■■■■たちが異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】 作:白結雪羽
「――――では、白夜叉様は今……」
「ああ、被害を食い止めるために自らのゲーム盤に閉じ込めたのだろうな。不羈奔放の対処法は囮が最良の手だ。力の有る者が奴を押さえている間に、残ったもの達は、敗北して取り込まれたコミュニティの対処する……今回は運に恵まれているな。取り敢えず時間を無為に消費する訳にもいかない。負傷した参加者の避難と、万が一の事態を鑑みて打てる策をとる必要がある。一介の名無しが沙汰するのも烏滸がましいが、今はそんな事も言ってられない……頼めるか?」
「は、はい!」
白夜叉と十六夜、魔王の二人が白夜のゲーム盤に落とされてる頃、行動可能な参加者は事態の対処に動いていた。
サンドラに魔王の詳細を告げたレティシアは、マンドラと同士の元で指事を飛ばす彼女から視線を反らし、己の腑甲斐無さに歯を食い縛った。
その頃、少し離れた場所で黒ウサギは、参加者の中で特に致命傷を負った耀と飛鳥の応急処置を施していた。だが、急所は外されているものの、二人は風穴を開けられているのだ。大きさで言うなら子供の腕の直径分、出血量も考えると応急処置程度では生存率は格段に下がってくる。 まして二人は人間なのだ。自分達のような頑丈な身体を持たない存在なのだ。
黒ウサギの頬に滴が流れる。このまま同士を失ってしまっては、三年前の〝あの時〟を繰り返すことも同義であると。そんな事は絶対にさせまいと、必死だった。
ふと、飛鳥の右手が微動した気がした。
「っ! 飛鳥さん…!」
「……ぁ、く…ぁッ…………く、黒ウサギ? ッつ……!?」
「動かないで下さい飛鳥さん! 簡易的な殺菌と傷口の手当てしか出来ませんでしたから、今動けば傷口が広がってしまいます!」
黒ウサギに言われて漸く、飛鳥は自身の腹部の感覚が一部欠如している事を自覚した。そして、それをやったであろう人物の姿を想起する。
「……(チッ、あの老害……まさかこんな所で、会うとは思わなかったわね。……図られたのかしらね。いいじゃない、そっちがそう来るなら此方だって黙っては居ないわよ……!)黒ウサギ。春日部さんの状態は?」
「……正直、芳しいとは言えません……。ちゃんとした医療器機が有れば何とかなりますが……」
「そう………なら、私は良いから春日部さんの存命に尽くしなさい。私は少し用事が出来たから行ってくるわ」
「なっ……だ、駄目ですよ! それだけは絶対に許可できませ――――…………」
飛鳥を叱咤する黒ウサギが不意に黙りこんだ。瞳からハイライトが消え虚ろになり飛鳥から耀へと身体を向き直した。
「ごめんなさいね黒ウサギ。………で、貴女も私を止める、レティシア?」
「………いいや」
「あら意外。どうせなら今までの鬱憤を晴らすつもりで止めに掛かればいいのに」
「傀儡にされると分かっていて止めると思うか?」
「ふふ、ご尤も。だけど貴女なら止めるとも思っていたのだけど……残念」
飛鳥の酷薄に微笑む。立ち上がった際に開いた傷口から夥しい量の血が着物に、染み渡り滴る。しかし彼女は、そんな事は意に介さず歩き出す。通りすぎ様にレティシアは問うた。
「十六夜と魔王らは白夜叉のゲーム盤の中だ。体に関わらず、飛鳥では入る事すら出来ないぞ」
「ご忠告ありがとう。でもそれは杞憂だわ。だって其処には十六夜君が居るのでしょう?」
なに? とレティシアは疑問に思い、如何いうことかと後ろを振り返る………が、そこには既に飛鳥の姿は存在しなかった。レティシアはただ、その場所を呆然と見つめ、やがて後悔と諦めを孕んだ声音で呟いた。
「……死ぬなよ、飛鳥」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
萃の啖呵が口火となった。
白銀の世界に灼熱の旋風が巻き起こる。厖大な量の水素ガスの奔流、約20000℃に及ぶプロミネンスが白夜叉を中心に放出され萃を呑み込まんと大地を焼きながら迫り来る。ペストと十六夜はその圧倒的炎熱に二人は大きく距離を離したが、萃は袴の衣嚢に両手を突っ込んだまま悠然と構えていた。
「なんじゃ白夜叉、
「くッ……貴様に言われんでも分かっとるわ!!」
大地を焼く奔流が謎の力に引かれるように萃の右掌に収束していく。萃められた灼熱の塊は、バレーボール程の大きさに圧縮され、20000℃を遥かに凌駕する熱を帯びた。だがプロミネンス程度を躱されたくらいでは白夜叉の攻勢は止まらない。
「――――む?」
萃が異変に気付き下を見た瞬間……突如溢れ出た水流が灼熱の塊を包み込み、盛大に爆ぜた。途方もない高温に触れた水が一瞬で気化・膨張したのだ。俗に言う水蒸気爆発であるが、熱と推量の比のせいか大地が小隕石でも墜落したかのように大きく抉れてた。
「…………やはり、小手先の技は通用せぬか」
「いや、驚嘆したぞ。……そう言えば、白夜王は仏門に下って
頭を掻きながら大昔の記憶を掘り返す萃だが、ハッとした時には白夜叉の脳天に踵を降り下ろそうとしていた。白夜叉はそれを両腕をクロスさせて受け止める。ガコッ!! とクレーターと地面に足がメリ込むが、そのまま足を掴み取ると、一瞬彼女の瞳が鋭く閃き爆炎が拡がった。その炎に萃は炎弾となって遠方の山脈まで吹き飛ばされ………ることはなかった。直前に霧状に霧散した彼は、爆風で距離を取った白夜叉の鼻先に収束した。ガッ! と先程のお返しとばかりに首を鷲掴む。
「カカッ! お互い手はそれなりに割れておるのだぞ!? ――――
「ッ!? (ま、不味い……!!)」
白夜叉は反射的に萃の手に掛けかけようとした腕を、顔を庇うように持ってくる。直後、腕骨が悲鳴を上げ、ガードを越えて腕が突き刺さった。
「ゴガァッッ――――!!?」
二人を中心に広大に亘って地割れが生じる。もしこの規模が街で起こっていたなら言わずとも壊滅的被害を被っていた事だろう。
雪と土煙がまるで濃霧の様に辺りを包み込む。そこにユラリと幽鬼が佇立し、足元を睥睨した。
「……如何した小娘? あの時クイーンの戯けと結託してまで己を打ち倒そうとした激甚は疾うに緩んだか? ん?」
「呵ッ…。知れた煽動に、乗ると思うか……この虚けがッ!」
七桁の灼熱が吹き荒んだ。白夜を象徴したゲーム盤は、その広大さといえ、二名の怪物の衝突でとことん荒れ果てていた。まず箱庭の天幕都市一つ分は壊滅しているであろう。
血に濡れ軋む身体に灼熱が渦巻き、負傷した部位を調える白夜叉。対して萃は、指先に幾度と生じた理のエネルギーを圧縮し、握り潰す事で取り込んだ。そしてまた、両者はぶつかり合うのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ハハッ! 一度敗戦を味わいながら矢継ぎ早に再戦とは、これはこれで面白いなぁ! まして手応えが段違いだ!!」
「無駄口を叩いける暇があるのね……この化け物がッ」
「そりゃ向こうの外見詐欺の老害に言ってやれ!!」
老体らから大分離れた山脈麓の湖畔にて、十六夜とペストは衝突を繰り返していた。萃の力の一部を譲渡されたペストは、神霊とは違う、それでいて神霊よりも強力な災厄を以って十六夜を攻め上げる。
十六夜は、余波だけで地形を変えてしまう死の風をその拳で、足で撥ね飛ばす。だが、如何せん押し返しきれないもので、数度と水面に弾かれていた。それでも彼は外の能面から一変して喜悦とペストに本気で突っ掛かっていく。
螺旋を描く陣風が豪雨の様に上空から襲い来る。十六夜は、大地を力強く踏み締め数多の岩壁を聳り立たせ、岩層を浮かす事で風を凌ぐ。そして、それは同時にペストへの目晦ましともなった。一瞬十六夜の姿が岩壁に遮られた刹那には、ペストの背に掌底が打ち据えられていた。
「ぐッ……!? こ……こ、のぉッ!!」
「ッ!! ヂィッ……! 硬くなってるだけじゃねえ、クソ厄介な敗残兵だな……!」
振り向き様に払われた彼は湖面を一度跳ねた後、飛沫をあげるも
「…………」
ペストは空いた降り注ぐ水飛沫を弾きつつ、空いた空間を水が埋めていく箇所をジッと見つめる。手加減などする気も無い、一つ一つが全力の自然界の暴力。直死を与えられないとは言え余波は、衝撃は見ての通り通っている。広大な水面、大地を割り、穿つ風ならば……
「……化け物の集う箱庭に過大期待はいけない慢心ね。……問いたいわ、貴方……人間よね?」
返事は水を瞬く間に気化させた青白い光芒だった。
自然界では勿論、神話上でもその圧倒的な象徴を示す現象。〝神鳴り〟とは良く言えたものだと思える。
度重なる攻防でヘッドフォンが壊れ、押さえる物の無くなった金髪が靡く都度バチバチッ! と音を立てる。これで二度目。諸々の原理は不明だが、雷電を纏った十六夜は蒸気の立ち上る
「っ………雷を纏う、か。やっぱり、
「巷じゃ恩恵と畏怖の象徴と名高い〝神鳴り〟らしいな。ま、俺にとっちゃ他人様の
「ガッ!!?(は、速いどころじゃない! この
100メートル弱の距離をコンマと掛からずに移動した十六夜の蹴りが再三とペストの背後より襲う。度々戦慄させられる彼女だが、今思うと最初の神霊時の彼の一撃もこの状態であった。だがあの時は手緩かったのか、今のが本気だとでも言うのか。その事実が更に彼女を戦慄させた。
湖面に何度も弾かれ、湖から半キロ離れた位置で漸く止まった。全身の節々から鳴る悲鳴を黙らせるように、凄惨な傷が癒えていく。再生能力も上々だ。
口内に残った血反吐を吐き捨て、雷神ともとれる歩み来る彼を見据える。正直な所、死の恩恵が効かない時点で手札は潰されてるも同然の状況。彼と違って切れる手は、彼女には少ないのだ。
「さあ元・魔王様よぉ? まさか同じ轍は踏んだりしないよなぁ。この程度で太陽に復讐なんざ――――笑わせんな」
「っ………貴方に……貴方に何が分かるって言うのよッ!? 〝私達〟の宿命付けられた〝死〟は、太陽の怠惰という星の摂理が関わる限り永遠に解放されることはない……! だから、」
「
死の風が放たれる。だが、十六夜は蝿でも払うかのようにそれを叩き伏せた。
ペストの心に恐怖心が生まれる。得たいの知れない目の前の化け物に、自分達よりも恐怖を、怨みを、絶望を知る彼の瞳に心臓を鷲掴みされたような感覚を体感した。
「く、来るなァ………来ないでッ!?」
死の風で抵抗するも、二番煎じだと理解した筈だ。どう足掻いても……彼に自身の怨嗟が届くことは――――ない。ペストは今度こそ、消滅を覚悟した。
「――――あー……何しに来た、死に損ないのお嬢様」
「失礼じゃないかしら十六夜君? 少しは涙を見せてくれてもいいじゃない。貴方の泣き顔はそれはそれは滑稽で愉快だと思うのに」
聞こえる筈の無い声が聞こえた。
十六夜の隣には、萃に瀕死まで追いやられた少女――――飛鳥が忽然と現れていた………血濡れのまま。
ここで万能収拾係の飛鳥さんを切るべきか……うむぅ……