■■■■たちが異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】 作:白結雪羽
「なあ久遠、少しいいか……」
「あら、内緒話かしら? それと私の事は飛鳥でいいわよ」
移動の道中。ルンルンと上機嫌に歩く黒ウサギの後ろで、十六夜は彼女に悟られないよう飛鳥に声を掛けた。飛鳥もそれに合わせて小声で返す。
「了解。でだ、俺ちょっくら世界の端でも拝みに行ってくるな。黒ウサギは頼んだ」
「それ、態々私にいう必要があるの? どうせどう受け答えても行くつもりなのでしょう?」
「まあなっ。んじゃあ任せ「私も行きます……」ん?」
唐突に、二人の後ろで沈黙を保っていた耀が、自分も行くと言い出てきた。余りにも突然且つ意外で二人とも一瞬目を丸くして言葉を失ったが、直ぐに軽薄な笑みを浮かべる。返答は勿論……OKだった。
して、十六夜と耀はその場で飛鳥と(無断で)黒ウサギと別れ、魑魅魍魎他珍獣等が集う森へと静かに駆け出していった。あっという間に姿が見えなくなった二人を飛鳥は面白そうに見届けながら、彼らに気付くこともなく浮かれ気分の黒ウサギに付いていくのであった。
「あの二人……ふふ、良いわね。面白いわ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
風切り音が鼓膜を揺らす。髪が風圧で逆立ちそうになるが、十六夜は頭部のヘッドホンのお陰でその心配はない。耀に至っては駆け足の揺れ以外、髪も服も
「しかし意外だな。まさか春日部が乗ってくるとは」
「…………」
「ハハッ、黙りか。まあいいさ、それも個性だ。俺は愉しい個性は否定しねえよ。無茶苦茶偏見によるがな」
「…………」
「っと。そんじゃもう少し飛ばしますかぁ。遅れんじゃねえぞ春日部!」
「……冗談」
刹那、木々の隙間を縫うように走る彼らの姿が掻き消えた。其処には小さなクレーターが二つ………気付けば二人は大河の数キロも先にある大河の畔に立っていた。恐らく、瞬き一つも許されないコンマの世界であっただろう。だが二人は特に苦もなくさも当然のように平然としていた。
更に二人は畔から移動し、大河の先・大滝の近くまでやって来る。彼らでいう元の世界でも追随出来る規模のものなど限られてくる……それほど巨大な滝であった。まぁ瀑布を除いてなので、迫力はそれに劣ってしまうが、此処には異世界所以かどこか神秘的に感じられた。
「こりゃまた、爽快な景観だな。化神の一匹でも居そうだ」
『――――小僧共、貴様らが望む試練はなんだ?』
十六夜が感嘆を洩らした時だった。不意に、厳かな声が聞こえたかと思うと大河の底から影が浮き上がってきた。それは水中でとぐろを巻き、そして、豪快な水飛沫を上げ十六夜と耀の目の前に姿を現した。
――蛇神――
水を統べると(どっかで)言われている神の一柱。他にも伝承は無いことは無いが、それが最も代表な例だろう。詳しくはググるなりなんなりしてくれ。
「ひゅ~……これはまた、面白そうなのが出てきたな」
「…………」
獰猛に笑う十六夜。だが、対照的に耀は………ただでさえ素っ気ない無表情が最早無感情にまで達し――瞳の奥に
『――――む……何だ小娘。そのような邪な視線を向けるとは、我が水神の眷属と知り得ての所業か?』
「………あぁ、そうでした。……修羅神仏……神魔………なら、これの類いが居ても可笑しくはありませんでした………」
まるで過去の■を想起するように、耀は譫言を呟く。隣にいる十六夜は……特に驚きもせずにただ静観していた。……否。彼は蛇神に対して憐憫を感じていた。そして、笑う。
『? 何を…………まあいい。さあ、試練を選ぶがいい。だがもし、尻尾を巻いて逃げるというならそれも良いだろう。その時は貴様らには我に挑む程の〝力〟も、〝知恵〟も、〝勇気〟も無かった。そんな無様な結果が残るがな』
「………。黙ってくださいよ、愚神が」
『……なに?』
「選ぶのはアナタの方。……但し………選択肢は、〝屈辱〟か〝死〟。この二択です」
無表情で手を上げ、指先を二本立てる。彼女はかなり苛立っていた。理由は分からない。だが、それ相応の訳はあるのだろうと予想はできる。
そして勿論ながら、蛇神は耀の言葉に怒号を上げ、
『こ、この年端も行かぬ小娘如きがァ……!! 一体誰にそのような口を――――ガァッ!?』
呻き声を上げながら水中へと叩き込まれた。そして数瞬遅れて岸辺に耀が降り立った。彼女がした事は単純、跳んで──腹部を蹴る、たったこれだけ。とても簡潔で基本的な戦闘動作。しかし、常人にはまず視認できる速さではなかった。因みに十六夜は余裕で目で追っていたが……
「おお、おお! やるじゃねえか春日部。俺の予想の一インチは上回ったぞ」
何故一インチなのかは分からないが、耀はそれに特にツッコム訳でもなく波打つ川面を見つめる――と思っていたら……
耀はなんと、自らの危険を顧みずに躊躇なく大河の中へ飛び込んでいった。それを見てた十六夜は流石に吃驚する。まさか水中に駆り出すとまでは思っていなかったのだ。だから驚き……やはり面白いなと、近くの木陰から静観を続けた。
「――この辺りでしょうか………?」
「ん?」
不図、最近聞いた……というよりほんの数十分前に聞いたばかりの声が十六夜の耳に届いた。彼が声のした茂みの方へ振り返ってみると、特徴的な兎耳の少女がキョロキョロと辺りを見回していた。黒ウサギだ、如何してか髪は緋色に染まってるが。十六夜と耀が離れてから大方三十分………箱庭の兎さんは早いのな、と十六夜は当たり障りの無い感想を抱くのだった。
取り敢えず彼は声を掛けることにした。
「よぉ黒ウサギ。思ってたよりは早かったな」
「あ、十六夜さん! もう、一体何処まで来てるんですか!?」
「世界の端だろ。まあ知的好奇心ってやつだ。許されてやって良いぞ?」
「だまらっしゃい!! …はぁ……でも、本当によかったですよぉ」
黒ウサギは心の底から安堵を浮かべた、ところで疑問を感じた。確か彼の他にも耀が一緒に来ている筈だと。もしかして、別々の場所に離れてしまったのか? そんな嫌な不安が過る。
と、そんな黒ウサギの不安を感じ取ったのか、十六夜は「あぁ、」と声を漏らして大河を指差した。
「黒ウサギ、春日部ならあそこだ」
「へ? ……あそこって、何処に居るのd――――!」
そこで彼女は気付く。この河は何故さっきから妙に波打っているのだろうか、と。………答えは直ぐに姿を現した。
『GYAAAAAAAAAAAAAッッッ!!?』
「…………」
ドッバアアア、ンッ!! と巨大な水柱が河底から打ち上げられた。言わずもがな、蛇神であり、やったのは耀だ。彼女は水中にも関わらず驚異的な遊泳をみせ、本来蛇神の分にある盤を覆してみせた。
全身ビショ濡れで耀は十六夜と黒ウサギの横に降り立った。そこで初めて黒ウサギを確認するが、特に何も言わずに服に染み込んだ水を最初と同様一瞬で払い乾かした。
「か、春日部さん!? な、何をしていたのですか!」
「蛇狩り」
簡素に答える耀。そして、視線を黒ウサギから沈んだ蛇神へと向けた。意識はまだあるようだが、戦意も怒気も、もう感じられない。完全に消沈としている。そんな蛇神を見た黒ウサギは驚愕していた。まさか、耀がここまで水神の眷属を圧倒して打倒するとは思ってなかったのだ………見たのは最後だけだが。
「…………」
「もういいのか? ま、やるとしてもこれ以上は止めるぞ。先が面倒になる」
「…………分かりました」
コクりと頷いた耀。フッと〝敗者〟から視線を反らし、元の素っ気無い彼女に戻っていた。
その後、黒ウサギが蛇神の安否を確認したり、かと思えばその爬虫類と何か話をして彼女が軽く抱えられるサイズの苗木を貰っていた。
それは、俗に言う〝水樹〟と呼ばれる水資源を与えてくれる大樹の苗木である。これさえあれば、余程空気すら死んでいる土地でもなければ半永久的に水の枯渇で悩むことはないものだ。それを手内に黒ウサギは小躍り嬉しそうにキャーキャーと跳び跳ねた。
で、そんな黒ウサギを十六夜は………特に変わった様子もなく見ていた。そして、喜びに浸る彼女に、
「それじゃあ、運良く良いもん貰えたことだし――――黒ウサギ、そろそろお前達の〝コミュニティ〟について聞かせてくんねえか?」
「――――え? え、あ、その…ですね……それは飛鳥さんとうちのリーダーと合流してからでも、」
シドロモドロに言葉を濁した黒ウサギ。だが十六夜は、純水無垢故残酷な子供のように当然の疑問を口にした。
「何でた? あっちはそのリーダーが飛鳥に話をつけてるだろ。なら、こっちはこっちで話をつけておいても然して問題なんて無い。な? 聞かせてくれよ。あんたらの〝コミュニティ〟が――――どん位
「っ……!」
彼の言葉に明らかな顔色の変化を見せた黒ウサギ。十六夜は軽薄な笑みを消し続けた。
「まさか、バレてないとでも思ったか? 丸分かりだったぞ。必死に自然を振る舞ってはいたが、そもそも疑問点が多い上、焦りも雀の涙程度だが窺えた。春日部は……勿論、多分飛鳥も気付いてたぜ?」
「………あれで、隠してたんですね」
「…………、」
黒ウサギは顔を俯かせ、自身の甘さを悔いた。確かに、彼女はまだ明かしていない案件が一つ……自身の所属する〝コミュニティ〟の内事情について一切触れていなかった。否、触れたくなかったのだ。しかし、今こうして二人……十六夜の言う通りなら此処には居ない飛鳥も現状に気付いてしまっている。彼女は…………賭けをするしかなかった。
一つは、尚もシラを切り続ける。
一つは、全てを洗いざらい打ち明け彼らの反応を待つ。
もう――――答えは決まっているようなものだ。
「――――……あ、あはは……。流石は選ばれた御三人様方、隠し事は通用しませんか……。それで、黒ウサギの口から事を知って、どうなさいますか? 出来れば協力をして戴けると嬉しいのですが……」
「それはその話しだい、だな」
「…………」
「左様です、か。………分かりました。ここまできてしまって話さずに流してしまうのも〝箱庭の貴族〟と呼ばれる兎達の名折れです。この際、キッチリとお腹を括って、精々面白可笑しく、我々のコミュニティの惨状を語ろうではありませんかっ」
いつになく軽快な口調で、それでいて真剣な雰囲気で、黒ウサギは語り出す。とある〝災厄〟によって様々なものを失ってしまった、〝コミュニティ〟の惨状ってやつを……
それを耀は微かな関心を向け、十六夜は三日月を浮かべながら聞くのであった。