられない。死の恩恵が薄い所を見るに殺すつもりは無いのだろうが、五体を潰す気なのだろう。
「ぐッ……! これが、魔王の力……!」
「それも、ただの魔王ではありません。恐らく……彼女は神霊の類の筈です……!」
「な、神霊?!」
「〝幻想魔道書群〟の魔書・〝ハーメルンの笛吹き〟の伝承を媒介に、黒死病による8000万の死の功績を体現した神霊……それが彼女かと考えられます」
「正確には、その形骸を以ってして召喚された霊群。それに私の意思で箱庭にやってきた訳じゃない。呼ばれたの、その魔王コミュニティ〝幻想魔道書群〟に」
「「ッ!?」」
二人は硬直した。ペストの声は真後ろ、至近距離から聞こえた。眼下の砂煙の中には彼女の影は無い。
ペストは両手を彼女らの背中直前に構えている。少しでも動こうものなら……否、微動だにしなくとも黒風が容赦無く放たれるだろう。
正に万事休す。そう……思われた時だった、
「……ん?」
不意に辺りを旋風が吹き荒れた。ペストの黒風とは違う純粋な強風が。
ペストは慌てず右手を黒ウサギから後ろへと向けて風を展開、した瞬間に一人の少女が上空から強烈な蹴りを放ってきた。
「っ……。固い、ですね……!」
「貴女………チッ、面倒なッ……!」
空からの奇襲者……耀は、風を操り黒風を押そうとする。だが、相手は神霊の魔王だ。神格級ギフト二つに対応出来る地力は、いくら風を操るグリフォンのギフトでも天と地ほどの差があった。
拮抗も一瞬、耀は上空へと押し返されてしまう。
「貴女、厄介なギフトを持ってたわね……」
だから殺しておく、そう言わんばかりに濃厚な死が彼女を覆おうとする。
「させません!」
「鬱陶しいッ!!」
耀のお陰で退避していた黒ウサギが轟雷を放つ。防がれるとは分かっていてるが、少しでも耀から意識が逸れればそれで良い。
「ありがとうございます、黒ウサギさん(……今のは少し不味かったですね。…………魔王に手加減なんてしてられませんね。本気で行きましょう)」
耀を加えた三人は、ペストを囲うように対峙する。幾分か冷静になっていたペストにとって、邪魔が増えたことは苛立ちを募らせるものだった。
「……あー、もう駄目。――――殺すか」
ペストの中で何かが吹っ切れた。そして一帯に重苦しく伸し掛かる殺気。魔王との戦いは終盤戦へと突入するのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ハッ! 如何したよ坊主!? もうガタが来たのか?!」
「呵ッ! 苦し紛れは止せよ木っ端悪魔! お前こそ手応えが衰えてきてんぞ?!」
「んな訳あるかッ!!」
「ハハハハハッ!!」
魔境の整地でもしたのか……? そんな錯覚をしてしまうくらいに変わり果てたハーメルンの町並みの中、十六夜の哄笑が渡る。付近にあったウェーザー側は最初より川幅を広げ、周囲の建物は瓦礫さえ粉々に砕け散り、不自然に隆起した岩盤の柱が幾つも反り立っていた。
十六夜は岩盤を蹴り砕き、大小様々な欠片が砲撃の如くウェーザーへと殺到する。対してウェーザーは、地殻変動を起こして岩壁を発生させ砲弾を防ぎ、お返しとばかりに濁流と岩塊を打ち出す。
「二番煎じは魅せに欠けんぞごらァ!!」
怒るところはそこなのか? という十六夜の一喝と共に轟風が巻き起こり、自然の暴力は纏めて捩じ伏せられた。先程からこれの繰り返し。町の見晴らしが良くなったのはこれが原因である。
「…………おい坊主。お前本当に人間か?」
「おうっ、正真正銘の人間様だ!」
大地に巨大な石柱が突き刺さる。それを躱したウェーザーは大笛で空中に躍り出た十六夜に殴りかかが、彼も不安定ながら腰、肩と撓らせて拳をぶつける。
「ククッ…………あっ」
後方に飛ばされるも着地した十六夜はとある事を思い出した。打ち合いが楽しくて忘れていたが、今は戯れをしている状況ではなかった。
「チッ、まだ遊んでたいんだがな……」
「おいこら。真剣勝負を遊びとほざくんじゃねえ」
「細かいことは気にすんな。…………なあ、小賢しい時間稼ぎはそろそろ終いにしようぜ。二番煎じはもう飽きてきた。だから――――次で決める。簡単に沈むんじゃねえぞ、
口角を吊り上げて十六夜は巌柱のテッペンに飛び乗る。そんな彼にウェーザーは呆れたように脱力し、面倒臭そうに頭を激しく掻いた。そして……
「…………ハッ、上等だぜ。――――これで死んどけや坊主!!」
「ハハハッ!! そっくりそのまま返すぞ!!」
ウェーザーは霊格を開放し、大笛を乱舞させ地殻の力を収束し始めた。激しい揺れが地に轟き、その力場は瓦礫を舞い上げる。
一方十六夜は歓喜に口許を引き上げ、グッと岩盤に足を踏み締めた。そして次の瞬間、天を覆う暗雲の隙間から幾筋もの電が彼に落ちていった。だが、彼に大事は無い。寧ろ、バチバチッ! と全身に雷電が奔り、異様な威圧感を放っている。
「ッ!? 〝
「なら俺は例外って奴に分類するな! ────今回は〝離震〟で仕留めてやる。ま、次はあるかは……お前次第だがなッ!!」
一帯を震撼させる轟音が鳴り響き、十六夜が掻き消えた。轟雷そのものと成った彼は、正真正銘の神速でウェーザーに拳を叩き込もうとする。ギリギリ収束が間に合っていたウェーザーは、疾風迅雷の拳に大笛を全身撓らせて振りかぶった。そして────
「ッつぅ…………フッ、ハハハっ。まさか、本領じゃないとは言え〝離震〟でカウンター入れられるとは思わなかった。木っ端なんて言ってきたが……二流位までは評価してやるか。ククッ、此処一番で楽しかったぜ………………ふぅ、行くか」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……ふーん? 神格の有る無しでこうも変わるものなのねェ。評価を修正しましょう。貴女は二流悪魔ね。三流は可哀想だし一流は過大評価でも無いわ。ね?」
「アンタみたいな小娘に評価されるなんて屈辱以外の何者でもない! シュトロムッ! 一斉に掛かりなさい!!」
「「「「BRUUUUUUUUM!!」」」」
「アハハっ……ディーン!」
「DEEEEEEeeeeeeEEEEEN!!」
ディーンの頭上に立つ飛鳥は、四方から襲い来るシュトロム達をディーンに纏めて粉砕させた。距離が離れていても関係ない。ディーンは神珍鉄によって構成された伽藍堂の人形。伸縮自在の神の鉄から逃れるには近すぎる。
「っとと……。ほら、貴女の人形さん達皆居なくなっちゃったわよ? 如何する?」
「くぅ……!!」
「フフフ♪ まあ、そうね。折角だから頑張った貴女に最後のチャンスを与えましょうか――――本気で、私とディーンを服従させてみなさい。私はその間大人しく貴女の演奏を聞いてて上げるから」
「なん、ですって……?」
舐めているのか? 素直にそう思った。いや、元々飛鳥はラッテンを苔にしているが、そんな危険な賭けを何故持ち出したのか? しかし、これは本当に最後のチャンスだ。この乾坤一擲を勝ち取れば、全て終わる。勿論、罠という事も考えられるが、ラッテンに他の手は残されていないのも事実。
「…………いいわ。癪だけど貴女のゲーム、乗って上げる。但し後悔はしないことね」
「貴女が勝てば後悔も出来ないわね」
ラッテンは飛鳥の誘いに乗った。それには、お互い他者を支配するギフトを持つもの同士負けられないという意思も含んでいた。
「それでは私のとっておき、幻想曲〝ハーメルンの笛吹き〟。如何かご静聴のほどを♪」
そうして魔笛の魅惑的な演奏が始まった。……違う。魔笛というには……その音色は透き通っていて美しく、飛鳥の鼓膜を揺らす度に夢へと陶酔させ、ノスタルジアを誘う。
「……(あぁ、素敵ねェ……。この音が欲しくて堪らなくなってきた………けど、無理なのね。はぁ…………フフ)」
彼女は笑みを自然と浮かべた。ただそれは、今までの挑発的で冷たいものではなく、心の底から浮かべられた感嘆の笑み……。
短くあったが永久のものに感じられた演奏がやがて止まる。飛鳥は――――
「素敵な演奏をありがとう、