■■■■たちが異世界から来るそうですよ?【削除&改訂予定】 作:白結雪羽
「ルールは……見た感じ普通ね」
契約書類に目を通した飛鳥は、此方に不利なルールが設けられると聞いた手前に、拍子抜けした。それこそ「ギフトを使うな」くらい無茶な条件を覚悟はしていたのだが、心配は要らなかったようだ。
「へぇ? ハンバーガー屋にしては面白そうなゲーム盤を持ってやがんな」
「あまり油断はしない方がいいか……。ルール自体は簡潔だが、迷宮の謎が如何なものかによって難易度が変わるな」
「そればかりは進んでみないと判断できませんね。あとこのゲームに賭けられたチップも気になります。莫大な金品を要求してこられると此方としては辛いですね…………飛鳥さん、契約書類に何か記載はありませんか?」
契約書類を持つ飛鳥へ振り返り問う黒ウサギ。
その飛鳥は、何やら契約書類に書き込みをしていたようで、黒ウサギを見ると晴れやかな笑顔で、
「それっぽいとこね、何だか空白になってたから書いておいたわ────『ウサギ肉贈与』って♪」
悲惨な現実を告げた。
黒ウサギ、暫しの間思考停止。やがて動き出したかと思うと、右見て、左見て、最後に自分を指差す。飛鳥は屈託無い表情で頷いた。
〝ノーネーム〟側のチップを書くための空白に、無駄に達筆な文字で『ウサギ肉贈与』と、確かに書いてある……
「鬼悪魔!! ド外道ーーッ!!? 十六夜さんなら兎も角、飛鳥さんなんて事書いてくれたんですか?!」
「おい黒ウサギ、こっちに被害を飛ばすな」
「アハハ♪ そう怒らないで黒ウサギ。栄養になっても貴女の事は忘れないわ」
「先を見据え過ぎっていうか負ける事前提で謝らないで下さい!!」
黒ウサギの中で問題児の序列一位が十六夜から飛鳥へと成り代わった瞬間であった。規模で言うなら十六夜が圧倒的に酷いのだが、えげつなさで言えば飛鳥の方に軍配が上がるのだ。
黒ウサギはホロリと涙を零す。このままでは、自分はこんな辺鄙な場所で名も知らないハンバーガー屋さんに挽き肉にされてしまう……冗談でも笑えない(飛鳥は可笑しそうに笑っているが)。そんな彼女に心優しい救いの言葉を掛ける者がいた。幾分か冷静に戻ったレティシアと、問題児組の中ではまだ良心のある耀である。
「心配するな黒ウサギ。私たちが勝てば済む話だ。だから、大船に乗ったつもりで自分の役割を全うしていなさい」
「この面子です。もしもの『も』の字でも負ける事は無いですよ、黒ウサギさん」
「レティシア様……耀さん……!」
これは嬉し涙か、また涙が込み上げてくる。気付けば飛鳥と十六夜もレティシアと耀と同じ頼もしい笑みを浮かべている。
やっぱり、彼らに出会えて良かった、改めて思う黒ウサギであった。時たま道を違えてしまうのではと心配になる時もあったが、何だかんだ言って彼らは優しいのだ。
涙を拭き、晴れ晴れとした気持ちで彼らの出会いに最高の幸を感じて黒ウサギは────
「さっ、黒ウサギのハンバーガーを見てみたい私も居る事だし、本気五割で行きましょうっ」
「「おうっ! /おー」」
「前言撤回…… やっぱりとんでもないです!! 黒ウサギの心密かな感動を返して下さいこの問題児様がたがーーーーーーッ!!」
結局はこうなるのか! と、黒ウサギの叫びは虚しく空へと消えていくのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「差し当たって、まずは作戦会議をしましょう皆さん。この先どの様な罠が待ち構えているかも分かりませんから、ここは一つ慎重に――――」
「春日部ー、レティシアー。構造は分かりそうかー?」
「駄目ですねっ。遠くの方は霧が掛かってて全く見えませんっ」
「まあ考えてみれば当然だな。飛行系のギフト対策を取っていない訳ない」
「……これは、地道に行くしかないかしらね?」
「そうだろうな……」
「ちょっと皆さん! 今言ったばかりですが、どんな罠が待ち構えているかも分からないんですし、もう少し慎重nキャアアアァァァァァ――――ッ!!?」
「「「「…………」」」」
パカッと通路の床が開き、まんまと罠に掛かった天然ウサギが一匹。注意を説いていた張本人が何と間抜けな事だろうか……。このまま置いてくか……、そう考えた十六夜と飛鳥は悪くないと思える。勿論ちゃんと助けたが……耀が。
「黒ウサギって……最近アホさ加減に磨きが掛かった気がするわ」
「……否定は出来ないな。『箱庭の貴族』と呼ばれ、まだ幼いながらもその実力は確かなのだが……」
「まるでレティシアね」
「…………」
失礼だと分かっているが、
「ったくこの駄ウサギが。お前は審判だろ。審判がプレイヤー用の罠にかかってどうする」
「うぅ……面目無いです……」
「箱庭の貴族(恥)ですね、本当」
「そ、そんな不名誉な称号は嫌なのですよ……!」
「だったら大人しくしてろ。……はぁ、面倒臭ぇ……」
しかし、黒ウサギはそれでも率先してゲームクリアの協力に手を抜かなかった。それは有り難いのだが、世の中には『有り難迷惑』なんて言葉もある。黒ウサギは何処か空回りしてるのだ。
そしてゲームが始まって二、三時間が経過。状況は一向に変わらず、黒ウサギの空回りのせいで気づけば同じ所へ戻ってきてしまっていた。
あ、あれ~……? と冷や汗を掻く彼女。その後ろでは、耀以外の三人は無性に苛立っていた。十六夜は比較的最初からだが、流石に数時間も彷徨わされれば飛鳥もレティシアも焦れてくる。レティシアは今までなら少し寛容に見過ごしてたのかもしれないが、如何せん時期と時が悪い。
「……限界ね、もう限界っ。十六夜君、レティシア、最終手段――――壁をぶち抜くわ。手伝ってちょうだい」
「オーケー」
「今回は仕様がないな……」
「え……?」
飛鳥はディーンを呼び出し、十六夜は腰を落とす。レティシアは両手に馴染み深い長柄の槍と、禍々しい両刃の剣を構えた。苛立ちに比例してるのか、放たれるプレッシャーが以前対峙した萃のものと遜色無い。
「わーわあーー!? ちょっと待って下さい三人とも! 迷宮を破壊する事は『迷宮の突破』という条件のルール違反に則します! 審判としてそれは見過ごせないので――――ガッ!!?」
「ギャーギャーと喚くなよ大根役者がッ」
十六夜の永久凍土の瞳が黒ウサギを射貫き、引き絞られた拳が突き刺さった。その刹那、レティシアの投擲した槍と剣が彼の脇を通り、壁を巻き込んで吹き飛んだ黒ウサギを縫い止める。それぞれ加減はしたらしく、黒ウサギには致命傷も重傷も無い。
そんな二人に、静観してた耀は溜め息を零す。その傍ら、出番をまた取られたと飛鳥はディーンをカードに返した。
「あースッキリしたっ! ちと物足りねえが、今回はこれで勘弁してやっか」
「フフ、存外派手にやらかすのも悪くはないな。君たちの気持ちが少し解った気がするよ」
「あらそう? なら今度からはレティシアも『羽目外し隊』に入隊する?」
「それとこれとは話が違うな。悪くはないなとは言ったが、君たちに合わせる気は毛頭無い」
「そ、残念だわ」
これは手強くなっちゃったわね、そう肩を竦める飛鳥。
ふと周りを見れば、迷宮が砂上宛らに崩れていく。そして飛鳥の持つ契約書類に浮かぶ『ゲームクリア』の文字。彼らは既にゲームをクリアしてしまっていた。どうしてか? それはゲームの第二クリア条件、『ホストの打倒』を為し得たからだ。
しかし、その様な者など居たであろうか? そして何時条件を満たした?
――回りくどいのはよそう。他でもない、解はあの黒ウサギだ。
恐らく最初に気付いたのは飛鳥。彼女には外見だけを誤魔化しても、
ステージの崩壊と共に黒ウサギだった者の化けの皮も剥がれた。当然、あの死亡フラグを乱立させまくっていたオッサンだ。路地の端っこですっかりのびている。ま、命があるだけ彼も幸運だろう。
「……黒ウサギは?」
「どっかで寝てんじゃねえか? っと、景品は……バーベキューセットか、これ?」
「バーベキューセットと同等の賭け値が黒ウサギ……もし敗北していたら報われないな」
「ありませんけどね。折角ですし、これで帰ったらバーベキューでもしませんか? 子供たちも皆喜びます」
「すまないな。では、早く黒ウサギを見付けて
レティシアの言葉に三人は一瞬ポカンとしたが、それも束の間、笑みを浮かべて首肯く。彼女も、彼らの扱いが何となくだが分かってきているのだった。
一行はこの後、案の定道端でポケ~っとしていた黒ウサギを発見し、帰路へと付く。その際、彼女がギフトゲームの景品がバーベキューセットだと知ってハリセンが鳴いたのは、ある意味必然的だったと思えた。